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「出生時の後遺症で『脳性まひ』になった息子。数少ない『できること』を奪いたくないと、胃ろう手術に迷い…」(絵本『おなかのボタン』著者インタビュー)

更新

今年1月に発売された1冊の絵本。『おなかのボタン』というタイトルがつけられたこの絵本は、脳性まひのお子さんをもつママ、平田エミさんが描いた作品です。この本の主人公、「おなかのボタン(=胃ろう)」がついているさっくんは、平田さんの二男がモデル。ただ、平田さんは当初さっくんの胃ろう造設に難色を示していました。それは、話すことも歩くこともできないけれど、なんとか口から食事はできていたさっくんから「できることを奪いたくない」という理由から。そんな平田さんに、息子さんのことや、胃ろう造設の前後で変わったこと、そして絵本にしようと思ったきっかけなどを聞きました。 全2回インタビューの前編です。

出産時に低酸素状態が長く続いた影響で、息子は脳性まひに

生後すぐに別の病院へ搬送されたさっくん。写真は転院先のNICUで初めてミルクを飲んだときのもの。

2015年、第3子となるさっくんを妊娠していた平田さん。外では保育士として働き、家ではやんちゃざかりの7歳の男の子と5歳の女の子のママとして、忙しい毎日を送っていました。

「妊娠中期までは順調だったんですが、仕事と育児で忙しかったせいか、妊娠後期に入って切迫早産(せっぱくそうざん)になってしまい、妊娠37週に入るまで2カ月ほど入院しました。

『正期産になる妊娠37週に入ったから、いったん退院しましょうか』と病院から許可がでてようやく退院できたんですが、退院した日の夜に陣痛が来たんです。そして、病院に着いたときにはもう子宮口が10㎝近く開いていました。

3人目だし、すぐに出てきてくれるかなと思ったんですが、なかなか出てきてくれなくて…。ようやく生まれたと思ったら、病院から『とにかく今すぐ低体温療法が必要なので、お子さんを大きな病院へ搬送します』と伝えられ、顔も見ることもできず、息子だけが搬送されて行きました。

私は『とにかく無事であってほしい』と願うばかりでしたね」(平田さん)

翌日、さっくんが搬送された病院に平田さんも転院。そこで、出産時に低酸素状態が長く続いたことで、神経細胞が損傷していることを知らされたといいます。

「病院の先生からは、『MRIを見る限り、もしかしたら寝たきりになるかもしれないので、覚悟してください』と言われました。続けて『ただ、脳の発達は未知です。この子がどのくらいできるようになるかはまだわからないけど、赤ちゃんの脳は、ダメージを受けても、ほかの部位が役割を代替する可能性があるんです』っておっしゃったんですね。

実際に、当時からさっくんは人工呼吸器をつけずに自発呼吸ができているし、哺乳びんでミルクも飲めていたから『すごく頑張ってくれているんだな』と感じました。

10歳になった現在、さっくんは歩くことも言葉を話すこともできないという状態ですが、手足や首を自分で動かすことはできていますし、また表情や声を発したりすることで感情を表現することもできます。少しずつできることは増えているんです」(平田さん)

その後、さっくんよりひと足先に退院した平田さん。退院後は、産後間もない体で搾乳した母乳を持って、片道40~50分かけ、さっくんが入院していた病院まで毎日通ったそうです。

「夫と一緒に通える日もあれば、1人で通った日もあって、病院の先生に疲れを心配されるほどでしたが、当時はとにかく息子に会える喜びのほうが大切でしたね。

息子もとても頑張ってくれて、初めは哺乳びん経由で飲んでいた母乳を、直母(ちょくぼ)でなんとか飲んでくれるようになって。呼吸もしっかりできていたから、生後1カ月を待たずに、退院することになりました」(平田さん)

晴れて、家族5人一緒に暮らせるようになったさっくんファミリー。さっくんは、脳の神経細胞が損傷している影響でてんかんを発症するなどのトラブルもありましたが、ミルクをメインの栄養にして、さっくんなりに成長をしていきました。そうするうちに、平田さんの育休終了の時期が迫ってきたのです。

「さっくんのことがあって、仕事を辞めようかなと考えた時期もあったんですが、自分が好きでなった保育士でしたし、できれば自分がやれるところまでやってみたいという思いがあり、仕事に復帰することにしました。

ただ、1歳半まで延ばしてもらった育休も終了の時期が迫ってきて、いよいよ保育園に入れなければ、ということになったんですが、問題になったのがさっくんのミルクのことです。

