千葉ロッテを昨シーズンで引退の美馬学投手。引退試合の始球式は、右手欠損の長男が投球を。「本番で一番いい球を投げてくれた」
プロ野球、千葉ロッテマリーンズの先発ピッチャーとして活躍し、2025年に現役を引退して、2軍投手コーチに就任することが決まった美馬学さん。2014年には、俳優・タレントとして活躍する妻・アンナさんと結婚し、生まれつき右手がない「先天性欠損症(せんてんせいけっそんしょう)」という障害がある6歳の長男・ミニっちと、2歳になる長女・ひめっちとの4人家族に。今回は、2025年に決意した現役引退のこと、また、父親としての思いを聞きました。
全2回のインタビューの後編です。
始球式で堂々とマウンドに立った息子に、親としてもひと安心
――2025年に現役引退を決意されたときのことを教えてください。
美馬 2024年にひざを痛めてしまって、1年ぐらいかけて治療とリハビリを行い、やっと投げられるようになっていました。でも、もうすぐ1軍に上がれそうというときに、今度はひじを痛めてしまったんです。引退を決意する前も、ひじは画像上では治ってきてはいたんですけど、痛みがずっと続いているような状況だったんです。
ここ数年はけがを繰り返していて、メンタル的にもつらい時期でした。妻は、野球に関しては本当に後ろ向きなことは言わず、支えてくれました。「しょうがないじゃん、治すしかないし」と。
そのような状況でも、自分でできることはやってきたつもりではいました。ただ、試合に向けて何かできているかと言うと、それはどうなんだろうという感じでしたね。
そんなときに球団から、「引退試合を用意できるけど、どうする?」という言葉をいただいて。はっきり言われてはいないですが、「もう、戦力ではないですよ」ということなんです。それで、自分の中では、これでひと区切りかなと決心がつきました。
そもそも、僕は他球団から来た人間なので、花道を用意してもらえることなんてなかなかないですし、そんな球団の計らいがうれしかったんです。家族やこれまでお世話になった人に、最後に投げているところを見せたいなという気持ちがすぐに出てきて、迷いなく引退を選ぶことができました。それに、戦うところは、もう自分の場所ではないのかなと思いましたね。
数日、考える時間はもらったんですけど、報告した人みなさんから、「よく頑張ったね」と言ってもらえて。だれからも、止められることはなかったです(笑)。まわりの反応からも、いい選択ができたのかなとも思いました。
妻にも、「引退試合のこと、言われたよ」と言ったら、あっさりと、「やっぱり、そうか!」という反応で(笑)。でも、「よく頑張ったよね」と言ってくれました。
――ミニっちが始球式で投球をするシーンがありました。息子さんの投げる姿を見て、どんな気持ちでしたか?
美馬 始球式をするために、息子とキャッチボールをして練習をしたんですけど、全然集中力が続かないんですよ。大好きな工作をするときは2時間なんて平気で集中できるのに、野球になると10球も続きません(笑)
でも、始球式当日は、今までで一番いいボールが投げられました。もっとモジモジするのかなと思ったんですけど。「もっと前で投げていいんだよ」と言っても、「ここがいい」と言って。僕が一番緊張していましたけど、無事に投げることができて安心しました。
始球式をミニっちにやってもらうのは、妻のアイデアでした。できることがあるなら、全部挑戦させたいし、こんなことはもう2度とできないからって。それで、球団に相談したら、「全然OK!」と快い返事をいただけて。息子もすんなり受け入れたみたいでした。
引退試合では、球場にいる全員に送り出してもらえたように感じた
――引退試合の、自身の投球はどうでしたか?
美馬 意外とその日は調子がよくて。痛みはあったんですけど、2球続けてストライクが入って、「これ、投げれるわ」と思いました(笑)。次の1球で、「選手としてマウンドに立つのは、これが最後なんだ」と感慨に浸っていたら、投げた瞬間に「ブチッ」と、体にも響くような大きな音がなって・・・。一番太い腱が切れてしまったんです。でもその後、2球は投げましたけど、そこからは感慨に浸っている場合ではなかったです。「この痛みはまずい!こんなはずじゃなかったのに〜!」という感情になりました(苦笑)。まわりもみんな、僕の異変に気づいたみたいでした。
引退試合で投げられたことは、本当によかったです。球場にいる全員に、送り出してもらえた気持ちでした。そして、これまでお世話になった方にたくさん来てもらえたし、本当に幸せな1日だったなと思いました。多くの人に支えてもらって、ここまで来られたことを実感していました。いい、野球人生だったなと。
――退団後はコーチになるということですが・・・。
美馬 引退試合後に、実はすぐに病院に行って、すぐに手術をしたんです。手術が無事に終わって入院してのんびりしていたら、「じゃあ、◯日からコーチとしてよろしくね」という感じで連絡があって。もう、決まっていたようでした(笑)。でも、以前からコーチには興味があったので、本当にありがたい話でしたね。コーチになるのも、タイミングや枠があってのことだし、やりたくてもだれでもやれることではないので。
現役時代は、若手の選手に対して、「こうしたらもっとよくなるのにな」と思うところはあっても、選手同士だとなかなか伝えることってできないんですよね。だから、これからコーチという立場になって、若手の育成に携わっていきたいと思っています。
子どもたちには、何か夢中になれることを見つけてほしい!
