超音波写真の解像度は段違いの進歩! よく見えるようになったおなかの赤ちゃん【超音波検査の30年・前編】
「たまひよ」創刊30周年企画「生まれ育つ30年 今までとこれからと」シリーズでは、30年前から現在までの妊娠・出産・育児を振り返り、そして、これからの30年間を考えます。
日本は、超音波検査が妊婦健診で毎回実施されることが多く、妊婦さんにとってはおなかの赤ちゃんの様子がわかる楽しい時間でもあります。技術の進歩で解像度も上がり、赤ちゃんが見やすくなってきました。そして、これは生まれつきの病気が見つかる検査でもあり、わかる病気の数はたくさんあります。
生まれつきの病気がわかる検査「出生前検査」には「NIPT(新型出生前検査)」もあり、こうした検査は赤ちゃんの病気の早期治療につながる一方、難しい対応を迫られる場面も多くなりました。私たちは新しい技術の進歩をどのように受けとめ、生かしていけばいいのでしょうか。胎児診療を専門とする林伸彦先生に聞きました。
2D、3D、4D・・・さまざまなタイプの超音波検査が開発されてきた
――超音波検査は妊婦健診ではおなじみの検査ですが、改めてどんな検査なのか教えてください。
林先生(以下敬称略) 胎児の身体の形や動きを、妊婦や胎児を傷つけることなく安全に診ることができる検査です。超音波という、人には聞こえない高い周波数の音を機械で出し、ものに当たって跳ね返ってきたその音をとらえて画像にしています。
超音波を使うことで、直接は見ることのできない子宮のなかの胎児を可視化することができるわけです。
超音波は水の中を見るのが得意だという特徴があり、おなかの赤ちゃんは羊水(ようすい)の中に浮かんでいるので超音波検査に向いているといえます。
【3D超音波】まるで子宮の中をカメラで見ているよう
31週の胎児の3D画像。このころから時々目をあけることがあります。
【3D超音波】胎児の顔の様子もわかります
31週の胎児、目をあけているところです。目のレンズも見えています。
――2D、3D、4Dなど超音波検査にもいろいろな種類があるようですが、その違いは何でしょうか。
林 2Dは1枚の静止画像で、それが立体化すると3D、動き出すと4Dになります。3D、4Dはまるでカメラで子宮の中を見ているようですが、超音波の跳ね返り方から画像を作っているわけですね。
妊婦さんやパートナーにはこのほうが赤ちゃんの存在がよく伝わるので、3Dと4Dは、基本的には‟楽しみ”のために使われます。2D、3D、4D以外に、血流が正常かどうかを見られるモードがあります。
【2D超音波】医学的な意味があるのは白黒の2D画像
CT検査のように、22週の胎児の顔を断面で見ている画像。この位置からは眼球の大きさや目の病気が調べられます。
――2Dは何のために使いますか。
林 2Dは、もちろん楽しみもありますが、どちらかというと赤ちゃんが元気かどうかを見るために使います。たとえば大きさや、形の異常がないか、などを見ます。
3D以上が「性能がいい最新の超音検査」と誤解されている妊婦さんもたくさんいて、胎児診察の際に、僕が2Dで検査を始めると驚かれることがあります。「3D、4Dじゃないと病気はよくわかりませんよね」「2Dは昔の超音波検査で、もうなくなったと思っていました」などと言われるのですが、実は病気を見つけるために主に使う機能は2Dなんです。
2Dでは、外見だけではなく、内臓、骨、血管などを見ることができるので、胎児の様子がよくわかります。3D、4Dで胎児の全体像をながめても、身体の中が見えないですよね。大人も、外見だけでは病気はあまりわかりません。心臓病や肺の異常など、生まれつきの病気のほとんどは内臓の病気なので、2Dが有効なのです。また、今の2Dは、動きもわかります。手がだらんとしていたら筋肉や神経の病気を疑うこともあるし、妊婦さんのおなかを揺らして赤ちゃんがちゃんと反応するかどうかを見ることもあります。
お産の安全性に大きく貢献した超音波検査
――超音波検査を受けるメリットはなんでしょうか?
