NICUを出て退院できる目安は? 退院までに家族がしておくことは?
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赤ちゃんの状態が落ち着き、母乳やミルクを飲む量も増えてきたら、赤ちゃんがおうちに帰る日は遠くありません。赤ちゃんをしっかりと迎えられるように、退院後の生活をママとパパでシミュレーションしておきましょう。
「退院できる=おうちでの生活に不安がない」です
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人工呼吸器がはずれて保育器を卒業し、体重が順調に増えてきたら、退院の日が見えてきます。退院の目安や、退院前にママやパパがしておくことについて解説します。
退院できるのは体重が2000gになったころ
赤ちゃんの修正週数が37週を過ぎ、体重が2000g以上になったら、退院の日が近づいています。低出生体重児や早産児がおうちで生活できるのか不安になるかもしれませんが、医師が退院できると判断したということは、「普通に育児をすれば大丈夫」ということ。「大丈夫」というのは、「呼吸や心臓の状態などが急に悪くなることはまずない」ということです。外来で定期的に赤ちゃんの様子を見ることは続けていくので、安心して家庭で子育てしてください。
●退院時に母乳やミルクの量が少なくても心配しないで
退院許可が下りたとき、まだおっぱいの飲みが悪かったり、ミルクの量が少なかったりすることがあります。ママは不安になるかも知れませんが、おうちでは頻繁に飲ませられるので、欲しがるたびに飲ませているうちに母乳やミルクを飲む量が増えていきます。でも、おうちに帰ってからも心配なときは、一人で悩まず病院に相談しましょう。
退院前に母子同室入院をしましょう
低出生体重児や早産児の育児の不安を少しでも解消してから退院してもらうために、退院前にママやパパと一緒に入院してもらう「母(父)子同室入院」を実施できる施設もあります。24時間一緒に過ごすと、赤ちゃんの様子がよくわかります。また、対処法を一つ一つスタッフに教えてもらうことで、赤ちゃんのお世話の不安を解消していくことができます。入院期間は病院によって異なると思いますが、3日くらい行うと退院後の戸惑いが少なくなるようです。
●母子同室入院ができない場合は?
病院に母子同室入院制度がなかったり、上の子がいてママが入院できないケースなど、退院前に母子同室入院が経験できない場合は、不安なことやわからないことを退院前に主治医やスタッフに聞いておきましょう。パパも一緒に聞いて、ママが困ったときフォローしてください。
<NICUは退院後も24時間態勢で相談可能>
おうちでの生活が始まってから心配なことが出てきたら、多くのNICUでは相談に応じてくれると思います。退院前にあらかじめ確認しておくといいでしょう。でも可能な限り、不安な点については退院前に相談しておきましょう。
パパもお世話に慣れておきましょう
赤ちゃんの退院が決まったら、パパもできる限り赤ちゃんのお世話を練習する時間を作りましょう。おむつ替え、授乳、沐浴は、入院中に練習しておいてほしいもの。退院後、ママはおっぱいや赤ちゃんのお世話で大変ですから、パパが育児に積極的にかかわり、ママの負担を少なくしてあげてください。
子育てサポートしてくれる人を見つけておきましょう
いよいよ赤ちゃんとの生活が始まります。でも、慣れるまでは心配や戸惑いも大きく、ママのストレスはかなり大きいはず。パパ以外に子育てのサポートをしてくれる人を見つけておくと、気持ちが楽になります。
家族に協力をお願いしたり、家事サービスを利用しよう
パパが仕事に行っている間、ママは家事・育児を一人でこなさなければならず、不安も負担もかなりなものに。できれば、ばあばに手伝ってもらえるとママは安心ですね。お姑(しゅうとめ)さんは気を使ってしまい頼みづらいかもしれませんが、そこはパパが上手にお願いしてださい。ばあばのサポートが難しい場合は、家事代行サービスを頼むのも手。家事を手伝ってもらえるだけでも、かなりの負担が減ります。家事支援サービスを行っている自治体もあります。
自治体には、低出生体重児、早産児のための支援事業がいろいろあります
●未熟児訪問指導
低出生体重児や早産児がいる家庭を保健師や助産師が訪問し、健康状態の確認や必要な保健指導を行うほか、育児の不安や悩みについて相談に乗ってくれる制度です。赤ちゃんが生まれたときの届け出をもとに訪問するため、申し込みの必要はなく、利用料はかかりません。
<対象者>
①医療機関から未熟児支援連絡票の提出があった赤ちゃん
