分娩方法や出産経験で赤ちゃんの成長に大切な「初乳」の成分に違いが!?アトピー性皮膚炎の発症予防に期待も【国立成育医療研究センター調査】
国立成育医療研究センターは、分娩方法や出産経験が、初乳中(産後1週間までの母乳)の免疫成分の濃度と関連があることを発表しました。この研究は育児用品メーカー ピジョンと共同で行われ、結果は国際学術雑誌「Nutrients」のオンライン版でも公開されました。研究を行った、同センター 皮膚科診療部長 吉田和恵先生に、今回の研究でわかったことを聞きました。
国立成育医療研究センターで出産した 42名のママを対象に調査
今回の研究は、国立成育医療研究センターで出産した 26~46歳までのママ42 名を対象に行われました。
調査は、お産入院中の産後2~6 日に初乳5ml、その後、1 カ月健診のときに母乳5mlを提供してもらい、それを分析したものになります。
ママたちには、①分娩方法、②出産経験、③出産年齢、④アレルギー既往、⑤妊娠前のBMI、⑥喫煙経験、⑦陣痛促進剤の使用、⑧乳房トラブルの有無、⑨母乳の分泌開始時期などの質問に回答してもらい、こうした背景因子が、母乳中の免疫成分とどのように関連するかを調べました。
ママの背景因子と母乳中の成分(とくに脂質などの栄養素)の関係性については多くの研究報告がありますが、背景因子と母乳中の免疫成分との関連を調べた研究は珍しいそうです。
ママの背景因子と母乳中の濃度の関連性(結果の一部抜粋)
「研究では、初乳中の一部の免疫因子(TGF-β1、TGF-β2、IgA)の濃度は、帝王切開で出産したママの初乳のほうが、経膣分娩で出産したママの初乳よりも高いことがわかりました。
また同様に初産のママのほうが、経産婦よりも初乳中の一部の免疫因子の濃度が高いことが判明しました。
一方、出産年齢やアレルギー既往、妊娠前のBMI、喫煙経験、陣痛促進剤の使用、乳房トラブルの有無、母乳の分泌開始時期などは、初乳の免疫成分の濃度に影響を与えていないということもわかりました」(吉田先生)
初乳の成分には、アトピー性皮膚炎の発症を防ぐ重要な免疫因子も
「初乳は、赤ちゃんの成長に大切な成分が含まれている」と聞いたことがあるママ・パパもいると思いますが、初乳には乳幼児のアトピー性皮膚炎の発症を防ぐ免疫因子なども含まれています。
「初乳を含む母乳には TGF-β1やTGF-β2、IgAという免疫因子が含まれています。体には異物が入ってくると追い出そうとする反応が備わっています。アトピー性皮膚炎のある子は、卵や花粉、ほこりなど、通常、人体に悪影響を与えないものが体内に入ってきたときでも、それを追い出そうとして抗体を作り、過剰な免疫反応を起こします。
TGF-β1、TGF-β2は、免疫バランスを調整し、そうした過剰な免疫反応を抑え、乳幼児のアトピー性皮膚炎の発症を防ぐ重要な免疫因子として着目されているものです。
また免疫因子のIgAは、腸の免疫バランスを整える働きがあり、乳幼児の腸の免疫成熟に重要な役割を果たすことがわかっています。口、のど、鼻などの粘膜部分にウイルスや菌などの侵入を防ぐ働きもします」(吉田先生)
帝王切開の傷の治癒によって免疫因子TGF-β1、β2が増殖すると推測
それでは、なぜ帝王切開で出産したママや初産のママのほうが初乳中の免疫成分(TGF-β1、TGF-β2、IgA)の濃度が高いのでしょうか。
「エビデンス(科学的根拠)はまだありませんが、仮説として考えられるのは、TGF-β1、TGF-β2は傷が治っていく過程で増殖する特徴があります。そのため帝王切開の手術による傷が治る過程で、初乳中の免疫成分の濃度が高まるのではないかと考えられます。
また初産のママは、初乳の時期は母乳の分泌量が少ない分、濃度が高いのではないかと考えられます」(吉田先生)
赤ちゃんには初乳を飲ませてあげよう。母乳育児に力を入れている分娩施設を選んで
前述の通り、初乳には乳幼児のアトピー性皮膚炎の発症を防ぐ免疫因子なども含まれているため、吉田先生はなるべく生まれたばかりの赤ちゃんに、初乳を飲ませてほしいと言います。
「帝王切開で出産したママは、体への負担が大きいため授乳開始が遅れる傾向があります。もちろん術後の痛みがひどいときは無理をしすぎる必要はありませんが、さく乳器を使うなどして赤ちゃんに初乳を飲ませることはできないか、医師や助産師に相談してもいいと思います。
また産院によっては、母乳育児に積極的でない施設もあります。ママが“生まれたばかりの赤ちゃんに初乳を飲ませたい”と考えていても、分娩施設の方針や環境によって初乳が与えられないのはもったいないと思います。
そのため母乳育児に力を入れているかどうかを確認して分娩施設を選ぶといいでしょう。母子同室の産院だと、母乳育児に力を入れていることが多いようです。
今回の研究では、初産のママのほうが経産婦に比べて初乳中の免疫成分の濃度が高いことがわかりましたが、第2子以降でも、できるだけ初乳は飲ませてください。
赤ちゃんの健やかな成長に必要な免疫成分は、初乳だけでなく、産後1週間以降の母乳にも含まれています。経産婦さんは母乳の分泌量が、初産のママより多いでしょうから、濃度が多少薄くても免疫因子は補えます」(吉田先生)
お話・監修/吉田和恵先生 取材・文/麻生珠恵、たまひよONLINE編集部
この調査は「乳児期角層バリア因子と母乳中因子の解析」の一部の研究であり、さらに研究を進める予定とのことです。吉田先生は「乳幼児のアトピー性皮膚炎の予防には、スキンケアや早期発見・早期治療などに加えて、初乳を与えることが重要である可能性がある」と言います。
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吉田和恵先生(よしだかずえ)
PROFILE
国立成育医療研究センター 小児外科系専門診療部皮膚科 診療部長。アレルギーセンター皮膚アレルギー科 診療部長。医学博士。慶應義塾大学医学部卒。専門は小児アトピー性皮膚炎、遺伝性皮膚疾患など、小児皮膚科学。日本皮膚科学会認定皮膚科専門医、日本アレルギー学会専門医。