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スウェーデン、コロナ禍でも子どもを政治参加させる理由【子どものためのコロナ会見】

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※写真はイメージです。
waldru/gettyimages

新型コロナウイルス対策としてのロックダウン(都市封鎖)を実施せず、「一人ひとりの責任ある行動」を促して独自路線をとり、注目されたスウェーデン。
そこには「スウェーデン政府と国民の相互信頼」があるという見方を前回までの記事でお伝えしてきました。

今回は、「子どもの政治参加」について。コロナの議論にも政府やメディアが積極的に子どもたちを参加させているのはなぜなのか?スウェーデンで子育てしながらで翻訳家・教師として働く久山葉子さんに綴ってもらいます。

※この記事は2020年7月24日時点の情報です。

【久山葉子(クヤマヨウコ)】
1975年兵庫県生まれ。神戸女学院大学文学部英文科卒業。スウェーデン在住。翻訳・現地の高校教師を務める。著書に『スウェーデンの保育園に待機児童はいない(移住して分かった子育てに優しい社会の暮らし)』を執筆、訳書にペーション『許されざる者』、マークルンド『ノーベルの遺志』、カッレントフト『冬の生贄』、ランプソス&スヴァンベリ『生き抜いた私 サダム・フセインに蹂躙され続けた30年間の告白』などがある。

子どものためのコロナ記者会見

今回のコロナで、日常生活に影響がなかった方はいらっしゃらないと思います。そして今ほど「政治」というものの存在を意識したことはなかったのでは。これまで政治にはそれほど興味がなかった子どもも、自分たちの生活を決めているのは国の代表であること、ひょっとすると命まで預けているかもしれないことに気づいたのではないでしょうか。わたしも改めて「政治家の役割とは」「民主主義とは」ということを考えさせられました。

スウェーデンで印象的だったのは、コロナの議論にも政府やメディアが積極的に子どもたちを参加させていたところです。
3月19日にはステファン・ロヴェーン首相が子ども向けの記者会見を行いました。女性の首相も増えている北欧ですが、スウェーデンの首相は62歳のおじさんです。いつもの濃紺のスーツの襟元にスウェーデンのバッジをつけたいでたちで、政府の記者会見場に立ち、子どもたちからの質問に答えました。感染防止のため、子どもたちからの質問は、事前に子どもニュース番組『Lilla Aktuellt【ルビ:リッラ・アクチュエルト】』に動画で集められていました。

「Hej Stefan!(こんにちは、ステファン!)」
格差を極力なくしているスウェーデンでは、子どもたちも首相にファーストネームで呼びかけます。それから「なんでスウェーデンは休校しないんですか」「夏になってもコロナはまだありますか?」「ママの仕事がなくなっちゃいました」といった質問が飛び出しました。


4月20日には政府がまた別の「子どものための記者会見」も開催。このときはオーサ・リンドハーゲン男女平等・差別問題対策大臣をはじめ、普段大人向けのコロナ省庁合同記者会見を行っている公衆衛生局や緊急事態庁の担当者が、子どもたちからの質問に答えました。代表の子どもたちが報道陣のように会場に座って質疑応答をしている姿が印象的でした。

どちらの記者会見も、子どもニュースや子ども新聞でも報道されています。子どもニュースは普段から学校でもよく見せていて、わが家の娘(小学五年生)もこの記者会見のことを知っていました。

子どもニュースでは、3月以降、大人のニュースと同じように連日のようにコロナのことを取り扱っています。親の失業のことや、リスクグループの兄弟がいる子は自主的に学校を休んで外には出ていないことなども、子ども目線でレポートしていました。


子どもニュースのレポーターのお兄さんが、大人向けの省庁合同記者会見のマスコミ質疑応答に登場することもあります。子どもたちがいま戸惑っている問題、例えば「ソーシャルディスタンスとは具体的には何メートル?」といった質問をして、省庁の担当者から答えをもらいます。その様子が子どもニュースの中で流されていました。

子どもたちに「自分も社会を変えられる」と教えるための政治参加

こんなふうに、コロナという社会問題に子どもたちを積極的に政治参加させる理由はなんでしょうか。この国は子どもの権利を大切にしているというアピール? 子どもたちに政治を身近なものと思ってもらうため? それもあるでしょう。でも理由は何よりも、普段から子どもたちに“民主主義の精神”を教える努力をしている点。一言で言うと、子どもたちに「自分も社会を変えられるんだ」と思ってもらうようにしているからだと思います。

子どもたちにとっての「社会」は学校ですから、普段は主に学校がその責任を担っています。娘の小学校では一年生のときからクラスで二人ほど役員を選んで、生徒会に参加させています。最初のうちは、なるべくたくさんの子が体験できるように、一カ月ごとに役員が変わっていました。まだ一年生だったので、あくまで「体験する」程度だったとは思いますが、これが人生における社会参加の第一歩になるわけです。

