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絵本を制作する小児科医。長期入院で病気と闘っている子どもたちのために、夢がある物語を【小児科医】

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車椅子の女の子との幸せな少年とドライブ彼女の弟の笑顔、家族の時間の車椅子
●写真はイメージです
tongpatong/gettyimages

鹿児島県鹿屋市にある小児科『まつだこどもクリニック』の院長 松田幸久先生は、小児科医になって約40年。さまざまな診療や治療を通して、多くの子どもたちとかかわってきました。大きな病気を抱える子どもたちを主人公にした絵本も制作しています。
絵本を作ったきっかけや難病を抱える子どもたち・家族のことについて、松田先生に話を聞きました。

筋ジストロフィーで入院していた男の子と看護師さんの会話から生まれた、絵本『魔法のドロップ』

松田幸久先生は2001年に「まつだこどもクリニック」を開業しています。開業する前は、鹿児島大学病院で先天異常外来を担当していました。

――先生が絵本制作を始めたきっかけを教えてください。

松田先生(以下敬称略) 私は1983年に鹿児島大学医学部を卒業して、同大学の小児科に入局しました。専攻は臨床遺伝学なので、先天異常外来を担当していました。そこで大きな病気や障害がある子どもたちを診るようになって、その子たちとの触れ合いの中で絵本を作りたいと思いました。
私が作った絵本は、現在では毎年クリスマス前後の日にうちのクリニックで読み聞かせを行うのが恒例になっています。2023年もクリスマスイヴがちょうど日曜日なので、その日に行います。

――絵本の登場人物にはモデルの子がいるのでしょうか。

松田 『魔法のドロップ』は、車いすに乗っているケンちゃんが主人公です。研修医として南九州病院に勤務していたとき、筋力がじょじょに低下していく筋ジストロフィーという病気で、長く入院していた男の子をモデルにしました。
その子と看護師さんが、ある日、花壇で球根を植えていて、『看護師さん、ありさんのおうちってどうなっているんだろう?』『〇〇くん、ありさんのおうち見に行ってみたい?』といった何気ない会話を耳にしたのがきっかけです。

長期入院している子は、病院という閉ざされた空間の中でしか生活ができません。せめて絵本で、男の子の夢をかなえてあげたいな。同じような思いをしながら治療を頑張っている子どもたちを励ましたいという思いで絵本を作りました。
そして主人公のケンちゃんという名前は脊髄性筋萎縮症(以下SMA・エスエムエー)で長期入院をしていた男の子の名前からもらいました。

SMAで呼吸ができなくなっていく子ども。延命治療は、医師である自分すら適切なのかわからなかった

SMAは、現在では早期発見・早期治療をすると歩いたりできるようになり、健康な子と同じような生活を送ることができる可能性が広がった難病です。しかし以前は、生後6カ月までに発症した場合、人工呼吸器などをつけなければ1歳半までに95%の子が亡くなると言われていました。

――SMAで長期入院していたケンちゃんのことを教えてください。

松田 私が大学病院で勤務していた当時は、SMAに治療薬はありませんでした。体幹や足、腕の筋力の低下や筋萎縮が進行して、寝たきりになってしまう難病です。呼吸筋が弱くなると呼吸困難を起こして亡くなる子もいます。
呼吸筋が弱くなってくると、ママ・パパに「どうしますか? 延命治療はしますか?」という話をしなくてはいけなくなります。そのときは本当につらかったです。
ケンちゃんも2歳ごろに呼吸が苦しそうになっていきました。両親は、延命治療は希望していなかったのですが、ケンちゃんが呼吸困難になって苦しそうになってくると見ていられずに「先生、助けてあげてください」と言ってきました。
いろいろな考え方がありますが、医師の私でも、人工呼吸器を使用して延命治療することが正しい判断なのかどうかは、その当時もそして今でもわからないです。
両親は、下の子を抱えながらも明るく気丈にケンちゃんの看病を最期まで続けていました。看病は10年ぐらい続きました。

