「世の中、助け合い」アイデアと行動力で障害者が働く場所を生み出し、23年間でさまざまな事業を展開するまで【NPO支援センターあんしん】
新潟県南部の十日町市にある「NPO支援センターあんしん」。現会長・樋口 功さんの三女の重度知的障害をきっかけに立ち上がったこのNPOは、障害者の通うグループホーム、ワークセンターだけでなく、十日町市のスクールバス事業やクリーニング事業、農業などを障害者も一緒になって請け負う団体となっています。後編では、障害者や高齢者の雇用を生み出し、地域を支える事業が可能になった経緯や、障害者にもやさしい街づくりプロジェクトなどについて、会長の樋口 功さんと常任理事の久保田 学さんにお話を聞きました。全2回インタビューの後編です。
障害者が活躍できる仕事と、町のニーズをマッチング
高校を卒業した重度知的障害を持つ三女が通う場所として、2002年に利用者2名で始まった「NPO支援センターあんしん」(以下、NPOあんしん)」。途中、新潟中越地震による困難もありましたが、主軸となったトイレットペーパー製造事業や、地元にできた特別支援学校の分校への送迎バス事業など、アイデアと行動力で障害者が働く場所を生み出し、障害者の家族を支える事業を展開してきました。
「部品を作る作業所から始まった私たちの障害者支援ですが、2007年にはグループホーム(※1)を始めたんです。
また、重度知的障害者である、私の娘が必要としていたような障害者のデイサービス(生活介護事業)(※2)は、行政も必要だとは思っていて、立派な福祉計画などを立ててくれてはいたんですが、その計画を実行してくれる業者がいないとどうにもならず、結局、計画のまま何年も経過してしまう。十日町市でも計画のまま、5~6年が過ぎていたと記憶しています。
障害者施設の場合、医療的ケアが必要な利用者もいらっしゃるので、医療をからめたしくみにしなくてはならないんですが、それがなかなか難しいんです。そして、事業として採算が取れないと、だれもやろうとはしないんですよね。
私ももどかしい思いをしていましたが、それでもやっぱり必要だと思い、もう火中の栗を拾うような気持ちで、医療ケアが必要な方たちも受け入れることができる生活介護事業を始めました。しばらくは赤字が続きましたけど、今は利用者の方が増えたこととしくみが整ったことで、なんとかやっていけています。ただ、なかなか厳しい事業だとは思います」(樋口さん)
※1 住宅地にある建物で、支援を受けながら障害者が共同生活を営む場所のこと。
※2 常に介護を必要とする人が、入浴・排泄(はいせつ)・食事などをはじめとした日常生活で必要な介護が受けられる通所型のサービスのこと。
さらに、活動の拠点である十日町市は、過疎化が進み、交通や生活インフラが失われてしまう危機も。そんなときもNPOあんしんは立ち上がり、今や地域を支える事業にかかわっているそうです。
「特別支援学校への送迎で始まったスクールバス事業は、その後、小・中学校までの距離が遠い地区に住む生徒の送迎や、診療所の患者さんの輸送へと広がり、さらに民間バス会社が十日町市での路線バス事業を撤退したことから、市営バスの運行の委託も受けるようになりました。
また、地元のクリーニング工場が閉店することになったときは、機器類を安価で譲ってもらって、ランドリー事業をスタート。さらに、給食センターの運営や、農業と福祉を連携させた活動を始めたんです。
クリーニングもバスも給食センターも、なくなると地域で困ってしまう人が出てしまうし、こちらとしては障害者が活躍できる仕事を生み出すことができる。
ランドリー事業の『たたむ』や給食センター事業の『切る』『洗う』みたいな仕事って、利用者さんの手仕事にマッチするものが多いんですよね。そういう機械化がなかなか難しい分野の仕事で、すごく活躍してくれるんです。だから、私たちは、地域で求められている仕事と利用者さんが活躍できる仕事のマッチングには力を入れているんです。
あとは、支援をする側(がわ)についても、地元の高齢者雇用につなげています。たとえば、障害者向けのグループホームや、高齢者など居住困難者のための住宅の建設費。普通のやり方だと、どうしても人件費がかなり高くなってしまうところを、再就職してもらった元大工さん、元水道工事業者さんのおかげで費用を抑えつつ、雇用を維持することを大事にしています。それは、グループホームでのお世話や農業事業でも同じですね。うちの会社では60代はまだまだ若手。70代、80代がすごく活躍していますよ。