――引退してからの生活は、どうですか?子どもたちとの時間も増えたのでしょうか。
美馬 選手のときは、「毎日トレーニングしなきゃ!」という感覚でオフを過ごしていたので、今は本当にのんびり過ごさせてもらっています。こんなにゆっくり休んじゃって、動かなくて大丈夫かな?と心配になるぐらいです。
子どもたちとの時間も以前よりたくさん取れるようになりました。ただ以前から、千葉ロッテでは、登板がなければ平日・休日問わず、子どもたちの行事には参加させてもらえるんです。だから、野球選手だからといって、子どもたちの行事などになかなか参加できないということは、あまりなかったと思います。とくに先発投手は、1週間ごとに動いているので、毎日試合に出る野手よりは家族との時間は確保しやすい職業でしたね。
――子育てをするなかで、美馬さんが大事にしていることはありますか?
美馬 難しいですね(笑)。でも、子どもたちがやりたいことは、積極的にやらせてあげたいなとは思っています。僕自身、野球と出合って、人にも本当に恵まれたし、野球がつないでくれた縁がすごく大きかったので。だから、子どもたちにも何か、夢中になれることを仕事にしてもらえたら、僕は一番うれしいなと思います。
妻とも、いつもそんな話をしています。妻も俳優という仕事がすごく好きで、出産や育児で仕事ができない時期もありましたが、いつも「仕事がしたい!」と話していたので。夫婦2人とも、自分がやりたいことを仕事にできていて、それがとても幸せなことだとわかっているので、子どもたちにもそういう人生を送ってほしいですね。
――美馬さんのお父さんとお母さんは、どんな方ですか?
美馬 父は警察官だったんですが、茨城県から都内まで通っていたので、とにかく忙しくて、あまり一緒にいられなかったイメージです。ただ、忙しい中でも、週末は野球につき合ってくれました。今は孫が大好きなやさしいおじいちゃんになってますね(笑)
母は本当にすごい人でした。父が仕事で忙しかったので、1人で子育てをしてくれていました。野球の送り迎えも、ほとんど母がやってくれていましたね。大学で寮に入って、全部自分でやるようになってから、母の偉大さを痛感しました。
母との大切な思い出は、2017年のファイターズ戦です。それまで2ケタ勝ったことがなくて、自分の中で足踏みしている時期だったんですが、母が亡くなる直前に、自分でもベストピッチングができて、そして初めての2ケタ勝利を挙げられた試合を見てもらえて。それが本当にうれしかったんです。
――父親になり、自身の人生観で大きく変わったなと思うところはどんなところでしょうか。
美馬 本当に、息子が生まれてきてくれて、すごく自分も成長できたなと思います。息子が先天的な手の障害で生まれてこなかったら、考えもしなかったような人生を歩んでいるし、いろいろなことがよく見えるようになってきたのかも。息子は、僕の今の人生を導いてくれるし、本当にいい縁を持ってきてくれる子なんです。妻も、そしてひめっちもそうですが、大切な3人の宝物をもらえました。
お話・写真提供/美馬学さん 取材・文/内田あり(都恋堂)、たまひよONLINE編集部
2025年に行われた引退試合では、お世話になった多くの方や、大切な家族に見守られて、最後のマウンドに立ったという美馬さん。これからは、千葉ロッテのコーチとして第二の人生をスタートさせます。自身が野球という人生をかけて夢中になれることに出会えたように、子どもたちにも何か夢中になれることを見つけてほしいと、パパとしてのやさしい一面も見せてくれました。
美馬学さん(みままなぶ)
PROFILE
1986年、茨城県生まれ。元プロ野球選手で、今季より千葉ロッテマリーンズの2軍投手コーチに就任。2010年、ドラフト2位で東北楽天ゴールデンイーグルスに入団。2013年、右ひじの故障もあったが先発として6勝をマークしてリーグ優勝に貢献し、日本シリーズではMVPを獲得。2017年には、11勝を挙げるなど活躍。2019年、FA権を駆使して千葉ロッテへ移籍し、移籍1年目にも2ケタ勝利を挙げる。2025年に現役引退。プライベートでは、2014年に俳優・アンナさんと結婚し、2019年に長男・ミニっち、2023年には長女・ひめっちが誕生。
●記事の内容は2026年1月の情報で、現在と異なる場合があります。


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