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生まれてすぐにおしりの穴がない鎖肛とわかり、「ダウン症」の可能性が。「見守って幸せにする」と決意【体験談】  

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生後23日、NICUに入院中の紗楽ちゃん。

愛知県に住む山口郁江さん(38歳)は、夫の周平さん(40歳)、泰楽(たいら)くん(8歳)、紗楽(さら)ちゃん(5歳)と義母との5人家族。2人目の紗楽ちゃんは生まれてすぐにおしりに肛門がない鎖肛(さこう)があったことなどから、「ダウン症候群(以下、ダウン症)」が疑われます。紗楽ちゃんが生まれた当時のことについて、母親の郁江さんに話を聞きました。全3回のインタビューの1回目です。

おしりの穴が開いていない状態で生まれた

2人目の妊娠がわかったのは、郁江さんが33歳のときのこと。クリニックでの2回目の妊婦健診で妊娠糖尿病とわかり、その後の健診は大学病院にかかることになりました。郁江さんは妊娠5カ月のころから毎日1日3回のインスリン注射と、6回の血糖値計測をしつつ食事管理をする生活になりましたが、おなかの赤ちゃんは順調に育ちました。そして、2018年7月初旬、妊娠39週2日の夕方に陣痛が来て、郁江さんは大学病院に入院。お産は順調に進み、日付が変わったころに体重3205g、身長53cmの女の子が生まれました。

「妊娠中から性別がはっきりしなかったので、生まれてすぐに『どっちですか?』と聞いたら『女の子ですよ』と言われました。でも、なぜか周囲がザワザワし始めて・・・生まれた赤ちゃんをタオルでふきながら、看護師さんが『小児科の先生を呼んで!』と指示を出していました。赤ちゃんが生まれるとすぐおしりの穴に体温計をさして体温を測るらしいんですが、娘にはおしりの穴がないようだ、と。すぐに小児科の先生が来て、娘のおしりの状態を診て、分娩台にいる私に『お子さんは鎖肛があるのですぐに外科の先生に診てもらいます』と言いました。

出産に立ち会っていた夫が、分娩台の枕元ですぐにスマートフォンで『鎖肛』と検索しました。すると『直腸肛門奇形』という肛門の形成異常がある病気ということや、『ダウン症の合併症に多い』といった結果がヒットしました。まもなく分娩台で娘を抱っこして、夫と私と3人で写真を撮ったときに娘の顔を見ると、たしかに顔にダウン症の特徴があるかもしれない、と感じました」(郁江さん)

障害をもつ子を産んでしまった、と申し訳ない気持ちに

紗楽ちゃん生後1カ月のころ。よく寝てあまり泣かない赤ちゃんでした。

先生も看護師さんもそのときはダウン症については何も触れず、赤ちゃんはすぐに外科の先生に診てもらうために保育器に入れられ、運ばれていきました。外科の先生からストーマ(人工肛門)を作る手術が必要だと説明をうけ、赤ちゃんは生後まもなく手術を受けることになりました。手術を待つ間、病室に戻った郁江さんと周平さんは、「ダウン症」について検索をし続けたそうです。

「娘がストーマという人工肛門を作る手術が終わってから、先生に『鎖肛がある以外に、体がやわらかいことが気になります。染色体という体の設計図を調べる検査をする必要があると思いますが、検査を受けますか?』と聞かれ、染色体の検査をすることになりました。

妊娠糖尿病がありながらも、ここまでおなかで育って、生まれてくれたことにホッとはしたけれど、肛門がない状態で産んでしまってごめんね、と、娘に対しての申し訳なさでいっぱいでした。ダウン症についてネット検索すると、鎖肛であること、顔の感じ以外にもいくつかの特徴が当てはまるようでした。きっと、娘はダウン症・・・。ダウン症はいちばんよく知られている障害のイメージがあり、娘だけでなく、夫や夫の親族にも申し訳ない気持ちでした」(郁江さん)

しかし、産後に病室で周平さんとダウン症について調べながら話し合うなかで、たとえ障害があったとしても生まれてくれた赤ちゃんを受け入れよう、と夫婦2人で決意したのだそうです。

「夫とは、生まれてきてくれた子を『育てられない』ということもできないし、悩んでも現状が変わるわけじゃないよね、と話し合いました。やり直せないことを悔やむより、この子のために何ができるかを探して考えていったほうがいいよねって。

夫は『自分たちが娘を受け入れて、見守って、ちゃんと幸せにしてあげよう』と言ってくれました。まだ染色体検査の診断が出る前でしたが、出産の翌日には、私と夫は娘がダウン症であっても家族で一緒に育てていくことに変わりはない、と考えていました。ただやっぱり、私には娘に対してしばらくは『ごめんね』という気持ちがあり、産後入院中に病室で1人涙したこともありました」(郁江さん)

ダウン症の合併症がいくつも

紗楽ちゃん生後11カ月のとき。3回目の手術のために入院しました。

紗楽ちゃんに生まれてすぐに行われた手術は、「消化管ストーマ」といって、腸の一部をおなかの皮膚から出した状態にするものです。手術のあと、先生からは鎖肛の手術についての説明がありました。

