赤ちゃんの脚は、「M字」を意識して!脚をまっすぐに伸ばし続けることが股関節脱臼の原因に【専門家】
日本小児整形外科学会によると、赤ちゃんの股関節脱臼は、「脚の付け根の関節がはずれる病気」です。赤ちゃんは、股関節脱臼があっても痛がったりしないので、早期に気づかないケースも。東京大学大学院医学系研究科 地域看護学・公衆衛生看護学分野准教授 吉岡京子先生は、股関節脱臼を含む発育性股関節形成不全の予防の研究をしています。近年、股関節脱臼の赤ちゃんで発見が遅れるケースがあるそうです。吉岡先生に、赤ちゃんの股関節脱臼の原因や予防について聞きました。
赤ちゃんの股関節脱臼は痛みがなく、歩けるため気づきにくい
1970年代初めごろまでは多かった赤ちゃんの股関節脱臼。一時は減ったものの、近年、1歳以降に見つかる股関節脱臼の遅診断事例が問題になっています。
――赤ちゃんの股関節脱臼とは、どのような病気でしょうか。
吉岡先生(以下敬称略) 赤ちゃんの股関節脱臼は、かつて先天性股関節脱臼と呼ばれていましたが、1960年代後半以降、国内外の医師によって誕生後に起こる後天性のケースがあることがわかってきました。主な原因は、赤ちゃんの脚をまっすぐにし続けることです。
股関節脱臼は、日本小児整形外科学会によると「脚の付け根の関節がはずれる病気」です。痛みがなく、歩くこともできるのでママ・パパが気づきにくいと思います。
また股関節脱臼以外にも、心配な股関節の病気があります。たとえば臼蓋形成不全(きゅうがいけいせいふぜん)といって、骨盤側の臼蓋と呼ばれるくぼみの形成が不十分で浅いと、そこに収まる球状の大腿骨頭を十分に覆うことができなくなります。
近年、乳児股関節脱臼、亜脱臼、臼蓋形成不全を総称して発育性股関節形成不全(DDH)と言っています。
――赤ちゃんの股関節脱臼の遅診断事例が問題になっているのはなぜでしょうか。
吉岡 日本では1970年代初めまでは、股関節脱臼の赤ちゃんが多かったです。当時は、巻きおむつといって、赤ちゃんの脚をまっすぐに伸ばしておむつを当てる習慣があったためです。
そのため1970年代初めに股関節脱臼の予防キャンペーンが京都で始まり、股関節脱臼になる赤ちゃんが減少しました。
しかし股関節脱臼になる赤ちゃんが減るにつれ、保護者や医療職の関心も薄れていきます。地方自治体で実施されていた乳児股関節検診も、廃止が相次ぎました。患者数が減ると、医療職が股関節脱臼のある赤ちゃんを診る機会も減ります。一方、専門医療機関の医師の間では1歳以降に見つかる遅診断の問題が話題になっており、2011~2013年に日本小児整形外科学会が実施した全国調査では、2年間で199人(15%)の遅診断事例が報告されました。残念ながらこの割合は、10年以上経っても減っていないそうです。
股関節脱臼は、早期に適切な治療をすれば軽い治療でよくなりますが、治療が遅れると手術が必要になったり、歩行障害が生じることもあります。
赤ちゃんの股関節脱臼は、女児、さかご、家族歴などがリスク因子
股関節脱臼には、いくつかのリスク因子があります。
――股関節脱臼のリスク因子について教えてください。
吉岡 生まれつきと誕生後になるものがあり、次の3点が股関節脱臼のリスク因子と考えられています。
●家族歴がある:ママ、パパ、ママ・パパの両親などに、股関節の病気をもつ人がいる
●女児である:ホルモン等の影響を受け、男児よりも靭帯がやわらかくなりやすいため
●骨盤位(さかご)だった:とくに妊娠後期にさかごだった
――リスク因子がある赤ちゃんは、とくに注意したほうがいいのでしょうか。
吉岡 もちろん注意は必要ですが、リスク因子がなくても、生まれたあとに足を伸ばした状態が続くことで股関節脱臼になる赤ちゃんもいますので、みんなの問題として心に留めていただきたいです。
またリスク因子である女児・骨盤位(さかご)・家族歴ありのいずれかに該当しているときや、気になる様子があるときも医師等に相談しましょう。
2025年10月末に開催された第52回日本股関節学会学術集会で発表しましたが、私たちのグループの調べによると生後平均約2カ月の男女の赤ちゃん254名のうち、リスク因子である女児は127名、股関節が開きにくい児は11名、股関節のしわが左右非対称な児は17名、骨盤位(さかご)は16名、家族歴ありの者は10名。二次検診の医療機関に紹介する基準に該当した赤ちゃんは30名(11.8%)でした。
赤ちゃんの股関節は、軟骨部分が徐々に成長し、思春期にかけて大人の骨の形に近づいていきます。
股関節をすこやかに成長させるための望ましい姿勢として、「M字姿勢」が知られています。赤ちゃんの両脚の股関節が自然に屈曲して外側に開いた状態のとき、アルファベットのM字の形のようになります。このM字姿勢で、自由に足を動かせると、大腿骨頭が股関節のくぼみの真ん中に均等に押しつけられる形になり、股関節の成長が促されるのです。
