赤ちゃんが危ない!百日せきが大流行の予兆。従来の治療薬が効かない「耐性菌」が問題に【小児科医】


連日、百日せきの流行のニュースが報道されています。「百日せきが2024年の後半から増えています。ワクチン接種が済んでいない子ども、とくに生後6カ月未満だと重症化しやすい病気です。ワクチン接種前に罹患し、残念ながら亡くなった赤ちゃんも出ています。なんとしても大切な命を守らなければいけません」と太田文夫先生は言います。
「小児科医・太田先生からママ・パパへ、今伝えたいこと」連載の#51は、流行中の百日せきについてです。
予防接種・ワクチンがある百日せき、どうして流行っているのか?
百日せきは、百日せき菌という細菌がのどなどについて起こる感染力が強い呼吸器の感染症です。とくに赤ちゃんにとって危険な病気です。日本国内では2024年の後半から流行り始め、2025年2月以降に急増しています。
世界の中での流行は中国から。2024年に入って中国で患者が急増、ワクチン接種月齢以下の乳児の死亡が多発し、フィリピンでも同様な流行で死亡者が出ています。麻疹や風疹の流行と同じように、周辺諸国での流行が日本にも及ぶことが懸念されていたのが現実となり、日本での流行が始まりました。日本での流行は2019年以来です。
もうひとつ心配なことは、従来百日せきの治療に使っていた薬剤の効きが悪い耐性菌の割合が高くなったこと。中国でもそうだったそうですが、日本でもその傾向が出ています。
乳児期のワクチン接種で得た免疫は、10歳ごろに低下してきて・・・
予防接種・ワクチンが広まる前は、百日せきは世界中で子どもが命をなくす病気のひとつでした。
現在日本では、生後2カ月から1歳半ごろまでの間に百日せきワクチンを含む混合ワクチンを4回接種することで免疫をつけています。
今回の流行は10歳前後の子どもが多いのですが、ほとんどの子どもは4回のワクチン接種は済んでいるのに発症しています。なぜ発症したかと言うと、ワクチンで予防できるレベルの免疫がついているのは5年くらいだからです。
10歳前後の発症者が多いのは諸外国でも同じです。それを避けるためにはワクチンを繰り返し接種することが欠かせません。諸外国では、就学前と11~12歳の二種混合ワクチン(ジフテリア・破傷風)の接種時期に三種混合ワクチン(ジフテリア・百日せき・破傷風)に追加接種になるスケジュールに変更になっていますが、日本ではこの変更ができていません。
現在日本小児科学会やワクチン啓発団体は、諸外国で行われているのと同じように就学前と二種混合接種時期に三種混合ワクチンを受けることをすすめています(任意接種になります)。
インフルエンザの5倍の感染力があるといわれる百日せき。新生児でもかかる
百日せきは、母親からもらう免疫力が弱いために生まれたばかりの赤ちゃんもかかる病気で、6カ月以下とくに3カ月以下の赤ちゃんが感染すると重症化します。
飛沫感染と接触感染でうつりますが、インフルエンザの5倍かかりやすいことがわかっています。家族がかかっていると多くが赤ちゃんにうつります。赤ちゃんの感染のほとんどは家族からの感染です。
とくに新生児は、あまりせきが出ないまま、息ができない無呼吸になることもあります。気がつくと顔色が悪くなっていてあわてて救急車を呼ばないといけないときもあります。
無呼吸にならなくても重症化率が高く、なかには脳症になることもあり、人工呼吸器やECMOを使った集中治療が必要になったり、命を落とすこともある恐ろしい病気です。
親や小学生以上の子どもがかかったときの症状は軽症が多く、多くは熱もなく、乾いたせきが出るくらいです。流行しているときには普通の風邪と思っていたら百日せきだったということもあります。
それが新生児・乳児早期でかかると重症化しやすいので、油断はできません。
ワクチン未接種の赤ちゃんがいる家庭は一層の注意を
0歳と1歳でワクチン接種が済んでいれば発症しませんが、百日せきのワクチンは生後2カ月からしか接種できません。このためワクチン未接種の赤ちゃんのいる家庭では、一層の注意が必要です。ワクチンの済んでいる子どもたちも、就学前には免疫が下がっていて、追加の接種をしていないとかかったときに弟や妹にうつすことがあります。
ママ・パパも軽い風邪だと思っていたら百日せきということもあります。
また、従来の薬が効く菌もまだ多いのですが、昨年までには見つからなかった耐性菌が増えています。治療に使う薬の選び方にも工夫が必要となっています。
諸外国では、妊婦へのワクチン接種が制度化されている国も
諸外国では、出産直後の赤ちゃんを守るために、就学前と10歳過ぎの追加接種が定期接種になっている国も多いということを先にも述べましたが、さらに、アメリカ、イギリス、スペインでは、赤ちゃんが免疫をもって生まれてこられるようにと、妊婦への成人用三種混合ワクチン(Tdap)の接種が制度化されています。アメリカではこのワクチンを妊娠27~36週で接種することがすすめられています。近年の調査では、毎年約半数の妊婦がワクチン接種を受けていると報告されています。イギリス、スペインでも接種率が高くなっており、日本とのギャップを感じます。
日本では成人用三種混合ワクチンは承認されておらず、妊婦は三種混合ワクチン(DPT)を任意接種することはできます。
わが国でも、0カ月~2カ月の重症化しやすい赤ちゃんの百日せき罹患の心配をなくすために、もっと踏み込んだ制度の導入も検討してもらいたいものです。
文・監修/太田文夫先生 構成/たまひよONLINE編集部
百日せき患者が急増中。多くは家族内感染です。「せきが出ている家族は軽症でも医療機関を受診して適切な治療を受け、赤ちゃんにうつさないようにしましょう」と太田先生は話します。大切な赤ちゃんの命を守るために、適切な情報を得て、適切な行動をとりましょう。
●記事の内容は2025年4月の情報であり、現在と異なる場合があります。