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「ミルクを飲んでも大量に吐く、寝返りもしない」何度相談しても“気にしすぎ”。2歳半でわかった希少難病【MECP2重複症候群】

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生後数日のかなでくん。「泣き声がとても小さかった」と直美さん。

大阪府に暮らす、4人家族の河越直美さん。現在14歳の長男・かなでくんは2歳半のときに、進行性の難病である「MECP2(エムイーシーピーツー)重複症候群」と診断されました。日本の患者数はわずか65名とされる希少疾患です。「生まれたときから、何かがおかしいと感じた」という直美さんに、かなでくんを出産してから診断を受けるまでのことを聞きました。全2回のインタビューの前編です。

出産の瞬間からあった違和感

生後11カ月のかなでくん。大好きなお姉ちゃんと。

直美さん家族は、長女が2歳半のころから、夫の仕事の都合でマレーシアで暮らしていました。アメリカの大学を卒業し英会話もできた直美さんは、第2子の妊娠がわかると現地の病院での出産を決めます。

「マレーシアには日本のような母子手帳がなかったので、日系書店で英語と日本語並記の母子手帳を購入し、妊娠中から健診のたびに医師に記入してもらっていました。2人目だし、出産は海外でもそんなに変わらないだろう、なんとかなるかな、と思っていました。妊娠中の妊婦健診ではおなかの赤ちゃんにも私にもとくにトラブルはありませんでした」(直美さん)

長男のかなでくんが生まれたのは、2012年5月。長女のときと同じ帝王切開での出産でしたが、生まれた瞬間に気になったことがありました。

「取り上げられた瞬間、泣き声が聞こえなかったんです。長女を出産したときにはかなり大きい声で泣いていたので、『あれ?』って。少ししてから泣いてはいましたが、とてもかほぞい声でした。

体重は3290g、身長は49cm。入院中に黄疸が出たり、ミルクの飲みがよくなかったりはしましたが、医師からとくに異常があると言われたわけではなく、1週間ほどで退院しました」(直美さん)

自宅に戻ってから、かなでくんのお世話をする中で、直美さんは「何かおかしい」と最初に感じた違和感を、さらに強めていくことになります。

「かなではミルクを飲んでもほとんど吐いてしまうような状態で、体重もなかなか増えませんでした。生後1カ月で予防接種を受けに行ったとき、小児科の医師に相談しましたが、『粉ミルクが合っていないのかもしれないから大豆ミルクに変えて、とにかくミルクをしっかり飲ませて』とだけ言われました。

でも、かなでは母乳を全然吸えなかったし、ミルクを飲ませても大量に吐いてしまうんです。だから栄養がたりていないんじゃないかということが心配で、生後数カ月は、1日中少しずつミルクを飲ませ続けていました。長女のときとは明らかに違うと感じていました」(直美さん)

「お母さん、気にしすぎ」と言われたけれど・・・

3歳のころのかなでくん。「かわいい顔見せて!」というと、必ずこの笑顔をしてくれたのだそう。

マレーシアでは日本のような数カ月ごとの乳幼児健康診査はありませんが、予防接種を受けるために定期的に小児科を受診します。直美さんはそのたびに、かなでくんの成長の気がかりを相談しましたが、「気にしすぎですよ」と言われるだけでした。

「生後6カ月にもなれば、寝返りしたりおもちゃに手を伸ばしたりするはずですが、かなではずっとあお向けで寝たまま、おもちゃに興味を示す様子もなく、追視も見られませんでした。これは絶対に何かあるはず・・・。生後6カ月の予防接種で『さすがにおかしいと思う。ちゃんと見てください』と医師にお願いしました。

医師はかなでの体を触診し、両わきを支えて体を持ち上げました。そのときに異変に気づいたようです。そのころの赤ちゃんは、わきのしたを支えて抱っこすると足がピーンと床に突っ張る動きをするらしいのですが、かなでの足はふにゃっとして突っ張りません。そして頭を触って『もう大泉門が閉じてる』と。大泉門は本来なら1歳半ごろに閉じるはずで、『なにかの病気の可能性があるから詳しく検査したほうがいい』と、言われました」(直美さん)

小児科医には「この子が歩けるようになるにはリハビリが必要かもしれない」とも言われ、リハビリもスタートすることになります。直美さんは「このままでは歩けなくなるほどのことなの?」と不安を強めながら、かなでくんの検査のために小児脳神経外科を受診しました。

「小児脳神経外科で検査を受けたところ、脳の成長が通常とは少し違うようだけれど、その原因はわからない、と言われました。原因はわからなくても、自分がずっと『何かおかしい』と感じていたのは気のせいではなかった、と確信しました。

その先生が、ちょうど日本の小児神経の医師が年1回の勉強会にマレーシアの病院に来るから、と日本人の専門医師を紹介してくれ、診察を受けることができました。かなでが生後7〜8カ月ぐらいのころのことです。その医師はかなでを診察したあと、『日本へ一時帰国したときに私の病院へ来れば、検査入院ができるから連絡してください』と言ってくれました。その言葉を聞いて、すぐに日本で検査しようと決めました」(直美さん)