大きな病気や障害がある子が生まれると、受け入れられないママ・パパも

松田先生は、著書『とっておきの診療ノート』で、これまで出会った子どもと家族との思い出をつづっています。中には、心が痛むような出来事もありました。

――『とっておきの診療ノート』には、わが子の難病を受け入れられないママ・パパの姿が描かれています。このような家庭は多いのでしょうか。

松田 一概には言えませんが、やはり「受け入れられない」という家庭はあると思います。またママは「何があっても育てたい」と思っていても、おじいちゃん、おばあちゃんが反対して、ママ・パパが従わざるを得ない家庭もあるようです。
私が大学病院に勤務していたときも、先輩と一緒に両親を説得したことがあります。双子の1人がダウン症候群(以下ダウン症)で生まれた家族でした。そのダウン症の女の子が、私が勤務していた大学病院に救急搬送されてきたときは、生後8カ月でした。女の子は低栄養状態で腹水がたまり、意識がはっきりしない状態でした。
話を聞くとママは「育てたい」と思っていたのですが、パパとパパ側の両親は「その子はいらない」と言って、家庭で虐待を加えていたそうです。当時は、医師による虐待の通報義務がありませんでした。私たちは尊い命を守るために、両親を必死で説得しました。

――先生は、現在まで難病を抱えたり、障害をもつ子どもを抱えるママ・パパたちをどのようにサポートしてきたのでしょうか。

松田 開業医になってからは、同じような病気や障害をもつ子どもを抱える、先輩ママたちに協力してもらい、ピアサポートで子育ての不安、悩みなどに寄り添い、解決へのアドバイスなどをもらっています。同じような悩みを乗りこえてきた経験者のアドバイスの影響は大きいです。

私自身の大学病院での経験だけでなく、今はダウン症や知的障害をもつ子どもたちと「とっておきの音楽隊」という音楽隊を作って活動しているので、地域の医療機関で大きな病気や障害をもつ赤ちゃんが生まれると、「相談に行ってください」と、うちのクリニックを紹介されることもあるようです。

――先生は小児科医になられて約40年ですが、医療の進歩をどのように見ていますか。

松田 最近驚いたのは、早期発見・早期治療をすればSMAが治療できる病気といわれるようになったことです。遺伝子治療薬『ゾルゲンスマ®』は、2020年に製造・販売承認されましたが、「こんな薬がついに認可された!」と衝撃を受けました。
これまでは治療ができないと言われていた難病や障害も、治療が可能になる日が来るかもしれません。

お話・監修/松田幸久先生 取材・文/麻生珠恵 たまひよONLINE編集部

松田先生の絵本は車いすに乗っていたり、目の見えない子が主人公です。わくわくして楽しく、心温まるストーリーで、親子で楽しめます。代表作『魔法のドロップ』は、1993年鹿児島市主催の「子どもに聞かせたい創作童話」の低学年部門で特選を受賞しています。

松田幸久先生(まつだゆきひさ)

PROFILE
鹿児島大学医学部を卒業。同年同大学小児科学教室に入局。2001年に、鹿屋で「まつだこどもクリニック」を開業。専門は、小児科学、とくに臨床遺伝学、遺伝カウンセリング。障害をもつ子どもたちやターミナルの子どもたちと接するようになり、童話を書き始める。絵本に『どろぼうサンタ』(こぐま社)、『天にかかる石橋』(石風社)、『魔法のドロップ』(石風社)など、著書に『とっておきの診療ノート』がある。

●記事の内容は、松田先生の体験をもとに個人を特定しない情報で編集しています。
●記事の内容は、個人を特定しない情報に編集しています。
●記事の内容は2023年11月の情報であり、現在と異なる場合があります。

『とっておきの診療ノート』

1人の小児科医が、難病を抱えながらも人生を前向きに生き抜く子どもたちとの思い出をつづったエッセイ集。
松田幸久著/幻冬舎メディアコンサルティング(1650円)

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