最近は、将来まっすぐな脚にしたいからといって、おくるみでくるんで赤ちゃんの脚をまっすぐにしようとするママ・パパもいるそうです。足をまっすぐにする姿勢は、脱臼しやすくなります。誤った育児の方法が、股関節脱臼のリスクを高めてしまうことになるので、気をつけましょう。
M字姿勢を意識した抱っこ、おむつサイズ、衣類の見直しを
赤ちゃんの股関節脱臼は、お世話のしかたなどを見直すことで予防することができます。
――股関節脱臼を防ぐポイントを教えてください。
吉岡 大切なのは新生児期から両脚を自然なM字型になるように開き、自由に脚を動かせるようにすることです。
とくに抱っこのしかたや向き癖、おむつ・衣類選びなどには注意が必要です。
【抱っこのしかた】
赤ちゃんとママ(パパ)が向き合う形で対面抱っこをすると、赤ちゃんがママ(パパ)の胴体にコアラのようにしがみつく形となり、自然なM字姿勢になりやすいことが知られています(通称:コアラ抱っこ)。
左右の股関節がM字に開くように意識して抱っこするといいでしょう。海外では生後6カ月前までは、足がまっすぐに伸びた状態での抱っこに対して、注意を呼びかけています。
赤ちゃんの首がすわるまでは、横抱きをすることが多いと思います。横抱き自体が悪いわけではありませんが、長時間横抱きの状態が続くと、ママ(パパ)のおなか側に当たっている股関節は、伸びている状態になりやすいと言われています。きき手の関係で、いつもと反対側に抱っこをすることは難しいと思いますが、横抱きの向きを変えることも心がけましょう。
【向き癖】
あお向けの姿勢で向き癖があると、片方の脚だけ開脚せずに伸ばしたままになったり、内側にひざが倒れやすくなり、M字姿勢になりづらい可能性が指摘されています。そのため日本小児整形外科学会のリーフレットでは、赤ちゃんが同じ方向ばかり向かないように、ママ・パパが赤ちゃんの向き癖とは反対側から声をかけたり、バスタオルを背中側に入れて調整する方法を提案しています。
【おむつのサイズ】
最近のおむつはギャザーが立体的になっていて、もれを防ぎつつ、赤ちゃんが脚を動かしやすいようにデザインされています。しかし、赤ちゃんの大きさに対して小さいサイズのテープ式おむつを使うと、脚が伸びた状態になりやすいようです。おむつのパッケージに月齢の目安が書いてありますが、テープの位置が外側になってきたときは、サイズが小さいかもしれませんのでサイズアップしましょう。
【衣類選び・防寒対策】
衣類を選ぶときは、左右の股関節がM字に開いて、脚が自由に動かせるタイプを選びましょう。寒い時期には、室内ではエアコン+ベビー用のレッグウォーマーなどを着用するのも一案でしょう。
寒くなるとおくるみや毛布で赤ちゃんをしっかり巻き、防寒対策をしようとするケースもあるようです。赤ちゃんの脚をまっすぐに伸ばした状態で、ぐるぐる巻きにすることは避けてください。もし、おくるみや毛布を使いたい場合には、赤ちゃんが脚を自由に動かせるように、脚元にゆとりを持たせましょう。
モンゴルでは、スワドリングという赤ちゃんを布でしっかりと包む育児法が伝統的に行われていました。以前、モンゴルの研究で、脚が自由に動かせる衣類を着ている赤ちゃんと、おくるみでしっかりくるんでいる赤ちゃんを比較したところ、おくるみの赤ちゃんは、股関節脱臼を含む発育性股関節形成不全のリスクが2倍高かったということが明らかにされています。また治療をしても、おくるみできつくくるんでいた赤ちゃんは改善や退院まで長期化しやすいこともわかっています。
今一度、赤ちゃんが左右の股関節を自然に開いたM字姿勢で、脚を自由に動かせているかを確認してほしいと思います。
お話・監修・画像提供/吉岡京子先生 取材・文/麻生珠恵 たまひよONLINE編集部
赤ちゃんの股関節脱臼は、予防と早期発見・早期治療が可能です。日ごろから、赤ちゃんの両脚がM字に開いているか確認しながら、育児をする習慣をつけてください。
吉岡京子先生(よしおかきょうこ)
PROFILE
修士(保健学)、博士(保健学)。東京大学大学院医学系研究科 健康科学・看護学専攻 地域看護学・公衆衛生看護学分野准教授。専門分野は地域看護学・公衆衛生看護学。発育性股関節形成不全の予防・早期発見、地域ケアシステムの開発、サービスの質保障の研究に取り組む。
●記事の内容は2025年11月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。


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