少年野球で活躍し、明るくて活発な息子が8歳でクローン病に。下がらない高熱が始まりだった【体験談・医師監修】
東京都町田市で活動する一般社団法人「つるかわ子どもこもんず」の代表理事を務める福田有美子さんには、2人の子どもがいます。26歳になる長男の龍紀(りゅうき)くんは、8歳のときにクローン病と診断されました。クローン病は小腸や大腸の粘膜に炎症を引き起こす病気です。野球少年だった龍紀くんが突然の高熱におそわれ診断がつくまでには、かなり時間がかかったそうです。そのときの様子について、福田有美子さんに聞きました。
長女の出産で心残りがあり、長男は自宅で出産
長男の龍紀(りゅうき)くんが生まれたのは、1997年9月。長女の出産のときに心の残りがあったという有美子さんは、珍しい自宅出産を選びました。
「長女は、陣痛促進剤を使っても30時間以上もかかる難産でした。総合病院で出産したのですが、私は窓もない狭い個室で、いい陣痛が来るようにと願いながら生まれるのを待ちました。
やっと長女が生まれても、外はしとしと雨が降っているのか、気持ちのいい快晴なのか、空はどんな色をしているのかまったくわかりませんでした。私は、子どもが大きくなったときに『あなたが生まれた日は、〇〇だったのよ』と大切な日の様子を話してあげたいと思っていたので、その点がとても心残りでした。
そのため龍紀は、できたら自宅で、できるだけ自然な形で産みたいと考えていました。妊娠経過も順調で妊婦健診でも気になることはとくになかったので、担当の産婦人科医と相談して、自宅出産を検討しました。
ただ出産予定日のころ、夫はアメリカと香港に出張中。親も頼れないので悩んだのですが、当時、私は社宅に住んでいて、近所付き合いがかなり密でした。社宅のママたちとは『困ったときはお互いさま』と、日ごろから助け合える関係で、『手伝うよ』と応援してもらえたことから、自宅出産を決めました。
助産師さんや3歳の長女、社宅のママ仲間に見守られる中で、龍紀は、出生体重3100g、身長50cmで生まれました。元気な産声(うぶごえ)が部屋中に響き渡りました」(有美子さん)
小学1年生からは、地元の少年野球チームに入ってスタメンで活躍
龍紀くんの名前は、夫婦で決めました。
「龍紀が生まれたとき、夫は出張でアメリカから香港に移動中でした。そのため中国圏をイメージする龍という漢字を選びました。スケールの大きな人に育ってほしいという願いを込めて、龍紀と名づけました」(有美子さん)
龍紀くんは、元気に成長し小学1年生からは地元の少年野球チームに入ります。
「小柄で背の順で並ぶといちばん前なのですが、打つことも、守ることもできるのでスタメンでした。負けず嫌いで、練習も人一倍するような子でした。明るい性格で、友だちもたくさんいました」(有美子さん)
元気だった子が急に高熱を出して、熱が下がらない!検査をしても原因不明
龍紀くんに気になる様子が見られたのは、小学2年生の2月です。初めは37度台の発熱でした。
「元気な子で、これまで大きな病気をしたことがなかったので、初めは季節柄、普通の風邪かな?と思いました。しかし熱がどんどん上がるので、かかりつけの小児科を受診しました。受診時には39度ぐらいありました。
その小児科は、血液検査の結果がその場ですぐにわかるのですが、検査結果を見て医師の表情が変わったのを今でも覚えています。炎症反応が強く出ていたようです。医師から『大きな病院で、すぐに診てもらったほうがいい』と言われて、近所の大学病院の紹介状をもらいました」(有美子さん)
翌日、有美子さんは龍紀くんを連れて紹介された大学病院を受診します。解熱剤を服用しても39度台から熱が下がらず、すぐに検査入院となりました。
「その病院には約1カ月入院して、血液検査やMRI検査など、たくさんの検査をしました。しかし原因がわからないという説明でした。病気がわからないので治療も進みません。対症療法がメインでしたが、解熱剤を服用しても熱は39~40度台から下がりません。下がったり、上がったりを繰り返すのではなく、ずっと39~40度台の高熱が続いている状態でした。
龍紀は高熱のためにぐったりしていて食事もとれず、点滴で栄養を補っていました。日に日に衰弱していく龍紀の姿を見て、どうしたらいいのかわからないし、不安ばかりが募りました。