②低体重児の届け出により、訪問の必要を認められた赤ちゃん
③未熟児養育医療の対象となる赤ちゃん。
●極低出生体重児のサポート事業
長期間の入院が必要となる極低出生体重児(出生体重1500g未満児)のママやパパは、赤ちゃんと離れている期間が長く、不安を抱えたまま退院するケースも少なくありません。そこで、保健・医療・福祉の関係者が連携し、入院中~退院後に継続的な支援を行い、赤ちゃんの健やかな育ちと、家族の育児不安の軽減を図る「極低出生体重児支援事業」を行っている自治体が増えてきました。
<内容例>
①臨床心理士が極低出生体重児のママやパパのカウンセリングを実施。
②お住まいの地域の保健師が必要に応じてNICUを訪問し、ママやパパの悩みや不安に対応。
③退院後、保健師が必要に応じて家庭訪問を実施。
④保健所で「親と子の交流教室」を開催し、親同士の情報交換や仲間づくりを支援。また、個別相談にも対応。
⑤修正1才6カ月と3才の時点でフォローアップ健診を行い、赤ちゃんの成長発達に合った支援を実施。
*実施内容は自治体によって異なります。詳細はお住まいの自治体に確認してください。
●育児支援ヘルパー派遣事業
お住まいの自治体に登録申請することで、出産前後に家事・育児をサポートしてくれる育児支援ヘルパーを家庭に派遣してもらえる事業です。有料ですが、民間のヘルパーを利用するよりかなり割安に。
<サービス内容>
家事援助:食事の下ごしらえ、近所への買い物、洗濯、母子の居室の簡単な掃除など
育児援助:沐浴補助、授乳、おむつ交換、健診時のつき添い、育児相談、乳児の見守りなど
*サービス内容は自治体によって異なります。詳細はお住まいの自治体に確認してください。
小さく生まれた赤ちゃんに対応した「母子手帳アプリ」も!
修正月齢をもとに赤ちゃんの身長体重を記録するのに、アプリを使用する方法があります。特定非営利活動法人ひまわりの会と、株式会社NTTドコモ提供の「母子健康手帳アプリ」には、「修正月齢に対応できる身長・体重のグラフ」と「低出生体重児向け子育てQ&A」が掲載されています。
「修正月齢のグラフ」は、出産予定日より早く産まれた赤ちゃんが実際に生まれた日ではなく、出産 予定日を基準に発育・発達状況の目安を確認することができるグラフです。また、「低出生体重児向け子育てQ&A」は、小さく生まれた赤ちゃんのママやパパによくある子育ての不安や悩みに対して、専門家が回答しています。
紙の母子手帳にはないアプリならではの便利さがあります。上手に活用して不安な日々の支えにしてみるのもよいでしょう。
https://www.boshi-techo.com/service/
「母子同室入院」体験談
早産児や低出生体重児で生まれたわが子がNICUを卒業し、自宅に帰る前に、母子同室の入院を経験したママにその様子を聞きました。
●パパも参加し、お世話の手順を確認
毎日冷凍母乳を届けていたのでタイミングが合えばお世話の練習もできましたが、退院前日にパパも一緒に、丸1日同室で過ごしました。呼ばない限り看護師さんは立ち会わず、お世話はすべてパパと2人で。退院後の生活がよくわかったので、行ってよかったです。(1才2カ月男の子、出生体重:1914g、在胎週数34週4日)
●生活の不安が少し解消できました
退院直前の1、2日前に母子同室をしました。沐浴や授乳の指導、搾乳のしかたなど、生活全般について教えてもらえたので、退院後の不安がある程度解消できました。とくに、小さくておっぱいをうまく吸えなかったので搾乳のしかたを聞いておいてとても助かりました。(3才4カ月男の子、出生体重:2282g、在胎週数36週0日)
●必要なお世話を何度も練習
退院の1カ月前に、GCUで1泊の母子同室を体験。経管栄養の準備や酸素のテープ交換のコツ、授乳の管理など、覚えなければいけないことがいろいろあったので、母子同室中に何度も練習し、わからないことはその都度教えてもらい、疑問を解決しました。(1才6カ月女の子、出生体重:644g、在胎週数23週4日)
退院後、ママ一人で赤ちゃんのお世話をするのはとても大変なこと。ママがつらいと感じると、赤ちゃんはその気持ちを敏感にキャッチし、心身に影響が現れることも。パパが協力するのはもちろん、ばあばの協力や自治体の支援などを上手に活用し、赤ちゃんとの生活を楽しめるような態勢を整えてくださいね。(取材・文/東 裕美、ひよこクラブ編集部)
監修/板橋家頭夫先生
昭和大学病院病院長。専門は、小児科学、新生児学。極低出生体重児の成長・栄養管理に詳しく、低出生体重児・早産児の生活習慣病リスクを研究。赤ちゃんや家族の幸せをモットーに診療をされています。