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発症確率3万2000分の1の難病を抱えるわが子。チャレンジする心を忘れず、少しでも生きやすい未来を【歌舞伎症候群体験談】

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楽くんにも見られる、切れ長の目や弓状の眉、突出した大きな耳は歌舞伎症候群の特徴。

吉次聖志さんの8歳の長男・楽(がく)くんは、5歳6カ月のときに難病の歌舞伎症候群と診断されています。
歌舞伎症候群は、公益財団法人難病医学研究財団が運営する「難病情報センター」のサイトによると、特徴的な顔貌(がんぼう)をもつ先天性疾患で、発症率は3万2000分の1と推定されています。現代の医療では根治治療法がなく、対症療法が中心です。吉次聖志さんと妻の真理子さんに、楽くんの症状や現在の生活について聞きました。全2回インタビューの後編です。

▼<関連記事>前編を読む

知的な遅れもあり、小学校は特別支援学級へ

楽くんは活発で、野球やサッカーが大好き。

下まぶたが外にめくれているほか、切れ長の目、先端がつぶれた鼻、成長障害、骨格・筋肉の異常などの症状をもつ歌舞伎症候群。
歌舞伎症候群と診断されている楽くんは、特別支援学級に通う小学2年生です。

――楽くんの生活について教えてください。

真理子さん(以下敬称略) 楽は1歳半を過ぎても歩けなかったり、言葉も2語文から進まないなど、乳幼児期から発達の遅れがありました。体も小さく、知的な遅れもあります。
そのため小学校は、特別支援学級に通っています。同級生と比べると、今でも小柄です。
しかし明るく活発な性格で、サッカーやスイミングを習っています。特別支援学級では、先生方がていねいに勉強を教えてくださっています。計算やパズルが得意です。

――受診は、どうしているのでしょうか。

聖志さん(以下敬称略) 歌舞伎症候群は、切れ長で歌舞伎役者の隈取(くまどり)に似ている目元や突出した大きな耳、発達や知的な遅れなどが主な症状ですが、ほかにも口唇裂、口蓋裂や心疾患、成長障害、けいれんなどさまざまな症状があります。症状は、個人差が大きいです。

楽の主な症状は、特徴的な目元と低身長、運動発達と知的な遅れなどです。体には、白斑がいくつか広がっています。幼いときは語彙が増えずに悩んでいたのですが、今ではだいぶ会話もできるようになりました。
歌舞伎症候群は、根治治療法がありませんが経過観察のために年1回、大学病院を受診しています。楽は、今のところ症状に大きな変化はありません。しかし、思春期以降は肥満や不安障害の発症などもあるようなので、できる限り予防に努めたいと思っています。

3歳で療育をすすめられ、現在も2カ所の療育に通う

小1のとき仮装してハロウィンパーティーに参加。

楽くんは2カ所療育に通い、筋力をつけたり、言葉の発達を促すサポートを受けています。

――療育に通うようになったときのことについて教えてください。

聖志 楽が歌舞伎症候群と診断されたのは5歳6カ月ですが、その前から発達の遅れは気になっていました。乳幼児健診でもずっと相談していました。運動発達だけでなく、知的な遅れもあったので、3歳のとき発達支援センターで療育手帳を取得して、療育に通うようにすすめられました。療育手帳は、知的障害があると認められた方に交付される手帳です。息子に知的障害があるということを受容しなくてはいけません。私自身は「楽の障害を受容して、早く療育に通ったほうがいい」と思いました。

妻に「療育手帳を取得して、療育に通わせよう」と、率直に伝えました。妻から、どんな反応が返ってくるかなと少し心配していたのですが、妻は「そうだね」とすぐに受けいれたので、安堵(あんど)しました。
私は精神科医です。現在は、産業医として企業で働く人の健康管理を行いつつ臨床にも携わっています。
仕事柄、患者さんやその家族に療育手帳の説明をすることもあるのですが、療育手帳の取得を拒む人は少なくありません。皆さん複雑な思いを抱えているのです。

真理子 夫から療育手帳を取得したほうがいいと言われたときは、本当に「そうだね」という気持ちでした。明らかに発達が遅れているので、私も「何かサポートしてあげないと」という気持ちだったんです。

