パパや家族が知っておきたい「ママが産後うつになったら」【医師監修】

妊娠や出産はママやパパにとって、とてもうれしいことです。一方で、産後はとくにホルモンの変化や、子育ての不安、ストレスなどから、多くのママが心身のバランスを崩しやすくなります。なかには「産後うつ」になってしまうママも。パパや家族が知っておきたい「産後うつ」について、日本医科大学大学院教授の鈴木俊治先生に聞きました。

「産後うつ」はだれにでも起こりうる

「うちのママは元気だしメンタルも強いから、産後うつにはならないだろう」と思っているパパもいるかもしれません。でも、産後うつはだれにでも起こる可能性があります。「もともと性格が明るいから」「出産を楽しみにしているから」「体力があるから」などということとは関係ないのです。ぜひママが妊娠中のうちから、パパも産後うつについての知識をもっておきましょう。

10人に1人以上が産後うつになっている

産後にメンタルヘルスの異常が起こる確率は10％以上といわれています。「産後うつ」の状態までいかなくても、それに近い症状が出るママはもっといます。産後は慣れない育児に加えて、睡眠不足が続くなど、心身ともに負担が大きくなる時期。どんな人でも不調が起こりやすいのです。

最近はパパの「産後うつ」も

産後うつはママだけに起こるわけではありません。最近ではパパにも、ママの産後にうつ症状が出るケースもみられます。パパにとっても慣れない育児に加えて、家事も仕事もこなすなど、産後は大変な時期なのです。夫婦２人で頑張りすぎず、周囲にサポートを求めましょう。

また、ママにメンタルの不調がみられる場合、パパにも同様の症状が見られることが多いようです。「ママが産後うつになってしまったのは、パパのサポートがたりないから」などと指摘されることもあり、余計に落ち込んでしまうパパもいます。でも、ママの産後うつはパパのせいではありません。むしろ、ママのサポートに一生懸命になりすぎるパパだからこそ、落ち込んだり悩んだりするのです。

また、ママに比べてパパのメンタルの不調は見過ごされやすく、どこに相談していいのかわからないことも。産後のママは育児で精いっぱいなので、パパは上手にストレスを発散することを心がけて。そしてほかの家族や職場の人などに気軽に相談するようにしましょう。

「産後うつ」の見分け方

「産後うつ」は、10〜15％のママに見られます。「産後うつ」と似た症状に「マタニティブルーズ」がありますが、こちらはホルモン量の急激な減少によって起こるもので、産後すぐに表れる、一過性のもの。２週間程度で症状が治まってしまうことがほとんどです。

それに対して「産後うつ」は、産後２週間〜産後3、４カ月ごろに多く発症します。1日中、抑うつ気分が続いたり、日常生活での喜びや興味を感じにくくなることが2週間以上続き、育児や家事などの日常生活に支障をきたした場合に診断されます。

産後に涙もろくなる、イライラする、不安になる、不眠になる、食欲不振になる、疲労感がみられるといったことは決して珍しいことではありません。ただ、これらの症状が2週間以上続き、家事や育児ができなくなるほどであれば、「産後うつ」の可能性が高いため、すぐに医療機関へ相談しましょう。

ママの様子をチェックしよう

ママの産後の不調が、ただの産後の疲れなのか、産後うつにつながる症状なのか、ママ自身が自分で見極めることは難しいもの。そんなとき、ママの様子を見ながら簡単にチェックできるリスト（上記）を紹介します。産後はこのチェックリストをいつでも見られるようにしておき、気になることがあれば出産した産院や地域の保健センターへ、気軽に相談に行くようにすすめてあげましょう。

産後に気をつけたいこと２つ

産後はどんなママでも心身ともに疲れることはあります。食欲不振になったり、眠れなくなったりするときもあるでしょう。産後しばらくは、多くのママが日中は一人で育児をしています。パパがママの変化に気づくことは難しい面もありますが、なるべく症状が軽いうちに気づき、休息をとらせる、話を聞いてつらい気持ちを理解してあげる、「大変なのに、ありがとう」などの声かけをして育児を頑張っていることに対して感謝の気持ちを伝えるなどの対応をすることが大切です。

日常生活が送れなくなってからでは遅いので、疲れた様子が見られたら、しっかり休ませてあげましょう。同時に、パパも一人ですべてを抱え込み、頑張りすぎないで。妊娠中から、ほかの家族や外部のサポートの準備をしておきましょう。

また、ママが里帰り出産をする場合は、少し注意が必要です。里帰り先から自宅に戻り、ママの実家のサポートがなくなると育児の不安を感じ、メンタルの不調が表れることが多いのです。ママに相談しながら自宅に戻るタイミングを調整したり、外部のサポートを入れるなど検討しておきましょう。

１育児や家事はママ・パパ・周囲がチームで行う

産後は、妊娠前の生活とはまったく違ったものになると心得ておきましょう。赤ちゃんが家族に加わることはとても嬉しいことですが、ママはしばらく赤ちゃんのお世話にかかりきりになり、心身の負担も大きくなります。もちろんパパも育児をすると思いますが、赤ちゃんのうちはどうしてもママのほうに負担がかかってしまうのは避けられません。

