約12人に1人生まれる低出生体重児。「早産はだれにでも起こりうること」コウノドリ監修医師と考える新生児医療と発達支援【専門医】
低出生体重児の出生数は増加し、全体の出生数に占める割合は9.4%となっています。25年間新生児医療にかかわり、TVドラマ『コウノドリ』(2015年、2017年)でも監修を務めた神奈川県立こども医療センター周産期医療センター長の豊島勝昭先生は「早産はだれにでも起こりうることで、NICU(新生児集中治療室)は特別な場所ではない」と言います。
豊島先生に、小さく生まれた赤ちゃんの成長について、どんな医療や支援が必要と考えているか、話を聞きました。
家族と赤ちゃんとの触れ合いが、何よりの発達支援
――神奈川県立こども医療センターのNICUは、2019年にリニューアルオープンしたそうです。
豊島先生(以下敬称略) 施設が老朽化し増床も必要だったため、思いきった改修をしました。当たり前かもしれませんが、なによりめざしたのは、よりよい救命医療ができること。検査や治療にかかわる医療機器は最先端のものをそろえました。そして救命医療と同様にとても必要と考えていたのは「赤ちゃんと家族が一緒に過ごす時間を支えること」です。家族がいかにくつろいで面会時間を過ごせるかを考えてベッドや椅子を配置し、光と音の環境も大きく変えました。
そのように家族が過ごす環境を整えたのは、NICU医療の中で「ファミリーセンタードケア」という考え方に基づいています。「赤ちゃんが加わる家族(ファミリー)を」+「中心にして(センタード)」+「応援する医療(ケア)」です。
NICUでご両親が赤ちゃんと一緒の時間を過ごし、赤ちゃんの治療や育児をご家族と医療者で一緒に考えていく取り組みです。
新生児医療の進歩によって低出生体重や疾患のある赤ちゃんの救命率が高まる一方で、命が助かるようになったからこそ救命の先に向き合わなくてはならない課題もたくさん見えてきました。元気に退院していく赤ちゃんたちも増えていますが、NICU退院後も医療的ケアとともに成長する子どもたちが増えているのも現実です。病気や障害とともに生きる赤ちゃんたちの成長・発達を応援していくためには、NICUに入院している期間から家族と子どもたちそれぞれを理解して応援のしかたを考えていく必要があります。入院中から親子のかかわりを大切にしたいと考えています。
――NICUの赤ちゃんの家族が積極的に赤ちゃんのお世話をしたり、触れ合ったりすることが、赤ちゃんの成長にいい影響があるのでしょうか。
豊島 北欧には、ファミリーセンタードケアの考え方が進んでいるNICUがあります。スウェーデンのNICUを当センターのスタッフが、見学したところ、赤ちゃんの入院中はお母さんやお父さんが付き添い入院をして育児や治療に参加していました。
集中治療が必要な赤ちゃんと保護者が一緒に過ごすことで、親子の愛着も高まり、育児する中で親としての自信もつきます。何より治療を受けている赤ちゃんの安静がたもてて、それが赤ちゃんの治療経過や発達にもいい影響を及ぼしていて、同じような状態の赤ちゃんを比べると日本よりも早く退院できているようでした。
さらに、NICU入院中に家族からたくさん声をかけてもらった赤ちゃんは、2歳になったときに言語発達の状況がいいという研究報告もあります。私たちのNICUでも、赤ちゃんの入院中に家族がくつろいで長く面会できることが、何よりの赤ちゃんたちへの応援になると期待しています。
――家族が居心地よく過ごせるためのベッドや椅子の配置とはどんなものですか?
豊島 改築にあたって増やした6床は、赤ちゃんたちの保育器の横に成人用のベッドを配置した個室にしました。カルガモルームと名づけました。産後のお母さんが横になった状態で赤ちゃんと面会したり、添い寝をしたり、夜間も一緒に過ごすことができます。さらに、個室でなくてもNICUにある27床のベッドサイドに1台ずつ、カンガルーケアを想定したリクライニングチェアを常設しました。お母さんやお父さんがくつろいで面会できることは、赤ちゃんの安楽、発達促進につながると考えています。
赤ちゃんと家族がストレスを感じにくい光と音の環境に
――光の環境とは、どのようなことでしょうか?
