【妊産婦2000人大規模調査】 コロナ禍で出産の実母頼み減るか?夫・パートナーと「2人で出産」傾向へ
0〜18カ月の子どもをもつママ約2,000人を対象に、2020年春以降における生活・意識について調査した『たまひよ 妊娠・出産白書2021』。その調査・分析結果を、専門家・識者のインタビューとともに紹介する企画の最終回は、「男性の育休・育児参加の実態」がテーマです。
お話をお聞きしたのは、2019年に2カ月間の育児休暇を取得した、認定NPO法人フローレンス代表室の前田晃平さん。ソーシャルマーケターとして日頃男性の家庭進出の重要性をSNSなどで発信しています。男性から見た育児の現場や考え方を語ってもらいました。
男性の育休制度、経済的不安から賛成しにくい状況、制度の周知不足も原因か
現在、実際に出産にあたり休みを取った男性は、どのくらいいるのでしょう?
2020年11月時点に0〜18カ月の子どもをもつママ約2,000人に、「出産時に配偶者が仕事の休みをとったどうか」を尋ねたところ、「取った」と回答したママは65.3%でした。若い世代ほど取得率が高いものの、その内訳は出産当日だけが、15.7%、前後数日間が28.1%産後1週間が11.8%2週間以上が9.7%という結果に。長期の休業はまだ少数でした。一方で、「休みを全く取らなかった」人も25.9%と、4人に1人いるのが現状です。
厚生労働省の調査(2019年)では男性の育休を取得した人はわずか約7%。この数字は有休などを使って休んだと思われます。
男性の育休制度について、「賛成」と答えたママは53.6%。「どちらとも言えない」が36.7%おり、取得することが収入減少や昇進の妨げなどにつながらないか、不安に感じているママが多いようです。制度に「反対」というママの理由1位も「経済的不安」で60.8%。2・3位には、「配偶者が家事・育児をちゃんとするか」疑問視する声が多く上がりました。
また、「男性の育休制度に必要なことは?」という質問では、「休みやすい職場の体制・雰囲気づくり」など、職場環境の改善を求める声が上位に。「男性が家事・育児への主体的な姿勢・意志をもつこと」という声も多く、ここでも男性の意識改革を求める声が少なくありませんでした。
認定NPO法人フローレンス代表室の前田晃平さんは、この調査結果を見て「私の周りには育休を取りたい男性が圧倒的多数ですが、現実には職場の都合でなかなか取れないという悩みをよく聞きます。でも、今回の調査で、若い男性ほど子育てや家庭に対する姿勢がポジティブなことがわかり、希望を感じました」と言います。
「育休を取ることで収入が減るのを心配している方が多いですが、2ヶ月間の育休を取った私の経験から言うと、その心配はほぼありません。日本の育休制度は世界でもトップクラスに充実したもので、育休開始後6カ月までは休業前賃金の67%が支給されます。休業中は雇用保険などの税金が引かれませんし、外出も減るので、私の場合は育休前より貯金が増えたくらいです(笑)その点が周知されれば、もっと取得する人は増えると思います」(前田さん)
また、多くのママから「配偶者が家事・育児をちゃんとやってくれるか不安」という声が上がっている点については、「そういう男性も多いのも事実でしょう」としつつも、「それを変えるには、女性にも協力してほしい」と言います。
「家事や育児は、どちらかといえば、女性のやり方がその家庭のスタンダードになっているケースが多いように思います。私も育休中、最初はそうでした。しかし、それだと男性はどんどん受け身になり、やる気を失っていきがち。そうならないためには、女性は“夫婦2人で新たな家事・育児のシステムを作る”意識で、男性は“自分から主体的に家事・育児に関わる”意識で、協力することが必要だと思います」(前田さん)
男性の育休制度は今が分岐点。全子育て世代が “当然の権利”として取れる社会へ
「男性の育休に対する意識や取り組みは、今、分岐点に来ていると思います。育休を取りたいと考えている男性は確実に増えているので、その人たちが取れるように、まずは会社の役職の高い人たちが育休を取り、一歩を踏み出すことが大事。そうすれば、それに続く若い男性たちはいくらでもいますから。
育休を取れないと悩む男性たちの背中を押せるよう、早く法制度や社会の仕組みを整えないと、とてももったいないと思います。
ただし、現在の育休は、非正規雇用の人も労働基準法で定められているとはいえ難しいのが現実。コロナ禍もあって、男女ともフリーランスの方が増えています。これからは、どんな働き方をしていても、育休を“当然の権利”としてすべての子育て世代に保障すべきです。そのようにして国や地域、社会全体で“子育てをする親子を支える”意識を持つことが、子どもたちとこれからの日本を支えることになるはずです」(前田さん)
出産当日や前後の「数日間だけ休む」が大多数。「育休を取っていない」人も4人に1人