帰国して検査とリハビリを受け、2歳半でやっと診断が

かなでくん3歳のころ。このころ、バニーホッピング(うさぎのようにピョンピョンと動く)で動けるようになったので、芝生のある公園でよくお姉ちゃんとしゃぼん玉遊びや追いかけっこをしていました。

直美さん一家は、かなでくんの検査のために、栃木県にある直美さんの実家に一時帰国をします。そしてかなでくんと直美さんは検査のため、東京の病院に1週間入院しました。

「さまざまな検査をしたところ、大脳皮質の白質という部分に何か大きな問題があるかもしれない、とのことでした。でもまだ原因はわかりません。
原因は不明でも、『リハビリを受ければもっとできることが増えるはずだ』と、担当の医師が大阪にある小児専門リハビリ病院を紹介してくださいました。

大阪の小児専門リハビリ病院は全国から患者さんが集まるので、すぐに入院できるわけではありません。そのため紹介状だけもらって、一度マレーシアへ戻りました。そして夫と話し合い、かなでのためにも家族で日本に戻ったほうがいいのではないか、と考えるようになりました」(直美さん)

かなでくんはマレーシアでもリハビリに通っていましたが、その際は英語か中国語での対応でした。直美さんは、かなでくんにとっては、家庭で慣れ親しんでいる日本語で療育やリハビリを受けられる環境がいいのではと考えます。

「まだ原因はわかりませんでしたが、かなでの成長のためには、できるだけかなでにとっていい環境でリハビリを受けさせたいと思いました。幸いなことに、大阪には夫の実家があります。夫は仕事の都合ですぐに日本に戻ることはできなかったので、まずは私と2人の子どもだけで帰国。大阪の夫の実家にお世話になることにしました。

そしてかなでが1歳になってすぐのころ、大阪の小児専門のリハビリ病院に1カ月半、母子入院をしました。その間、長女は夫の実家で生活。長女のお世話をしてもらえてありがたかったです」(直美さん)

大阪の小児リハビリ専門病院を退院したあと、かなでくんは毎週通院してリハビリを受けました。夫も帰国して大阪で再び家族4人で暮らすようになります。また、病気の原因を調べるために、東京の病院で染色体や遺伝子検査なども行いました。

「大阪に住み始めて半年ほどたったころに、東京の先生から連絡がありました。かなり詳しい遺伝子検査をしてくれたようなのですが、それでも診断には至らず、もしかしたら病名がわからないままかもしれない、とも言われました。

ところが、さらに半年ほど経ったころ、先生から再び連絡があったのです。『疾患が見つかったかもしれないから、確かめるためにもう一度検査入院してほしい』と。そして再び東京の病院で検査をした結果、『MECP2重複症候群』と診断されました。そのとき、かなでは2歳半になっていました」(直美さん)

できる限りのことをしよう。診断で覚悟ができた

かなでくん5歳のころ。療育園の夏祭りでの1枚。

MECP2重複症候群は、X染色体上にあるMECP2遺伝子が重複していることでさまざまな症状が起こる進行性の難病です。中等度から重度の発達遅滞や知的障害、筋力の低下、言語発達の遅れ、難治性のてんかん発作などの症状があります。主に男の子に発症し、根本的な治療法は確立されておらず、症状に応じた支援や治療が行われます。

「医師から説明を受けたのは、発達の遅れがあること、学齢期にてんかん発作が出る可能性があり、発作が出るとそれまでできていたことができなくなる可能性が高いこと。25歳までに約半数の患者さんが亡くなること、などです。そしていずれ人工呼吸器での呼吸管理など、医療的ケアの選択を迫られる可能性が高いこと、などを伝えられました。

想像よりシビアな話でショックでした。ただ、同時にそれまでの違和感がすっきりした感覚もありました。私がずっと感じていたことは、気のせいではなかったんだ、と。それまで『お母さんの心配しすぎじゃない?』と言われることもあったので、『やっぱり何かあったんだ』という思いもありました。育て方が悪かったわけでもないし、私のせいでもない。病気のせいだった、と腑に落ちたんです」(直美さん)

直美さんは「25歳」という厳しい将来の見通しを聞いて「かえって覚悟ができた気がする」とも言います。

「不思議なんですが、その数字を聞いて頑張る期間が明確になったことで、前向きになれた気がします。実際どうなるかはわからないけれど、『そのときまで精いっぱい頑張ろう、この子と一緒にできる限りのことをしよう』と思うことができました。

