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「人食いバクテリア」とも呼ばれる劇症型溶連菌。感染すると影響が出やすい妊娠期は特に注意して【医師監修】

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妊娠中の女性の滝
●写真はイメージです
Milatas/gettyimages

ニュースでときどき見る「劇症型溶連菌」。名前を見るだけでも怖そうですが、どんなものか知っていますか?
妊婦さんが感染したらどうすればいいのか、感染しないためにできることは?産婦人科医の土屋裕子先生に聞きました。

劇症型溶連菌とはどんなもの?

突発的に発症し、致死率も高いといわれる「劇症型溶連菌」。いったい、どんな感染症なのでしょうか。

――劇症型溶連菌は「人食いバクテリア」とも呼ばれていますが、どのようなものなのでしょうか。

土屋先生(以下敬称略) 正式には、劇症型溶血性レンサ球菌感染症といいますが、これはいわゆるA群溶血性レンサ球菌感染症(以下、A群溶連菌)の1種です。そもそもA群溶連菌は、その多くが子どもが感染する感染症の1つで、主な症状は咽頭炎です。ですから通常は風邪のような症状が見られるものの、1週間程度で治ってしまうことが多いものです。

その中で、ただの風邪だと思っていたら重症化し、腎炎などの合併症を招くことがあります。とくに妊婦さんの場合は、免疫力が通常より落ちているため、影響が出やすい面もあります。でもそれは、どの感染症にもいえることです。

――それは劇症型溶連菌とは違うものですか。

土屋 人食いバクテリアと呼ばれているものは、あくまでもA群溶連菌の中の一部の劇症化するタイプの菌です。分娩に近い時期に感染すると、急速に進行し、重症化して母子ともに死亡につながることもあります。ただ、人食いバクテリアと呼ばれているものに限らず、治療が間に合わなかったなどの理由から、重症化や死亡につながることもないわけではありません。

産婦人科の症例報告の中で重症例として、お産前後に感染したケースを挙げましょう。
まず、喉の痛みなどの上気道(じょうきどう)感染から始まり、その後、発熱、倦怠(けんたい)感、筋肉痛などインフルエンザ感染に似たような症状が出ます。分娩が近いと、血液を介して菌が子宮に到達して子宮内感染を起こし、胎児死亡につながったり、母体が敗血症を起こしたりします。

ただし、ここまで重症化することはまれだといわれています。怖がる必要はあるのですが、早期に診断がつき的確な診療が施されれば、救われる可能性は高いと私たち産婦人科医は考えています。

A群溶連菌が増えている?妊婦さんへの注意喚起とは?

最近、毒素が強いタイプのA群溶連菌が流行しているという報告もあります。実際はどうなのでしょうか。

――A群溶連菌に感染する妊婦さんは増えているのでしょうか。

土屋 世界的にA群溶連菌が流行しているのは事実です。2011年以降、欧州、北米、豪州などで毒素が強く感染力も強いA群溶連菌が増え始めました。
そして2023年の夏、日本で初めて同様の株が確認されました。妊婦さんに限りませんが、2024年に入ってから、とくに感染者が増加しています。そこで産婦人科感染症学会では、会員の医師に向けて注意喚起をしたのです。

多くの方は風邪のような症状で治まりますが、妊婦さんが風邪のような症状を訴えて病院に行ってA群溶連菌が見つかった場合は、早めに抗生剤での治療を開始しましょう、といわれています。

――A群溶連菌かどうか確かめるには、どのような検査をするのですか。

土屋 “咽頭拭い液”といって、のどに綿棒をこすりつけて調べる方法や、血液中の抗体を調べる抗体検査などがあります。インフルエンザの検査は鼻の奥に綿棒を入れて調べることが多いと思いますが、A群溶連菌は上気道から感染するため、喉を調べるのです。

――上のお子さんがいる場合は、お子さんから感染することもありますか。

土屋 当然、あります。妊婦さんで、上のお子さんが感染していて、ご自身にも何らかの喉の症状が見られたら、早めに産婦人科を受診しましょう。A群溶連菌は飛沫(ひまつ)感染のほか接触感染、経口感染もします。家族がかかれば非常に感染しやすくなります。

受診される場合、産婦人科以外の科では、妊婦さんがA群溶連菌に感染した場合のリスクが周知されていない可能性もあります。まずはかかりつけの産婦人科を受診したほうがいいでしょう。

参考

劇症型溶血性レンサ球菌感染症の増加について/日本産婦人科感染症学会

A群溶血性レンサ球菌咽頭炎 (溶連菌感染症)について/東京都保健医療局

妊婦さんが感染したらどうなるの?

