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自閉症の弟が、小児在宅医療の道を後押しした――ある医師の思い

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子どもの頃の中村先生(中央)と、弟の尚志さん(左)、妹の文子さん(右)。

ワンオペ育児、孤育て、長時間労働、少子化…。本特集「たまひよ 家族を考える」では、妊娠・育児をとりまくさまざまな事象を、できるだけわかりやすくお届けし、誰ひとりとりこぼすことなく赤ちゃん・子どもたちの命と健康を守る世界のヒントを探したいと考えています。

シリーズ「子どもの在宅医療」の連載3回目では、日本の在宅医療の最前線で働くつばさクリニック理事長の中村幸伸先生に、小児在宅医療を始めようと思ったきっかけや、現場で感じている課題について聞きました。

自閉症の弟がいたからこそ、小児在宅医療を始めようと思った

医師になってすぐに、岡山県倉敷市の総合病院に勤務して、循環器内科医として忙しく働いていた中村先生。そこには日々多くの患者さんが、心筋梗塞などの重篤な病気で運ばれてきていました。

「高齢者だけでなく、小さなお子さんや働き盛りのお父さんなど様々な患者さんがいて、なんとか助けたいと昼夜問わず懸命に働きました。でも、せっかく命を救われた患者さんでも重い障害がのこり、『家に帰っても通院が難しいから』という理由で退院できないケースが多々ありました。家に帰りたいのに、家族や友人にも会えず、日々の行動も制限されてしまう。そんな患者さんたちをどうにかできないだろうかという思いがありました。患者さんが何の心配もなく、自宅でゆっくり過ごせる環境を整えたいと考えたんです」

こうして中村先生は、在宅医療を学んで現場で経験を積み、2009年に岡山県で初となる在宅医療専門のつばさクリニックを開院。つばさクリニックは全国でも珍しく、赤ちゃんや子どもの患者さんを対象にした訪問診療も行ってきました。その背景には、中村先生の弟さんの存在があったといいます。先生の弟、尚志(たかし)さんは、知的障害を伴う重度の自閉症児でした。

「弟は、私にとって子どもの頃から『なんだかちょっと変わってる子』という感じで、障害児だから特別という気持ちはありませんでした。尚志にはいろいろなこだわりがあって、周りの人を困らせることもありましたが、素直でやさしい性格です。そんな弟の手助けをしながら当たり前のように一緒に育ったんです。うちは3人きょうだいで、妹は尚志の影響で脳神経小児科医になりました。家族みんなで過ごせて本当によかった。そういう経験があるからか、自宅にいたいと希望するお子さんやご家族をサポートしたいという気持ちがずっとありました」

年々ニーズが高まる小児在宅医療

つばさクリニックでは、これまで多くの小児患者を診てきました。NICUから退院したばかりの、酸素吸入器につながれた小さな小さな赤ちゃん。3歳で白血病を発症し、再発して余命を宣告され、お母さんお父さんと自宅で最期の3ヵ月間を過ごして6歳で亡くなった子。生まれた時から口で栄養を摂ることができず、歯みがき粉の味しか知らなかったけれど、3歳になって初めてミルクを口に入れることができた時、驚きのあまり目を見開いた子――。その一人ひとりを、中村先生ははっきりと記憶しています。

「私自身、5人の子どもの父親なので、できるかぎりお子さんやお母さん、お父さんたちの力になりたいという思いがあります。2013年には、大学で同期だった小児科専門医の中川ふみ先生がスタッフに加わって、より多くの子どもたちを診ることができるようになりました。やはり高齢者の患者さんが多いですが、約1割(70名)が子どもの患者さんです」

つばさクリニックがある岡山県の南部には、NICUがある病院が5つ、障害を持つ子どものショートステイの受け入れができる施設が2つあり、小児専門の訪問看護ステーションも近年できました。

「うちのクリニック周辺は、他の病院や施設との連携もあり、全国的に恵まれた環境です。年々在宅医療を希望する子どもの患者さんの数は増加していて、地域の医療との連携がますます重要になっていると実感しています」

病気や障がいのある子どもたちを、地域ぐるみで育てたい

取材中、ふと中村先生が話していた言葉が印象的でした。

「うちの小児患者さんの親御さんからは、たとえ病気や障がいがあっても子どもが大好きだという、強い思いを感じます。もちろん、今のお子さんの状態をなかなか受け止められないという親御さんも中にはおられます。それでも、時間をかけておうちで過ごしているうちに、気持ちがだんだん変化して、より深い愛情を抱けるようになったというご家庭も多くありました。患者さんのケアは当然なのですが、私たちは家族への心理面でのケアを大事にしています。親が不安や心配ごとを打ち明けられる場があることで、子どもとそのご家族により良い影響を与えられるからです」

しかし、子どもの在宅医療は患者数が大人ほど多くないこと、重症の患者が多いことから、全国的にはまだまだ環境が整っておらず、請け負ってくれる病院がなかなか見つからないのが現状です。「在宅医療には、受け皿になってくれる医療機関が不可欠なので、もっと増えてくれればいいのですが…。私たちも、もっと働きかけていかなければいけません」と中村先生は語ります。

今後、子どもの在宅医療を検討したいという家庭はまず何から始めたらいいでしょうか?と聞くと、、「相談支援専門員や病院のケースワーカーなどの専門家によく相談して、地域のサービスを調べることが大切です」と中村先生。

「高齢者の介護保険とは違い、残念ながら子どもの介護はサービスやサポート体制がそれほど整っていません。たとえば自宅でお風呂に入れてくれる訪問入浴サービスひとつとっても、補助金が出る地域もあれば全て自費のところもあり、かなりばらつきがあります。自分の住んでいるところではどうか、よく確認してほしいと思います」

取材・文 武田純子

小児ケアが必要な子どもと家族を地域ぐるみで支えていくことが、退院したいけれどできない子どもを減らし、親子間の距離を縮めて愛情をいっそう深めることにもつながります。私たちも、地域に住む一人として、声かけや手助けなど、できることを探ることが大切ではないでしょうか。

中村幸伸先生(プロフィール)

1977年島根県生まれ。2002年鳥取医学部医学科卒業後、倉敷中央病院に入職。2009年、岡山県初の在宅診療専門所「つばさクリニック」を開設。2014年「つばさクリニック岡山」を開業。著書に『畳の上で死にたい 「悔いなき看取り」を実現した8家族のストーリ―』(幻冬舎)がある。

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