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病気がわかったおなかの赤ちゃんを治療できる時代へ。そのために大事なのは「検査後」の体制【超音波検査の30年・後編】

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Photo by/gettyimages

「たまひよ」創刊30周年企画「生まれ育つ30年 今までとこれからと」シリーズでは、30年前から現在までの妊娠・出産・育児を振り返り、そして、これからの30年間を考えます。
「超音波検査の30年」の後編は、おなかにいるうちに治療を開始する胎児治療、そして妊娠初期にわかる妊娠高血圧腎症のリスク検査、赤ちゃんの染色体疾患を調べる血液検査「新型出生前検査(NIPT)」などについて見ていきます。さまざまな技術の進歩、そして進歩が作り出す課題とその解決への道を、胎児診療が専門である林 伸彦医師に聞きました。

NIPTをめぐる誤解と、受けるときに気をつけたいこと

●写真はイメージです
jarun011/gettyimages

――NIPTとはどういう検査でしょうか。

林先生(以下敬称略) 妊婦さんの血液から、赤ちゃんにダウン症、18トリソミー、13トリソミーが「ありそうかどうか」を調べる検査です。母体血に胎盤のDNAのかけらが混ざる現象を利用して調べます。陽性になって本当に病気があるかどうかを知りたい場合は、羊水(ようすい)検査、絨毛(じゅうもう)検査などの確定的検査に進む必要があります。
国内では2013年に始まり、最近は、たくさんの医療機関で実施されるようになってきました。

NIPTは誤解を招きやすい検査だと思います。この検査で生まれつきの病気が全部わかると思ってしまう人もいるし、この検査で陽性、たとえばダウン症らしいですと言われたら、本当にそうだと思う妊婦さんもいます。しかし、実際はどちらも違います。検査の前後にていねいな説明が必要だと思います。

――NIPTは、実施できる医療施設を日本医学会が認証する制度があります。

林 日本は、出生前検査については倫理的な観点から慎重な態度をとってきました。そのため、NIPTが始まったときの認定制度には、35歳未満の人は受けられないなどの制限がたくさんありました。

しかし、2021年にNIPTに関する制度が新しくなった後は制限も緩和されました。認証制度があることのメリットは、検査前の説明と、検査後のフォローアップを担保していることです。

イギリスは胎児超音波検査が先、日本はNIPTが先

超音波結果を持つ笑顔の妊婦の写真。
●写真はイメージです
Andrii Bicher/gettyimages

――出生前検査には種類がたくさんあります。日本では、NIPT、胎児超音波検査、羊水検査、絨毛検査がおもな検査法ですが、国際的に見るとどのような状況でしょうか。

林 イギリスにもNIPTはあり、日本よりも費用の自己負担は小さくなっています。それでもなお、胎児超音波検査が基本です。
妊娠12週ごろの胎児超音波検査では、この検査専用の血清マーカー検査を組み合わせると、ダウン症、18トリソミー、13トリソミーのある確率を算出することができます。これを「コンバインドテスト」と呼び、イギリスではこれを多くの人が受け、結果次第ではNIPTに進みます。

イギリスで、超音波検査が今も重要視されているのは、NIPTよりも幅広く胎児を理解できるためです。たとえばNIPTでは心臓病や無脳症などに気づけないため、まず超音波、次にNIPTという流れが基本です。超音波検査でわかる病気の中には、胎児期に治療したほうがいいものもあり、NIPTを受けて「陰性」だとしてもほとんどの妊婦さんは超音波検査も受けます。

一方、日本ではNIPTを先に受け、陰性だったときにはそれ以上の検査を受けない人がほとんどです。これは、供給の問題で、日本には妊娠初期・中期の超音波検査を提供している施設が少なく、NIPTを提供している施設は多いからでしょう。NIPT実施施設は、認証、未認証を含めるとだいぶ増えています。妊婦健診で毎回のように超音波検査をおこなっていて、医師から「順調ですね」と言われるため、わざわざ胎児超音波検査を受けるかどうか考える機会が少ないのも制度上の特徴と思います。

赤ちゃんの先天性の病気の治療ができる「胎児治療」

階の最初のステップを行う小さな赤ちゃん足
●写真はイメージです
Sasiistock/gettyimages

――胎児治療は、日本ではどのようなものがあるのでしょうか。

林 胎児を治療するというと驚かれますが、日本でもたくさんの胎児治療が行われています。一卵性の双子の赤ちゃんたちに起きる病気「双胎(そうたい)間輸血症候群」の治療は保険適用になりました。

また、胸水がたまった赤ちゃんの胸から羊水中に水が流れるようにするシャント術、妊婦さんが赤ちゃんの不整脈を治療する薬を飲むなどの治療が行われています。背骨が閉じないまま生まれてくる「開放性二分脊椎」も、妊娠中に手術で閉じて障害を軽くできる手術があり、国内でも保険適用をめざして安全性試験が行われています。

「胎児貧血」を治療する「胎児輸血」は80年代から行われています。へその緒に針を刺して血液を入れる治療です。
胎児輸血の効果は大きくて、輸血しないと多くの子は子宮内で亡くなってしまいますが、輸血をするとほとんどの赤ちゃんが元気に生まれてきます。

妊娠高血圧腎症になりやすい人がわかる超音波検査とは

妊娠の最後の数ヶ月の女性のローアングルビューは、彼女の丸い腹を優しく抱いています。妊娠第3学期 - 34週目。側面図。日当たりの良い背景。明るいショット。
●写真はイメージです
Michael Lutz/gettyimages

