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【斎藤工】生命の尊さに圧倒され「どんな状況であろうと新しい生命に勝るものはない」と実感〈ヒヤマケンタロウの妊娠〉

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人気俳優、監督として第一線を走り続けている斎藤工さん。シスジェンダー(※)の男性も妊娠可能になった世界を舞台に、自分が妊娠するとはまったく考えていなかった主人公が妊娠し、周囲を巻き込んで変化していく様を描いたNetflixシリーズ「ヒヤマケンタロウの妊娠」で主演を務めています。桧山健太郎を演じる中で妊娠を疑似体験した斎藤さん。実際におなかに重みを感じたことで、自身に起きた変化などを聞きました。
※自分自身が認識している「心の性」と、生まれたときに割り当てられた「体の性」が一致している人。

大いなる気づきへ。作品の持つアイデンティティに共鳴

――とても注目を集めている作品での主演ですね。

斎藤さん(以下敬称略) これまでにも『モン・パリ』(1973)や『ジュニア』(1994)など、男性の妊娠がテーマになる作品はありました。しかし、このドラマは広告業界が舞台になっていて、コンプライアンスやダイバーシティへの姿勢や変化が問われる今の日本で描かれるべき作品ではないかと感じています。そうした作品自身の持つアイデンティティに、とても共鳴しましたね。

僕は、さまざまな情報や周囲の人から聞いた体験を、その人の性のあり方にあまり関係なく、自分のなかで実体としてかみしめながら演じる癖があります。妊娠する役ということに関しても、これまでにも暴力的な役柄や、亡くなる役柄など実体験ではない役を演じてきたのと同様、違和感はありませんでした。身近な人が妊娠、出産、育児をしていく上で、心境が変化していったり、優先順位が変わっていったりする様子なども見てきたので、そういった自分の中に蓄えられた経験や情報が、演じるにあたって役に立ちました。

重心が自分から新しい生命へ。疑似体験で得た感覚

――今回の撮影で、妊娠という事象を自身の中に取り込んだ際、改めて何か意識の変化はありましたか?

斎藤 実際におなかが重くなっていく感覚を、ただ「おなかのサイズが大きくなる」以外で得られた体験は、自分にとって貴重でした。装着する、というと興ざめですけれど、妊娠月数に合わせ、スタッフさんと大きく、そして重くなるおなかを作り上げていったんです。そこで、自分の重心が少しずつ変化していくというのが、とても新しい感覚でした。

これまでにも、役作りで体重を100㎏近くまで増やしたことがあります。しかし、おなかが大きく重たくなるというのは、それとはまた全く違って、重心がだんだん自分から新しい生命へトレースされていくような感覚で、生命の重さ、その存在感が増していく感覚を、疑似体験できました。ただのシリコン素材を装着しているというのではなく、そこに生命を想起しながら生活することで、日常のさまざまなものへの見え方が変わりましたね。ここに手すりがあったらいいのに、とか、これまで見逃していたことへの気づきもたくさんありました。

――本物の赤ちゃんと接することも多かったかと。

斎藤 実際に小さな生命と対峙すると、フィクションを超えた状況になるんです。命がそこにある。なんと言ったらいいのか、とても神秘的な……。撮影をしているということも忘れてしまうくらい、尊いものだと感じました。こうしたコロナ禍に、作品に参加してくださった赤ちゃんのお母さんやお父さんたちにも感謝しきれませんし、僕だけじゃなく、スタッフ、共演者の方たち、参加したみんなが、この尊さに圧倒されていました。そのときに、原作の持つ強いテーマ、「どんな状況であろうと新しい生命に勝るものはない」ということを、撮影の中でも感じましたね。

「もしも」を、大いなる未来に向けた議題に

――ドラマをどんなふうに楽しんでほしいですか?

斎藤 ハリウッド映画も含めて、いま世界的にダイバーシティとかジェンダーレスとかSDGsなどが注目されている中、この作品は先進的なものだと思います。でも、このドラマの強みは“軽やかさ”だと思っています。説教くさくなく、軽やかだからこそ、自身の状況とも照らし合わせることができる作品になっている。そこがとてもよかったなと思っています。

僕自身、想像の範疇を超えられなかったものを、さらに踏み込めたと言いますか。生命がそこにあるということは、これほど力強いものなのだというのを、出来上がった作品を見たときにも思いました。「もしも」という世界が、問題提起とまでは僕はあえて言いたくないのですが、大いなる未来に向けた議題になっていけたらいいなと思います。

撮影/なべ、スタイリング/三田真一[KiKi inc.]、ヘアメイク/赤塚修二[メーキャップルーム]、衣装協力/The ROW、取材・文/望月ふみ、ひよこクラブ編集部

もともとさまざまなことを自分事として捉えてきたという斎藤さんですが、実際におなかに重みを感じ、そこに生命を想像することでまた新しく見えたことがあったそう。この“軽やかな”ドラマによって、視聴者もいろんな議論が弾むはずです。

斎藤工さん(さいとうたくみ)

PROFILE
1981年生まれ、東京都出身。モデル活動を経て2001年に俳優デビュー。俳優以外に映画監督としても活躍しており、監督長編最新作、映画『スイート・マイホーム』(主演・窪田正孝)が2023年公開予定。主な出演作に、ドラマ『昼顔〜平日午後3時の恋人たち〜』『漂着者』、映画『麻雀漂流記2020』など。主演作『シン・ウルトラマン』の公開が控える。また、移動映画館プロジェクト「cinéma bird」や、撮影現場に託児所を設けるなど、多岐にわたる活動も知られる。

Netflixシリーズ「ヒヤマケンタロウの妊娠」

©坂井恵理・講談社/©テレビ東京 4月21日(木)Netflixにて全世界独占配信

広告業界でバリバリ働く独身男性の桧山健太郎(斎藤工)が、予期せぬ妊娠をしたことで、自身の身体の変化への戸惑いだけでなく、会社での立ち位置や、パートナーの亜季(上野樹里)や周囲との関係を含めて、自分を見つめ直していく姿を描くNetflixがテレビ東京と共に企画・制作したNetflixシリーズ。坂井恵理による2013年発売の同名コミックスが原作。

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