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ADHDと聞き取り困難症と診断された長男。苦労していた学校生活が聞き取り補聴装置「ロジャー」で一変。毎日笑顔で帰ってくるのが何よりうれしい【体験談・医師監修】

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聞き取り困難症とわかってから、晴翔くんが小学校の授業中に使っている、聞き取り補聴装置「ロジャー」の受信機

中森由美さん(43歳・仮名)の長男、晴翔(はると)くん(10歳・仮名)は、9歳のとき大阪公立医学部附属病院耳鼻いんこう科の阪本浩一先生を受診し、ADHDと「聞き取り困難症(LiD/APD)」と診断されました。それからは聞き取りが困難な状態を改善するために、補聴器具をつけて小学校生活を送るっています。
聞き取り困難症とはどんな病気なのか、補聴器具をつけた生活とは?などについて、母親の由美さんに聞きました。2回のインタビューの2回目です。

聞き取れない生活が一転した息子。毎日笑顔で帰ってくるのが何よりうれしい

動物や虫にもとても優しい晴翔くん。「なぜが虫にとまられることが多い」と由美さん。このときもカマキリが驚かないように、じっとしていたそうです。

言葉の聞き取りに困難があることがわかった晴翔くんは、デジタル補聴システムの「Rogerロジャー」を授業中に使うことになりました。

「聞き取り困難症(LiD/APD)は、ざわざわと雑音が多い中だと、とくに言葉が聞き取りにくくなることが多いというのが、阪本先生から説明されたことです。
晴翔はADHDとも診断されていて、注意がそれやすい傾向もあります。なので、雑音が多い場所だとなおさら先生の言葉を理解できなくなるようでした。そんな状態を改善するために、『ロジャー』の使用を阪本先生にすすめられました」(由美さん)

「ロジャー」は、話す人が使う「送信機(ワイヤレスマイクロホン)」と、聞く人が耳につけて使う「受信機」で構成されています。ワイヤレスマイクロホンが拾った音声をデジタル処理して聞く人に届けるので、雑音が多い場所などでもクリアに聞こえます。送信機と受信機はボタン一つでつながるため、小学生でも簡単に操作できます。

「授業中、先生にワイヤレスマイクロホンをつけてもらい、晴翔は耳につけた受信機で先生の声をキャッチします。晴翔の耳に届く際には、不要な音はカットしてくれているから、周囲の雑音にかき消されることなく、先生の声を聞くことができるんです。

ロジャーをつけてみた晴翔の感想は、『今まで5しか聞こえてなかったのが今は100聞こえる!!』というものでした。すごいですよね、今までが普通だと思っていた晴翔にとっては、びっくりする発見だったと思います。
先生からも『授業中に晴翔くんとよく目が合うようになりました』と言われました。先生の言葉から、授業に集中できるようになったんだなと感じられ、とっても安心しました」(由美さん)

晴翔くんが聞き取り困難症だとわかったとき、由美さんは晴翔くんに『今まで聞こえにくかったの?』と聞いてみたそうです。

「晴翔は『そんなことないよ、ちゃんと聞こえてるよ』って言ったんです。生まれたときからずっと聞き取れていないから、それが当たり前で、みんなに聞こえているものと、自分に聞こえているものが違うなんて思ってもいなかったんでしょう。それが『ロジャー』をつけたら全然違うことがわかり、晴翔には新しい世界が開けたんだと思います」(由美さん)

由美さんは、晴翔くんの発達の検査をしたとき、心理士さんから言われた言葉もすごく印象的だったと言います。

「晴翔は発達検査をしてもらった9歳のとき、心理士さんから『聴覚優位な子』だと言われていました。耳から情報をインプットするのが得意ということなんだそうです。小さいころから本の読み聞かせが好きだったのは、目で文字を見るより理解しやすかったからなのかなと思いました。
聴覚と脳の情報処理の詳しいことは私にはわかりませんが、晴翔にとって耳から入ってくる情報は、学校で勉強するときも、日々の生活の中でもすごく大切なのに、耳から入ってくる情報が正しく聞き取れない状況であったことは、かなりのマイナスだったんじゃないかと想像しています。
もちろん、そのままだったら、これからの生活の質にも大きく影響してしまったでしょう。

