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里親として子どもを養育する夫婦。「“本当のお父さん、お母さんにいつか会いたいです”。七夕のその願いを目にしたとき、この子の親代わりを務める覚悟を決めた」【里親体験談】

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何らかの事情があって親と離れて暮らす子どもたちを里親として養育している野口啓示さん、婦美子さん夫妻。里子を育てる小規模住居型児童養育事業(ファミリーホーム)「野口ホーム」を運営しており、現在は大学生、中学生、小学生の4名の子どもたちと共に暮らしています。もともと児童養護施設の分園としてスタートし、今の形に至った野口ホーム。インタビューの前編ではお2人に野口ホームを開設までの道のりやこれまでうれしかったこと、苦労したことについてお話を聞きましたが、こちらの後編では、過去の印象的なエピソード、これからの展望をお話してもらいました。

▼<関連記事>前編を読む

偶然目にした七夕の願い。子どもが自分の想像もつかない思いを抱えていることを痛感

「施設時代からの流れで季節のイベントごとを欠かさないわが家。そうして大きくなった子どもたちも何かある度に祝ってくれるように。この日は父の日に大好きなお酒をプレゼントしてくれました」(啓示さん)

――前編では野口ホームを開設してうれしかったエピソードや苦労したエピソードを聞きましたが、ほかにも印象的なお子さんのエピソードがあれば教えてください。

婦美子さん(以下敬称略) 今もよくうちに帰って来て、手伝ってくれるAちゃんという子がいるんです。小学生のときに学校でほかの児童とトラブルになったと、ある保護者の方から聞く機会があったんです。これまでもAちゃんの友人関係を心配していた私は、「ついに来たか…」と思い、そのあと懇談会に行ったときに先生にそのトラブルについて相談すると、先生は「そんなことないですよ。彼女はトラブルの輪に入っていないです」と否定され、少しホッとしました。そのとき、先生が「これ見てあげてください」と七夕の短冊を見せてくれました。「これいちばん最後に彼女が持ってきたんですよ」と。

そこには「いつか本当のお父さんとお母さんに会いたいです」と書かれていたんです。私はそれを見たときにすごく心が揺さぶられてね。私たちにはわからない大きな痛みをこの子はずっと抱えながら生きているんだと痛感しました。そして自分のことが本当に恥ずかしくなりました。なぜこんなにしんどさを持っている子が一生懸命やっているのに、自分は彼女を疑うようなことをしたんだと。それからしっかりこの子のことを見てあげよう、しっかり応援させてもらおう、親代わりになろうと心を決めたんです。

だから彼女の小学校の卒業式のときにも、いろいろな感情が込み上げてきてね。こんな私たちを親にさせてくれてありがとうと心底そう思いました。

――本当の家族のようですね。

婦美子 はい。実はAちゃん、このあともうちに泊まりに帰ってくる予定なんです。普段は私たちのことを児童養護施設時代の名残から「姉さん、兄さん」と呼んでいるんですけど、私の還暦のお祝いでは「オカン専用」というマグカップをプレゼントしてくれました。「姉さん、兄さんを支えてあげないと!」って気持ちが人一倍強い子で。ありがたいですね。

子どもが幼少のころに「この子に助けられるかも」と直感。今、それが本当に…!

取材の場で写真を見せながら「娘夫婦と撮った写真です」とうれしそうに説明してくれた啓示さん。生まれてきたお孫さんからはじいじ・ばあばと呼ばれているんだそう。

婦美子 あと印象的と言えば、野口ホームを開設したときから共に生活をしてきたBちゃん。今は野口ホームやNPOを手伝ってくれたり、家族ぐるみのおつき合いをしたりしていて、私の還暦祝いにすてきなメッセージをくれた子(前編参照)です。

私たちが勤めていた児童養護施設はもともと男の子だけの施設だったんですが、あるとき、施設として女の子も受け入れていくことになりました。Bちゃんは、その最初の時期に入ってきた女の子だったんです。

施設としては初めておひなさまを飾って、初めて女の子用の幼稚園の制服を用意して、とてもわくわくしてうれしかったことを覚えています。当時、施設で初めて地域の中に分園をつくったのですが、その分園を私が担当し、Bちゃんともう1人の女の子が末っ子として一緒に生活をしました。覚えているのが、当時はまだ彼女が幼稚園ぐらいの年で。それまで甘えん坊な手のかかる男の子ばっかり見てきたからか、この年でもBちゃんはしっかりした女の子だったので感心しました。そのときにふと「私、将来、この子に助けてもらうことになるんじゃないか」と感じたんです。20数年後の今、そのときの予感がまさに当たって、本当に支えてもらっています。