というのも、その当時、さっくんは、てんかんの治療の影響でミルクをぜんぜん飲んでくれなくなっていたので、経鼻経管栄養(※1)をしていたんですが、鼻からミルクを入れることは医療行為になるので、当時の保育園では対応できないといわれてしまったんです。

※1 胃につながるチューブを鼻から入れて、鼻から栄養を注入する方法。

令和3年9月に医療的ケア児支援法が施行されたおかげで、今では医療的ケア児を受け入れてくれる保育園は増えてきたと思うんですが、その当時はなかなか難しくて。

最終的に、『お母さんがいる保育園だったら、保育士としてではなく、休憩時間に母親としてミルクを注入するのはいいですよ』という許可をもらうことができて、私が勤めていた保育園になんとか入れてもらうことができたんです。

だから、復帰後しばらくはその方法でやってみたんですが、私も毎日その時間だけ休みをもらってさっくんのところへ行くのはなかなか厳しくて。なんとか口から食べてもらわないと保育園に預け続けるのは難しいなと感じて、入園前から離乳食を始めて、少しずつですが水分とごはんを口から食べられるようになりました。

ただ、おなかがすいていると比較的食べてくれるんですが、ほかの子と比べると飲み込む力も弱いし、経鼻経管栄養をしているので痰(たん)が絡みやすい上、飲み込みづらい。担任の先生もさっくんのような子に食べさせることに慣れていないので、多分すごく大変だっただろうなと思います。

結局、経鼻経管栄養のチューブがないほうが、ごはんを飲み込みやすそうだったので、入園して1年後にはチューブを外して、口からの食事をメインにしました。

もちろん経鼻経管栄養のほうがしっかりと栄養はとれるので、保育園では口から食べて、家に帰ったらチューブを使って栄養剤を注入するという選択もできたと思うんです。でも、保育園でもごはんを口から食べてもらうには、家でも口から食べさせて練習しないといけない。そこで、思い切って、普段は口から食べてもらって、風邪などをひいて体力がなくて食べられなくなったときだけ、経鼻経管栄養を使うようになりました。

とはいえ、このときは正直どうすることが正しいのか、まったくわかりませんでした」(平田さん)

一方、基本的に口からの栄養摂取にしたことで、さっくんにとっても、平田さんにとっても、大変になったことがありました。

「私も仕事をしていたので、出勤時間に間に合うように、毎朝6時にはさっくんに朝ごはんを食べさせて、薬を飲ませていたんですが、その約1時間がすごく苦痛な時間でした。ヨーグルトとか本人が好きなものは、眠たくてもちょっと口を動かしてくれるんですが、その後の薬は大変で。

というのも、てんかんの薬は何種類もあって、必ず飲まなくちゃいけないものが多いんです。苦い薬を泣いて嫌がるさっくんに対し、必ず全量飲んでほしい私。泣いて嫌がる息子に無理やり薬を飲ませるのは本当につらかったです。

このやりとりは朝だけじゃなくて、夜も同じ。時間をかけてご飯を食べさせて、嫌がる薬を飲ませなくちゃいけない。しかも、さっくんにご飯を食べさせるだけじゃなくて、上の子たちのごはんも作らなくちゃいけないし、持ち帰りの仕事もある。夫も家事と育児を積極的に手伝ってくれていましたが、共働きで常に時間に追われて、余裕が全くありませんでした。そして、大変だし、ストレスもたまるけど、こんな生活になるのはしょうがないんだって思っていたんです。

でも、今思い返せば、嫌がる子に無理やり飲ませることは危険だし、そんな飲ませ方で誤嚥(ごえん)性肺炎になっていなかったのが不思議なくらい。さっくんは体のどこかでSOSを出していたのかもしれませんが、当時の私は、保育園へ通わせてなんとか仕事を続けられるようにしなくちゃと必死でした。息子の体の心配よりも、私は自分の仕事のことしか考えていなかったんだと反省しています」(平田さん)

こうして、平田さん夫婦は毎日やらなければならないことと時間に追われながらも、さっくんは「元気なときは自分でごはんを飲み込む」ということを身につけ、保育園を卒園したのです。

味わう喜び、できることを「奪いたくない!」

小学校の入学式にて。蝶ネクタイをつけたさっくん、かっこいいね!

