先天性の食道閉鎖でミルクが飲めない状態で誕生、生後すぐに8時間を超える手術をした赤ちゃん~新生児医療の現場から~【新生児科医・豊島勝昭】
生後すぐから治療が必要なために、長期間を新生児集中治療室(NICU)で過ごす赤ちゃんたちがいます。テレビドラマ『コウノドリ』(2015年、2017年)でも監修を務めた神奈川県立こども医療センター(以下、神奈川こども)周産期医療センター長の豊島勝昭先生に、NICUの赤ちゃんたちの成長について聞く不定期連載。第15回は、消化管閉鎖という病気で、生まれてすぐに手術が必要だった赤ちゃんについて聞きます。
胎児診断で消化管閉鎖がわかった、こうせいくん
――今回は、生まれてすぐに手術が必要だと言われる、消化管閉鎖を治療した赤ちゃんのエピソードを教えてください。
豊島先生(以下敬称略) 2018年の春に生まれたこうせいくんは、妊娠26週の健診で羊水過多があり、胎児エコーで胃や腸が見えづらいことから、神奈川こどもに転院してきました。胎児エコーでは食道閉鎖と心臓病が疑われていました。妊娠38週で出生後、食道閉鎖に加えて、十二指腸閉鎖や、肛門が閉鎖している鎖肛など、複数の消化管閉鎖があることがわかりました。
出生体重が約1900gと少し小さく、生まれたときには泣き声も弱かったこうせいくんは、その日のうちに8時間を超える手術を受けました。その後も、消化管や心臓病の手術を繰り返しながら、NICUで7カ月間、家族と医療スタッフに見守られて過ごしました。その後は小児科病棟へ転棟。1歳の誕生日を迎えるころに退院して、自宅での生活が始まりました。1歳半になるころには、お母さんから「よく笑い、大きな声で泣く元気な男の子に成長しています」と聞きました。最近でも外来で会うとポーズを取ってくれて、「先生、写真撮って!」と声をかけてくれる、明るくて笑顔がすてきな男の子です。
――消化管閉鎖はどのような症状があるのでしょうか。
豊島 消化管は口から食道、胃、十二指腸、小腸(空腸・回腸)、大腸(結腸・直腸)、肛門とつながっています。消化管閉鎖は、この消化管の途中で、生まれつきつながっていない部分(閉鎖)がある病気です。
胎児は羊水を飲み、消化管で一部吸収され、最終的におしっことして排出します。しかし、消化管閉鎖があると飲んだ羊水を吸収できずに吐いてしまいます。その結果、羊水が増えて羊水過多になります。
そのため、胎児エコー検査で消化管閉鎖を疑うことがあります。たとえば、食道閉鎖では食道の先にある胃が小さく見えたり、十二指腸閉鎖では胃は大きく見えるものの、その先の腸管が見えづらいことで診断されます。
一方、小腸より下の消化管に閉鎖がある場合は羊水過多が起きないため、胎児診断で見つからないこともあります。鎖肛などは生まれてからわかることも少なくありません。
すぐに手術しないと命にかかわる病気
――消化管閉鎖があるとわかったらすぐに手術が必要なのでしょうか。
豊島 消化管閉鎖で問題になるのは、生まれたあとに母乳やミルクを飲むことができないことです。母乳・ミルクが飲めないと水分や栄養がとれません。さらに消化管閉鎖で排便やおならができないと生きていけません。ですから生後数日以内に手術が必要です。
こうせいくんのような食道閉鎖の中でいちばん多いと言われるのはタイプC(上の図のC型)といわれる形で、食道が途中で途切れ、下側の食道が気管とつながっているタイプです。この場合、人工呼吸器などで肺に空気を送ると、それが直接胃に入ってしまい、胃がふくらんで胃破裂を起こすこともあります。このような場合、生まれた日に緊急手術が必要です。
こうせいくんのように複数の箇所で消化管が閉鎖している場合もあるため、生まれたあとにX線やエコーなどの検査を行い、どの部分が閉鎖しているのかを慎重に診断したうえで手術計画を立てます。
こうした疾患は小児外科が対応しますが、小児外科医の人数は全国で約600人といわれ、全国的に人数が限られており、小児外科医の確保が課題となっています。小児外科医が不在のNICUも多く、消化管閉鎖が疑われる場合には小児外科医のいる病院での出産や、生後に転院が必要です。神奈川こどもでは小児外科医が8人勤務していますので、ほかの産院で生まれた赤ちゃんが、肛門が確認できない、嘔吐があるなどの症状で搬送されれば、夜間でも緊急手術に対応します。
――こうせいくんは38週で1900gほどで生まれたそうですが、消化管閉鎖がある赤ちゃんが胎児期に体が小さく生まれるのは、お母さんのおなかの中で栄養を吸収しにくいからですか?