啓示 Bちゃんたちは僕が児童養護施設に入職して妻と知り合うよりもずっと前に妻と出会っていて、妻が面倒を見てきたんです。だから、野口ホームを児童養護施設の分園として開いたときも、彼女たちは妻の連れ子のような印象でした(笑)。

婦美子 あのときはこの人がヤキモチ妬いてねぇ…(笑)。

啓示 「俺の家やー!俺の奥さんを返せ!」ってね。冗談ですけど(笑)。

これからも里親に寄り添う支援をしていきたい

「大学の研究室の本棚には子どもたちが書いてくれた色紙や孫からの手紙、過去にみんなで撮影した家族写真を飾っています」(啓示さん)

――今後、お2人がしていきたいことはありますか?

婦美子 これまでの自分の経験を活かして里親や里子の支援に力を入れたいと思っています。今、国も里親制度が広がるように政策を進めているので、私たちも1つの助けになれればと。自分たちも児童養護施設の職員を経験して、里親登録をしましたが、里親になってから里親の支援の少なさを感じました。経済的に支援したい、応援したいという方のご寄付のおかげで今までやってこれた歴史があるので、これから里親になる人に対してできることをサポートしていきたい思いがあります。とくにピアサポート(仲間同士で支え合う)の場は自分たちの里親経験を生かせる機会ですし、里親同士の交流が積極的に持てるよう、活動していきたいですね。

啓示 僕は普段大学の教員で里親研究を長年しているんですが、今はある研究を進めています。具体的にいうと小児期における逆境的体験を数値化する世界的尺度のスコアがあるんですが、そのスコアを全国のファミリーホーム(※里子を育てるために里親が運営する小さな施設)協議会と一緒に全国調査して、ファミリーホームにどれくらいの数値の子がいるか調査したり、養育者側のストレス度と相関があるかなどを調べたりしているんです。それを進めていきたいというのが1つ。

あと先ほど話をした長女のBちゃんがうちのNPOを手伝ってくれる一方で、こども家庭庁の審議会の委員も務めたりしています。そういった彼女を始めとした当事者との活動をともに進めていくこともできればいいなと考えています。

お話・写真提供/野口啓示さん、婦美子さん 取材・文/江原めぐみ、たまひよONLINE編集部

今回のインタビューに写真を載せるため、たくさんの写真を送ってくれたお2人。印象的だったのがどの写真を見ても、子どもたちの笑顔が輝いていたこと。その表情から、野口ホームが落ち着いてリラックスできる場所であることが伝わり、家族としての深い絆がそこに確かに感じられました。

「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指してさまざまな課題を取材し、発信していきます。

野口啓示さん(のぐちけいじ)

PROFILE
1971年、大阪市生まれ。NPO法人「Giving Tree」理事長。福山市立大学教育学部児童教育学科教授。関西学院大学、同大学大学院で社会福祉学を学んだ後、ワシントン大学に2年留学。帰国後、児童養護施設に勤務。2003年に妻の野口婦美子さんと児童養護施設の分園として、「野口ホーム」開設。その後、児童養護施設の施設長も務める。2016年に退職し、現在のNPO法人を立ち上げ、そのタイミングで野口ホームがファミリーホームに移行。2017年から福山市立大学で教鞭をとり、2021年より現職。主な著書に『むずかしい子を育てるペアレントトレーニング』明石書店、『被虐待児の家族支援』福村出版、『社会的養護の現状と近未来』明石書店。

野口婦美子さん(のぐちふみこ)

PROFILE
1964年、兵庫県宍粟市生まれ。NPO法人「Giving Tree」事務局長。神戸常盤短期大学幼児教育科卒業。児童養護施設にて30年保育士として務める。退職後、里親としてファミリーホーム の運営を行う。主な著書に絵本『ほんとうにかぞくーこのいえに養子にきてよかった』明石書店(2005年)、絵本『ばいばい おねしょまん』明石書店(2008年)

NPO法人 GivingTreeのHP

●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●掲載している情報は2024年11月現在のものです。

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