だけど、ふとした瞬間に気持ちがしずむこともあります。診断を受けてから、心のどこかにいつもおもりがあって、ときどきそのおもりが顔を出すことがあるんです。

長女の誕生日はただただ、純粋に成長を喜べていました。でもかなでの場合は進行性の疾患ということもあり、親として素直に誕生日をお祝いすることができませんでした。かなでが幼いころから誕生日を迎えるたびに、どうしても『いつ発作が出てしまうんだろう』『来年はどうなっているかわからない』と考えてしまいます。診断されて間もないころ、テレビの歌番組で流れてくるヒットソングの『未来は悪くない』という歌詞を聴いただけで、私たちには明るい未来はないのかもとすごく悲観的な気持ちになってしまったこともあります」(直美さん)

ゆっくり少しずつの成長がうれしかった

かなでくん6歳、砂場で遊んでいる様子。

2歳半でこの病気の診断を受けたかなでくんでしたが、療育やリハビリに通う中でできることが少しずつ増えていきました。

「座ることしかできなかったかなでが自分で動き始めたり、歩行器で爆走するようになったり、こっそり長女のおやつを食べたり。ゆっくりながらも着実に成長していきました。そんなかなでの姿を見るのが本当にうれしかったです。

あるとき定期的に計画していた家族旅行に、長女が部活で一緒に行けなかったことがありました。するとかなでは旅行から帰宅して長女の姿を見た瞬間、長女に抱きついて離れませんでした。いつもずっと一緒にいたはずのお姉ちゃんが、いなくなってしまったと思っていたのかもしれません。長女を見つけたときのほっとしたかなでの表情がすごく印象に残っています」(直美さん)

進行性の病気であるMECP2重複症候群は、てんかん発作が出始めると、その症状が徐々に進行します。発作が続いたりひどくなると、それまでできていたことができなくなる可能性も。直美さんは「いつ発作が出てしまうかがいちばん怖かった」と話します。

「毎日療育に通って、リハビリを受けて、できることが少しずつ増えたのに、てんかん発作が出始めたら、それまで毎日少しずつ積み上げてきたものが崩れてしまうと考えると怖かったです。

大きな不安はありましたが、かなでの療育園で出会った人たちのおかげで深く考え込まずにいられたと思います。かなでが1歳半から通っていた療育園では、さまざまな病気や障害のある子のお母さんと出会いました。大阪という土地柄もあったかもしれませんが、みんなとても明るくて、障がいや発達の遅れについても深刻になりすぎず、ときには笑いに変えるような雰囲気があったんです。その空気感にとても救われました」(直美さん)

リハビリを受けながら、立ったり歩行器で歩いたり、少しずつできることが増えていったかなでくん。しかし、かなでくん年長の冬、直美さんが恐れていた初めての発作が起こってしまいます。

【青天目先生より】発達の遅れと哺乳直後の吐き戻し、繰り返す感染症が病気の特徴です

6歳のころのかなでくん。療育施設でブランコに乗っています。

MECP2重複症候群は、X染色体の上にあるMECP2遺伝子が、本来は1つだけが働くはずなのに、2つ以上あって、過剰に働く疾患です。基本的に男の子が発症します。患者さんによって重症度や症状の出方は違うこともあるのですが、典型的には、乳児期から、身体がやわらかくて発達も遅れます。哺乳もなかなかできず、哺乳ができても、たて抱っこをしてげっぷを出させようとしたらその瞬間にもゴボッと一気にまとめて嘔吐することがあります。そして、体重が増えません。また、肺炎や中耳炎、尿路感染症、ときには髄膜炎や敗血症といった重症の感染症を繰り返します。
こうした特徴が、厚生労働省研究班と患者会の共同研究で明らかになってきました。診断するためには、マイクロアレイ染色体検査という特殊な検査をする必要があります。マイクロアレイ染色体検査は2021年から保険で検査ができるようになり、MECP2重複症候群も、診断される患者さんが増えることが予想されています。

お話・写真提供/河越直美さん 監修/青天目 信先生 取材・文/早川奈緒子 編集・構成/仲村教子(entente)、たまひよONLINE編集部

▼続きを読む<関連記事>後編

MECP2重複症候群は、成長により病気が進行する希少疾患です。後編では初めての発作のあとのかなでくんの病気の進行の様子や、成長や家族のことなどについて聞きます。

「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指してさまざまな課題を取材し、発信していきます。

MECP2重複症候群患者家族会ホームページ

河越直美さん(かわごえなおみ)

PROFILE
大阪府在住。マレーシア在住中の2012年に長男を出産。2014年に長男が「MECP2重複症候群」と診断される。2016年「MECP2重複症候群患者家族会」を設立。学会での疾患周知や勉強会開催、海外の医師や家族会との交流を行うなど、精力的な活動を展開。

青天目 信 先生(なばためしん)

PROFILE
1999年大阪大学医学部卒業。国立病院機構大阪医療センター小児科科長。大阪大学小児科臨床神経グループ、国立精神・神経医療研究センター病院小児神経科などの勤務を経て、2025年現職。小児神経全般、てんかん、希少神経難病を専門とし、診療・研究に携わる。

●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2026年9月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

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