産後は夫婦２人で乗りきろうとせず、ほかの家族や外部のサポートにもどんどん頼り、チームで育児や家事を行いましょう。とくに家事の分担や、どこに外部のサポートを入れるかなどについては、時間のある妊娠中から夫婦でしっかり話し合っておくことが大切です。

２産後ケアサービスを上手に利用して

産後ケアサービスもぜひ検討しておきましょう。産後、ママに不安な様子が見られたら、積極的にサービスを利用するように促してみましょう。自治体でもママの体を休ませるために産後ケアサービスを実施しているところが増えています。

育児だけでなく食事の宅配や、家事サービス、自治体や民間の産後支援サービスなど、さまざまなサービスがあるので、積極的に利用してください。産後に困ってから探すのは大変ですし、事前に登録が必要なものもあります。妊娠中からどんなサービスがあるか調べておきましょう。

もしも「産後うつ」になったら、早めに相談を！

産後うつが疑われたとき、しばらく様子を見たり、ほうっておくのがいちばん危険です。産後うつは症状が軽いうちに、早めに相談することで回復も早まります。しっかり休む、外部のサポートに頼むなどしても症状の改善が見られないときは、早めに相談しましょう。

ママの場合：まずは産院へ相談を

ママに「産後うつ」など、心の不調の症状がみられたら、パパやまわりの家族は、相談に行くことを決して否定せず、「一緒に相談に行こう」とママの背中を押してあげましょう。

まずは、出産した産院や地域の保健センターに気軽に連絡を。産後、産婦人科や保健センターには、赤ちゃんのことだけでなく、「眠れない」「育児がつらい」など、ママ自身のことも相談できます。症状によっては、そこからメンタルクリニック、心療内科や精神科につながることもあります。

また、最近ではSNSで気軽に相談できるサービスも充実しています。どうしてもママが直接相談しづらそうだったら、こうしたサービスを使うことも促してあげることが大切です。

パパの場合：精神科への相談をためらわないで

パパに産後の心の不調の症状がみられた場合、ママに比べて、相談する先がわかりにくく、支援も得られにくいもの。でも、ママと同様になるべく早く誰かに相談することがとても大切です。ためらわず、メンタルクリニックや心療内科、精神科などに相談しましょう。

ママが通っている産科の産科医や助産師、保健センターのスタッフ、または開業助産師さんなどが産後の育児の相談に乗ってくれたり、適切な専門医を紹介してくれたりする可能性もあります。ママと一緒に相談に行ってもいいでしょう。

実は、ママの産後うつが軽減すると、パパの産後うつも軽減することがほとんどです。夫婦で一緒に取り組み、まわりを上手に巻き込んで産後を乗りきっていきましょう。

「産後うつ」ズバリ知りたい！Q&A

Qママの「産後うつ」に対して、家族はどのような対応をしたらいいですか？

A　ママには「よく休むように」と伝えて、なるべく多くの人で育児や家事などの仕事を分担しましょう。そしてママの話をよく聞いてあげましょう。産後うつになると、自分から助けを求めにくくなります。話を聞いてあげる時間を十分にとることで、助けを求めやすくなり、気持ちが楽になります。また、ママが育児をがんばっていることに対して、「大変なのに、ありがとう」などと感謝の気持ちを伝えることも大切です。

Qどんな人が「産後うつ」になりやすいですか？予防することはできますか？

A　ママの「産後うつ」には精神状態、人間関係、経済状況やホルモンバランスの変化などさまざまな要因が関係しています。助産師、保健師、産科医などの専門家はもちろん、周囲に相談できる人やサポートしてくれる人がいると、産後の情緒が不安定になりにくいと考えられています。

一方、パパの場合は、ママの産後うつが影響してうつになってしまうことがありです。ママのサポートを一生懸命している真面目な方が多いです。

Q「産後うつ」に対しては、どんな治療をしてもらえますか？

A基本は、できるだけ休養をとること、周囲からサポートを受けることが治療になります。ママが十分に休めるようなサポートがあるかどうかを確認しつつ、必要に応じて薬による治療をすることもあります。

先輩ママに聞く産後うつデータ

産後うつで受診をしたママは５％弱でしたが、産後うつが疑われ、受診しなかったママと合わせると、約28％ものママがうつ症状になったという結果でした。

監修／鈴木俊治先生　取材・文／樋口由夏、たまひよONLINE編集部　マンガ／碇 優子　チェックリストデザイン／はしもときみえ

産後はママにとって、心も体も大きく変化する時期です。そこに赤ちゃんのお世話が加わって、負担が大きくなることを知っておきましょう。そのうえで妊娠中から夫婦や家族でよく話し合っておき、準備をしっかりしておくことが大切です。
妊娠中からパパが知識をもっておくことで、冷静に対処できるようになりますよ。

●記事の内容は2023年12月の情報であり、現在と異なる場合があります。

鈴木俊治先生

PROFILE
産婦人科医。日本医科大学女性生殖発達病態学大学院教授、日本医科大学付属病院女性診療科・産科部長、日本産婦人科医会常務理事。安全で快適な妊娠・分娩に向けて、身体だけでなく心も診ることで女性の一生に寄り添っていくことを目指す。