そうして入学した小学校。さっくんは、歩いたり、言葉を話したりすることはできませんが、うれしいことや嫌なこと、悲しいことなどは、表情や声、ときには涙で伝えてくれます。そして、この小学校で出会った先生の言葉で、平田さんはさっくんの胃ろう(※2)造設について決断するのです。

※2 おなかに穴をあけて胃にチューブをつなげ、チューブから胃に直接食べ物を流し込む方法。必要なエネルギー、栄養を得ることができる。ただし、処置には手術が必要となる。

「実は胃ろうの話は、保育園にいるころから、ちらほら出てはいたんです。飲み込む力が弱いお子さんは胃ろうをつけていることも多いので、その当時の息子を見て『さっくん、胃ろうしてないの!?』とびっくりされたこともありました。口からの栄養だけのせいか、体重も全然増えなくて、『体重のことを考えて胃ろうにしたら?』という人もいました。

でも、私としては『できることが限られた体で、口から食べることはなんとかできている。できることを奪いたくない』という思いがあったし、胃ろうにするには手術しなければならないということもあって、胃ろうを積極的に考えていなかったんです。

ただ、小学校に入学すると環境も変わって疲れがたまるようで、眠たさでなかなか食が進まないことが多くなりました。また、体が大きくなったことで必要な食事量が増えたのに、全量を食べきることが難しくなってもいて…。結果として、食事量が減ってしまって、気づかないうちに体力が落ちていたようで、さっくんが誤嚥性肺炎を起こして、初めて入院してしまったんです。

この誤嚥性肺炎の治療がとにかく大変で。痰が増えすぎて、血中酸素濃度が低くなってしまうなど、苦しい時間がたくさんありました。誤嚥性肺炎ってこんなに苦しいんだ、命の危険性があるんだってことを母として目の当たりにしたんです。

そして、このときにいろいろ思い返しました。毎日毎日こんなに時間をかけて『食べて、食べて』って言われながら過ごすなんて、さっくん本人がいちばんしんどかったんじゃないかなって。それで『さっくんのことを考えたら、やっぱり胃ろうのほうがいいのかな』と考え始めました。

以前から胃ろうにしたときのメリットやデメリットについては、主治医がしっかりと説明してくれていたんですが、ただ最終的に胃ろうにするかどうかを決めるのはやっぱり家族なんです。

そんな迷いがあったときに、小学校の担任の先生とお話しする機会があって、『胃ろうをちょっと考えていて…』って相談したんですね。そしたら先生が『さっくんが食べたい分だけは食べて、残りは注入にしたら、本人も食事の時間が楽しい時間に代わるよね』っておっしゃったんです。

そのときに『そっか、胃ろうにしたって全部おなかから入れなくてもいいんだ!』って改めて気づいたんです。さっくんは食べることは嫌いではないので、本人が好きなものとか、食べたことのない味は、お口から味わってほしいですしね。

先生には『機嫌が悪いときや調子が悪いときはおなかから食べたらいいし、調子がいいときはお口から食べられる分だけ食べて、本人が疲れてきたり、タイムリミットがある日だったらおなかから食べたらいいんだって考えるようにしたら、本人ももっともっと食べることが好きになって、お母さんの負担も減るんじゃない?』とも声かけしてもらって。

その言葉を聞いて、私もさっくんには食事の時間を楽しんでほしいし、嫌いなお薬を胃ろうで入れられればさっくんの苦痛な時間もなくなるんだと思えて、『じゃあ、胃ろうにします!』と決断。そこから胃ろうを造設するまではすごく早かったです」(平田さん)

お話・写真提供/平田エミさん 取材・文/藤本有美、たまひよONLINE編集部

▼続きを読む<関連記事>後編

参考文献
神奈川県立こども医療センター「造設からトラブル対応、ミキサー食注入まで」

体のことが心配な気持ちの半面にある「せっかく口から食べることができているのに、できることを奪いたくない」という母としての気持ち。どちらも、さっくんのことを思ってのことで、家族であればこそ答えを出すのはなかなか難しかっただろうと想像します。さっくんが楽しく過ごせることをいちばんに考えた決断も、想像できないようなハードな日々を送りながらもさっくんのできることを大切に過ごしてきたからこそ。さっくんへの愛をひしひしと感じるお話でした。後編では、胃ろうを増設したあとのさっくんや家族の思いの変化、そして絵本を描こうと思ったきっかけなどについて聞きます。

「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指して様々な課題を取材し、発信していきます。

平田エミさん(ひらたえみ)

PROFILE
高知県在住の3児の母であり、保育士。2025年1月、脳性まひの二男をモデルにした絵本『おなかのボタン』(リーブル出版)を出版。

●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●掲載している情報は2025年6月現在のものです。

おなかのボタン

「さっくんのおなかにはふしぎなボタンがある。そこからえいようをとってパワーアップ! なにを食べたらどんなふうにパワーアップできるかな?」(あとがきより)。息子の胃ろう造設を不安に思っていた母が描く、胃ろうについてのお話絵本。平田エミ作・絵/1650円(リーブル出版)

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