妊娠中の旅行はＯＫ？ＮＧ？「マタ旅」について知っておきたいこと

妊娠中は旅行に行ってもいいの？

　「妊娠中に旅行に行ってもいいですか？」と聞かれることは、とても多いです。そう聞かれた場合、やはり「おすすめはしません」と答えています。

　基本的に妊娠は病気ではないので体調がよければ問題はないのですが、いつ何が起きるかわからないのも妊娠です。つまり旅行中に何かトラブルが起こるリスクはだれにでもある、ともいえます。現に私自身も、旅行に来ていて体調が悪くなり、救急で運ばれてきた妊婦さんを診察したことがあります。そういう意味で、産婦人科医の立場としては、手放しで「どうぞ行ってきてください」とは言えないのです。

　でも、「おすすめしない」と言われてもけっきょく行かれる方も多いですよね（笑）。先ほどお話したようなリスクを理解したうえで出かける、という前提ではありますが、妊娠中の旅行や長距離移動をする際の注意点や対策をお伝えしたいと思います。

交通手段別に注意することは？

　　旅行で利用する交通手段での注意事項を挙げてみましょう。まずどの交通手段を使ったとしてもいちばん気をつけることは血栓症（けっせんしょう）のリスクです。血栓症とは、座りっぱなしなど長時間、同じ姿勢で過ごすと、血液の循環が悪くなり血管内に血のかたまりができて血管が突然詰まる病気です。とくに足の静脈にできた血栓が血管を移動し肺の動脈を塞ぐ肺塞栓症（はいそくせんしょう）は「ロングフライト症候群（エコノミークラス症候群）」といわれよく知られています。妊娠中はとくに血栓症になりやすいので注意が必要なのです。そのため、どの交通手段を使うにしても、長時間、同じ姿勢でいることは避ける、足を動かしたりマッサージをしたり、こまめに水分をとることは重要です。

＜具体的な注意点＞
■自家用車の場合
　できるだけ渋滞する時期や時間帯は避け、こまめに休憩を取るように旅行計画を立てることが大切です。休憩時は車から降りて、体を動かすようにしましょう。シートベルトはおなかが苦しくないように必ず下の方で締めましょう。

■新幹線
　移動手段としては比較的無難かもしれませんが、駅と駅の間隔が長いため、途中下車が難しいということに気をつけなければいけません。必ず指定席を取り、車内での暑さ、寒さ対策をしておくといいでしょう。途中で車内を歩いてみるなど、ずっと座りっぱなしにならないように気をつけて。

■飛行機
　長時間のフライトになればなるほど血栓症が心配ですので、水分をこまめにとって、足を動かしたりマッサージをしたりするのを忘れずに。足を動かしやすい通路側の席や、いちばん前の席を確保できるといいですね。長時間のフライトはそれだけリスクが高くなりますので、よく考えて行き先を選ぶことも大切です。妊娠数週によっては医師の許可証が必要になることもありますので、事前に確認しておくといいでしょう。

■船
　他に交通手段がないのであればしかたがないと思いますが、基本的に病院が近くにないところは行き先として避けるべきなので、まずそこの確認を。乗船中はほかの交通手段と同じように、血栓症の注意は必要です。

旅行前の準備と対策は？

　旅行の事前準備としては万が一、旅行先で何かトラブルがあった場合にすぐにかかることのできる病院は必ず調べておきましょう。つまり病院が近くにないような、たとえば秘湯の温泉などへの旅行は、妊娠中は避けるべきだと思います。

　また母子健康手帳、保険証は必ず携帯しましょう。出かける前には、きちんと産院で体調を確認してもらい、万が一トラブルの兆候があったら、あきらめてキャンセルすることも大切です。

　以上のことに気をつければ旅行に行ってもいい、というわけでは決してありません。これは私的な意見ですが、旅行自体は気分転換にもなるし、せっかくなら楽しんでもらいたいという気持ちもあります。しかしながら、妊娠中に予期せぬことが起こるリスクはみなさん同じだけありますし、旅先で何かが起こっても我々の手が届かないところ行ってしまわれるとどうしようもありません。万が一のとき、いちばん大変な思いをするのはママと赤ちゃんだということを忘れずに！

※この記事は「たまひよコラム」で過去に公開されたものです。