子どもの近視は、将来の目の重篤な病気につながる。1日トータル2時間の外遊びで、近視進行を遅らせよう【専門医】
子どもたちの近視の発症が低年齢化しています。子どもの視力の発達の目安は、6歳で1.0ですが、2022年11月に文部科学省が発表した「令和3年度学校保健統計」によると、裸眼視力1.0未満は幼稚園(5歳児)で約24.8%、小学1年では約23%という結果に。約4人に1人は裸眼視力1.0未満です。
デジタル社会の中で、子どもの目を守る方法を、浜松医科大学医学部附属病院 眼科 佐藤美保先生に聞きました。
裸眼視力1.0未満は、小学6年生では約半数。学年が上がるごとに増加
子どもの近視が増えています。近視は程度が強くなると、将来、重篤な目の病気になりやすくなるため、幼児期から注意が必要です。
――子どもの近視は、ゲームをしたり、動画を見たりするのが原因でしょうか。
佐藤先生(以下敬称略) 携帯ゲームをしたり、スマホで動画を見たりしている子は確かに増えているのですが、それだけが原因と一概には言えません。
両親またはママ・パパのどちらかが近視だと、子どもも近視になりやすいです。また近視はアジア人に多い傾向があります。進行を遅らせないと、将来、近視の程度が強くなってしまい、緑内障(りょくないしょう)や網膜剥離(もうまくはくり)などの重篤な目の病気になりやすいことがわかっています。
裸眼視力1.0未満の子は、小学1年生では約4人に1人。小学3年生では約3人に1人、小学6年生では約半数と学年が上がるにつれて増えているので注意が必要です。なかには「近視がひどくなったら近視矯正手術をすればいい」と考えるママ・パパもいるかもしれませんが、近視矯正手術で裸眼視力は回復しても、眼軸の長さ(角膜から網膜までの長さ)は変わりません。そのため将来、重篤な目の病気になりやすいリスクは変わりません。
子どもの近視進行を遅らせるには、画面から目を30cm以上離すなどルールの徹底を
小学校の授業でもタブレット等が積極的に活用されています。ママ・パパが幼児期から注意をしなければ、タブレットやスマホに触れる時間は増加し、近視になるリスクは上がります。
――子どもの近視進行を遅らせるには、どうしたらいいのでしょうか。
佐藤 家庭でのルール作りが大切です。ママ・パパが注意をしなければ、小学校に入学すると授業でタブレットに触れ、帰宅後も家でもタブレットやスマホに触れて、デジタルデバイスの使用時間はどんどん増えるでしょう。
そのため幼児期のうちから、次のことを子どもに伝えて守らせましょう。
1:スマホではなく、なるべくタブレットやパソコンなど大きな画面で見る
2:姿勢をよくして、画面から目を30cm以上離す
3:幼児のうちは、1日30分でやめる
4:眠る1時間前には、スマホやタブレットを見ない
――画面から目を30cm以上離すというのは、どのようにしたらいいでしょうか。
佐藤 子どもは腕が短いので、手にタブレットなどを持って見ていると30cm以上離せません。そのためテーブルに置いて、子どもは椅子に座って離れて見るようにしましょう。
――近視の原因となるのは、タブレットやスマホなどのデジタルデバイスだけでしょうか。
佐藤 絵本を読んだり、絵を書いたり、パズルで遊んだり、ビーズを作ったりするときも目から30cm以上離すことを考えることが大切です。こうしたこまかい遊びをするときは、近すぎないか見てあげてください。
幼児期でも外遊びを意識して! 太陽の光を浴びることで近視進行は遅らせられる
近視進行を遅らせるためにすすめられているのが外遊び。台湾では教育省などが主導して、小学校で1日2時間の屋外活動を取り入れているそうです。
――ほかに子どもの近視進行を遅らせる方法はありますか?
佐藤 近視はアジア人に多いのですが、たとえば台湾政府は2010年から、子どもの近視進行を遅らせるために小学校では1日2時間を目標に掲げて屋外活動を取り入れています。
太陽の光を浴びることが、近視進行を遅らせることがわかっています。季節は関係ありません。くもりの日でもいいので、1日トータル2時間を目標に屋外で遊ぶようにしましょう。また運動量は関係ないので、活発に動き回らなくても構いません。
――屋外で1日トータル2時間遊ぶのは、乳幼児も同じでしょうか。
佐藤 乳幼児だと、1日トータルで2時間、屋外で過ごすことはできないというママ・パパもいると思うので無理することはありません。ただ意識して、公園遊びをするなど屋外で過ごすことは大切です。
たとえば幼稚園で1日30分ぐらいは外遊びをしているならば、帰ってきたら家でずっと過ごすのではなく、あと1時間公園で遊んでみてはどうでしょうか。
近視は、後天性内斜視になりやすい傾向が
長時間スマホや携帯ゲームなどを見続けることによって黒目が内側によってしまう後天性内斜視になることがあります。俗に「スマホ内斜視」と呼ばれ、とくに若い世代で見られます。
――「スマホ内斜視」といわれるような後天性内斜視は近視だとなりやすいのでしょうか?
佐藤 近視はピントを合わせる機能がうまく働きません。そのためスマホや携帯ゲームなどを長時間見続けると、後天性内斜視になりやすい傾向があります。
7~16歳で、スマホを1日4時間以上見続けたことによって12例、後天性内斜視を発症したという報告もあります。
――俗にいう「スマホ内斜視」は読書ではならないのでしょうか。
佐藤 読書でもなるリスクはありますが、スマホや携帯ゲームは、夢中になって長時間見続けてしまうのが問題です。
子どもの目の健康を守るためにも「画面から目を30cm以上離す」「スマホやタブレット、携帯ゲームを見るのは1日30分と決める」といったルールを、子どもに教えていきましょう。
取材・文/麻生珠恵、たまひよONLINE編集部
幼児期は、視力が成長する大切な時期です。スマホやタブレットで動画を見たりするのをゼロにするのは難しいかもしれませんが、近視進行を遅らせる環境は整えましょう。
●記事の内容は2023年5月の情報であり、現在と異なる場合があります。