おうち英語「親が日本語・英語どちらで語りかけるか」よりもっと大切なことって?
子どもの早期英語教育のポイントは、たくさんの英語の語りかけとたくさんの英語を聞かせる英語のシャワーと聞くけれど、子どもにどう語りかければよいものか、自信がない親の英語を聞かせてもよいものか、とてもとても迷います。
そこで、一児の母であり英語教育学・第二言語習得専門の言語教育学博士である豊田ひろ子先生に子どもへの語りかけのポイントをききました。
豊田ひろ子先生profile
言語教育学博士(カナダ・トロント大学大学院)。元東京工科大学教授。元杏林大学教授。国本女子中学・高等学校副校長。専門は英語教育学、第二言語習得、児童英語教育。書籍『英語に強い子を育てる!親子で英会話』(単著)『コミュニカティブな英語教育を考える』(共著)。英語教育のための教材、イベント、教室の制作と研究などに携わる。1児の母。
「概念を教える」ことの大切さ
英語習得をする上で大切なのは、母語・母文化の発達にあります。第二言語である英語を習得するための基礎となるため母語(日本語)はとても重要になります。簡単に言うと、意味がセットでないと英語が入っていかないということです。2つの言語、ここでいう英語と日本語は基盤としてのつながりを持っています。氷山にたとえると、海面下には大きな塊(基盤)があり、海面上には2つの氷の山(英語と日本語)がある状態です。この2つの氷の山を支えている基盤の中にはたくさんの「概念」が入っています。たとえば、りんごなら、丸くて赤くて、種があって…など言葉ではなく頭でイメージをしますよね。それが概念です。言葉とは、「りんご」という名前を概念の上にラベリングしたものなのです。もしかすると、日本語でいう「りんご」と英語でいう「apple」は少し概念が違っているかもしれません。ですが、それがだいたいどういうものなのか子どもが理解した状態で「英語ではapple」「日本語ではりんご」と言うんだよ、ということを教えてあげればよいと思います。意味をわかった上で英語の反復練習をすれば効果があります。
赤ちゃんは人肌の温度、におい、音など五感を通して概念を学んでいきます。親が得意とする言語(日本語)で、感情をこめて概念を教えてあげてください。概念が積みあがると、自然にラベル(言葉)も身についてきますよ。
日本語と同じような語りかけで英語の質が向上する
心理学者 のパトリシア・クール博士の調査結果によると、0歳~6か月の赤ちゃんは、世界の言語で使われているあらゆる音韻を聞き取ることができます。例えば、アメリカの赤ちゃんも日本の赤ちゃんも、この時点ではRとLの発音を区別することができています。赤ちゃんは五感が敏感で、特に幼いほど柔軟な耳を持っています。なので、音の刺激をたくさん与えてあげましょう。それも意味ある形で、気持ちをこめて語りかけをすること。楽しい、悲しいなどと気持ちが伝わるような伝え方や音のインプットはとても大事。そうすると赤ちゃんはママ・パパの声に反応し、音から少しずつ吸収して言葉を覚えていきます。そのように英語の学習も音声から始めるのが理想的です。日本語を習得したときのような同様の流れで英語を獲得すると、英語の質がよりネイティブライクになるといいます。
語りかけをする際、親の間違った発音を子どもが覚えてしまうのでは?と、心配される方もいますが、子どもの調整力には驚かされるものがあります。実際に私の子どもも、DVDの音を頼りに自分で調節して正しい音を発音するようになりました。また、英語と日本語で語りかけることによって、日本語の単語の覚えや発達が遅くなったりするのでは?という声もありますが、日本語が優勢な日本の社会で生活しているのであれば、外からの刺激や親との会話の中で十分に日本語や日本人としてのアイデンティティも育ち、英語はプラスαの言語として付加的に習得することが可能です。
遅すぎることはない! 臨界期説から感受期説が主流に
第二言語の習得に、臨界期という言葉がよく出てきます。ある年齢までに第二言語にふれていないと習得できないとする説ですが、それに対して、今では「感受期説」が主流となっています。これは、言語の発音・文法・語彙といった領域それぞれに最適な習得期間があるのではないかとする説です。例えば、
0~2歳なら、愛情をもって赤ちゃんに話しかけることが重要。親と楽しみながら英語を聞かせ、言葉かけをするとよい。
2~4歳は、子どもの柔軟な耳の感覚を利用し、歌やリズム遊び、絵本などを通して英語に慣れさせ、英語の耳作りをするのがよい。ただし、受け身の学習では続かないので、英語が楽しい、習いたいと思う気持ちを育てることが必要に。
4~6歳は、言葉の分析力がつき、しりとり・ごっこ遊びをしたり自分で本を読みたがったりする頃。バイリンガルの成長には、より一層読み聞かせが大事に。(『バイリンガル教育の方法:12歳までに親と教師ができること』 アルク2001年 中島和子著)
という風に、子どもの特性に合った指導や環境を与えることで、子どもの言語習得能力を最大限に引き出せるという考え方です。
ただし、その能力を引き出すためには、楽しく継続することが大前提にあります。そのためには、子どもの特性を把握し、工夫することがこの時期の親の役割でもありますね。たとえば、運動するのが好きな子どもには英語で“Jump!” “Stop!”と言いながら体を動かすことができるかもしれませんし、絵を描くのが好きな子どもには英語で色を教えてあげることもできます。テキストやマニュアルに縛られず、興味のあることに合わせて英語をコラボレーションさせると、子どもにとって自然と英語が楽しいものになっていきます。そうやってモチベーションを高めつつ、できるだけ長く継続し、英語が花開くようにサポートしてあげましょう。
取材/文・井上裕紀子