「娘は肛門が閉じているだけでなく大腸も標準より短い状態でした。肛門からうんちを排出できないので、おなかのストーマにパウチをつけてガスやうんちを排出し、パウチを毎日交換します。
肛門がないからストーマを作ったら大丈夫なのかと思っていたら、そうではなく、さらに1歳になるころまでに数回の手術が必要とのことでした」(郁江さん)

鎖肛のことやダウン症のある子の成長のこと、郁江さんは自分と同じような境遇の人と実際に会って話をしたい、不安な気持ちを共感したい、という思いがありました。

「先生や看護師さんに相談しましたが、個人情報だからとダウン症のある子の家族は紹介してもらえませんでした。そこで、娘が入院しているNICUで探してみました。NICUの出口で『うちの子はおそらくダウン症なんですが、お子さんはどんな症状で入院しているんですか?』と面会に来ているお母さんたちに聞いてみたんです。でも、ダウン症ある子の家族は見つかりませんでした」(郁江さん)

友人の言葉に救われ、夫とともに覚悟を決めた

1歳3カ月の紗楽ちゃんと郁江さん。4回目の手術によりストーマを閉鎖したあとの紗楽ちゃん。

郁江さんと周平さんはダウン症のある子を育てる覚悟ができたものの、周囲の人にどう伝えるかをとても悩んだそうです。

「妊娠も知っていて、陣痛が始まったことも報告していた私の学生時代や地元の友人たちが、グループLINEで『赤ちゃん生まれた?』と楽しみにしてくれていたんです。赤ちゃんがダウン症だった、と伝えたら、相手に気をつかわせてしまうかもしれないと、どう伝えようか悩みました。

友人たちにはグループLINEで『生まれたけど、ちょっとショッキングなことにダウン症かもしれない』と連絡しました。そしたら双子を子育て中の友人が『全然ショックじゃないよ!おめでとう!』って書き込んでくれたんです。

その言葉に、『たしかに全然ショックなことじゃないな』って気づきました。彼女は、自分の双子がNICUに入院した経験から『NICUに入るなら自動搾乳機が絶対に便利だから』と、翌日には持って面会にきてくれました。面会中に彼女に娘の状況などの話をしたら『何かあったらすぐ来るから言ってね』って。その時間と言葉にすごく救われたなと思います」(郁江さん)

郁江さんは産後3日で退院。その後、紗楽ちゃんが入院しているNICUに搾乳した母乳を持って、自宅から車で15分ほどの距離の病院へ毎日面会に通いました。そして、紗楽ちゃんが生後1カ月のころ、染色体検査の結果が出ました。

「必ず夫婦で説明を聞いてほしいと言われ、病院へ検査結果を聞きにいきました。娘が生まれてから診断結果を聞くまでの間に、私たち夫婦はすでにダウン症のある娘を育てる覚悟を決めていたので、先生が検査結果用紙を示して『21トリソミー 標準型です』という結果を伝えてくれても『わかりました』という感じでした。
先生は、今後は病院のフォローアップ外来でずっと娘の成長をフォローしていく、と説明をしてくれ、気になることがあったらなんでも聞いてください、と言ってくれました。

娘が生まれた直後から、夫と2人でダウン症についてかなりのことを調べつくしたなかで気づいたのは、ほかのお子さんの成長の様子が娘に当てはまるかどうかは成長してみないとわからない、ということです。夫も私も、『なるようにしかならないよね』という意見でした。
夫も私も考え方がポジティブなところが似ています。子どもの障害や育て方について、同じ方向を向いていたことは、とてもよかったと思います」(郁江さん)

【川井先生から】染色体異常を持つ赤ちゃんの家族サポートの大切さ

周産期医療が進歩するにつれて染色体が原因になるようなダウン症候群などの児が以前に比べて早期に診断されるようになってきました。ただ、診断を受けた家族へのサポート面はまだまだ不十分です。出生後に診断され、家族が漠然とした不安を抱えながら育児をスタートすることも多いと感じています。赤ちゃんは十人十色です。そしてみんなとってもかわいい!赤ちゃんが生まれるって、とってもすてきなことだと思います。かわいい赤ちゃんと家族が前を向いてhappyに過ごせるように、家族の不安に寄り添って、社会全体でサポートを充実させていく必要があると思います。

お話・写真提供/山口郁江さん 監修/川井有里先生 取材・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部

結婚する前から、女の子が生まれたら「さら」と名づけたいというのが周平さんの強い希望だったそうです。山口家はいとこたちも全員男の子の家系だったため、紗楽ちゃんは待望の女の子でした。周平さんの親族に紗楽ちゃんのことを伝えると「みんなで見守って育てていこう」と言ってくれたそうです。

●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2023年7月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

川井有里先生(かわいゆり)

PROFILE
新生児科医。島根大学医学部卒業。藤田医科大学医学部小児科学新生児グループ所属。小児科専門医、周産期専門医。赤ちゃんたちが楽しく過ごせるように毎日病棟スタッフとともに試行錯誤しています。家庭では3人の子育てに奮闘。

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