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重い障がいを持った子どものお母さんたちを支えたい 医療的ケア児が通える保育園を立ち上げた母の奮闘記 VOL2

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18トリソミーという先天性の染色体異常の、重度の病気を抱えて生まれてきた次男を自宅で介護し、5年前に看取られた藤井蕗(ふき)さん。同じ境遇の子どもや家族を支えたいと、自らNPOを立ち上げ、重度の障がい児が通える小規模保育園「キコレ」をコロナ禍で開園しました。子どもにも仕事にもそして社会にも常に全力で向き合う姿に、たくさんの人が共感し支援しています。その活動の源やこれまでの歩みを伺いました。

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長く生きられなかった息子と、導かれた今の仕事

次男の旅也は、生まれた後心臓などの手術を繰り返しNICUで長期入院、1歳過ぎて在宅に移りました。そのとき、ちょうど私の育休が切れるときでした。さまざまな制度を使えば働き続けることはできたのかもしれませんが、息子は生まれる前からあまり長く生きられないと言われていたので、少しでも子どもと一緒に過ごしたいと退職を決心しました。当時、私は病院でアートセラピストとしてフルタイムで働いていましたが、自分が悲しさや寂しさでいっぱいのときに患者さんとちゃんと向き合うのは難しいと思いました。

旅也が亡くなって、「この先、どうやって生きていこうか」と悩んでいたときに、「そのうち導かれるよ」と夫が言ってくれたことを覚えています。一度は仕事をあきらめましたが、いまこうして私が新しい仕事をしていられるのは、「導かれているから」かもしれません。

ちょっとしたことが死に直結。隣のスーパーに行く時間がない

次男を在宅で看病していた2年間は、3時間続けて寝られたら良いといわれるくらい、睡眠時間はとても短かったです。特に退院してすぐのころは、ミルクをあげるとエネルギーが消化に使われ体内の酸素濃度が下がるため、夜中でも酸素量を増やす必要がありました。うちの子はちょっとしたことでも死に直結する可能性があったので、隣のスーパーに行くのはもちろん、ちょっと玄関先に出るのさえドキドキしていたし、洗濯物を干すときもベランダに走って行って走って戻って来るような状態でした。

3番目の子どもの臨月のとき、夜中にはいつくばって酸素の量を上げに行く私の状態に、訪問看護師さんが「早産になるから休んで」と言って心配してくれましたが、なぜか「3番目は普通に生まれてくるだろう」という確信がありました(笑)

重い障がいをもった子どもがいると、お母さんは24時間休む時間がない。この時の実感が、保育園の立ち上げたいとおもったきっかけになりました。

息子たちの手を引いて、終業後に物件を探し歩く

保育園の内装も息子たちが手伝ってくれた

保育園立ち上げのために、長男と三男を、振り回してしまったと思います。次男が亡くなった後、保育園の立ち上げを決意したとき、私はまたフルタイムで働いていたので、夜、暗い中、2人の手を引いて物件を見に行ったこともあります。週末の募金活動にも連れ出していました。ある意味犠牲になっているにも関わらず、子どもたちはいつも私のことを応援してくれていました。「キコレ」ができるまでのプロセスも全部見ることを彼らなりに楽しんでいてくれたと感じていますし、いまも保育園に来ることを楽しみにしているようです。

特に、現在小6の長男は、旅也の闘病中、たくさんのことを我慢していたと思いますが、一度も文句を言ったことはありませんでした。そのことに関して私は長男にとても感謝しています。きょうだい児は、寂しいし我慢もしなくてはならなくて本当に大変だと思っていますが、しっかり愛情をかけさえすれば、その豊かな経験を糧に自分なりに育っていくと私は信じています。

保育園の運営が、亡くなった息子の存在を感じさせてくれる

今まで、妊娠から出産、子どもの闘病とそのすべてに全力で向き合ってきました。子どもが亡くなって、どん底からはいあがってきたという感じです。
いまの私は、保育園があることで亡くなった次男旅也の存在をずっと感じていられているんです。彼の子育てができなかった分、保育園を大切に育てていこうと思っています。旅也が亡くなって5年が経ちますが、この仕事をしていることで旅也とともに歩んでいる気がします。

障がいをもった子どもの支援は整い始めている

わが家の次男は超重度の障がいをもって生まれましたが、祖父母が遠方に住んでいるというなかでも、長男は保育園でしっかり保育してもらえたし、ファミリーサポートのかたがお迎えに行ってくれたりサポートしてくれたりしましたし、産前産後はヘルパーさんが家事を手伝ってくれたので、そういうサービスを利用しながらシビアな生活もなんとか過ごすことができました。

障がいをもった子どもを授かることは、自分で選ぶのではなく、ある日突然やってきます。最近は、出生前診断などが注目されて、そういうことにおびえている人たちも多いようです。しかし一方で、障がい児に対する支援は着実に整い始めていますから、心配し過ぎずにいてほしいですし、もしそういうことが自分に起きたとしても「ちゃんと支えてくれる仲間はいるから」とお伝えしたいです。

藤井蕗(ふじいふき)さんのプロフィール
アートセラピスト・保育士・特別支援教育教員免許取得・医療的ケア児家族
京都教育大学発達障害学科卒業後、ドイツ、スウェーデンにて障がい児・者の支援に携わる。2004年英国ハートフォードシャー大学大学院アートセラピー科修了。帰国後、医療法人にて発達障がい児、高齢者、緩和ケアの領域でアートセラピーを実践。二男・旅也が18トリソミーを抱えて生まれてきて、在宅移行する際に退職。著書「a life 18トリソミーの旅也と生きる」(クリエイツかもがわ出版)。自分自身の体験を通して、障害や病気を抱えた子どもを授かったとしても、お母さんたちが自分の仕事を続けられる社会にしたい、自分たちと同じような体験をしている子どもたちや家族たちのプラットフォームとなるような場所を作りたいと考え、「i-care kids京都」を立ち上げた。
「i-care kids京都」:https://i-carekids.com

取材・文/米谷美恵

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