休ませるのは甘やかし?子どもが登園をいやがったらどう対応すればいい?【専門家】
WITHコロナの時代、子どもの生活環境や学びの環境にも変化が出てきているといわれます。一般社団法人日本小児保健協会が主体となって実施し、子どもの心身の健康や生活の実態を調べる「幼児健康度調査」にもかかわっていて、幼児の不登園についても詳しい原田直樹先生は「最近ではYouTubeやゲームなどが楽しすぎて、幼稚園や保育園に行きたくないという子の相談も受けることもある」と言います。現在の幼児の実態や気がかりについて話を聞きました。
子どもが幼稚園に行きたくないと言ったらどうすれば?
――近年、小学生以上の不登校児が増えているようですが、未就学児についてはどうでしょうか?
原田先生(以下敬称略) 幼稚園と保育園では監督官庁も異なりますし義務教育でもないため、未就学児の不登園に関する公的な調査はありません。不登校は「病気や経済的な理由を除く年間30日以上の欠席」という定義がありますが、不登園にはそのような定義もありません。私は不登園の相談もよく受けますが、病気や経済的な理由を除く年間30日以上の欠席にいたる幼児は多くはない印象です。
――子どもが登園したくない、と言うと、親は「育て方が悪いのか」「甘やかさないほうがいいのか」などと悩みます。親は子どもにどのような態度で接すればいいでしょうか。
原田 子どもの不登園は育て方の問題ではありません。ある調査では、子どもが「登園したくない」と言った経験がある保護者は6割以上というデータがありますので、子どもが「行かない」と言い出しても「あ、来たな」くらいの心構えでいいのではないでしょうか。幼児期の心身の発達は著しいですし、周囲の環境もお友だちとの関係も日に日に変わるので「登園したくない」という期間が短くすむ場合もよくあります。
子どもに厳しくすれば行くようになるものでもありませんから、親が心配しすぎず、ゆったり構えて長い目で見ることはとても大事です。ただ、やはり親としては心配な気持ちもありますよね。だれにもその気持ちを見せないのでは、親自身が疲弊してしまいます。パートナーと支え合い、幼稚園の先生などにも相談してみてほしいです。
ただし、「行きしぶり」が数週間も続いたり、頭やおなかが痛いなど身体症状として現れたりしたときは、思いきって休ませて、相談窓口や病院に行くほうがいいでしょう。
――子どもが登園したくない原因やきっかけはどのように知ることができるでしょうか。
原田 登園したくない原因やきっかけとしてよくあるのは以下のようなパターンです。
1 ママやパパと離れたくない
2 園の中で嫌なことがある(運動会の練習が苦手、お友だちとトラブルがある、聴覚が敏感で先生の声がこわいなど)
3 環境が変化したばかり(引っ越し、家族の環境変化)
しかし、自分の気持ちを言語化することは幼児には難しいものです。幼児に質問するときには「何があったの?」とオープンクエスチョンで聞くよりは「運動会の練習が嫌なの?」とイエスかノーかで答えられるようなクローズドクエスチョンをしてあげるほうが答えやすいでしょう。「運動会の練習が嫌だったの?」とクローズドクエスチョンで聞いて、答えが「イエス」なら「どんなことが嫌だった?」と、オープンクエスチョンにして答えの範囲を広げてあげます。そのとき「こんなことが嫌だったんでしょ?」と誘導的にならないように注意しましょう。
不登園の原因やきっかけを知ることは、あくまでその子を理解するための情報の一つです。原因を知り排除したらすぐ解決とはなかなかいきません。ともすると原因探しの過程で「なぜ?」「どうして?」と子どもを追い詰めてしまうことにもなりかねないので、園の先生やほかのママたちに、子どもの様子や状況を聞いて把握しておくことも必要です。原因がなんとなくわかったら、子どもの様子をよく見て、園の先生とも情報共有しながら、欠席や遅刻をするなど柔軟に対応できるといいでしょう。
――原因がわからない場合はどうすればいいでしょうか?
原田 なぜ「登園したくない」のかよくわからないこともあります。そういうときは、行きたくない気持ちを責めるのではなく、不安をやわらげるようにゆっくりと子どもの話を聞いてあげましょう。不安感を抱えている子どもの多くは赤ちゃんがえりをするので、ひざの上に座らせたり、向かい合って抱っこしたりしながらお話をするといいかもしれません。
気になる幼児とメディアとのつき合い方
――2022年、幼児の健康や取り巻く環境などについて先生が注目していることは?
原田 この10年間で子どもが触れるメディアは多様化・パーソナル化し、だれもが気軽にインターネットにアクセスできる時代になりました。同時に、メディア曝露(ばくろ・問題となる因子にさらされること)についての研究も世界で進んでいます。世界保健機関(WHO)などでは子どものメディア曝露の時間が長ければ、運動・認知・言語等の発達は好ましくない、または低下するとされています。日常生活で保護者が子どもに直接声をかけたり遊んだりする体験から得られる学習効果を、メディアで得ることは難しいという見解が多いです。
一方で米国小児科学会のポリシーステートメントには、ビデオチャットやタッチスクリーンはその限りではないことが述べられています。さらにある研究(※)では乳幼児が大人とのビデオチャットなど双方向性のあるものだと、言葉を学ぶことができるという結果もあります。つまりは一方向的で受動的なメディア曝露は子どもの発達の側面では悪い影響も示唆されていますが、双方向性のあるメディアでは学習の機会になりえるというわけです。
このような状況から、ギガスクール構想の施策の拡充を期待しています。不登園の子どもに対しても、タブレットで1時間だけ教室とオンラインでつないでみるなど、子どもの教育や発達を促進させるためのツールとしてのメディア利活用が進む可能性を感じています。
――近年の生活環境の変化が幼児の健康に与える影響などは調査されているのでしょうか。
原田 一般社団法人日本小児保健協会が主体となって、満1才から就学前(7才未満)の幼児を持つ保護者に実施してきた「幼児健康度調査」があります。1980(昭和55)年度、1990(平成2)年度、2000(平成12)年度、2010(平成22)年度、と10年に1度実施され、第5回調査は2021(令和3)年度の実施となっています。調査では、保育の状況・保護者の就労や健康・疾病や予防接種・食事や睡眠・メディアの使用状況など幅広く質問していて、幼児の健康についての経過を解析する大きな意義があります。調査結果は母子健康手帳や乳幼児健診の問診項目などに採用されるなど、国の施策にも活用されています。
今年度の調査では新たに、保護者が子どものメディア曝露についてどのように考えているかの質問項目を加えています。子育てにメディアを積極的に活用したいのか、悪い影響が心配なのか、その価値観を調査した上で、科学的なエビデンスに基づいた啓発につなげることができればと思っています。
取材・文/早川奈緒子、ひよこクラブ編集部
子どもも簡単に操作できるタブレットやスマートフォンは親にとっても便利な面がありますが、一方向的なデジタルコンテンツとのつき合い方には注意が必要です。また、幼児健康度調査は以下のリンクから回答できます(期限は2022年1月31日)。回答者は特典として専門家による「子育てミニ講座」(11コンテンツ)の動画視聴が可能。調査結果は厚生労働省の研究報告書としてまとめられ、2022年6月以降に日本小児保健協会のホームページにて公表される予定です。
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