そして、私たちの事業所で働いている障害者の方には、全国の平均工賃を超える金額を支払うこともできています。それも継続のためには大事なことですね」(樋口さん)
障害者にもやさしい街づくりを!「にもプロジェクト」
そうやってNPOあんしんが発展していく中で、活動拠点である十日町市は「2050年には消滅する自治体」と言われるほど人口減少が進み、高齢化が進んでいる町でもあります。 NPOあんしんの理事である久保田さんは言います。
「十日町市は、高校卒業後の進学先が看護学校しかないとか、盛んだった着物産業の市場が小さくなって雇用が減ったとか、年間を通して安定した仕事が少ないとか、さまざまな理由があって、自然減も含め毎年1000人以上の人口が減っているんです。
私たちは、障害者の方が地域でいきいき暮らしていくための生活支援をしていますが、この活動を続けるにはやっぱり町自体が維持できていないと難しい。消滅するかもしれないと言われて何もせずにはいられません。そこで、障害者の方にもやさしい街づくりプロジェクト「にもプロジェクト」を立ち上げました。具体的には、障害者支援をしている私たちが、十日町市のためにできることは何だろうかと考えて、3つの柱を立てて取り組んでいるんです。
1つ目は、マッチング支援事業。世の中、人手不足とはいえ、常勤での雇用となると難しくて、忙しい時期、忙しい時間帯だけ手伝いがほしいというケースが多いんです。もちろん十日町市も同様です。
私たちは、日ごろから障害者の方の働き口を探していて、いろいろな作業に取り組んでいるので、必要なタイミングでこちらがうかがったり、仕事をこちらに持ってきたりしてお手伝いすることで解決できないかなと思い、マッチング支援をしています。
2つ目は、あんしんチケット事業。ふるさと納税の一環として、十日町市には「とおかまち応援寄付金」という寄付金の95%を指定したNPO法人等に寄付できる制度があって、寄付金の3割のお礼の品をお送りしているんです。でも、ただ返礼品をお送りするだけではおもしろくないので、NPOあんしんを応援してくれる十日町市の企業で使えるチケットも発行しています。
これによって、障害者に対して理解のある地域の企業が継続して運営できるとともに、十日町市に訪れるきっかけづくりになればと思っています。
3つ目は、帰る旅事業。これは、雪国観光圏とじゃらんリサーチセンターの協働プロジェクトで、ある場所で一定期間働くと、その土地に無料で宿泊できるというものなんです。私たちの場合、ワークセンターあんしんで半日働くと、私たちが管理している宿泊施設に1泊無料で泊まれるんです。
このプロジェクトに参加することで、十日町市に来てもらうきっかけづくりや、私たちの事業に興味がある方が遠方から来てもらうしかけになればいいなと思い、始めたものです。実際、このサービスを使って来られた方が、現在、NPOあんしんの職員として働いてくれたり、家族やお子さんが遊びに来られたりもしています。
十日町市って「雪がいっぱいでたいへんそう」というイメージを持たれることも多いので、まずは来てみて、興味を持ってほしいなと思っていて。人口が減っている町なので、移住してくれる方が増えるといいなとは思うんですが、まずはその第一歩として、気軽に十日町に来てもらえればと思っています。
人口が減るということに対しては、なかなかあらがえない部分もあると思うんですが、NPO法人として何かできることはないだろうかということで、私たちができる範囲でこういう取り組みをしています。
この活動で、障害者の方の仕事が生まれたり、私たちの事業の理解者を増やしたりできれば、結果として、障害者の方たちが安心して暮らせる街につながりますからね」(久保田さん)
たいへんなことも多い障害者支援、しかもたった2人の利用者しかいなかった作業所を運営するNPOが、23年で町を発展させるための事業まで始めているというのは、本当にすごいこと。この原動力はどんなことだったのでしょうか。会長の樋口さんに聞くと…
「私は、建設関係の会社も経営していましたが、NPOの経営も変わらないと思うんです。一生懸命やればやるほど、成果がちゃんとつながってくるっていうところがおもしろい。
