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専門家が選ぶ、見えないけれど信じているもの。想像の力を育む絵本3選

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SergeyNivens/gettyimages

子どもは「見えないもの」を見るのが大好き。想像の世界を大切にすれば、もしかしたら大人にもそんな世界が見えてくるかもしれません。そんな絵本3冊を、えほん教室主宰の中川たかこさんに聞きました。

中川たかこ
なかがわ創作えほん教室主宰
メリーゴーランド増田喜昭氏に師事。
個人の創作えほん教室主宰20年目。絵本の講演会、高校、中学、専門学校などでえほんの読み解き方、えほんの創り方の講師として活動中。

日常の中にたくさんある、不思議の起きる瞬間

見えないけれど、信じているもの、信じたいものってありませんか?特別なことではなく、家の中にもそれは沢山あるんですよ。

小さい子どもには、スプーンもメガネも愉快な友だち

この絵本は、作者のデビュー作。すでに話題になっているのでご存知の方も多いかもしれません。
いたずら盛りの小さい子どもが、お家の中を移動しながらどんどん「あるある」のいたずらをやらかしていくのですが…。

とにかくこの絵本の面白くて新しいところは、とつぜんクライマックスになり、クライマックスが何度もやってきて、何度でも驚けるところです。
「出てくる」のはわかってるけど、出てくるものの形状が予想外なのにもかかわらず、オバケなのに生活感が残っていてリアルですし、子どもが見てわかるオバケになっています。これは作者自身が子どもと遊んで得た視点なのではないでしょうか。

小さい子どもにとって、どこか特別な場所に冒険に行かなくったって、お家の中に気になるものが多すぎて!いくらでも遊べちゃいますよね。家の中は子どもたちの宝の山、そして好奇心の宝庫。大人には見えないけれど、子どもには感じる無機物に宿る意思、というものがあってもいいのかなと思いました。
八百万の神という言葉がありますが、子どもはもっと自然にその「物」と交流している、できる力があるのではと思います。

この絵本は「いたずらしてはいけません」というしつけ絵本にされそうな気がしますが、「いたずらしたからおばけに驚かされた」とはまた違う視点で見ると面白いことに気づきました(作家さんの意図と外れてしまったらごめんなさいですが…)。

だってこの子ども、おばけたちに恐怖を感じていないですよね?おばけたち、派手に登場してびっくりさせるだけで、いたずらのお仕置きをしようとは思っていないと思うんです。だから、この子は次々に出てくるおばけたちにびっくりはするものの、いたずらは止めないし、ちょっと涙ぐむ程度で済んでいるのではないかな。

わたしには、少なくともこのえほんが「いたずらすると、おばけにお仕置きされるぞ」というしつけ絵本には見えないのです。もしお仕置きされるとしたら、粗末に扱ったり、無駄にした時かな?と思います。その時は…想像するとブルリと震えてしまいますね。
皆さんにはどう感じたでしょうか。

風邪で寝込んだ時、一人きりで布団の中で

小さい頃に風邪をひいたりした時、ちゃんと寝ていなさいと言われたものの、退屈で仕方がありませんでした。本もテレビもだめだったので、布団の波を見つめたり、天井の木目を眺めたりするくらいしかできなかった思い出があります。

この絵本は、風邪をひいてお布団に入っている女の子、ひさこちゃんが主人公です。
布団の中でぼんやりとお布団に入り、暑くてもぞっと動くと、シワがまるで小さな山のようになりました。もっとお山を作ろうと、シーツのシワを集めていると、「ヨロレイホー」と声がしました。
シーツの山を小人がスキーで駆け抜けていったのです!あれよあれとという間に、そのシーツの雪山へ小人が集まり、家が建ち、パーティーも始まります。

