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父親の「三重苦」が問題に。 増え続ける「父親の産後うつ」を防ぐためにできること

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ミルクを飲んで満眠する赤ちゃん
mapo/gettyimages

子どもを産み育てやすい社会の実現に向けて頑張っている団体を「たまひよ」が紹介し、子育て世代の投票で応援する「子育てのミライ応援プロジェクト」。2023年10月に行われた投票により、「Daddy Support協会」が1位に選ばれました。

同協会の代表理事である平野翔大さんに、ママ・パパから1位に選ばれたことへの思いや活動内容、日本が抱える「男性の育児」の課題について聞きました。

子育てのミライ応援プロジェクト第2回 エントリー&推薦はこちらから!

想像を超える応援者の数を見て男性育児支援の必要性を改めて実感

――「子育てのミライ応援プロジェクト」において、「Daddy Support協会」が応援投票1位を獲得しました。おめでとうございます。

平野代表理事(以下敬称略) ありがとうございます。産後パパ育休が始まって半年たち、「とるだけ育休」などの問題があがって男性の育児について時事性が高まったこと、「たまひよ ファミリーパーク」で父子手帳のリーフレットをママ・パパに配布し、私たちの事業について知ってもらえたことも大きかったと思います。
一緒に参加した「東京かあさん」「フローレンス」の方々と出会えたことも意義深かったです。これまでになかった事業を生み出している団体と肩を並べられただけでも満足だったので、本当にうれしいです。

平野翔大さんX(旧:Twitter)アカウントより

――父子手帳のリーフレットは、クラウドファンディングの成果物ということですが。

平野 「Daddy Support協会」を立ち上げて約1年経ちますが、いちばん成果を実感したのは父子手帳のクラウドファンディングで目標を達成できたことです。支援者が400人を超え、目標金額の300万円も大幅に超えて達成できました。
想像を超えた支援者の数を見て、自分たちにはやるべきことがある、と確証を得られた瞬間でした。「こんな活動を待っていた」「自分たちが子育てしていた時にあればよかった」など肯定的なコメントもたくさんいただきました。今回、「子育てのミライ応援プロジェクト」で私たちに応援投票してくださったコメントもすべて見ましたし、「たまひよ ファミリーパーク」でもママ・パパの生の声をたくさん聞くことができました。まだ完ぺきでないにしても、自分たちは間違った方向には進んでいないということを実感することができました。

――父親の育児支援の必要性を、どのようなきっかけで感じたのでしょうか。

平野 私は、最初は妊婦健診やお産にもあたる産婦人科医でした。当時はコロナ禍ということもあり、現場に父親の姿はほとんどありませんでした。ただ、妊婦さんからはパートナーや周囲の男性が妊娠・出産を理解していないことから生じる悩みを聞いていたんですね。正直、最初の感想は「なんで世のプレパパたちは妊娠・出産についてしっかり勉強しないのだろう」でした。産婦人科にはとにかく男性が来ないので、それくらいの感覚でしたね。だから最初は、妊娠というイベントが訪れたらいつ何が起こって何をすべきなのかを、男性に対して教育・共有する機会が必要、ということを考えていました。

――その後、企業の産業医として社員のメンタル不調の相談を受けるようになったのですよね。

平野 産婦人科の現場ではまったく接点がなかった「働く男性」の方々と面談するようになり、驚いたのが仕事と育児の両立に悩む人の多さでした。産業医が基本的に専門とするのは、あくまで職場での仕事に関する問題です。でも、育児はプライベートの悩みですよね。「なんで産業医に相談するのか?」と最初は思いましたが、よく考えてみると彼らにはほかに相談先がないのです。母親なら産婦人科医・助産師・地域の保健師や行政窓口がありますが、男性にはない。時には精神的に追い込まれて、仕事にも影響が出て、上司から相談してこい、と言われてやっと相談にきている人もいました。追い込まれるまで誰にも相談できていない、これは非常にまずいと感じました。
医療も行政も支援が母親を向いており、父親を対象にしていないのです。これは知識面も同じです。相談に来る男性の妊娠・出産についての知識があまりに少ないことも問題と感じますが、勉強する意欲があっても環境がないんです。妊娠・出産の情報もほとんどが母親向けにしか作られていないのです。それなら産婦人科医としての知識や経験を活かして、私に何かできるのではないかと思いました。

今の社会システムのままでは、男性の出生後うつの数は増えていく

――父親の産後のメンタル不調は今後も増えていくと思いますか。

平野 学術的には、男性の産後うつは父親全体の8~10%程度と考えられています。この「割合」は今後も変わらないと思うのですが、仕事をしながら育児をする父親は今後増えていくので、「人数」は増えていくと思います。

