「男性の育休取得希望者9割」。強まる“家族志向”。Z世代にとっての妊娠・出産・育児のリアルとは?_「たまひよ」大学生への意識調査
少子高齢化が加速する中、妊娠・出産・育児・生活の領域をトータル支援するブランド「たまひよ」が、 将来子どもを持つ世代となっていくZ世代の声を情報発信やサービス展開に取りいれたいと「たまひよ Z世代の妊娠出産育児に関する意識調査」を企画。若者向けカルチャー誌『TOKYO GRAFFITI』 などを刊行する株式会社グラフィティ協力のもと、Z世代である大学生男女100人を対象に、妊娠出産育児に対する意識調査を実施しました。
妊婦さんや赤ちゃんをターゲットとする「たまひよ」と、若者をターゲットとするカルチャー誌の異色のコラボ。
調査結果をもとに、両誌が思うZ世代像、若者の未来への理想と価値観について、「たまひよ」が『TOKYO GRAFFITI』 編集長の鈴木俊二さんにお話を聞きました。
『TOKYO GRAFFITI』 編集長 鈴木俊二氏プロフィール
福島県出身。早稲田大学卒業後、サラリーマンを経て2004年9月に雑誌「TOKYO GRAFFITI」を創刊。趣味は読書、映画鑑賞、スーパー銭湯。私生活では小学生の娘の子育て真っ最中。
「いつか結婚したい」「いずれ結婚するだろう」がZ世代のリアル
――「たまひよ Z世代の妊娠出産育児に関する意識調査」の結果をもとに、Z世代の妊娠出産育児に対する意識の変化を見ていきたいと思います。まずは結婚意向について。「将来、結婚したいですか?」という質問に対して「結婚したい」と回答した割合は全体の「84%」にのぼりました。鈴木編集長は、この数字をどう見ますか。
鈴木 俊二編集長(以下敬称略):意外にも「結婚したい」と回答した若者が多いなと思われた方がいるかもしれませんが、僕としては“これくらいの数値が妥当かな”という印象です。
ニュースなどで「若い人は結婚への関心が薄い」との声もよく耳にしますが、「結婚したくない」と思っている人は、実際にはまだまだ少数派ではないでしょうか。メディアは過去との差異がよくあらわれている特徴的な部分を報じますから。少なくとも20歳前後の若者にとっては、結婚がリアルではないぶん余計に、「いずれ結婚したいと思っている」「いつかはするもの」という感覚だと思います。
『TOKYO GRAFFITI』の編集会議で「生涯未婚率(50歳まで一度も結婚したことのない人の割合)」の話になったとき、20歳前後の若手は驚いていました。「えっ、こんなにも結婚しない人が多いの?」と。
国立社会保障・人口問題研究所によれば、2040年には男性は約30%、女性は約20%にまで生涯未婚率が上昇すると推計されています。男性に関していえば、現在25~34歳の実に3人に1人は一度も結婚しないことになる。「将来、結婚したい」と回答した今回の意識調査の結果とは大きな乖離がありますよね。
大学生のときには漠然と「いつかは結婚したい」と思っていた人も、リアルに結婚を考える年齢になったときに「結婚したい」と思えるか、あるいは「結婚できる」かは、また別の話なのだと思います。
若者が希望するのは経済的な支援施策、少子化対策の本質とは?
――「子どもは欲しいですか?」の質問に対して「欲しい」と回答した割合は80%。「子どもは何人欲しいですか?」には「2人」と回答した割合が最も多い結果となりました。
鈴木:欲しい子どもの人数は「2人」が最も多く、「3人以上」になるとぐっと少なくなるんですね。「大変かもしれないけれど、子だくさんがいい!」という若者はとても少ないんだなとあらためて感じました。昔だったら「3人以上」と答える人が、もっといたはずです。
子どもの人数については結婚適齢期の世代と感覚が似ていますね。おそらく自分自身を含めて、2人兄弟(姉妹)が多いからという理由もあるんでしょう。
――「少子化対策」の強化について「必要だと思う」と回答した割合は74%と、こちらもポジティブな反応でした。有効だと思う具体的な施策については、1位が経済面での支援(「子ども手当の増額」「授業料の減額・無償化」「税制上の優遇」など)、2位が保育園などの拡充(「待機児童問題の解消」「事業所内保育所の設置」など)、3位が育休産休の推進でした。
鈴木:Z世代にかかわらず、このようなアンケートをとると、大体1位になるのは経済的な施策です。もちろん「子ども手当の増額」や「税制上の優遇措置」など金銭面での支援があれば、安心して妊娠出産育児ができると思います。しかし本当にそれが一番の少子化対策なのだろうか、みんなが心から求めているものなのだろうか、と個人的には疑問を感じる部分もあるんです。
もっと貧しくても、子どもをたくさん産み育てていた時代があったわけですから。その時代にあって、いまの時代にはないもの。それは産めば何とかなる、という安心感かもしれません。昔は祖父母を含めた大家族で子どもの面倒をみていたし、地域での見守りや助け合いがありました。いま足りていないのは「子育てしやすい環境」や「孤独感の解消」ではないでしょうか。
アンケート回答の2位に挙がっている「保育園などの拡充」は現実に即した施策といえますよね。子育てしやすい環境整備として、待機児童問題は最低限解消されるべきですし、とくに私自身の子育ての経験をふまえると、「病児保育」はもっと“あってあたりまえ”の施設として普及してほしいですね。
