子どもの歯並びをよくするのは矯正一択ではない!乳幼児期から始める、いい歯並びのための新習慣【小児歯科医】
子どものむし歯は減っている一方、歯並びを心配するママ・パパが増えてきているようです。厚生労働省が発表した「令和6年歯科疾患実態調査結果の概要」によると、5~9歳で矯正歯科治療をしている子は13.5%(n=313)でした。
1児の母であり、小児歯科医、離乳食・幼児食コーディネーター、口育士で東池袋すぎはら歯科+Kids副院長を務める、杉原麻美先生は「子どもの歯並びは、癖や生活習慣を改善することが第一」と言います。乳幼児期から家庭でできる歯並びをよくするポイントを聞きました。
0歳から歯並びに関する相談が
5歳の女の子のママでもある、杉原先生は、毎日、子どもたちの歯を診ています。
――子どもの歯科受診というと、むし歯の治療が多いのでしょうか。
杉原先生(以下敬称略) 私が働く歯科医院では、むし歯を治療する子ももちろんいますが、多いのは歯並びの相談です。早いと0歳から、歯並びの相談を受けることもあります。
――0歳から、歯並びの治療はできるのでしょうか。
杉原 歯並びの治療というと矯正歯科治療を思い浮かべるママ・パパもいると思いますが、乳幼児の場合は、まずは生活習慣や癖、授乳のしかたや食事のメニューなどを見直すことが第一です。
指しゃぶりや眠る向きが、歯並びに影響することも
杉原先生は「まず注意してほしいのは、指しゃぶりと眠るときの向き」だと言います。
――どのような習慣や癖が、歯並びに影響しやすいのでしょうか。
杉原 歯並びに影響しやすいのは指しゃぶりです。指しゃぶりを長期間続けていると、上顎前突(じょうがくぜんとつ)といって前歯が出てしまうことがあります。そのため2~3歳になっても指しゃぶりをしていたら、やめるように工夫しましょう。
たとえば眠るときに、いつも指しゃぶりをするならば、ママやパパが寝つくまで手をつなぐのも一案です。
遊んでいるときに、指をしゃぶる癖があるならば、指をしゃぶったら好きなおもちゃや人形を持たせたり、ブロックや積み木、シールを貼るなど手先を使う遊びに誘って、指をしゃぶらないようにしましょう。
なかなか指しゃぶりの癖が直らなかったり、4歳以上になっても指しゃぶりを続けている場合は、小児歯科で相談してください。
――おしゃぶりは、使ってもいいのでしょうか。
杉原 歯並びに影響しにくいといわれるおしゃぶりもありますが、私は、おしゃぶり全般をおすすめしてはいません。おしゃぶりも指しゃぶりも習慣になってしまうと、やめさせるのが大変なので、あえておしゃぶりを使わないほうがいいと思います。
――ほかに注意したほうがいい子どもの癖はありますか。
杉原 眠るときに、右や左を向いて眠る癖があると、クロスバイト(交叉咬合・こうさこうごう)といって奥歯がずれてかみ合わせが悪くなることがあります。あご自体が左右どちらかにずれてしまうと、表情にゆがみが出たり、体幹の筋力バランスが崩れて姿勢が悪くなったりすることもあります。そのため、いつも右や左を向いて寝ている場合は、気づいたらあお向けに姿勢を変えてあげましょう。
ほおづえをつく癖があったり、いつも同じ方で食事をかむ子も、クロスバイトになりやすいので注意が必要です。
あごの発達を促すには、食事中はテレビを消して
歯並びをよくするには、乳幼児期からあごの発達を促すことがカギ。食事のときの習慣も見直しましょう。
――歯並びをよくするために、ほかにしたほうがいいことはありますか。
杉原 食事中に、テレビを見る習慣もやめたほうがいいでしょう。テレビに気をとられると、よくかんで食べなくなり、あごの発達に影響を与えることがあります。
また食事のときの席によっては、子どもがいつも横を向いて、テレビを見ることもあるでしょう。そうした習慣が続くと姿勢が悪くなり、歯並びに影響しやすいです。そのため食事中は、テレビを消すルールを作ったほうがいいと思います。
また食事のときは、床や足乗せ台に足がしっかりつくように椅子に座らせましょう。足がつくことで、しっかりかんで食べられるようになります。
――あごの発達を促す、おすすめの食材を教えてください。
杉原 にんじん、大根、きゅうり、れんこん、ごぼう、しいたけなどです。たとえば野菜の煮物を作るときは、いろいろな野菜を組み合わせて入れましょう。食感が違う食材を組み合わせることで、よりしっかりかんで食べるようになります。
「子どもが食べないから」と言って、やわらかい食材ばかり食卓に出していると、本当にかむことが苦手になってしまいます。
またママ・パパの好みで、やわらかいメニューを食卓に出すことが多くなっている場合は、食生活を見直してください。大人の都合だと、食生活が変わりにくいので注意が必要です。
――しっかりかんで食べる習慣が、歯並びをよくするのでしょうか。
杉原 乳幼児期から食事をしっかりかんで食べる習慣がつくと、自然とあごは発達します。
永久歯は、歯の種類にもよりますが乳歯の1.5倍ほどの大きさがあります。あごが発達しないまま乳歯から永久歯に生え変わると、永久歯が生えるスペースがないために歯並びが悪くなりがちです。乳歯の段階で、歯と歯の間にすき間がないときは、念のため小児歯科で相談してください。乳歯が生え揃ったときの理想は、歯と歯の間に適度なすき間があることです。
歯並びは、疲れやすさや集中力とも関係
歯並びは、さまざまなことに影響を与えます。
――歯並びが悪いと、どのような点が心配されますか。
杉原 歯並びが悪いと口が開いたままになってしまい、口呼吸になりがちです。口呼吸を続けていると、疲れやすくて、集中力も低下しやすくなります。
また歯並びが悪くて、かむ力が弱いと運動能力にも影響が出ることがわかっています。
子どもの歯並びが悪いと見た目を気にするママ・パパが多いようですが、疲れやすかったり、集中力の低下によって学習面やスポーツに影響が出やすくなることも知ってほしいと思います。
お話・写真提供/杉原麻美先生 取材・文/麻生珠恵、たまひよONLINE編集部
なかには「歯並びは遺伝するから・・・」と心配しているママ・パパもいるかもしれませんが、杉原先生は「実は子どもの歯並びは、遺伝以上に日ごろの習慣や癖が影響していることのほうが多い」と言います。乳幼児期から習慣や癖を直すことで、矯正歯科治療をしなくても済むケースもあるそうです。
杉原麻美先生(すぎはらあみ)
PROFILE
東池袋すぎはら歯科+kids副院長、小児歯科医、離乳食・幼児食コーディネーター、口育士。 2015年日本大学歯学部卒業後、同大学附属歯科病院小児歯科学講座に入局。子どもや障がいのある方の歯科疾患、口腔機能について学ぶ。数軒の歯科医院勤務を経て、2024年より現職。1児の母。
●記事の内容は2025年9月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。
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