もしも妊婦さんがA群溶連菌に感染したらどうなるのでしょうか。

――妊婦さんがA群溶連菌に感染した場合、どんな治療がされますか。

土屋 先ほども触れたように、抗生剤による治療を行います。多くの場合はそれで治癒します。妊婦さんの場合は基本的に点滴をし、全身状態を診るため、数日入院になります。母体の状態がよくなれば、おなかの赤ちゃんにもまず影響はありません。

――感染した状態のまま分娩になってしまった場合はどうなりますか。

土屋 同様に抗生剤を点滴で投与しますが、妊娠している状態を終わらせたほうが、免疫力が回復しやすいといわれています。また、赤ちゃんへの感染をふせぐためにも早く分娩に持っていく必要があります。つまり、早めに帝王切開を選択することになるでしょう。

――感染しないためには何に気をつければいいでしょうか。

土屋 新型コロナウイルス感染症のときと同じように、手洗いやマスクの着用など基本的な感染予防をしましょう。喉の痛みなどの症状が見られたら、早めに受診をすることです。また、家族にも同様の症状が見られたら、ただの風邪だと放置せず、受診をして早めに対処されることをおすすめします。

これも知っておきたい!RSウイルス感染症って?妊婦さんもワクチン接種できるようになった理由

子どもが感染することが多いRSウイルス感染症は、妊娠中のワクチン接種が話題になっています。子どもの重症化はよくいわれていますが、妊娠中に感染した場合はどうなるのでしょうか。また、おなかの赤ちゃんへの影響はあるのでしょうか。

――RSウイルス感染症について、子ども向けの重症化予防の注射*はありましたが、妊婦さん向けにRSウイルスワクチンが接種できるようになったそうですね。妊娠中のママも感染しにくくなるのでしょうか。
*抗 RS ウイルスヒトモノクローナル抗体製剤(シナジス®)

土屋 RSウイルス感染症は、RSウイルスの感染によって起こるもので、発熱、鼻汁などの軽い風邪症状から肺炎まで症状はさまざまです。早産で生まれるなどして、呼吸器系が未熟なお子さんがRSウイルスに感染すると重い肺炎になりやすいといわれています。そのため、重症になる危険性があるお子さんに限り、保険診療でRSウイルスの予防接種(シナジス®)の注射をすることが認められています。

ところが最近になって、早産児だけでなく、基礎疾患のない正期産(せいきさん)で生まれた赤ちゃんに対しても重症化の恐れがあるということがわかりました。そこで妊娠中のママにもRSウイルスワクチンを接種できるようにしたのです。

――では、妊婦さんへのRSウイルスワクチンは、生まれてくる赤ちゃんのためなのですか。

土屋 そうです。おなかにいるうちに免疫をつけてしまおうという目的です。ママの重症化予防ではなく、あくまでも生まれてくる赤ちゃんの重症化予防のためのワクチンです。ワクチンを接種することで、RSウイルスの抗体がママの体でつくられ、それが胎盤を通して赤ちゃんに移行して、RSウイルスによる重症化を防ぎます。

――妊婦さんがワクチンを接種する場合、接種のタイミングはいつがいいのでしょうか。

土屋 妊娠中のどの時期でも接種はできますが、妊娠24週から36週の間に1回が望ましいといわれています。ママにワクチンを接種してから3~4週間でママにできた抗体が赤ちゃんに受け継がれ、3〜6か月くらい予防効果を発揮します。ですので、妊娠してすぐに接種した場合は産まれるまでに予防効果がなくなってしまう可能性があり、妊娠28週から36週に接種することでより有効性が高くなるといわれています。

――妊婦さんやおなかの赤ちゃんへの副反応の心配はありますか。

土屋 基本的にRSウイルスのワクチン特有の副反応というよりは、ほかのワクチンと同じように、接種した部分の腫(は)れや痛みがあります。中には、頭痛や発熱、倦怠感が見られる場合もあります。

――実際にどのくらいの妊婦さんが接種していますか。

土屋 2024年の6月に接種が始まったばかりで、産婦人科では、このようなワクチンがあるということを妊婦さんに情報提供し、希望者にのみ接種している段階です。ワクチンは今のところ自費なので、3万円前後かかり、決して安価なものではありません。

新しいワクチンなので接種をすることに不安を覚える妊婦さんもいるでしょう。不安が強い場合には、無理をして接種することはありません。参考になりますが、これまで生まれた赤ちゃん向けのRSウイルス感染の重症化予防の注射(シナジス®)がありましたが、これは早産など小さく生まれた赤ちゃんや病気を抱えている赤ちゃんのみに保険診療で投与されていました。実は2024年5月に流行期に1回の投与のみで5か月間予防効果がある注射(ベイフォータス®)が登場しましたが、残念ながら正期産(満期で出産)の赤ちゃんには保険は適用されず、1回60-200万円!と高額な費用がかかります。重症化予防の方法の選択肢が拡がったのは大変よいことですが、母子ワクチンに比べると手が出にくいと言わざるを得ません。産婦人科医の立場としては、RSウイルスの重症化を防ぐ選択肢の一つとして等しく情報提供をしているところです。

参考

妊婦に接種する RS ウイルスワクチンについて/日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会

監修/土屋裕子先生 取材・文/樋口由夏、たまひよONLINE編集部

「季節にかかわらず感染症には注意が必要です。インフルエンザや新型コロナウイルスはもちろん、妊婦さんのサイトメガロウイルス感染も増えています。引き続き、予防に努めましょう」と土屋先生。妊娠中に感染してしまうと、母子共にリスクが高い感染症はほかにもありますので、注意しましょう。

●記事の内容は2024年9月の情報であり、現在と異なる場合があります。

土屋裕子先生(つちやひろこ)

PROFILE
産婦人科専門医。日本性感染症学会認定医。現在、帝京大学医学部附属溝口病院産婦人科助教。群馬大学医学部卒業後、東京大学医学部附属病院女性診療科・産科などを経て現職。2人のお子さんがいるママ。

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