林 赤ちゃんが見えるということがいちばんのメリットです。これがなければ、おなかの中はブラックボックスですから。
「双子かどうか」など、赤ちゃんのことがわかれば、その子をどう迎えるかについて、考えることができます。超音波検査は、そのための医療だと思っています。順調に発育していない子を早く帝王切開でおなかから出して、NICU(新生児集中治療室)で育てようという決断をすることもあります。
性別や表情もわかり、妊婦さんやパートナーの心の中で赤ちゃんの存在感が強くなるのも超音波検査のメリットですね。とくに男性は自分のおなかに赤ちゃんがいるわけではないので姿を見るとびっくりするとともに、「赤ちゃんが確かにここに生きているんだ」という実感を得るようです。
――超音波検査の歴史を調べると、日本人医師が1960年代という早期に初期の機械を作っています。しかしそのときはあまり反響がなく、本格的な普及は米国の機械が入ってきた80年代からのようです。超音波検査がなかった時代には、どのように赤ちゃんを診ていたのでしょうか。
林 おなかの上から赤ちゃんに触る「触診」と、腟(ちつ)側から触れる「内診」で診ていたようです。今の医療では、超音波検査で胎盤の位置を確認するため、産道を胎盤がふさいでいる「前置胎盤」に気づくことができますが、超音波検査が普及する前は前置胎盤も内診をして胎盤に触れたらわかるという診療をしていたようです。前置胎盤は、内診によって出血などが起きる危険がありますので、現代では、前置胎盤がわかった妊婦さんには内診をしません。超音波検査が発達したことで、より安全に赤ちゃんを迎えられるようになったのです。
林 1990年代の超音波検査の写真を見てみると、鼻も、あごも見えないですし、脳の形も、背骨もわからない。病気を見つけることは難しかっただろうなと思います。心拍は、わかりそうですが、性別は時々間違いそうですね。
今は、本当に解像度が格段に高くなり、今でも年々機械の機能が向上しています。
超音波検査は、MRI検査のような使い方もできる
32週の胎児の脳を調べているところです。一画面に脳の画像を複数並べています。
基本的な項目をチェックする「通常超音波検査」と「胎児超音波検査」の違い
――妊婦健診の超音波検査では、何を見ているのでしょうか。
林 産婦人科で妊婦健診を受けていれば、赤ちゃんに病気があるかどうか調べていると思っている妊婦さんが多いのですが、そうではありません。
厚労省が参画する日本医学会の出生前検査認証制度等運営委員会が作成したWEBサイトでも、妊婦健診で行われる超音波検査は、赤ちゃんの生まれつきの病気を詳しく調べる検査ではないと書いてあります。
そして日本産科婦人科学会のガイドラインでは、「妊婦健診時に行われる『通常超音波検査』と、胎児形態異常診断を目的とした『胎児超音波検査』」というふうに超音波検査には二つの種類があると定義されています。
通常超音波は、心拍を確認したり赤ちゃんの大きさを見たりして、あとは子宮外妊娠ではないか、双子か1人か、子宮や卵巣の異常がないか、死産になっていないか、胎盤の位置が低すぎて子宮口をふさぐようなことになっていないかなど、基本的なことを診る検査とされています。
胎児の病気を見つけることを目的としていない理由は、病気を見つける検査は「出生前検査」だからです。出生前検査は「妊婦さんが受けるかどうかを決める検査」であり、全員が受ける妊婦検査の一部として行うのはふさわしくないと考えられています。
――妊婦健診の超音波検査は「通常超音波検査」で、全員が受けるのですね。では、受けたい人だけが受ける「胎児超音波検査」とは何を見ているのですか。
林 日本産科婦人科学会のガイドラインで、胎児超音波検査の実施時期は「妊娠初期、中期、後期から適宜設定する」となっていて、見るべきポイントが一覧表になっています。頭蓋骨の形や、手足の欠損がないかを見ることになっていますが、海外のガイドラインで定められている胎児健診項目と比べると見る項目は少なくなっています。
実は、海外の妊婦さんの多くは、病気を見つけるための胎児超音波検査を受けていて、妊娠初期・中期に、心臓や脳の形態などたくさんの項目を診ています。
海外では、長時間の超音波検査を妊娠中2回くらい受ける
――超音波検査は日本とほかの国々とではやり方に大きな違いがあるようですので、その違いを教えてください。
林 日本は妊婦健診の度に見ていますから、合計14回くらいでかなり手厚いです。ただし、1回当たりの時間が短くて、毎回5分くらいです。
これに対して、胎児の健康診断を行う海外では15分から1時間ほどかけて診ています。回数は少なくて妊娠初期・中期の2回だけです。
胎児超音波検査は出生前検査ですので、海外でも、受けるかどうかは、専門家の説明を受けてから妊婦さん自身が選択します。英国では、妊婦健診の際に助産師さんが説明しています。
――胎児超音波検査と妊婦健診の関係について教えてください。海外では、かかりつけの産婦人科医が妊婦健診の際に胎児超音波検査を行うのですか。