『たまひよ 妊娠・出産白書2021』の調査結果によると、「出産時に配偶者が仕事の休みをとった」と回答したママは65.3%。取り方は「出産前後に数日休んだ」が最も多く28.1%、続いて「出産当日だけ休んだ」15.7%で、2週間以上休んだ人は9.7%でした。
若い世代ほど、世帯年収別では、年収が高いほど休む期間が長めの傾向がみられました。
一方で、休みを取らなかった人も25.9%おり、4人に1人は休みをとっていない現状がうかがえます。2020年5月の緊急事態宣言解除後に出産した人ほど、配偶者が育休をとっていないケースが多く、コロナ禍により家族が病院に行くことができなかったことが原因と考えられます。
配偶者の出産にあたり休んだ状況
出産時期では、病院へのつきそいが規制された時期の20年5月以降に出産した層の父親が、産前産後の休みを取っていない傾向に。
年齢別、父親が出産で休んだ期間
若い世代ほど長く休む傾向
男性の育児休業制度に「賛成」は53.6%。反対は少ないが、収入減少や職場待遇の悪化を不安視する声が多数
男性の育休制度について、「賛成」と答えたママは53.6%。20代を中心に若いママほど賛成の声が多く上がりました。
「どちらとも言えない」と答えた人も36.7%と多く、制度に反対ではないけれど、制度そのものの情報が不足していたり、導入による悪影響(収入減少、配偶者の昇進を妨げるなど)に不安を感じている人が多いことがうかがえます。
一方で、育休制度に「反対」「どちらともいえない」という意見も約5割。理由の1位は「世帯収入が減るのが不安」60.8%でした。次に「配偶者・パートナーの面倒までみることになりそう」48.7%や、「家事育児をちゃんとやってくれるか不安」41.9%が続き、休んだ配偶者の育児参加を疑問視する声も多く聞かれました。現行制度は収入保障がありますが、その内容の周知がされていない可能性が推測されました。
男性の育児休暇制度義務化について賛成?反対?
若い世代ほど、義務化に賛成
男性の育児休業制度義務化にどちらともいえない、反対の理由
どちらともいえない、反対という回答が多い理由で、一番多いのは経済的な不安があげられた。収入保障のある現行制度の理解が進んでいない可能性や100%保障でない不安が背景にあると考えられる。
男性の職場環境がママの「子どもを産み育てやすい」「子どもをほしい」意識に大きく影
「男性の育休取得に必要なことは?」という質問では、「休みやすい職場の体制・雰囲気づくり」83.5%と、「育休中の収入補償」83.4%がほぼ同率。3位の「昇進や昇給にひびかない評価制度」も75.2%と多く、職場環境の改善を求める声が上位を占めました。
「男性が家事・育児への主体的な姿勢・意志をもつこと」という声も51.7%あり、休みを取る男性本人の意識改革も、多くのママが求めています。
男性の育児休業制度に必要だと思うこと
男性の育児休暇義務化に対し、保留や反対理由は収入減の不安がトップでしたが、義務化にあたりまず必要なのは、職場の休みやすい雰囲気づくりが一番にあげられました。子どもがいるいないにかかわらず、働き方改革が求められていると考えられます。
配偶者の職場における男性の育児等への理解(意識)
「配偶者の職場が、男性の育児などについてどのくらい理解があるか」という質問に対しては、「上司や同僚は子育てに理解がある(54.3%)」けれど、実際には「子どもの病気や用事などで休みをとったり早退遅刻」するのは難しく、男性の育児参加を応援する雰囲気もまだまだ少ないのが現状のよう。
配偶者の職場環境が良いほど、「(今より)子どもがほしい」と考えるママの割合が高く、特に「上司や同僚の理解があるかどうか」で大きな差が見られました。
「(ママから見て)日本は子どもを産み育てやすいと感じるか」という質問についても、配偶者の職場環境が良いほど「産み育てやすい」と感じている割合が大。なかでも「休みや早退遅刻のしやすさ」「上司や同僚の理解がある」ことが重要であることがわかりました。
記事監修
認定NPO法人フローレンス
前田晃平 さん
Profile
訪問型病児保育や障害児保育など、家族の社会問題の解決に取り組む認定NPO法人フローレンス代表室。ソーシャルマーケター。
前職はリクルートで営業と事業開発を担当。2019年に2ヶ月の育児休業を取得。妻と娘と三人暮らし。
https://note.com/cohee
【調査概要】
調査名 「たまひよ 妊娠・出産白書2021」
調査実施期間 2020年10月29日~2020年11月2日
調査手法 インターネット調査
調査エリア 全国
調査対象者 20〜39歳で2019年5月~2020年10月に第1子を出産した女性2,060名
※グループ分け:2020年5月~10月に出産(緊急事態宣言解除前後、解除後)/ 2019年11月~2020年4月に出産(通常期・新型コロナウイルス感染症拡大期)/ 2019年5月~10月に出産(通常期)