マンガ家 逢坂みえこが描いた名作「育児なし日記」の息子、ハルくんの今
2004年に育児雑誌「ひよこクラブ」で連載がスタートし、連載終了から約10年たった今もなお売れ続ける育児エッセイまんが「育児なし日記VS育児され日記」。
かなり肩の力を抜いて育児しているかあちゃんの様子は多くのママたちの共感を呼びました。そんなママたちの心をわしづかみにした、なんとも言えない魅力の持ち主である主人公ハルくんは今や一体どうなっているのでしょうか?? 後編はハルくんの今を作者の逢坂みえこ先生に聞いてみました!
三つ子の魂百まで(?)ベースは変わらず大人に
――作中ではマイペースっぷりを発揮し、とうちゃん・かあちゃんを振り回してまくっていたハルくんですが、連載スタートから16年以上たった今(連載開始時、ハルくんは6歳)、どのような人間に育っていますか?
●逢坂みえこ先生(以下敬称略) ハルは、なんかもう「育児なし日記」での内容そのまんま育ちましたね。マイペースな学生生活を終え、マイペースな社会人生活満喫中です。「うるせーくそババア」な反抗期を今か今かと待っていたのですが、いまだ来ず。でもハルの友人たちも同様で。今どきの若者は反抗期なし、のパターンも少なくないようですね。
――1巻Vol.24「赤子星人謎の交信」では、赤子時代だけでなく、小学生になってもおしゃべりだった様子が描かれていますが、それも今は変わらないのでしょうか?
●逢坂 今も変わらずおしゃべりです。社会人になり、一人暮らしを始めたころ、久しぶりにうちに帰って夜中までしゃべって、「一人暮らしだと、こーゆーなんてことない話をする相手がいなくて困る」と言っていましたね。「チャットとかあるじゃろ」と返しても「チャットするまでもない、どーでもいい話がしたい」だそうで。そんなどーでもいい話を延々聞かされる母親もつらいもんです(笑)。
まんが家の仕事は息子にとってうれしい存在かも
――「母がまんが家」という環境は、ハルくん的にはどんな感じなんでしょうか?
●逢坂 私の仕事に関しては大変好意的です。ハルは本が好きなので、末席ながらも出版にかかわる母親、というのはちょっとうれしい存在なのかもしれません。ただ、私の作品そのものについて話すことはないかも。なので、『育児なし日記』についても話題にはのぼりません。どう思ってるんでしょうね?
――まんがや映画など、親子で好きな作品は似る傾向にあったりするのでしょうか?
●逢坂 親子の好みはまったく違います。唯一近かったのは、私の所蔵する伊藤潤二全集と、息子のすすめる『寄生獣』くらいでしょうか。あとは、映画から音楽から、まったく違う好みです。
――母親に似たな、父親に似たなと思うのはどんなところですか?
●逢坂 母親に似たのは、本や映画が好きなこと。絵は描きませんが写真を撮るのが好きなので、そこも似ているかもしれませんね。父親に似たのはプログラミングに興味を持ちはじめていること。それを仕事にしようとしているようですが、そこは未知数ですね。
もし今ハルくんが赤ちゃんだったらしたいこと
――ハルくんが大人になった今だからこそ思う、赤ちゃんのころにもっとこうすればよかったと思うこと、今ハルくんが赤ちゃんだったらしたいことはありますか?
●逢坂 ハルが赤ん坊のころ、私はあまり積極的に友人や親せきに会わせたりはしませんでした。「子どもが生まれたの、会ってやって!」と言うのは親バカ丸出しだし、子ども好きでもない人にはただの迷惑、と考えたからです。私自身子ども好きじゃなかったし。
でも今、友人の子どもたちが大きくなって実感するのは「赤ん坊のころから知ってる子は、親しみが違う」ということ。その子たちがどんなに立派になろうがグレようが、おむつ姿で泣きわめいていた姿を思い出すだけでニンマリできます。他人な気がしない。なので、今赤ん坊のハルがいたなら、友人から仕事関係の方々まで、会わせられるだけの人たちに会わせるでしょう。親バカ上等!ですよ。
――最後に、「育児なし日記VS育児され日記」で逢坂先生自身がお気に入りのエピソードを教えてください!
●逢坂 赤ん坊の耳のうしろとか、ばんそうこうの下とか、ヤバイにおいを嗅がずにはいられない…という話でしょうか(1巻vol.12 赤子のニオイ)。なぜなら、今でもそうだから(笑)。成人したハルの洗濯物もなかなかですが、飼ってるインコの水浴び後の背中、なども素晴らしい。やめられません。
作中のハルくんが、マイペースなまま大人に成長したことを聞き、わが子のように感じてきた編集部も感慨深い気持ちになりました。
育児中のママ・パパはもちろん、育児が一段落した方たちも、ぜひ『育児なし日記VS育児され日記』を読んでみてくださいね。逢坂先生イチオシのヤバいにおいエピソードももちろん収録されています!
■お話/逢坂みえこ先生
■取材・文/本間勇気、ひよこクラブ編集部
逢坂みえこ先生(まんが家)Profile
少女マンガ家として1982年デビュー。代表作に『ベル・エポック』『火消し屋小町』など。『永遠の野原』で第15回講談社漫画賞(少女部門)受賞。『育児なし日記VS育児され日記(ベネッセコーポレーション)』は、紙版のほか、電子版も好評発売中!