――「どんな家族/夫婦になりたいか」を聞いたアンケート結果については、どう思われましたか? 最多回答は「夫婦で協力して子育てをする」、続いて「経済的に安定している」、「家事分担を平等にする」でした。
鈴木:そうですね、全体の結果についてはあまり意外性はありませんでしたが、男女での回答の差が興味深いです。
女性は1位の回答が「夫婦で協力して子育てをする」、2位が「経済的に安定している」、3位が「家事分担を平等にする」となっています。1位と3位は、夫婦で協力して子育てや家事をすることで、ある意味同義です。“男性の家事育児参加”を強く希望していることが伝わってきます。
一方、男性の回答を見ると、1位は「経済的に安定している」、2位は「夫婦で協力して子育てをする」で女性の回答と似ていますが、3位に「いつまでも恋人同士」が入っているんですよね。これは非常に興味深かったです。女性のほうが地に足がついているというか、結婚後をリアルにイメージできているのかなという気もしました。
「男性の育休取得希望者9割」から読み解く、時代の変化
――「子どもが生まれたら、育児休暇を取得したいですか?」の質問には、男性の88%が「取得したい」、女性の78%が「夫に育休取得してほしい」と回答しています。男性の育休取得を希望する若者の多さに驚きました。
鈴木:男性育休取得率は年々増えていますが、それでも最新データである2020年度の取得率は12.65%です。現実には男性が育休を取得しやすい世の中になっているとはまだいえません。しかし今回の意識調査では、男女ともに男性の育休取得を望んでいることがわかり、将来への希望を感じました。
驚いたのは、男性側が希望する育休期間の長さです。「半年程度」が最も多く44%。全体の32%の人が「1年程度~それ以上」と回答しています。
もしかしたら育児の大変さをイメージできずに「仕事を休めるのなら休みたい」と考えているのかもしれませんが「社会から認められている制度があるのであれば、しっかりと活用したい」という意向の表れともいえます。
また、雇用慣行として終身雇用のモデルが崩れている影響も大きいでしょう。半年~1年の育休を取得したことで、仮に、会社からの印象が悪くなったとしても、自身の人生設計において昔ほど致命的ではありません。転職という選択肢を持ちやすい時代ですから。
仕事やキャリアよりも、自身の生活や人生を大事にしたい人が増えているとも見てとれます。理想の夫婦像として「夫婦で協力して子育てをしたい」と回答した人が多かったように、出産や育児は夫婦でするものという考えがあたりまえになれば、女性だけに負担が偏っている現状を打破する一歩になると思います。
――若者の価値観の変化は「人生で一番大事なものは何ですか?」を聞いたアンケート結果にもあらわれています。「家族」と回答した人が断トツで多く37%を占めていました。
鈴木:そうですね、この結果には時代の変化を感じます。「夢」と回答する人が最も多かった時代もあったでしょうし、「仕事/キャリア」がもっと上位にランクインした時代もあったでしょう。
普段、若い世代と接していて感じるのは、「家族や恋人、友だちに優しい人が多い」ということ。親と仲がいい子も多いですよね。自分のまわりにいる人、手が届く範囲にいる人に、すごく優しい。反面、公共心が弱いというか、直接見えていない世界への関心や想像力に乏しい印象も受けます。選挙の投票率の低さにも、その傾向が表れているのではないでしょうか。
SNSの影響も大きいです。マスメディアが報じていることよりも、自分が直接コンタクトをとれる人が何を言っているかのほうが大事。優しくする対象や信じられるものが、半径5メートル以内の身近なところで完結してしまっている気がするんです。
――今回の意識調査で、若者が結婚や出産に希望を持っていることがわかりました。一方で生涯未婚率の上昇や、男性の育休取得率の低さが問題となる現実社会との乖離も見られます。若者が希望を持ったまま、将来へと一歩をふみだすためのメッセージをお願いします。
鈴木:今回の意識調査では、若者が「結婚したい」「子どもが欲しい」「夫婦で協力して子育てがしたい」などの希望を持っていることがわかりました。ただ、実際にその希望を叶えようとすると、さまざまな課題や壁にぶつかるはずです。
たとえば「もっとこういう社会になってほしい」という希望や、「これはおかしい」と思う不満を感じたときには、“自分たちで未来を変えていく”アクションをぜひとってほしい。仲間を集めて何らかの活動をするのでもいいですし、自分と考えが近い政治家に一票を投じるのでもいいと思います。社会は、変えようと思えば変えられる可能性がある、と心に留めておいてほしいです。
もしも政治に興味が持てないのであれば、学校や所属するコミュニティ、住んでいる市町村など自身の身近なところから始めてみてもいいでしょう。社会とつながり、自分たちの理想に近づけていく一歩を、それぞれがふみだしていくことで、世の中がいい方向へと動いていくのだと、私は思います。
[調査概要]
■調査名/「たまひよ Z世代の妊娠出産育児に関する意識調査」
■調査期間・方法・地域/2021年8月31日~9月13日・インターネット・全国
■調査対象者/大学生 男性50名、女性50名
■調査協力/株式会社グラフィティ
取材/たまひよ編集部、文/猪俣奈央子