市議会議員は3児のママ。出馬したのは産後2カ月のとき。「子育て世代の声を届け、多くの人が暮らしやすい市にしたい」【3児のママ体験談】
産後2カ月で2023年4月の東京都国分寺市議会議員選挙に立候補し、選挙活動を展開した松岡真里さん(38歳)。たくさんの人に協力してもらった経験を生かし、「どんな立場の人もその人らしく暮らせる社会を作りたい」と話します。議会を経験して感じたこと、これからの展望などについて聞きました。
※国分寺市は東京都多摩地区中部に位置しています。
当選してからは緊張の連続。それでも、ママたちの声を届けたい
――現在、松岡さんは国分寺市議会議員として市議会にも出席しています。選挙時の松岡さんの公約を教えてください。
松岡さん(以下敬称略) 「一人一人が大切にされ、応援しあえる国分寺」にすることです。産前・産後の支援や、ママを孤立させず、安心して子どもを産み、子育てができる国分寺市にしたいと思っています。ママはもちろん、高齢者や障害者、若者もやりたいことができ、応援し合えるまちづくりをめざしています。
――出産直後の選挙戦からめまぐるしい毎日だったと思いますが、体調などはいかがでしたか?
松岡 当選直後は本当にうれしくて、達成感でいっぱいでした。でも、その翌日から顔合わせや研修などが始まりました。これまでは、選挙のことだけを考えていたのが急に現実に引き戻された気がしました。
選挙中はとにかく「無理はしない、心地よく」に焦点を当てていましたが、市議会は厳格な雰囲気で、「そうか、これからが本番だ」と当たり前のことに気づいた感じです。
自覚はしていなかったのですが、やっぱり毎日気が張っていたんだと思います。ゴールデンウィークあたりで私も2人目の子どもである長女も体調を崩してしまいました。
とはいえ、少しずつ慣れ、先日の議会では国分寺市の産前・産後サービスについて取り上げました。
――産前・産後サービスの、どんな部分に課題があると考えているのでしょうか?
松岡 産前・産後は家事など日常的なことをするのも大変です。でも支援を受けず、1人で頑張ってしまう人がほとんどです。こうした状況は、ママを孤立させてしまいます。私自身、産前・産後は1人で乗りきるには身体的にも精神的にもしんどいことが多いと実感しました。この経験から、「公的サービスを、もっとママたちに気軽に受けてほしい」と感じていました。ところが、現実は難しい部分が少なくありませんでした。
私自身も選挙前に、市内の産前・産後サービスをいくつか受けてみました。すると、サービスによって窓口や担当する課が異なるんです。たとえば、産後ママの健康相談はこちら、家事を代わりにしてくれるヘルパーの相談は別のところ、といった感じです。それが面倒で、ほとんどのママたちは心が折れてしまい、相談するのをやめてしまいがちです。そうでなくても、産前・産後は身体も疲れているし、頭もぼんやりしているから、こまかい書類をていねいに読むのも難しいと思うんです。だから今回の議会では、窓口を1本化してほしいと強く提案しました。
――市政には、ママたちの声が届いていないのでしょうか?
松岡 そういうわけではないと思います。議員も市役所の人たちも、こうした問題があると認識していると感じました。私が提案したことも、「私たちもなんとかしたいと思っているんです」と言う人もたくさんいました。ただ、内部の制度を変えるのがすぐには難しいようです。それに、いざ制度を作っても、事業者がいない、ヘルパーの数が少ないなどの問題があり、実現までのハードルが高いんです。
また、ママたちが苦労しているのは認識しているけれど、具体的にどんなサービスを求められているのか把握できていないと感じることはありました。
助け合うことが当たり前の社会になるよう、奮闘する日々
――たしかに、実際にその立場に立ってみないとどんなサービスが求められているのか把握できない部分はあるかもしれません。
松岡 国分寺市には、育児支援ヘルパーという制度があり、家事や育児を頼めるようになっています。ところが今年度から、利用時間や期間が短縮されてしまいました。
私はもっと延長してほしかったので、「どうして短縮されるのですか?」と質問をしてみました。すると「利用者アンケートを見ると、だいたい時間が余って手持ち無沙汰になってしまうという回答が多かった。だから短縮するのが適切だと思う」との回答がありました。産前・産後は大変な時期ですが、「人にお願いするのは気をつかうから、自分で頑張ればいい」と遠慮するママが少なくないのかもしれません。
――もっと気軽に助けを求められるよう、利用者の気持ちも変えていく必要があるということでしょうか。
松岡 本当にそう思います。制度を変えることはもちろん大事ですが、もっと一人一人が「これは自分には難しいから助けてほしい」と言いやすい環境にすることも大切だと思います。
――「自分がつらい状況にある」と自覚できなかったり、「これくらい我慢して当たり前」と考えていたり人が多いようにも感じます。どうしたら、もっと人に頼れるようになると思いますか?
