小児救命救急センター24時【尿路感染症(にょうろかんせんしょう)】
男の子なのに膀胱炎(ぼうこうえん)!?濁った尿を検査すると、細菌感染が判明し…
「40度近い発熱があり、うなるような声を出して顔色が悪い2カ月の男の子を搬入したい」とホットラインからの連絡があった。すぐに搬入を許可して救急室へ急いだ。
母親にしっかり抱っこされて救急車から降りてきた赤ちゃんは、少し顔色が悪く、近づくとうなっていることがすぐにわかった。ただちに酸素投与と、脈拍や呼吸数、体温や血圧、意識レベルなどをチェックするよう看護師に指示したところ、手足が冷たく、血液循環が機能していない状態であった。水分や栄養素などを点滴注射により補給(輸液(ゆえき))する準備をして、採血と同時に急速に静脈に投与(ボーラス投与)するよう指示した。大泉門(だいせんもん)がふくらむ様子はないが、うめくような泣き方と、体に触れられたときや物音に全身をビクッとさせる様子( 易刺激性(いしげきせい))が確認できた。こうした様子が見られる髄膜炎(ずいまくえん)を含めた重症感染症を念頭に、血液培養、髄液検査、検尿などすべての検査を行うように研修医に指示してから、母親に話を聞いた。
「朝はいつもと変わりなく機嫌がよかったのですが、昼寝から起きるときにいつもと違いグズっていたのでおかしいと思いました。その後、少し熱っぽい感じがしたので熱を測ると38・3度あり、近所の小児科がもうすぐ閉まる時間でどうしようか迷ったのですが、しばらく様子を見ることにしました。でも、熱がどんどん上がってきて、機嫌も悪くグズり始め、手足が冷たくなって時折うなるような声を出すので...怖くなって救急車を呼びました」
採尿で濁った尿を採取。細菌感染も確認でき…
研修医から血液検査、髄液検査、胸部X線検査などの結果が報告されてきた。白血球などの数値が高く、強い炎症が起こっていることが予想されたが、髄液検査は正常だったので髄膜炎の可能性は否定できた。肺炎(はいえん)もなく、皮膚や関節などの異変はなかった。採尿をすると、いわゆる膿尿(のうにょう)と思われる濁った尿が採取された。すぐに尿培養を行い、顕微鏡で検査すると、白血球が無数に存在し、尿路感染症の原因となるグラム陰性杆菌(いんせいかんきん)が確認できた。母親に説明すると、「尿路感染症って、膀胱炎のことですよね? 男の赤ちゃんも膀胱炎になるのですか?」と驚かれたが、「女性に多いことは知られていますが、乳幼児、とくに男の子にも多い病気なんですよ」と説明するとともに、治療と検査のために入院治療が必要であることを説明し、入院に同意してもらった。
その後、入院3日目には尿培養と血液培養から大腸菌が検出され、腎盂(じんう)が細菌感染する腎盂炎(じんうえん)から、血液が細菌感染する菌血症(きんけつしょう)まで起こしていたことがわかった。このような重症例の多くは先天性の尿路奇形の確率が高いことを説明し、入院中に詳しく検査することに同意してもらった。その後、男の子は検査により膀胱尿管逆流症(ぼうこうにょうかんぎゃくりゅうしょう)という先天性尿路奇形であることがわかり、数年以内の手術を視野に入れて、現在様子見の段階である。
【尿路感染症とは?】
腎臓~尿管~膀胱~尿道に及ぶ感染症は「尿路感染症」と呼ばれ、風邪などの症状はなく38度以上の熱が出る。大人の女性に並び乳幼児にも多く、1 才未満では男の子の感染率が高い。乳幼児では排尿時に尿が尿道や腎盂にまで逆流するなどの先天性の尿路奇形の場合に重症化することが多い。
■監修:(故)市川光太郎先生
北九州市立八幡病院救命救急センター・小児救急センター院長。小児科専門医。日本小児救急医学会名誉理事長。長年、救急医療の現場に携わり、子どもたちの成長を見守っていらっしゃいます。
【市川先生から…】
赤ちゃんがいつもと違ううなり声やうめき声を出す場合は、極めて危険な状態であると考えましょう。手足が冷たく血色が悪い場合も、血液循環が機能していない状態です。迷わず救急受診しましょう。
イラスト/にしださとこ
【お知らせ】
市川先生が、赤ちゃんがかかりやすい病気や起きやすい事故、けがの予防法の提案と治療法の解説、現代の家族が抱える問題点についてアドバイスしてくださった「救命救急センター24時」は、雑誌『ひよこクラブ』で17年間212回続いた人気連載でした。2018年10月市川光太郎先生がご逝去され、連載は終了となりました。市川先生のご冥福を心よりお祈り申し上げます(構成・ひよこクラブ編集部)。
※この記事は「たまひよコラム」で過去に公開されたものです。