楽にとっては、英語のほうが覚えやすいかもと考えてカナダに半年滞在

2023年、家族で半年ほどカナダへ。

聖志さんは、楽くんが歌舞伎症候群と診断されてから、楽くんにチャレンジする機会をできるだけ与えたいと考えるようになりました。

――楽くんの子育てで、大切にしていることを教えてください。

聖志 楽には「大きな病気があるからできない」とあきらめるのではなく、チャレンジする人になってほしいと思っています。
そのチャレンジとして、昨年、半年ほどカナダに家族4人で滞在しました。その間、長女と楽は、現地の小学校に通わせました。日本人学校ではありません。
カナダ行きの一因に、日本語の複雑性がありました。楽にとって、日本語を覚えて使いこなすのは、あまりにも課題が多いと感じています。日本語はひらがな、カタカナ、漢字を覚えなくてはいけません。
しかし英語ならAからZだけです。楽にとっては、英語のほうが覚えやすいかもしれないと考えたんです。
英語の学習については、半年ではすぐに成果には結びつきませんでしたが、感受性豊かなときに海外の文化に触れ、子どもたちには刺激となったようです。私自身もカナダの大学・医療機関とコネクションをつくることができました。将来は、英語圏で暮らすのも一案かと考えています。

「神宮球場で叶える夢 応援キャンペーン」に当選。始球式にチャレンジ

神宮球場の始球式で大役を果たした楽くん。

楽くんは2024年7月、オープンハウスグループの社会共創活動「O-EN HOUSE PROJECT(応援ハウスプロジェクト)」として開催した「神宮球場で叶える夢 応援キャンペーン」に応募して当選。神宮球場の大観衆の中で、始球式でボールを投げるという夢をかなえました。

――「神宮球場で叶える夢 応援キャンペーン」について教えてください。

聖志 僕はもともと野球が大好きだったのですが、うちは家族全員、東京ヤクルトスワローズの大ファンなんです。楽は、村上宗隆選手が大好きです。東京ヤクルトスワローズの公式サイトで、このキャンペーンのことを知って、応募しました。
楽は歌舞伎症候群の症状で、もともとは筋力が弱かったんです。療育でサポートを受けて、筋力がついてきました。ボールはゴムボールなど軽いボールしか投げたことがありませんでした。また、聴覚過敏もあり、音が気になるときは普段からイヤーマフをつけています。
当選の連絡をいただいたときは、本当にうれしかったのですが、楽にできるかな!? という不安もありました。楽は「僕がボール投げるんだ!」と言って喜んでいましたが、楽にとっては大きなチャレンジでした。

本番に向けて、ヤクルトスワローズで活躍し、現在は東京ヤクルトスワローズ ベースボールアカデミーでヘッドコーチをなさっている、度会博文さんに直接指導をしていただきました。夢のような時間でした。その後は、家族と投球の練習を繰り返しました。

――本番は、どうでしたか。

聖志 本番は、硬式ボールに近い「ゆうボール」を使って始球式をしました。大好きな村上選手の背番号55が入ったユニフォームでマウンドに立ち、2万人以上の大観衆の中で、無事にボールが投げられました。興奮のせいか周囲の音も気にならなかったようです。
この貴重な経験が楽にとって、大きな自信につながったようです。

親もチャレンジして、前に進まないと!

楽くんの笑顔が、聖志さんと真理子さんに前に進む勇気を与えてくれる。

吉次さん夫妻は、楽くんのこれからのことを考えて、いろいろ模索していると言います。

――親として、取り組んでいることについて教えてください。

真理子 歌舞伎症候群は、症状の個人差が大きいので、患者さん同士で情報共有しづらい課題があります。
しかし情報が少ない中で、子育てをしていくのはとても不安です。
私の場合は、インスタを通じて歌舞伎症候群の子どもをもつママ・パパたちとつながり、情報交換をしています。また埼玉県立小児医療センターで年1回、歌舞伎症候群の子どもをもつ家族の集いがあることを知って、この間初めて参加しました。
アメリカには大きな支援団体があり、そことはつながっていて、最新の情報を得るようにしています。カナダとアメリカの機関が連携して、歌舞伎症候群の研究を進めているそうです。
根治治療法がないと言われている病気ですが、とにかく半歩でも前に進みたいんです。

聖志 普通に考えれば、楽よりも私たち夫婦のほうが先に旅立ちます。楽のために、私たち夫婦は何ができるのか? 何を残していけるのか? 今、模索中です。
先ほど、楽にチャレンジする機会を与えたいと話しましたが、私自身もチャレンジしていかなくてはいけません。私は医師だから、患者さんとその家族、医療従事者をつなぐネットワークは作りやすいと思うんです。
意志あるところに道はひらけると信じて、楽のために行動していこうと考えています。

お話・写真提供/吉次聖志さん、真理子さん 協力/オープンハウスグループ  取材・文/麻生珠恵、たまひよONLINE編集部

吉次さん夫妻は、「歌舞伎症候群は日本ではセミナーなどで、医師から最新の情報を得たり、患者さん同士で情報交換できる場が少ない」と話します。情報交換の場を含めた支援の動きが広まることが望まれます。

「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指してさまざまな課題を取材し、発信していきます。

●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2024年12月の情報であり、現在と異なる場合があります。

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