豊島 胎児への栄養は基本的にへその緒から供給されるので、消化管閉鎖自体が原因ではないと考えられます。ただし、消化管閉鎖がある赤ちゃんは子宮内発育遅延児がみられることが比較的多いです。十二指腸閉鎖の3~4割はダウン症があります。このように、消化管閉鎖には染色体や遺伝子の異常などが関係していることもあります。そのため、消化管閉鎖がある場合には、そのほかの異常がないか、全身をしっかり観察しています。
場合によっては複数回の手術で「腸を育てる」必要も
――場所にもよるかもしれませんが、消化管閉鎖がある場合の手術や治療はどのようになるのでしょうか。
豊島 閉鎖が1カ所の場合、1度の手術でその後問題なく過ごせることもありますが、閉鎖が複数箇所あったり、閉鎖している先の腸管が非常に細くなっている場合には、複数回の手術が必要になることもあります。
小腸の空腸や回腸が閉鎖していると、閉鎖部分の手前の腸管はふくれている一方で、閉鎖の先にある腸管はあまりにも細くなっていることがあります。このように太さが大きく異なる腸管同士をそのままつなぎ合わせても、食べ物や空気がうまく流れないことがあります。その場合、一時的に人工肛門を造設する手術も行います。
人工肛門は閉鎖部の前と後ろに1つずつの穴を作ります。前の穴は、空気や便の出口になります。後ろの穴は、前の穴から出た便を注入して、細い腸管が太く成長し吸収できるよう促します。体格が大きくなり、閉鎖部の後ろ側の腸が十分に育ってきた段階で、改めて閉鎖していた部分をつなぐ手術を行い、最終的には人工肛門を閉じる手術を行います。この一連の治療には、半年から1年、場合によっては2年ほどかかることもあります。
食道閉鎖では、本来つながっていない気管とのつながりがあればそれを閉じる手術も必要です。消化管閉鎖はどの場所で閉鎖があっても「お口からおしりまでの食べ物や水分が流れる通路を確保する」ことが治療の基本です。
――手術などで消化管がつながれば、ミルクや離乳食などもとれるようになっていきますか?
豊島 手術後の経過にもよります。ほかの赤ちゃんと同じように母乳やミルクを飲めるようになる子もいれば、しばらく鼻から通したチューブで栄養をとる経管栄養が必要になる子もいます。その子の発達段階とほかの合併症があるかも踏まえながら、その子に合った栄養のとり方を決めていきます。
手術後に母乳やミルクの消化がうまくできない状態が続く場合には、高カロリー輸液で栄養を補いながら体重が増えるように治療を続けます。消化ができない状況が月単位で続くと、栄養不足や肝機能の障害を起こし、命にかかわることもあります。
しかし近年では、オメガ3系の脂肪製剤など新しい栄養管理法が開発され、肝機能を守りながら治療を続けられるようになり、救命できる赤ちゃんが増えています。
また、おなかの手術を受けた赤ちゃんでは、成長したあとに癒着による腸閉塞を起こすことがあります。腹痛を訴えたり、吐いたりする症状が続く場合には、赤ちゃんのときに手術を受けたことを伝えた上で、小児外科の医師に相談し、腸閉塞などが起きていないかを確認してもらうことが大切です。
鎖肛の場合には、排便や排尿の機能に課題が残ることもあり、小児外科や泌尿器科と連携しながら、長期的に経過を見守ります。手術のあとが目立つ場合には、形成外科と相談して、傷あとを目立ちにくくする手術を行うこともあります。
さらに、消化管閉鎖のある赤ちゃんでは、ほかの病気を合併している場合や、低栄養の期間が長くなることで、発達への影響が出ることもあり、小児科が発達支援を行うことがあります。
そのため私たちは多くの診療科と連携しながら、お子さんの成長や発達、家族の生活を長い目で応援しています。
お話・監修/豊島勝昭先生 写真提供/ブログ「がんばれ!小さき生命たちよ Ver.2」 取材・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部
消化管が閉鎖しているという重い病気があって生まれても、医療の進歩により消化管をつなぐ手術や、高カロリー輸液で栄養を支える治療、腸を育てる治療、肝臓を守る治療などで命が救われ、こうせいくんのように力強い男の子に育っていく姿に希望を感じます。
●記事の内容は2026年1月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。


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