日本の子どもは自己肯定感が低い!?自己肯定感を高めるには?【専門家アドバイス】
内閣府の調査によると、「諸先進国と比べて日本の子どもは自己肯定感が低い」という結果が出ています。自己肯定感が低いことで考えられるデメリットや、自己肯定感を高めるためにママやパパができることなどについて、臨床発達心理士で、東京家政大学子ども学部子ども支援学科教授の岩立京子先生に聞きました。
周囲と比較されて育つと自己肯定感が低くなる
――まず、「自己肯定感」とはどのようなものなのか教えてください。
岩立先生(以下敬称略)自己肯定感は「自分はこれでいいんだ」と、自分の存在をポジティブに受け止められる感覚です。自己肯定感が高いと、いろいろなことに意欲的に取り組め、多少の失敗ではくじけない強い心を持つことができます。
反対に自己肯定感が低いと、「自分はダメな人間だ、何をやってもうまくできない…」とネガティブになり、新しいことに挑戦する意欲がわきにくくなります。
――自己肯定感はとても大切なものなんですね。ところが、内閣府が発表した平成26年度版「子ども・若者白書」によると、諸先進諸国に比べて、日本の子どもは自己肯定感が低いという結果が出ています。なぜ日本の子どもは自己肯定感が低いのでしょうか。
岩立 日本は他者に気を遣うことが重んじられる文化で、子どもは小さいころから、それを学んでいきます。他者へ配慮すること自体はすばらしいことですが、度が過ぎると、他者のことばかり気にするようになってしまいます。一方で、現代の子どもは、小さいころから入試などにより、一つの基準で周囲と比較され、優劣で評価されることが多くなっています。「●●ちゃんはできるのにわたしはできない」など、他者と比較され、他者に気づかうあまり、自信を失うような場面が多々あることが、原因の一つに挙げられます。小学校入学以降に自己肯定感が低くなる傾向にあるのは、学校に入ると勉強の成績で周囲の子と比較される場面が増えるからでしょう。
さらに、核家族化・少子化による子育て環境も見逃せない要因です。ママやパパが「この子の子育ては失敗できない」とプレッシャーを感じながら子どもに接していると、子どもはその気持ちを敏感にキャッチ。「ママやパパが期待するようにできない」と考え、自己肯定感が低くなってしまうことが考えられます。
でも私は、内閣府の結果を100%うのみにしなくてもいいのでは、とも思っています。「謙遜」は日本の文化なので、「自分はこんなにできる!」「こんなにすごい!」と自己評価する人は、そう多くないですよね。一方、欧米は「自己アピールをすることは当たり前」の文化。こうした文化の違いは子どもの回答にも反映されるので、それがこの調査結果に表れているともいえます。
――内閣府の調査ほど日本の子どもの自己肯定感は低くないかもしれないけれど、やはり、調査結果からは日本の子どもは「自己肯定感が高い」とはいえないわけですね。それは子育て中のママやパパにとって、軽視できませんね。子どもの自己肯定感を高めるために、ママやパパができることはありますか。
岩立 すぐにできることがあります。それは「子どもをほめる」こと。これだけでいいんです。
最も信頼しているママやパパにほめられると、「自分はこれでいいんだ」と、自分自身のことを肯定的に考えられるようになります。そして、目の前にある1つ1つのことに意欲的に取り組み、広い世界へ飛び出していこうという気持ちが持てるようになるのです。
子どもの自己肯定感を高めるには「プロセスほめ」を意識して
――子どもをほめる…実はそれで悩むママやパパは少なくありません。「なかなかほめるようなことをしてくれない…」という声もよく聞きます。子どもをほめるコツを教えてください。
岩立 子どもが何かをできたときは、親は自然とほめますよね。だから、成長が目覚ましく、常に何かしらができるようになっていく0才児などはほめるのがすごく簡単。ところが、子どもの年齢が上がるにつれて、親が子どもに求めるレベルが上がって来るので、ほめるよりしかる場面のほうが多くなる、というのはよくあることです。