また、先生たちは積極的に生徒を授業計画に参加させなければいけません。学校庁のHPにはこのように記載されています。

〝生徒は自分が受ける教育と教育環境に影響を与える権利がある。それによって生徒は責任感を学び、学習意欲を増進する。決定に参加することにより、生徒は民主的な決定を具体的に学ぶことができる〟

わたしは自分が先生として働き始めたとき、生徒を授業計画に参加させると言っても、どうやればよいのかさっぱりわかりませんでした。それはわたし自身が育つ過程で、そのような機会がなかったせいでしょう。

学校庁は、下記の部分に生徒の意見を取り入れればいいというアドバイスをしています。

-どのような教材を使うか
-課題にかける時間や条件
-課題にどういった手法を使うか
-どのようなテストの方法を使うか

今ではわたしも、テストや大きな課題の締切日を設定するときは、まず生徒に相談するようにしています。他の科目との締切が重ならないようにというのもありますが、こうすることで生徒は授業計画に参加しているという実感をもつことができます。また、テストや課題の実施方法を、生徒に選ばせることもあります。筆記なのか、口頭なのか、個人でやるのか、グループでやるのかなどです。

とはいえ……生徒会にしても授業にしても、生徒が影響を与えられるのは学校全体の運営から見たら非常に限られた範囲。生徒は提案をすることはできますが、最終的にそれを許可するかどうかは学校や先生の采配になります。学校や授業の運営上、どうしてもその程度に限定されてしまうのです。そんな程度なら、やってもやらなくても同じでは?と思われてしまうかもしれません。それでも、その限られた中で、先生たちは可能なかぎり生徒の意思を尊重するように日々心がけているし、そうすることが大人としての大切な務めでもあります。冒頭で「首相のこともファーストネームで呼ぶ」と書きましたが、学校でも先生と生徒はファーストネームで呼び合います。「先生だからえらい」「先生がなんでも決めて、生徒は指示に従うだけ」ではなくて「先生と生徒は一緒に学びをつくっていく仲間」なのです。


たとえば毎年学校では生徒に各授業に対するアンケートを取ります。その中には「先生はあなたにもっと学びたいと思わせてくれますか」「あなたはその授業で自分が成長していると感じられますか」といった当然の質問以外に、「あなたは授業に影響を与えられていると思いますか」という設問があるほどなんです。

つまり、スウェーデンでも学校で生徒の意見を取り入れるのには限界がある、だからこそ、わずかな余地を最大限に活用している。そのように感じます。こうやって大人は、努力して子どもたちに「自分も社会を変えられるんだ!」という意識をもたせていきます。その努力の賜物と言えるのが、昨年大活躍したグレタ・トゥーンベリさん。中学生のときから環境活動を始めて、注目されました。このように子どもがイニシアティブを取る活動は、社会全体が喜んで見守り、応援します。

スウェーデンでは18歳の議員も誕生する!?

スウェーデンの学校でどのように民主主義を教えているかにご興味のある方は、若者の社会参画研究者の両角達平さん他が「スウェーデンの主権者教育の教材」を全訳したものをこちらで公開しています。

中学生・高校生ともなると学校の生徒会活動では飽き足らず、各町にある政党の青年部に所属する生徒もいます。青年部では同じ志をもつ仲間と一緒に、自分が住む町の社会を直接変えていく活動ができます。わたしが勤める学校の生徒たちも、青年部のメンバーとして環境やLGBTなどの分野で市議会に働きかけていく活動をしていました。

18歳から選挙権がありますが、それと同時に立候補する権利も生まれます。つまり市議会でも18歳議員が誕生することもあります。4年の任期のうち、たいていは1,2年で辞めてしまうことが多いのですが、それは大学進学のために地元を離れるためです。「途中で辞めるとわかっているのに、なぜあえて18歳の若者を市議会議員にするの?」という疑問を、市議会の人にぶつけたことがあります。するとこんな答えが返ってきました。「それでも若者の意見を聞くことは大事だと思うから」そこでもやはり、社会が若者を積極的に登用しているのを感じました。

スウェーデンの大学の教職課程でまず習ったのが「隠れたカリキュラム」という概念です。60年代にアメリカで生まれた概念で、「学校で生徒が勉強以外に習う事柄」を指しています。例えば、静かに座って人の話を聞くこと、自分の番を待つこと、発言したければ手を挙げることなど、国によって詳細は変わってきますが、どこの国でも集団生活に必要なことを学校でたくさん学ぶと思います。一方で、学校や先生が、性別、社会格差、国籍などで生徒を差別すれば、子どもたちはそれも無意識に学んでいきます。「子どもでも(もちろん大人でも)社会を変えていける」という実感も、ここに含まれてきます。それが、スウェーデンの若者の総選挙投票率85%(2018、全体では87%)にもつながってくるのではないでしょうか。「社会のここがおかしい」と思ったら「自分たちで変えていこう」と思う気持ち。それが民主主義の基本であり、子どものうちに養ってほしい大切な精神であると思います。

(文/久山葉子)

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