豊島 以前は日本のNICUは、小さく生まれた赤ちゃんのためには昼間でも暗くて静かな空間がいいとされてきました。けれど、近年の研究で赤ちゃんはお母さんのおなかの中にいるときから、胎盤からお母さんのホルモンをもらって昼夜のサイクルがあるとわかっています。そしておなかから出てきてお母さんからのホルモンがこなくなる赤ちゃんには、NICUの光環境で昼と夜のリズムをつけたほうが、赤ちゃんの体重増加がいいという報告もあります。そのため、NICUにいても昼と夜のサイクルがある光環境を作ろうと考えました。
私たちのNICUに入院してくる赤ちゃんたちは、半数以上が夜の入院です。以前は夜でも緊急入院の赤ちゃんの治療のためにNICUフロア全体を昼間のように明るくして、不夜城のようなところでした。
それを、大きな窓で昼間は自然光を取り入れ、窓に近くないNICUエリアは、朝は徐々に明るく、夕方以降は徐々に暗く変化するように、フロア全体の照明設備を企業との共同開発で作りました。治療が必要な時は各ベッドをスポットライトで照明できるようにして、航空機内のようにそれぞれのベットでそれぞれが必要な明るさと暗さに、光で空間を切り分けられるようにできました。
――低出生体重児の家族は、NICUにあるモニターのアラーム音に神経質になってしまうと聞いたことがあります。音の環境はどんなふうに変えたのでしょうか?
豊島 静かなところでモニターのアラームがなると、すごく驚きますし、「何かよくないことが起こったのでは」と、圧迫感があるものです。以前、モニター音が気にならないように音楽のBGMをかけていたんですが、音楽には嗜好(しこう)性があったり、逆にその音楽で気持ちがつらくなってしまう家族もいました。それで、ハイレゾ音響空間のKooNeというシステムを導入しました。NICU全体を森の中のような自然界の音環境にしました。朝が来ると鳥のさえずりが増えたり、足元は小川のせせらぎの音が聞こえています。モニターのアラーム音や医療機器やキャスターが移動するときにガタガタする金属音を気にしにくくしています。
こういった設備があるNICUは世界でも珍しく、国内外からの見学が増えています。ブログやSNSで発信して寄付を募り、NICU卒業生の家族やたくさんの方々の寄付で実現することができました。
――スタッフや入院中の家族の反響はありますか?
豊島 本当にさりげない音だから、家族の方たちはあんまり気づかないのかもしれません。スタッフは電気設備点検で一時的な停電によりKooNeシステムの音が止まると無音の環境に重さを感じて、音があったほうがいいと実感するスタッフが多いです。
リクライニングチェアはとても過ごしやすいと好評で、長く赤ちゃんを抱っこして面会時間が長くなった家族が増えました。家族に赤ちゃんの頑張りを感じてもらえるためにも、面会時間が少しでも長くなることはいいことだと思います。病院内の会議では「医療の邪魔になるのでは?」という意見も出ましたが、私は家族の居場所をしっかり作る意味で必要な設備だと実感しています。
――2019年にNICUがリニューアルオープンしてまもなくコロナ禍となりましたが、面会制限などはどうしていましたか?
豊島 NICUに入院中の赤ちゃんたちは免疫力が弱いため、日本全国のNICUで厳しい面会制限が設けられました。私たちは家族面会を大事にしたくてNICUの大きなリニューアルに取り組んだのに、完成とほぼ同時にコロナ禍となってしまい、かなりのジレンマを感じました。NICUに入院している赤ちゃんにとって、家族の面会は単なるお見舞いではありません。医療面から見ても家族は大切な存在。とくに生まれたばかりのころは、親子関係を築くためにも非常に大事な時期です。NICUスタッフと同様に家族は赤ちゃんたちにとって大切な存在であり、赤ちゃんのためにご家族は感染症対策や行動自粛などをスタッフと同じ様に行ってくれると信じることにしました。
だから、私たちはコロナ禍でも面会禁止にせずに家族面会を継続しました。面会時間の制限はせざるを得ませんでしたが、病状が重い赤ちゃんは面会制限を緩和してコロナ前に近い家族面会を続けていました。コロナ禍の3年間で当センターのNICUでの新型コロナの2次感染者はゼロです。スタッフとご家族で一緒にコロナ禍を乗り越えつつあると思えています。
NICUの赤ちゃんにとって、医療面でも重要な家族面会
――NICUに入院している赤ちゃんの発達支援についてどんなことが必要だと考えていますか?