晴翔の状況は私には体験できませんが、ロジャーをつけたことで、今まで聞き取れなかった言葉がはっきりわかるようになり、情報の処理がしやすくなったんだろうな~と想像しています。学校から『楽しかった~!!』と笑顔で帰ってくる晴翔を見るたびに、ロジャーと出合えて本当によかったと思っているんです」(由美さん)

晴翔くんがロジャーを使うようになって、お友だちとの関係にも変化が見られたと言います。

「ロジャーを使ってみるにあたり、まず小学校に相談に行きました。先生方はみなさんとても協力的で、担任の先生から理科の先生に授業が変わるときなどに、先生が使うロジャーのワイヤレスマイクロホンを先生から先生へ渡す、専用のカゴも作ってくれました。おかげで、学校での使用がスムーズに進んでいます。

ロジャーはとても高価な機器で、発信機(ワイヤレスマイクロホン)が約15万円、晴翔が耳にかけて使う受信機は左右各約7万円で合計約29万円もします。
子どもがロジャーを使う場合、小学校生活の中で破損することが多いということを聞きました。ロジャーの説明に学校に伺ったときにも、先生方から『高価なものを預かることになるので、クラスのお友だちともルールを作っておいたほうがいいと思う』と提案がありました。

私と晴翔は、晴翔の抱えている聞き取り困難のことをお友だちに知ってもらいたい、ただそれだけを願って、使い始める前にクラスで説明することにしました。
私は担任の先生から説明してもらうつもりでいたのですが、晴翔は『自分で説明したい』って言いました。担任の先生も晴翔の気持ちを尊重してくれ、晴翔が自分の言葉で説明することになりました」(由美さん)

由美さんと晴翔くんは、クラスメートに知ってほしいことを話し合い、原稿を作って練習し、発表の日に備えます。

「私は発表の場にいなかったのですが、帰宅した晴翔から聞いたところ、聞き取り困難症という病気だから、聞き取りを助けてくれるロジャーという装置をつけて授業を受けることになったこと、ざわざわした場所だととくに聞き取れないから、話しかける前に肩をたたくなどしてほしいこと、話しかけたときに答えないのは無視しているのではなく聞こえていないんだということなど、原稿にまとめたことをみんなの前でしっかり発表できたそうです。
さらに、隣のクラスの子たちにも知っておいてほしいと晴翔自身が希望し、隣のクラスでも話してきたと言いました。

その後、担任の先生から『クラスの雰囲気が変わりました』と教えてもらいました。先生や生徒が発言しているときに教室内がざわついていると、『晴翔が聞こえないから静かにしよう』と、だれかが言ってくれたり、晴翔に話しかけるときは正面に回ったりしてくれるようになったそうです。みんなに理解してもらえたのがうれしくて、先生の話を聞きながら泣きそうになりました」(由美さん)

また晴翔くんは、2023年4月に学校内に新設された『通級指導教室(通級)』に、4年生の2学期から1日1時間通うことになりました。

「聞こえの問題に加え、気が散りやすいというADHDの特性もあるので、通常のクラスでは前のほうの席にしてもらっています。そしてさらに、通級の静かな環境で勉強する時間を持つことで、落ち着いて学ぶ習慣がついてきているようです」(由美さん)

家庭では正面から顔を見て名前を呼び、気持ちを集中させてから話し始める

「晴翔は一度に複数のことを聞き取って覚えるのが苦手なので、メモパッドに書き、目を見ながらゆっくり伝えるようにしています」と由美さん。

晴翔くんがロジャーを使うのは学校の授業中だけで、家庭では使っていないそうです。

「家庭内でも使ったほうがコミュニケーションはしやすくなるでしょうが、私が送信機をつけた場合、下の子に話しかけた言葉など、晴翔に向けた言葉以外もすべて大きな声で届くので、晴翔が疲れてしまうと思うんです。
しかも、ロジャーは毎日充電が必要で、水分に弱く乾燥させるなどのケアも必要。だから、家庭では使っていません」(由美さん)