松岡 「自分を大事にする」ことが大事だと思います。こう言うと、世代によっては「自分勝手」と受け取る人もいるかもしれません。でも、決してそういう意味ではなくて、まず、自分自身が思っていることや感じていることを見逃さないことが大切だと思います。自分が幸せになることで、ほかの人を思いやることもできるし、協力し合おうという気持ちがはぐくまれるのではないでしょうか。
今は、自分の気持ちより周囲に迷惑をかけてはいけないことが重視されているように思います。だから、産後サービスも「迷惑に思われるかもしれない」と遠慮してしまう気がします。
壮大な話になるかもしれませんが、それこそ0歳、1歳くらいから「自分のことをまず大切にしようね。そうしたら、人が嫌だと思うことをしたらいけないとわかるよね」と教えていくことで、意識も変わっていくように思っています。
年齢や立場に関わらず、暮らしやすい市にしていきたい。
――国分寺市議は22人いるなかで、女性議員は8人だそうです。女性議員の数は、多いと思いますか?少ないと思いますか?
松岡 理想は男女半分ずつというのがいいなと思っています。だから、女性がもう少し増えてほしいとは感じています。とはいえ、今の国分寺市議会はバランスが取れていると思います。
――どのあたりがバランスがとれていると感じますか?
松岡 今回の市議選挙で、22人中8人が新人だったんです。平均年齢が48歳、20代が2人います。20代から70代まで、年齢層が幅広くいるところがバランスがいいと思います。子育て世代のパパも、子どものいない人もいるので、さまざまな考え方をする人が集まっているのではないかと思います。課題があった場合も、いろんな立場の人の考えがわかるのではないかと感じています。
――今後、国分寺市をどんな市にしていきたいと考えていますか?
松岡 私が出馬したのは、産後2カ月のときでした。まさに、産前・産後の当事者である私を議員として送り出してもらったこと自体に意義があると思っています。みなさんの気持ちを大切にして、国分寺市に住む人が全員普通に幸せに暮らせる市になればいいと思っています。私も、産後すぐ出馬した経験をいかし、みんなが協力し合い、それぞれが自分らしさを発揮できる街にしていきたいです。
お話・監修・写真提供/松岡真里さん 取材・文/齋田多恵、たまひよONLINE編集部
「まずは自分の気持ちを大切にすることが大事だと思います。自分を大事にすることで、周囲にも思いやりを持てると感じています」と、松岡さんは話します。産後すぐの出馬に対して、たくさんの人が協力してくれたことに、本当に感謝しているとも。だれもが笑顔で、助け合える社会を作るため、毎日奮闘したいと笑顔で話してくれました。
松岡真里さん(まつおかまり)
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国分寺市義会議員。1984年愛知県生まれ。食品メーカー勤務を経て、2015年から2016年、夫のイタリア赴任に同行し第1子出産。帰国後、国分寺市民に。オーガニック野菜や環境に負荷の少ない食材を使う陰陽調和料理教室、季節の手しごとの会、お話会、各イベントや産前産後の母への出張料理など開催。2021年第2子出産。2023年2月に第3子出産。産後2カ月で国分寺市議選挙に出馬し当選。