もちろん、何かができたときにほめるのは大切です。できたときにほめられると子どもは達成感を味わえ、「もっとやってみよう」「今度はもっとうまくできるようになろう」と、意欲が高まるからです。
でも、うまくできたときにほめるのは、「親が求める基準に達したからほめる」ということにもなるので、うまくできずにほめてもらえないと、「ぼくはダメなやつだ…」と子どもが感じてしまい、自己肯定感が低くなる要因になります。
そのため、たとえ結果としてはうまくできなかったとしても、その過程で頑張ったところをほめる、「プロセスほめ」をママやパパにはしてほしいですね。
さらに、「ここは難しいそうだけど大丈夫?ママと一緒にやってみる?」と、子どものやる気を応援するようなかかわりを加えると、子どもは多少不安でも、前向きになることができます。
――「子どもをほめよう!」と意識しすぎて、わざとらしくなってしまう…と悩むママやパパもいるようです。
岩立 感情がこもっていない、とってつけたようなほめ言葉は、子どもの気持ちに届かないばかりか、逆効果になることがあります。ほめ方がしらじらしくならないようにするポイントは、まず「いいところ探し」をすること。そして、そこにフォーカスしてほめるようにしましょう。
たとえば、することが遅い子が選択に困ったときは、「よく考えているんだね」などと理解するようにしていくと、自然と心のこもったほめ言葉が出てくるはずです。
――子どもの年齢が上がるほど、ほめにくくなる傾向にあるようです。年代ごとの「ほめポイント」を教えてください。
岩立 0才代は子どもの行動すべてがほめポイント。「いいうんちが出たね」もほめ言葉です。子どものことをほめやすい0才代に、たくさんほめる習慣をつけておくと、その後も子どもをほめることにとまどいがなくなり、子どもの発達にも親子関係にもプラスに働きます。
1才代になると動きが活発になり、自我も芽生えてくるので、「ダメ」と言う機会が増えてくると思います。でも、禁止するのはどうしてもダメなことだけにして、「ごみをポイしてくれてありがとう。ママうれしいわ」といったように、親子のやり取りの中でほめることを探しましょう。
イヤイヤ期の2才代は、何かと大変な時期ですが、子どもがやりたがることは危険のない範囲でまず自由にやらせ、結果は不十分でも「靴下が履けたね。やったね!!」など、やる気を見せたことをほめます。
3才になり幼稚園に入園すると、周囲の子どもと遊ぶ中で、自分とお友だちを比較するようになり、「あの子のように●●ができるようになりたい」と感じ始めます。「すごく頑張ったね、ここまではできたね!」と達成感を味わわせつつ、子どもが思い描くレベルに達するように、「こうやったらいいんじゃないかな」と、手がかりを出してやったり、一緒にやったりしていきたいですね。
4才以降は、単に「すごい」とほめると、「何がすごいの!?」と反発されることがあります。「早起きしてちゃんと歯磨きできるなんて、おねえちゃんになったね」など、具体にほめると心に響くようです。こうすることで子どもが納得するし、ママやパパが自分のことをしっかり見てくれていることがわかり、うれしさが高まります。
子どもの様子をよく観察し、子どもに寄り添ったかかわり方をすると、ママやパパは自然とほめ上手になれると思います。
お話・監修/先生 取材・文/東裕美、ひよこクラブ編集部
自己肯定感は、子どもが未来に向かって羽ばたいていくためのエネルギーになります。子どもの心に響く方法でたくさんほめて、自己肯定感を高めていきたいですね。
岩立京子先生(いわたてきょうこ)
(臨床発達心理士。東京家政大学子ども学部子ども支援学科教授)
Profile
東京学芸大学教育学部、大学院修士課程を経て、筑波大学大学院博士課程心理学研究科心理学専攻に進学。博士(心理学)取得。専門分野は幼児教育、発達心理学。多くの幼稚園での助言者、文部科学省の調査研究協力者会議の委員などを歴任。