脳性まひの小学生の長男。好奇心を刺激して力を伸ばすために、エンジニアの父親は発明を続ける【体験談】
廣瀬元紀さん(41歳)・聖子さん(40歳)には、2人の子どもがいて、第2子の朋克くん(10歳)は、妊娠7カ月の早産で生まれました。脳性まひで、車いすで小学校に通っています。
エンジニアである元紀さんは、朋克くんの成長を促すようなさまざまな支援機器を作り、朋克くんをサポートしています。元紀さんに、支援機器を作る思いなどを聞きました。
全3回インタビューの3回目です。
親の気づきから生まれる支援機器。息子との暮らしが、もの作りへの考え方を変えた
朋克くんは、865gの超低出生体重児で生まれました。脳に障害があり、聞こえているのか、見えているのかわからない時期もあったと言います。
「3歳ごろまでは、呼びかけたりしても反応が薄いんです。しっかり座ることができないので、姿勢が崩れて常にダラ~っとしている感じでした。
でも療育園でお名前呼びのとき『ともくん』と呼ばれたら返事をしたのを見て『あっ! 聞こえている』『言葉を理解している』と、わかりました。しかし反応が薄いので、朋克の感情を刺激して、意思表示してほしいと思いました。笑顔も見たいと思いました」(元紀さん)
元紀さんは、大手企業のエンジニアです。
「以前は、家電の商品開発を行っていたのですが、朋克が生まれて自宅で支援機器を作るようになり、もの作りへの考え方が変わりました。朋克が保育園のころに異動を希望して、今は移動ロボットや移動モビリティなどの開発を行っています」(元紀さん)
元紀さんが、朋克くんのために作る支援機器は、親としての気づきから生まれるものが多いです。
「朋克と生活をしていて、市販のものでは、ダイレクトな困りごとを解決するのは難しいと思いました。障害がある子どもの症状はそれぞれで、その子に合った、その子のための物が必要だと思ったんです。
そのため自宅で3Dプリンターを使って、朋克の困りごとを解決する機器を作るようになりました」(元紀さん)
そして朋克くんは、元紀さんが作る支援機器で感情を刺激されていきます。
「最初に手ごたえを感じたのが、歩くと効果音が鳴るメロディ靴です。歩行のリハビリがうまくいかずに、どうにか自分の意思で歩いてほしい!と思って考えた靴です。
歩くと朋克が興味を示すゲームの効果音などが流れるようにしたら、自分の意思で、歩行器につかまって1歩ずつ足を前に出すようになったんです。このときは感動したと同時に、好奇心を刺激することの大切さを再認識しました」(元紀さん)
お友だちとの交流を実現した『あいさつじゃんけんロボハンド とものて』
元紀さんが作ったもので、朋克くんの生活に欠かせないのが『あいさつじゃんけんロボハンド とものて』です。
「朋克が生まれて、さまざまな障害をもつ人たちとの交流が増えました。そのなかで、難病のSMA(骨髄性筋萎縮症)の子の『じゃんけんをしたい』という夢をかなえるために『とものて』の初期バージョンを作りました。
そのころは話せない朋克が、小学校で友だちとどうしたら交流できるか? と悩んでいた時期でした。『これを応用したら、友だちと交流ができるかも』と思ったんです。朋克は、いくつかのスイッチを使い分けて押すことができます。そのためスイッチ操作で『おはようございます』『バイバイ』『ありがとう』『いってきます』などのあいさつ音声が流れ、付属の手をバイバイと振れるなど、アクションができるようにしました。またYES・NOの意思表示をするためにボタンを押すと『ピンポーン』『ブー』という音が出るようにもしました。じゃんけんもできます。
朋克は毎日、『とものて』をセットした車いすで登校しています。先生や友だちに会うと自分でボタンを押して『おはようございます』『バイバイ』とコミュニケーションをとっています。
『とものて』を使うようになってから、友だち関係がぐんと広がりました。子どもたちも車いすに乗っていて、話せない子と、どのようにコミュニケーションをとっていいのかわからないと思うんです。
でも『とものて』があると、友だちのほうから『じゃんけんしよう』と声をかけてくれたり、『ともくんって〇〇?』と聞くと『ピンポーン』『ブー』と答えるので、コミュニケーションがとりやすいのだと思います」(元紀さん)
自分の意思で動ける喜び!『子供用成長支援モビリティ ToMobility』
元紀さんが作ったもので、朋克くんの成長を実感したのが『子供用成長支援モビリティ ToMobility』です。
「歩けない朋克に、自分の意思で自由に動ける体験をしてもらいたいという思いで作りました。完成まで3年間、試行錯誤しました。
朋克は知的障害があり、車いすの操作を自分でできません。私たち夫婦が車いすを押して、朋克はいつも受け身の状態で乗っているだけでした。そのため、車いすに朋克が操作しやすいコントローラーをつけました。曲がって走行したり、危ないときは介助者が操作できる無線のコントローラーもついています。
『子供用成長支援モビリティ To Mobility』によって、朋克は自分の意思で自宅の外でも簡単な電動移動操作ができるようになりました。
小学校に行くときも、自分で車いすを操作して登校しています。小学校の門から玄関にたどりつくには、スロープがあって、朋克はスロープを上がるとき体が斜めに傾くことが苦手です。それが嫌で泣くこともあるのですが、それでもコントローラーを離さずに操作し続けて、自分の意思で小学校の玄関に到着したときは、感慨深かったです。成長を実感しました」(元紀さん)
『子供用成長支援モビリティ To Mobility』は、日本最大級の開発コンテスト『ヒーローズ・リーグ2021』(主催・一般社団法人MA)で、プレゼン部門優勝、社会をよりよくする作品に贈られるCIVICTECH賞などを受賞しています。
障害のある子の好奇心を引き出して「できる」を広げたい
元紀さんはもの作りを通して、さまざまな活動をしています。たとえば妻の聖子さんが代表を務める『OGIMOテック開発室』では、これまで開発してきたものをベースに障害がある人の状態と困りごとに合わせてカスタマイズした支援機器を提供したりもしています。
「カスタマイズが必要なのは、その人の困りごとをダイレクトに解決するためです。スイッチ一つでも、操作しやすいものは人それぞれです。朋克が使いやすいスイッチだからといって、ほかの子も使いやすいとは限りません。
一般的に子どもは『好奇心が成長を後押しする! 夢中になれるものを見つけることが大切』とよく言われますが、それは障害がある子どもも同じなんです。
障害の有無にかかわらず、子どもにとって好奇心は成長の起爆剤だと思います。
僕たちが作った支援機器が、1人でも多くの障害がある子どもの好奇心を引き出して、「できた」という体験を作るきっかけになればいいと考えています」(元紀さん)
お話・写真提供/廣瀬元紀さん 取材・文/麻生珠恵 たまひよONLINE編集部
元紀さんは、朋克くんの支援機器だけではなく、家族のリクエストに応えたアイテムなども作っていて、その数は150以上にも。元紀さんが開発したものは、ブログや福祉展などでも見ることができます。
「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指してさまざまな課題を取材し、発信していきます。
●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2024年6月の情報であり、現在と異なる場合があります。