豊島 赤ちゃんはお世話してくれる人の笑顔を見て笑うようになります。日本語で話しかけられるから日本語を覚えます。発達支援で大事なのは、お母さんやお父さんがそばにいて、笑顔で話しかけ、触れ合う刺激があることだと考えています。だから赤ちゃんたちが入院中から、家族と一緒に過ごすことはとても大切です。
さらにNICUの退院は赤ちゃんたちやそのご家族のゴールではありません。小さく生まれた子どもたちは発達がゆっくりだったり、得意・不得意なことに差が大きかったり、こだわりが強かったり、落ち着きがない場合があります。そういった発達の特性があると、家族やお友だちとの生活の中で不便さがあったり、周囲とのかかわりのなかで自信をなくしたり、自己肯定感が下がったりする2次障害を起こしてしまうことがあります。
2次障害を起こさないためには、家族の養育レジリエンスが大事と考えています。養育レジリエンスとは、その子の特性や困ったときの対応を理解して、その子ができることに気づき、前向きに育児したり、社会的支援を上手に活用できるといった家族力と考えていいと思います。私たちのNICUでは、赤ちゃんたちの治療だけでなく、ご家族が養育レジリエンスを高められるような入院期間にしたいと考えてます。それが子どもの発達支援になると考えています。
――今後の課題になっていることはどんなことでしょうか。
豊島 小さく生まれた赤ちゃんの家族がNICUを退院してから、子どもたちの成長に合わせて出会うさまざまな支援者に、お子さんたちそれぞれの特性を伝えることができ、さまざまな支援者と一緒に子育てを考えていける様になることが大切だと考えています。一部の支援者に依存し過ぎることは、年代とともに次々に変わる支援者との信頼関係を作りづらくなることもあります。
子どもの成長によって、医師、訪問看護師さん、保健師さん、療育センター、保育園や幼稚園の先生、学校の先生など、年代や状況に応じて支援者は変わっていきます。そのとき、子どもの状態や個性について支援者と情報共有をし、周囲を頼ることができると、家族の生きづらさや子どもたちの困り感は緩和しうると考えられます。子育てで困ったとき、家族以外の支援者にどんなふうに柔軟に頼るか、そんな情報もNICUに入院している期間で、伝えていけたらと考えています。
――これからママやパパになりたい人に、妊娠する前から知っておいてほしいことはありますか?
豊島 近年、2500g未満の低出生体重児が生まれる割合は9.4%と言われ、12人に1人ぐらいです。1500g未満の極低出生体重児が100人に1人。早産は妊婦さんのだれにでも起きうることで、NICUは思っている以上に特別な場所ではありません。日本は全国各地にNICUがあるから、もし早産になったとしても赤ちゃんの成長を応援してくれる場所は、どの地域にもあることを知っておいてほしいです。
小さく生まれた赤ちゃんは、発達に特性があることもありますし、臓器が未熟な状態で生まれたことで大人になるまで続く身体の症状があることもあります。NICU退院後も、成人に至るまで長期的な視点でそれぞれの心身の健康管理をしていく必要があるとわかってきました。NICUで命が助かってよかった、で止まらず、命が助かったからこそ、その先の子どもたちの人生を、社会の中で多くの人たちと温かく応援していけたらと願っています。
お話・写真提供/豊島勝昭先生 取材・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部
神奈川県立こども医療センターNICUでは、低出生体重児がNICUを卒業したあとの成長・発達を支援するために、「神奈川こどもNICU 早産児の育児応援サイト」を作り、情報提供をしています。治療のことだけでなく、NICUで家族ができること、退院後の発達支援なども紹介されています。
●記事の内容は2023年10月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。
豊島勝昭先生(とよしまかつあき)
PROFILE
神奈川県立こども医療センター周産期医療センター長(新生児科部長)、臨床研究所副所長。
新潟大学医学部を卒業後、神奈川県立こども医療センター、東京女子医科大学の臨床研修を経て、2000年より神奈川県立こども医療センター新生児科にて勤務。2008年より多くの小中高校で、「NICU命の授業」を行う。2015年、2017年に放送された周産期医療を題材としたドラマ『コウノドリ』で医療監修を担当。24時間365日体制のNICU(新生児集中治療室)で、新生児の救命救急医療に取り組む。専門は新生児学。
あんぬ8*******
35w0d 1404g男の子帝王切開にて出産しました!極低出生体重児、未熟児でこの世に誕生しましたが今のところ安定していると先生から教えて頂きました!胎盤が通常の3分の1しかなかったようで..... <続きはアプリから>
💬 10 ♥ 317
m*******
切迫早産で入院していましたが、本日32w3dで七夕ベビー出産しました。2060gの女の子でしたー!しっかり早産児/低出生体重児のため出生後はNICUへ行きましたが、産声もあげてくれて自発呼吸もありました。..... <続きはアプリから>
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ゆあ*******
やっと100gアップ。NICUにいる超低出生体重児の我が子。27日かけて、467gから579gになりました。早く大きく元気になってほしいな。そして早くこの手で抱きしめたいな。..... <続きはアプリから>
💬 5 ♥ 222
toka*******
産まれてから低出生体重児だのNICU→GCUに入院して、体重も退院時の基準を満たしたので今日お家に帰ってきました。初めて娘と夜一緒なのでドキドキ。息してるかすごい確認してしまう。..... <続きはアプリから>
💬 5 ♥ 5
miho*******
38w1dでしたが、低出生体重児で産まれた娘ちゃん。出生時のストレスで上手く消化ができず、救急搬送され今はNICUで頑張ってます。離れ離れになっちゃって母は泣いてばかりだけど..... <続きはアプリから>
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