あと、この仕事は『人のためになっている』ということが、ほかの仕事より見えやすいと思います。人のためになっていることを実感できるというのは、本当に喜びであり、楽しいこと。それがいちばんですね。私たちの強みを生かして、目の前で困っている人に貢献できたらと思うんです。
世の中、助け合い。困っている人に、無理をしてではなく、自分のできる範囲のことからかかわるだけでも、助けられる人がいるんじゃないかと。そうすれば、障害者でも健常者でもみんなにやさしくいられる世の中になっていくんじゃないかと信じていますし、ほかの人にやさしくしたことは、最終的に自分に返って来るんじゃないかと思います」(樋口さん)
障害者にもやさしい街づくりをめざす、NPOあんしん。私たちが応援できる方法もあります。
「まずは、私たちのことを知ってもらうことから始めていただけたら。そして、おもしろいことをやっているなと思ったら、ぜひ一度十日町市に遊びにきてほしいですね。
もちろん、施設で作っているトイレットペーパーは全国発送していますので、買ってもらえるとうれしいですし、ふるさと納税などで応援していただくのもとてもありがたいです。興味を持っていただけたら、NPOあんしんのウェブサイトに、『あんしんを応援する』というページを用意していますから、これならできるかなという応援方法を見つけていただければと思うので、ぜひウェブページを見ていただけたらうれしいです」(久保田さん)
お話/樋口 功さん、久保田 学さん 写真提供/樋口 功さん、NPO法人支援センターあんしん 取材・文/藤本有美、たまひよONLINE編集部
取材の最後で「自分たちも障害者の子どもを抱えて、にっちもさっちもいかない状況を経験しているだけに、社会全体で、障害者や障害者の家族を支えていかなくちゃいけないという思いがある。家族だけでは容易ではないことを知っているからこそ、私たちのような活動で、社会が支えることは、障害者だけでなく、その家族の幸せにもつながるのかなと感じます」と言っていた樋口さん。NPOあんしんのような支援を全国で受けることができれば、障害者の方やその家族の世界はガラッと変わっていくでしょう。そのために自分ができること、それがたとえ小さなものだったとしても、継続して積み重ねていくことが大事なのだなと感じました。
樋口 功さん(ひぐちいさお)
PROFILE
NPO法人支援センターあんしん 会長。1949年、新潟県十日町市生まれ。県立十日町高等学校卒業後、働きながら東京都内の各種電気関連の専門学校で学ぶ。1980年、十日町市内に「北越上下水道株式会社(現・北越融雪株式会社)」を創業。2002年、重度知的障害をもつ三女の高校卒業をきっかけに「NPO法人支援センターあんしん」を設立。現在は、NPO法人支援センターあんしんの会長として、障害がある人もない人もいきいきと暮らせる社会づくりと、地域の発展に取り組んでいる。経営理念は「地域密着事業を通じて 地域に愛され お客さまから信頼され それを喜びと感じられる社員を 育てる企業に」。
久保田 学さん(くぼたまなぶ)
NPO法人支援センターあんしん 常任理事・事務局長。北里大学保健衛生専門学院非常勤講師。大学卒業後に新潟県厚生連中条第二病院に就職し、精神保健福祉士として勤務しつつ、福祉ホームB型の立ち上げを行い、のちに管理者となる。09年、結婚を機に、妻の父が立ち上げたNPO法人支援センターあんしんの理事に就任。15年に病院を退職した後は、支援センターあんしんのグループホーム管理者として勤務。就労継続支援B型事業所2か所の管理者を経て、現在は経営サポート部において、常任理事兼事務局長として勤務している。22年には精神障害者の支援を主に行っているNPO法人ハートケアぼちぼちの副理事長、23年からは新潟県の農福連携コーディネーターとして、地域の農家と事業所を繋げる活動にも注力している。座右の銘は「頼まれごとは試されごと」。
●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●掲載している情報は2025年12月現在のものです。


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