医師は当初、川崎病や膠原(こうげん)病などを疑っていたようですが、確定診断にはいたりませんでした。そんな中、ただただ時間だけが過ぎて行くように感じられました。どんどん弱っていく龍紀を見ることに耐えられず、私たち夫婦は別の病院を探し始めました。医療に詳しい夫の知り合いに相談すると『子どものことだから、国立成育医療研究センター(当時:国立成育医療センター)で診てもらったほうがいいのではないか?』とアドバイスを受け、大学病院の医師に相談して紹介状を書いてもらいました」(有美子さん)
転院。まだしていなかった腸の内視鏡検査をして、クローン病と判明
国立成育医療研究センターでも、血液検査やMRI検査などさまざまな検査をしましたが、やはり病名がわかりません。
「うちには龍紀より4歳上の娘もいます。娘は当時中学生で、公立の中学校に通っていたのですが給食がないので、朝、娘にお弁当を作って送り出し、昼前に病院に到着。娘の夕食のしたくもあるので夜7時ごろまで付き添い、8時半過ぎに自宅に戻り、また翌日、龍紀のところに行くような生活でした。泊まり込みでの付き添いはしていませんでした」(有美子さん)
病名がわからず、治療が始まらない日が続きます。
「どうしたらいいの?と悩んでいたとき、医師から『腸の検査はまだですか?』のひと言が。まだしていなかった腸の内視鏡検査をすることになりました。そのためには腸の中を空っぽにしなくてはなりません。『検査をするので下剤を服用します』と言われました。
しかし夜中、突然、病院から電話があり『大量の下血をしたので、すぐに来てください』と言われ、夫と車で急いで駆けつけました。龍紀は、集中治療室に入っていました。下剤の服用で大量の下血をし、輸血が必要だと言うのです。急いで輸血の同意書にサインをしましたが、目の前が真っ暗になりました」(有美子さん)
腸の内視鏡検査、造影検査の結果、龍紀くんはクローン病と診断されました。とくに小腸に縦走潰瘍(じゅうそうかいよう)や敷石像(しきいしぞう)と呼ばれるクローン病に特徴的な炎症所見がたくさん見られたのです。クローン病は、あらゆる消化管に持続的に炎症が生じる病気です。原因不明の発熱や成長障害などの症状が初期サインです。
「聞いたことがない病気でした。でも、病名がわかって、これでようやく治療ができるとホッとした気持ちもありました」(有美子さん)
【清水先生から】下痢・腹痛・血便などが2週間以上続いたり、原因不明の発熱のときは受診を
クローン病は、アメリカのクローン医師によって初めて報告されたため、「クローン病」という病名がつきました。とくにアメリカ、ヨーロッパに多くみられる病気ですが、近年は日本でも患者数が増えています。クローン病は消化管のあらゆる部位にとびとびに病変が出現しうる病気です。病変の分布も重症度も、それによって生じる症状も、患者さんによってさまざまです。
龍紀くんのように、主な病変が小腸にあり、大腸の病変が軽い場合には、下痢や腹痛などの消化器症状があまり目立たず、発熱や成長が止まってしまうなどの症状のみで、最初は腸の病気であることに気づきにくいという場合も少なくありません。
下痢・腹痛・血便などの腹部症状が2週間以上続く場合はもちろん、原因不明の発熱や体重が減る、身長が伸びなくなる、だるい状態が続くなどの症状がある場合には病院への受診がすすめられます。
クローン病の診断には内視鏡検査が重要ですが、最近は、内視鏡検査をする前に便を調べることで、腸に炎症があるかを予測できる検査も出てきています。
今もなお、この病気の原因は完全には解明されていませんが、龍紀くんが入院していたころよりも炎症のメカニズムが解明されてきており、治療薬も確実に進歩してきています。検査で病気の状態をしっかりと評価して、適切な治療を行うことで、症状や腸の炎症を落ち着いた状態にし、患者さんが生活を取り戻せるようにしていくことがとても大切です。
お話・写真提供/福田有美子さん 監修/清水泰岳先生(国立成育医療研究センター) 取材・文/麻生珠恵、たまひよONLINE編集部
「診断がつくまで時間がかかったし、ずっと入院が続きました」と有美子さんは話します。龍紀くんの病気との闘い、入院の経験が、有美子さんが代表理事を務める「つるかわ子どもこもんず」の活動にもつながっているそうです。
●記事の内容は2023年9月の情報であり、現在と異なる場合があります。
清水泰岳先生(しみずひろたか)
PROFILE
国立成育医療研究センター消化器科医長。北海道大学医学部医学科卒。専門は、小児消化器、栄養病学、炎症性腸疾患。日本小児科学会小児科専門医、日本小児栄養消化器肝臓学会認定医。