おなかの赤ちゃんの病気を調べる出生前診断「NIPT(母体血胎児染色体検査)」って?【専門家Q&A】
おなかの赤ちゃんに生まれつきの病気があるかどうかを調べるのが「出生前診断」。なかでも妊婦さんの関心がとても高い検査が、NIPT(母体血胎児染色体検査)です。実施する施設も増えてきていますが、検討する際にはどんな検査なのかなどを正しく知っておく必要があります。日本赤十字社医療センターの笠井靖代先生に聞きました。
NIPT(母体血胎児染色体検査)ってどんなもの?
母体の血液に浮遊するDNA断片を分析し、3種類の染色体疾患の可能性を判断します。判定は「陽性」または「陰性」と出ますが、陽性と出ても染色体疾患ではない可能性があるため、確定診断のために羊水検査を受けます。一方、陰性と出たら染色体疾患の可能性は極めて低いということになります。
検査時期は?
妊娠10〜16週ごろに行います。結果が出るまでに1〜2 週間かかります。
検査方法、費用は?
母体の血液を採取し、血中に浮遊するDNA断片を分析します。費用は14万〜18万円程度。
検査でわかることは?
ダウン症候群、18トリソミー、13トリソミーの3種類の染色体疾患の可能性を調べ、陽性・陰性と判定します。まれに判定保留になることも。陽性と出た場合は、羊水検査で確定診断を受けます。
NIPT(母体血胎児染色体検査)について、もっと知りたい!Q&A
Q だれでも受けられる? 年齢制限などはあるの?
A 検査は基本的にだれでも受けられます。以前は分娩時に35才以上、あるいは超音波検査などでなんらかの所見がある、染色体疾患のお子さんの出産歴がある人など条件がありましたが、年齢制限がなくなりました。
Q 検査の精度は高い?
A 「陽性」的中率はママの年齢によって違い、高年齢になるほど高くなります。40才以上で95%、35才以上で80%ですが、30才では60%とあまり高くはありません。ママが若ければ、「陽性」と出ても、実は疾患はなかったという可能性もあります。
Q NIPTを実施できる医療機関は増えているの?
A 日本医学会の新たな指針に基づき、2022年6月にNIPTを実施する医療機関(基幹施設)169施設が認証されました。今後、これらの基幹施設と連携してNIPT検査を実施する連携施設の認証審査が予定されています。これまで以上に多くの施設で、統一された資料に基づき遺伝カウンセリングを受けることができ、そして希望する方がNIPT検査を受けることが可能となります。検査のために遠方の医療機関に出向いたり、希望しても予約が取れないといった問題は解決されるでしょう。また、染色体の病気があるお子さんについて、実際に診療している経験豊富な小児科医(出生前コンサルト小児科医)に相談できる機会も確保されます。なお、出生前検査認証制度等 運営委員会のウエブサイトに、今後一般の方向けのページが作成される予定です。
Q 非認定の施設で受けてもいい?
A 認定施設で対応をしてもらうことが、安心・安全につながります。新たな制度が定められたことにより、正確な遺伝カウンセリングを実施した上で、希望する方が検査を受ける体制が整いつつあります。羊水検査が必要となったとき、あるいは最終結果が出て妊娠を継続するかどうかで迷うときに、基幹病院と連携してスムーズに対応してもらうことも可能になります。産科医だけでなく小児科医にも気軽に相談できるこの体制は、妊婦さんにとって最もメリットが大きいといえます。
Q 「陽性」と判定が出たら、どうすればいい?
A 確定の診断を受けるためには、羊水検査を受ける必要があります※。NIPTを受ける前に、このことを十分知っておきましょう。羊水検査が行われるのは妊娠15週~遅くとも18週。その結果が出るまでには約2 週間かかるため、16週までにはNIPTを受けておきましょう。
※「陽性」と出ても、その後の話し合いにより妊娠継続を希望する場合は、羊水検査を受けない選択も。
Q NIPTのメリット、デメリットは?
A 母体血清マーカー検査などと比べると陽性的中率が比較的高いこと、そして血液検査だけなので、おなかに直接、針を刺す羊水検査のような流産のリスクがないことがメリットといえます。
デメリットは、確定診断ではないことと、自費診療のため高額であることでしょう。また、結果によっては不安や心配が起こり、確定診断の羊水検査を受けるまで待つ間や、羊水検査の結果を待つ間の精神的な負担は少なくありません。確定診断を受けて妊娠の継続に迷う場合もあり得ます。そのリスクも考えておく必要があります。
Q 検査を受ける・受けないを決める前にするべきことは?
A 出生前診断は、単なる血液検査のような感覚で、気軽に受ける検査ではありません。検査を検討するときは、夫婦で十分話し合っておくことが大切。どういう結果が出たらどうするかまで、あらかじめ夫婦で話し合っておく必要があります。迷ったら、周産期センターなどに併設された遺伝相談外来、出生前相談外来で遺伝カウンセリングを受けましょう。最新の遺伝学的情報の提供はもちろん、検査の意味、検査で疾患が見つかった場合についてなど、納得のいく決断ができるようサポートしてくれます。認定施設では、NIPTを受ける人は必ず遺伝カウンセリングを受けてもらっています。
夫婦で十分に話し合うことが大切
ママの年齢が高くなると、染色体疾患の確率が上がると言われれば、だれでも不安になりますし、健康を願う気持ちは親として当然です。ただ「ほかの人が受けるから」「高年齢だから」出生前診断を受けなければ、と考える必要はありません。生まれたあとでけがや病気で障がい者となる可能性はだれにでもあります。生きていくということは、常になんらかの病気と隣り合わせにいるともいえるのです。夫婦で十分に話し合って納得のいくように決めることが大切です。
取材・文/たまごクラブ編集部
出生前診断については、まず正しい知識を得て、夫婦で十分に検討しましょう。NIPTの認証施設など、最新の情報収集も忘れずに。
●記事の内容は記事執筆当時の情報であり、現在と異なる場合があります。