林 胎児超音波検査と妊婦健診は、別のものです。国や地域によって制度は異なりますが、妊婦健診は全員が受けるものであるのに対し、胎児健診(胎児超音波検査)は、オプションとして提示されます。
僕が3年ほど働いていたイギリスでは「胎児科」という科があり、胎児科医、もしくは専門的な訓練を積んだ産婦人科医、超音波検査士などが胎児超音波検査を行います。
イギリスでは胎児超音波検査を受ける費用は、全額保険でまかなわれていて、自己負担金はありませんでした。自己負担がないこともあり、ほぼすべての妊婦さんが、出生直後に急変するような心臓病などがないかを超音波で確認していました。一方、ダウン症候群などの、生後に急変しない症候群については、妊娠中には調べない選択をする人もたくさんいました。
中国など、一部の国や地域では、放射線科や検査科で胎児超音波検査が行われます。画像検査の専門家が見るわけです。日本の大人の人間ドックでも、内科医だけでなく、さまざまな職種の人が腹部超音波を担当するので、それと同じことです。
胎児超音波検査は全身をこまかく見て、病気がないかどうかを調べる
――日本にも、海外のような胎児超音波検査を受けられる医療機関が少しずつ増え「胎児ドック」などと呼ばれることもあるようです。林先生のクリニックもその一つですが、こうしたところはいつごろからできてきたのでしょうか。
林 2006年に、大阪で、国際的にも胎児診療の分野をリードしている夫律子(ぷうりつこ)先生が胎児診断専門のクリニックをオープンしたのが最初ではないでしょうか。
イギリスと違い、日本の妊婦さんは胎児超音波検査の存在を妊婦健診などで教えてもらうわけではありません。ですから、ほとんどの場合、自分で調べて行くことになります。
この検査は臓器別にたくさんの項目を診ていきますので、1人あたりの検査にとても時間がかかります。
たとえば顔を見て「問題ないですね」と言うためには、目が二つあってレンズがあって、レンズがにごってなくて、網膜剥離がなくて、網膜に腫瘍がなくて、口唇口蓋裂(こうしんこうがいれつ)がなくて、あごの大きさが正常で、耳の形・位置が正常で・・・といった具合にチェックする必要があります。これを、頭・脳・背骨・心臓・おなか、と順を追って見ていき全身の臓器を確認していきます。双子なら、その2倍の時間がかかることになります。
NIPTやクアトロテスト(母体血清マーカー検査)、感染症検査など、ほかの検査で陽性(異常あり)とされた妊婦さんが来ることも多いです。胎児診療を専門とするクリニックでは、確定検査のための羊水検査や絨毛(じゅうもう)検査も行われています。確定するだけでなく、合併症の有無や生後または胎児期に手術の必要性があるかどうかなどを調べられます。
とくに出生前検査を受けるつもりがない人でも、妊婦健診の通常超音波検査で、気になる部分が見つかることがあり、そういった場合にも胎児超音波検査は有用です。
病気がわかったらどうすればいいのか?
――妊婦健診の超音波検査も、本当は、「これからの検査で病気が見つかるかもしれない」という心の準備が必要ですね。
林 妊婦健診では母親側の検査もあり、超音波検査で胎児を観察できる時間はわずかです。それでも、記念に撮るつもりの3Ⅾ画像で口唇口蓋裂が見つかったり、推定体重が小さいために染色体異常を疑ったり、心配ごとが見つかることもあります。
妊娠中にはそこまで知りたくなかったのに、いきなり「病気があるかもしれない」と言われてしまった」という妊婦さんも、います。
妊婦健診の超音波検査のときに「これから、病気がわかるかもしれない検査を受けるんだ」と思っている妊婦さんはまだ少ないでしょう。学会のガイドラインはそのことを説明すべきだとしていますが、説明自体が不安をあおりかねないため、妊婦さんから質問されない限り説明しないという医療機関もあります。
医療機関によって診療内容や説明内容にばらつきがあるというのは、これからみんなで、よく話し合っていきたい課題です。
胎児のことはどんどん早い時期にわかるようになってきて、見たくなくても「見えてしまう」時代になってきたと思います。解像度が悪いときは、積極的に見に行かなければ見えなかったものが、自然に見えるようになってきたのです。アナログテレビがデジタルテレビになったみたいに、解像度がよくなっているのです。
そして、早い時期からこまかく見えるようになった割に、心配ごとが見つかったときの対応はまだ法的にも社会的にも万全ではなくて、模索中だと感じています。
妊娠19週の胎児のあくび(撮影/林 伸彦先生)
妊娠19週の胎児の横顔。あくびをしています。まるで生まれてきたような赤ちゃんのかわいらしいしぐさです。
お話・監修/林 伸彦先生 取材・文/河合 蘭、たまひよONLINE編集部
●記事の内容は2023年9月8日の情報であり、現在と異なる場合があります。
「たまひよ」創刊30周年特別企画が続々!
『たまごクラブ』『ひよこクラブ』は、2023年10月に創刊30周年を迎えます。感謝の気持ちを込めて、豪華賞品が当たるプレゼント企画や、オリジナルキャラクターが作れる「たまひよのMYキャラメーカー」など楽しい企画が目白押しです!たまひよ30周年特設サイトをぜひチェックしてみてください。