小児救命救急センター24時【ミルクアナフィラキシー】
ミルクを飲ませた20分後には顔から体まで真っ赤に腫れ、苦しそうに
「5カ月の女の子にミルクを飲ませたら、20分後には顔を中心に体が真っ赤になり、せきが出てゼイゼイ言いながら苦しがっている」とホットラインから要請があった。すぐに酸素投与を行いながら搬送するように伝えて、ミルクアナフィラキシーと予測して酸素マスクやアドレナリン注射の用意を行いながら患児の到着を待った。
母親に抱かれて救急車から降りてきた女の子は、一見して顔が腫はれて、首あたりには皮膚が隆起した発疹(膨疹(ぼうしん))が見えた。女の子に聴診器をあてるとゼイゼイといった呼吸音(喘鳴(ぜんめい))が著しく、呼吸障害を伴っていた。すぐにアドレナリンを薬液の吸収速度が速い筋肉内に注射し、酸素投与と気管支拡張剤の吸入を行いながら、点滴の準備と採血を行った。生理食塩水で輸液を行い、かゆみを鎮める抗ヒスタミン薬と、炎症を抑えるステロイド薬を投与するように指示して、母親から話を聞いた。
心配そうに待合室で待っていた母親に近づくと、「大丈夫でしょうか?7日前に初めてミルクを飲ませたときにはとくに何もなく、喜んで飲んだのですが。やはりミルクが悪かったんですよね?」と質問してきた。「ミルクを与えたのは2回目なんですね。それまでは母乳だったんですか?」の問いには、大きくうなずいた。「お父さんとお母さんは、小さいときにアトピー性皮膚炎やぜんそくがあったり、現在、花粉症やアレルギー性鼻炎などはありませんか?」と聞くと、「私はありませんが、父親は小さいときにアトピー性皮膚炎がひどかったそうです。食物(しょくもつ)アレルギーのことは聞いておりません。小学生までぜんそくもあり、今も花粉症で苦しそうなときがあります。何か関係が...?」と答えてくれた。
ミルクアレルギーによるアナフィラキシー発作と診断
「今日起きたのはいわゆる“ミルクアレルギー”で、その重い症状であるアナフィラキシー発作と考えられます。今、しっかり応急処置を行いましたので大丈夫だと思いますが、数時間たってまたアレルギー症状が強くなるときがありますので、その注意のためにも今日は入院して観察しましょう」と母親に説明した。すると、「わかりました。アレルギーは遺伝もするんですね。似なくてもいいところが似てしまうとは…」と苦笑いしながら入院を了承してくれた。「今日の採血でアレルギー体質か否か、その程度やどういう食物にアレルギーがあるかも検査しましたので、後日、また詳しく説明しますよ」との説明にも納得してくれた。
後日出た検査結果によると、アレルギーの原因となるタンパク質の総IgEが180IU/mlと月齢にしては高値であり、食物としてはミルクがスコア5と高い値で、卵白が3、小麦が3と少し反応していた。アナフィラキシーが起こったので、ミルクは当面与えないこと、不足するならアレルギー用のミルクを与えることを説明し、アレルギー用のミルクを紹介した。アレルギー検査は半年に1回行うといいことを理解してもらい、院内で行っているアレルギー教室に参加し、勉強してもらうことをあわせて約束した。
【ミルクアナフィラキシーとは?】
ミルクアナフィラキシー発作とは全身性即時型のアレルギー症状で、抗原となるミルクのタンパク質が体に入り、膨疹や嘔吐(おうと)・下痢、せきなどが出現します。血圧が下がり危険なショック状態になりやすいので、緊急受診が必要。ミルクアレルギーの子はアトピー性皮膚炎になりやすいことも。
■監修:(故)市川光太郎先生
北九州市立八幡病院救命救急センター・小児救急センター院長。小児科専門医。日本小児救急医学会名誉理事長。長年、救急医療の現場に携わり、子どもたちの成長を見守っていらっしゃいます。
【市川先生から…】
初回の摂取ではまったく症状がなくても、2 回目以降の摂取時に発症することも少なくありません。新しい食材を与えるときは2 回目以降も注意深く観察しましょう。
イラスト/にしださとこ
【お知らせ】
市川先生が、赤ちゃんがかかりやすい病気や起きやすい事故、けがの予防法の提案と治療法の解説、現代の家族が抱える問題点についてアドバイスしてくださった「救命救急センター24時」は、雑誌『ひよこクラブ』で17年間212回続いた人気連載でした。2018年10月市川光太郎先生がご逝去され、連載は終了となりました。市川先生のご冥福を心よりお祈り申し上げます(構成・ひよこクラブ編集部)。
※この記事は「たまひよコラム」で過去に公開されたものです。