これを、ちょうど山の間から太陽がのぞいているような角度で、ひさこちゃんは見ているわけですが、この小人たちがひさこちゃんに気づいたときの絵が「あ!見つかった!!」と読者のわたしたちもドキっとしてしまうほど大勢と目が合ってしまうので、ここで初めて小人の世界へ入っていく扉が開かれ、ひさこちゃんもわたしたちも、この「シーツの山」から「小人のくに」へ踏み出していくきっかけとなります。
この小人たちはひさこちゃんのためにある大掛かりな仕掛けを作ってくれるのですが…それは本を読んでのお楽しみ。

シーツの山が本物の山になるなんて、あるわけないと思いますか?
わたしはあると思います。
これは山だと思って本気で遊べるのは子どもの特権で、その時ばかりはそこはシーツではなく雪山になります。雪山だと信じている間は、そこは雪山なのです。
だから、「そんなくだらないことばっかり言ってないで」と想像力を抑えないでください。シーツは雪山だし、木の木目に動物がいることだってあるんです。

誰かが見ていても、見ていなくても

「誰も見ていないと思っても、お天道様が見ているぞ」
この言葉は今こそもっと伝えたいし言葉としてどんどん口に出していきたい。この絵本を読んだ時にとっさに思いました。
そういえば、ここ最近はこの言葉を聞いていないな、と気づいたのです。

このお話は、福島の三春という地域の「デコ」というはりこ職人の家族のお話です。
主人公のあっくんには生まれたばかりの妹がいるので、あっくんがおうちのお手伝いをたくさんすることになります。遊びたいあっくんは不満でいっぱい。お使いに行く道の途中、イライラして顔にかかった桜を折ったり、トカゲをいじめたり、猫に乱暴したりします。
そして、お父さんの働くはりこのお屋敷に着くと…あっくんが来たことに気づいたはりこ人形が一斉に動き出しました!

「おまえ、桜の枝を折ったね!」
「おまえは猫に石を投げたな!」
「おまえ、とかげをいじめただろう!」

このお話を見た時に、すぐにわたしはここ最近、自分の胸にモヤモヤしていたものの正体がわかりました。誰かが見ていなくても良いことをするし、誰も見ていなくても悪いことはしない。こんな単純なことが、今の現代では当たり前ではない気がします。
悪いことをするとバチが当たるという言葉もそうです。「バチって誰が当てるの?だって誰も見てなかったよ」と言ってしまえばおしまいなのですが、それを心のどこかに置いて行動すれば、悪いことをする人は減るのにと、思うのです。

あっくんははりこ人形に叱られますが、わらべうたが助けてくれます。あっくんが良いことをしたことで、その行いに助けられたのです。

誰もいないと思っても
おてんとさまが 見ているぞ

そしてこの歌詞が繰り返されます。
誰も見ていなくても、良いことをする。するとそれはちゃんと誰かが見ているよ。それは誰かというと、お天道さまです。
つまりは、誰も本当に見ていないということになってしまうのですが、この美しい日本語は、子どもたちにも知ってほしいし、これを心に持つことで、良いことも悪いことも自分自身で判断できるようになると思います。
神さまとも少し違います。お天道さまとは、一人ひとりの心の中の、自分で判断する勇気のことです。日々を生きていく上で大切なのは「自分で判断できる心、勇気」だと思っています。これこそが、お天道さまが見ている、という言葉に置き換えられるのではないでしょうか。

この絵本を見た時に、わたしのモヤモヤと言葉にならなかったものが全て描かれている!!ととても嬉しくなりました。
絵も優しくて温かく、親にも子どもにも共感するお話になっていると思います。
ぜひ、読んでいただきたい絵本の一つです。

そこにはなくても想像する力があれば、それは本当のことのように楽しめます。想像する力は、日々の積み重ねでどんどん柔軟になっていきます。このことが、誰かを思いやる気持ちや、優しさにつながっていくと思っています。
子どもが「ほら、あの雲、お城だよ」と空を指さしたら、それは紛れもなく本物のお城なのですから、一緒にそのお城に遊びに行ってみるのはいかがでしょうか。

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