由美さんは、家庭内では話しかけ方に注意していると言います。

「後ろから話しかけると聞き取れないことが多いので、晴翔に話しかけるときは正面から顔を見て名前を呼び、こちらに注意を向けさせてから話し始めることを意識しています。また、早口で話すと、途中から何を話されているのか理解できなくなるようなので、できるだけゆっくりと短い言葉で話すように気をつけています」(由美さん)

小学校の持ち物の準備などで、工夫していることもあるそうです。

「晴翔はADHDの特性で忘れっぽいところもあるため、一度にたくさんのことを言うと、聞き取れないうえに忘れてしまうんです。忘れ物が多いのはそのせいだったんだと、診断がついたことで理解しました。

今は、明日学校に持っていくものを準備するときなどは、100円ショップで購入した電子メモパッドを活用。「ぼうし、くつ下、給食袋、水とう」など用意するものを私が書いて見せ、準備ができたものは晴翔が線で消すという流れを作りました。目で確認できるようにしたことで、忘れ物がずいぶん減りました」(由美さん)

「晴翔の生活を変えてくれたロジャーにとても感謝している」と話す由美さんですが、国や自治体の支援がまったくなく、すべて自費なため、経済的な負担を感じているそうです。

「自治体によっては助成が受けられるところもあるようなのですが、私たち家族が住む自治体にはありません。ロジャーは高価な装置な上、破損などで買い替えが必要なケースもよくあるようです。大事に使ったとしても耐用年数があり、一生使えるわけではありません。

聞き取り困難症は今のところ治療法がなく、治らないと言われています。だから晴翔にはこの先ずっとロジャーが必要なんです。聞き取りに支障があって困っている人が、経済的な理由でロジャーを使うことをあきらめることにならないよう、どこに住んでいても同じ支援が受けられるようにしてほしいなと感じています。そして、晴翔が大人になるまでに、そうなっていることを願っています」(由美さん)

二男の優翔(ゆうと)くん(7歳・仮名)も、2023年末に聞き取り困難症であることがわかり、ロジャーの購入を検討しているところです。

【阪本浩一先生から】ロジャーの使用で生活の質が大きく改善することがあります

弟の優翔くんの受診をきっかけに、おにいさんの晴翔くんの聞き取りの相談を受けました。検査の結果、晴翔くんは聞き取り困難症があることがわかりました。検査結果から、晴翔くんの聞き取りの問題が、どの音を聞いたらいいのかわからない状態と考えて、先生の声を直接耳に伝えることができる、補聴援助システム(ロジャー)を試してもらったところ、「使ってみたい」となり、導入に至りました。子どもの場合、自分で使ってみたいと思わないと、無理やり使わせることはできません。しかし、優翔くんのように、使用によって学校生活の質が大きく改善することがあります。聞き取り困難症と発達障害は重なり合っている部分も多いですが、同一ではありません。聞き取りの困難がある場合には、ロジャーなどの支援が有効なことがあるので、少しでも気になる点があれば、検査を受けてみるのもよいかと思います。

お話・写真提供/中森由美さん 監修/阪本浩一先生 取材・文/東裕美、たまひよONLINE編集部

聞き取り困難症であることを周囲の子どもたちに理解してもらったことで、子ども同士の関係性がよくなり、「晴翔はいつの間にかクラスの中心で活動するようになっていた」と由美さんは言います。苦戦している原因をつきとめ、適切な対応を行ったことが、晴翔くんの笑顔につながったようです。

●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2024年3月の情報であり、現在と異なる場合があります。

阪本浩一先生(さかもとひろかず)

PROFILE
耳鼻咽喉科医。大阪公立大学大学院聴覚言語情報機能病態学特任教授、医誠会国際総合病院診療副院長。1989年愛知医科大学医学部卒業。大阪市立大学耳鼻咽喉科、神戸大学医学部耳鼻咽喉科を経て、2002年より兵庫県立加古川病院耳鼻咽喉科医長、兵庫県立こども病院耳鼻咽喉科医長(兼務)、2009年兵庫県立加古川医療センター耳鼻咽喉科部長/兵庫県立こども病院耳鼻咽喉科部長(兼務)、2016年大阪公立大学大学院耳鼻咽喉病態学准教授。2024年4月より現職。

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