――おなかの赤ちゃんではなく、妊婦さんを診る超音波検査についても教えてください。

林 海外では、妊娠12週に、「妊娠高血圧腎症」の予測を行うようになっています。妊娠高血圧腎症は、早産や常位胎盤早期剥離、出血のリスクも高まる妊娠合併症です。妊婦さんの2~5%がかかり世界中で年間50万人の赤ちゃんと7万6000人のお母さんがこの病気のために命を落としています。

妊娠後期に突然起こることがあるため、妊婦健診は妊娠後期になるにつれて間隔が短く設定されています。でも、実は妊娠12週ごろに、胎盤の機能などを調べることで、妊娠高血圧腎症の発症を予測し、予防することができます。

血液検査、両腕での血圧測定、超音波検査に加え、妊娠前に血圧が高かったかどうか、家族歴、不妊治療歴、肥満、年齢などを考慮して、リスクを算出します。リスクが高い人はアスピリンを飲むのですが、それで、妊娠の早い週数で起こる妊娠高血圧腎症の大半を予防できます。

妊婦健診の間隔は、日本では最初は4週おき、そして後期になると2週おき、出産が近くなると毎週というふうに間を詰めていきます。この間隔の取り方は1929年に提唱された考え方で、当時はまだ超音波検査もなく、妊娠初期に医師が診てもとくにできることはありませんでした。妊娠後期になると高血圧になったり胎児発育不全になったりすることがあるため、それに早期に対処するために後期の間隔を詰めています。

――林先生が、これから中長期的にやりたいことについて教えてください。

林 海外で赤ちゃんや妊婦さんを救っている検査や治療の中には、まだ日本には普及してない「いいところ」がいくつかあります。一方で、日本の妊婦健診には、海外にはない「いいところ」があります。その二つの「いいところ取り」をしたいと考えています。

――林先生はどのような妊婦健診がいいと考えているのですか。

林 イギリスのいいところは、妊娠初期にいろいろなことを理解して、予測や予防・治療につなげられることです。
日本のいいところは、毎回数分だけでも、赤ちゃんを診ることで安心につながることや、妊娠後期に頻繁に診察することで、予想外のトラブルにすぐ気づけることです。

現在行っているような手厚い妊婦健診に加えて、妊娠初期と中期に胎児診療を受けられる体制が望ましいと考えています。

住んでいる地域、経済状況にかかわらず最新の医療を届けたい

ベビーベッドの新生児
●写真はイメージです
violet-blue/gettyimages

――次の30年がよりよいものになるために必要なことは何だと思われますか?

林 「機械がよくなって赤ちゃんがよく見えるようになった」ということで終わりにしたくないと思います。

胎児診療の本質は、妊婦さんと赤ちゃんの双方が、妊娠期にとどまらずその後の人生でも健康上の問題を最小限にすることにあります。

われわれ医療者は、すべての妊娠が思いどおりにいくわけではないことを痛感していますし、これだけ医療が発達しても命を落としてしまうケースがまだあることに無力さを感じています。

提供できる技術が存在しなくて救えないのならまだしも、存在する技術を法的・社会的な都合で届けられないことがあると本当にふがいなく感じます。

――技術を「医療」にするには、どうしたらいいのでしょうか。

林 いま妊婦さんや胎児に対して提供できる技術があっても、それが自費診療になってしまうというのは一つの壁です。
1歳の子どもが熱を出して病院に連れて行ったとき、もちろん保険診療となります。ですが、胎児に心配な所見が見つかったときに、病院に行って診察を受ける際には数万円の自費診療となります。

胎児も保険証を持てるようになったらいいですよね。胎児を人として治療を受けるということが医療制度に組み込まれていくといろいろなことが変わっていくと思います。

現在、胎児心臓病を疑ったときの胎児超音波検査は保険がききます。でも、たとえば「胎児の手足が短い」と言われて胎児超音波検査を受ける場合には、自費診療です。羊水検査も自費診療です。

――こんな検査や治療があると知る機会が与えられても、そのお金は払えないという人もいます。

そこが、大切なところです。胎児診療は、必ず何人かの医師、専門家で診るので、ある程度の原資がかかってしまいます。たとえば心臓病があるかもしれないということになったら、遺伝カウンセラー、小児循環器の医師が集まり、それぞれに専門分野から意見を出し合います。

ですから、みんなが平等に医療を受けられるためには、費用の問題を、保険や補助金などで解決する必要があります。

地域格差も課題です。マンモグラフィーの検診車のように、胎児超音波検査のクリニックの医師が、市町村に1日出張して、その市町村の妊婦さんと胎児を診るのもいいと思います。検診車ではなく、休診日の産科クリニックを有効活用して検査するなど、やりたい計画は、たくさんあります。

多くの胎児疾患は、母体年齢と無関係に起こるため、年齢にかかわらずすべての胎児が診療を受けられるためには、乗り越える課題はたくさんあります。地道な、しかし大胆な挑戦が必要だと思っています。

妊娠中期の胎児の脳・血管(撮影/林 伸彦先生)

妊娠中期以降の胎児の脳と、そこに走っている血管、脳の発達を確認しているところです。

お話・監修/林伸彦先生 取材・文/河合蘭、たまひよONLINE編集部

●記事の内容は2023年9月7日の情報であり、現在と異なる場合があります。

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