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「母子手帳に記録ができずへこんだことも…」29年ぶりに改訂された低出生体重児の身体発育曲線。小さく生まれた赤ちゃんの成長の目安に【専門医】

更新

神奈川県立こども医療センターNICUを卒業した赤ちゃんと家族。(ブログ「がんばれ!小さき生命たちよ Ver.2」より転載)

2023年5月、2500g未満の低出生体重児の身体発育曲線がこども家庭庁「健やか親子21」サイトに発表されました。この身体発育曲線の改定はなんと29年ぶりのこと。
今回、低出生体重児の身体発育曲線が改定され、発表されたことにより、発育の参考になるほか適切な支援につなぐツールになることが期待されます。25年にわたって新生児医療にたずさわり、ドラマ『コウノドリ』(2015年、2017年)でも監修を務めた神奈川県立こども医療センターの豊島勝昭先生と、かながわリトルベビーサークルpenaの坂上彩さんに話を聞きました。

約1万人の赤ちゃんの成長データを地道に集めて作成

370gで生まれた赤ちゃんがNICUを退院する日。(ブログ「がんばれ!小さき生命たちよ Ver.2」より転載)

これまで市区町村で交付される母子健康手帳の乳児身体発育曲線では1kg未満の記入欄がなく、超低出生体重で生まれた赤ちゃんは成長を記録することができない現状がありました。
また、母子健康手帳には掲載がないながらもこれまで使用されていた低出生体重児の身体発育曲線は、1980年代に生まれた赤ちゃんのデータをふまえて1994年に作成されたものでした。医療が進歩し、500g未満で生まれて救命される赤ちゃんも増えてきた近年の実態には合わない状況があったため、自治医科大学小児科の河野由美先生が代表となった厚生労働省の研究班で、低出生体重児の長期的な身体発達・成長の状況の調査が行われました。豊島先生も研究班のメンバーとして発育曲線の作成に取り組んだそうです。

「今回の改定は、非常に地道な手法で苦心して進められました。それは、2012~16年に全国の医療機関のNICUなどを退院した人に郵送で協力を依頼し、母子健康手帳に記載されている体重や身長、頭囲の測定値の写真をウェブサイトに送付してもらい、集まったデータを分析するという方法です。多くのNICUのある病院で協力・分担して行いました。

そのようにして集めた9587人の低出生体重児たちのデータをもとにして、出生体重別に①500g未満②500~1000g未満③1000~1500g未満④1500~2000g未満⑤2000~2500g未満、の5つのグループに分けて、男女別に体重、身長、頭囲の発育曲線を作成しました。①〜③は6歳まで、④・⑤は4歳までのグラフになっています。解析してわかったことは、低体重で生まれた赤ちゃんは、数年後の成長も標準より少し小さめ(マイナス1SD※)の成長曲線になるということでした」(豊島先生)

※SDとは標準偏差のこと。一般的にはSDスコアが+2SD~-2SDが標準的な成長の範囲。-2SD未満は低身長と考えられる。

成長曲線はその子のペースで成長しているかの目安に

厚労省のサイトからダウンロードした身体発達曲線に、坂上さんが娘の発育状況を書き込んだもの。

豊島先生が今までNICUで低出生体重児のママたちとかかわってきた中で、「母子健康手帳に自分の子どもの成長の様子が書けない、と悩む人も多かった」と言います。

「交付される母子健康手帳は低出生体重児向けではないので、『1kg未満で生まれた赤ちゃんの成長が記録できない』と悩む人や、『成長がゆっくりだと理解はしていたけれど、平均的な発育と比べてへこむことがあった』という人などもいます。低出生体重児の身体発育曲線ができたことで、小さく生まれた子たちのデータの中で、成長の目安がわかるようにはなるでしょう。

ただ、赤ちゃんの成長はその子によって違うものです。小さくてもゆっくりでも、なによりもその子のペースで育っているかを確認することが大切です。この曲線は一つの目安でありツールに過ぎません。ほかの赤ちゃんと比べるものではないということだけはしっかりと念頭に置いておいてほしいと思います。

どう活用するか、そして曲線からはずれたときにどう支援するかを考えることが非常に大事だと思います。現在は各都道府県別に独自のリトルベビーハンドブックという母子健康手帳のサブブックが作成されています(※)が、今後は、市区町村で交付される母子健康手帳自体が、早産児や低体重児の子の成長も踏まえたものに変わり、必要な支援につながるようになっていくといいと思っています」(豊島先生)

※リトルベビーハンドブックは現在40都道府県で作成・運用されています。

「待ち望んでいたものができた」と喜ぶママ・パパの声が届いている

かながわリトルベビーハンドブックの表紙と、低出生体重児の身体発育曲線の参考ページ。

神奈川県では2023年8月末に母子健康手帳のサブブックとして「かながわリトルベビーハンドブック」が完成し、9月から県内のNICUのある病院で希望者に配布を始めました。
このリトルベビーハンドブックには、今回作成された低出生体重児の身体発育曲線のうち、①500g未満②500~1000g未満③1000~1500g未満で生まれた赤ちゃんたちの6歳までの発育曲線が掲載されています。娘を5年前に370gで出産した経験を持つかながわリトルベビーサークルpena(ペナ)代表の坂上彩さんは「待ち望んでいたものができた」と話します。

「ママたちは、赤ちゃんを小さく産んでしまったことで、ただでさえ自分を責める気持ちになる人が多いです。さらにこれまでの母子健康手帳では、低出生体重児の場合は書き込む場所がなかったり、成長の経過が合わない状況でした。一般的な発育曲線と大きく離れているために落ち込む人もいますし、母子健康手帳に書き込めないことによって、赤ちゃんの存在を否定されたような気持ちになる人もいます。低出生体重児の身体発育曲線ができたことで、やっと自分の子どもの成長の目安ができた、と安心する声が多く聞かれます。

ただ、この発育曲線はあくまでも目安だと考えています。『かながわリトルベビーハンドブック』に掲載した発育曲線も、そこに書き込む仕様にはしていません。それは、この曲線からはずれてしまうことで新たな悩みを持ってしまう可能性があるからです。参考にはしても、比較して苦しんでほしくないという思いを込めて作成しました。書き込みたい場合は、厚生労働省のサイトからダウンロードすることができます」(坂上さん)

坂上さんは、低出生体重児の身体発育曲線を、子どもの成長にかかわる支援者たちとの情報共有にも役立ててほしい、と言います。

「低出生体重児も、NICUを退院後には地域の乳幼児健診を受けますが、修正月齢の健診でもやはり発育状況はゆっくりなことが多いです。そんな中で、集団健診でかかわってくれる保健師さんや保育士さんは低出生体重児、とくに1500g未満で生まれた子の成長については、あまり詳しく知らない人も少なくない実感がありました。今回、低出生体重児の身体発育曲線ができたことで、支援者の人たちにも正しい根拠に基づいた発育の目安を共有することができます。これまでより安心して、子どもの成長のことを伝えられるようになるんじゃないかと期待しています」(坂上さん)

お話・写真提供/豊島勝昭先生、坂上彩さん 監修/豊島勝昭先生 取材・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部

「小さく生まれた赤ちゃんのママたちにとって、成長記録は命の証しです。治療などを乗り越えた子ども自身の頑張りはもちろん、家族や医療従事者の方たちが子どもの成長のために頑張ってくれた記録でもあります」と坂上さんは言います。「ただ、自分を責めたり人から心ない言葉をかけられた経験がある人は、成長記録を支援者に共有することを不安に思う人もいる」のだとも。今後、この発育曲線が低出生体重児の成長をサポートするような形で活用されることが望まれます。

健やか親子21ホームページ

がんばれ!小さき生命たちよ Ver.2

●記事の内容は2023年10月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

豊島勝昭先生(とよしまかつあき)

PROFILE
神奈川県立こども医療センター周産期医療センター長(新生児科部長)、臨床研究所副所長。
新潟大学医学部を卒業後、神奈川県立こども医療センター、東京女子医科大学の臨床研修を経て、2000年より神奈川県立こども医療センター新生児科にて勤務。2008年より多くの小中高校で、「NICU命の授業」を行う。2015年、2017年に放送された周産期医療を題材としたドラマ『コウノドリ』で医療監修を担当。24時間365日体制のNICU(新生児集中治療室)で、新生児の救命救急医療に取り組む。専門は新生児学。

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