これまで女性の社会進出を推し進める過程で、両立を支援したり、家事・育児を分担したりする仕組みづくりを社会はまったくしませんでした。その結果、女性は家事・育児と仕事の両立に悩み、キャリアの天井ができる、産後うつが増えるといった社会問題になりました。今度は、職場で仕事をする男性を家庭に参加させようとしているのに、両立を支援して仕事を調整できる仕組みができていません。

両立の支援も、仕事の調整もしないけど家事育児もしっかりやってね、と言えば当然同じことが男性にも起きてしまいますよね。男性の育児を推進するなら支援システムを作らないといけないのに、そこがすっぽり抜け落ちているんです。

――父親、母親だけでなく両親のメンタル不調もあると聞きました。

平野 産後うつの発症率は、男女ともだいたい10%前後で推移していますが、私がとくに危機感を感じているのが両親のメンタル不調です。学術的にも、両親のうち一人がメンタルを崩せば相手にもリスクがあります。なので、どちらかが不調をおこした段階で介入しなければ両親がメンタル不調になり、子どもの成育にとって非常によくない環境になってしまいます。両親ともに仕事も育児もできないとなると、危機的な状態にすらなりかねません。

ですから私たちは産後のママ・パパに向けて「親の健康も考えてください」と伝えています。両親がメンタル不調を起こすことは子どもにとって有害です。赤ちゃんのためなら自分のことは後回し、は美談でもなんでもありません。まずは自分自身が心身ともに健康でいることが大事です。

現代の父親が抱える「三重苦」の解消に向けてプロジェクトを推進中

Daddy Support協会がクラウドファンディングで作成した「父子手帳」(リーフレット版)

――リーフレット版の父子手帳から、今度は冊子を作成されると聞きました。

平野 東京都の豊島区と組んで進めている男性育児支援に合わせて、2024年秋の完成をめざして作成中です。リーフレット版の父子手帳では「お父さん頑張れ」は絶対言わないことを意識しました。父親になることは嬉しいことですが、同時に不安もあります。「父親は強くあらねばならない」なんて思わなくていい、ということを冒頭のメッセージに込めました。メインカラーにはフラットなグリーンを使ったり、デザイン・イラストにも性差が出ないようにしたりと、細部までこだわりました。

そもそも父子手帳を作りたいと思ったのは、母子手帳はあるのになぜ父子手帳が一般的ではないのかという素朴な疑問があったからです。母子手帳が象徴するように、日本では長いこと『男は仕事、女は家庭』という考えが根付いていて、同時に「男性を育児から排除するシステム」もまだまだ残っています。

―その仕組みが現代のパパを苦しめているのですね。

平野 私たちは今の父親を取り巻く育児環境を「知識なし、経験なし、支援なし」の「三重苦」と表現しています。
なかでも「支援なし」は重要な問題です。そもそも父親が「親として支援される人」ではなく、「母親を支援する人」として扱われていることが、男性の育児支援を遅らせてきました。これまで男性の育児参加では「お母さんは大変なんだから、手伝うべき」という父親自身の意識は問題にされてきましたが、その根底にそもそも父親を「育児の主体」として扱っていない社会・文化があるのです。

例えば、男性は女性に比べて妊娠・出産に関する知識と経験を得る機会が非常に乏しいです。女性は妊娠中に自分に身体の変化をもって赤ちゃんの存在を感じられますが、男性は実際に目にするまで赤ちゃんを感じにくい点で、まず意識の深さにどうしても差が生じてしまいます。

その後も妊婦健診などを通じて女性はさまざまな知識や体験を得られますが、男性にはその機会がありません。男性にとって十分とはいえない「両親教室」で中途半端な知識のままで育児に突入してしまう、というケースが多いのではないでしょうか。

この「三重苦」を取り払うには、もちろん周囲からの支援も大切なのですが、パパ自身「弱みを見せてはならない」「父親らしく完璧に育児しなければならない」という意識を持っていないか自覚することも重要です。このような意識を「有害な男らしさ」といいますが、ここからの脱却が心身ともに健康な育児の第一歩であると思っています。


お話/平野翔大さん 撮影/矢部ひとみ 取材・文/岩﨑緑、たまひよONLINE編集部

子育てのミライ応援プロジェクト 第2回プレエントリー&推薦を受付中!

「たまひよ」が実施する「子育てのミライ応援プロジェクト」は、生み育てやすい社会の実現に向けて頑張る団体の活動に対して、ママやパパに投票してもらう取り組みです。第1回では約2000人のママ・パパに投票をいただき、「Daddy Support協会」が投票数1位に輝きました。

そしてこのたび、第2回の開催が決定。プロジェクトにご参加いただける団体のみなさまを募集中です!

「子育てのミライを良くしたい!」
「みんなが『チーム』となって、助け合って子育てができる社会を目指したい!」
という想いをお持ちのみなさま、ぜひプレエントリ―をお待ちしています。

また、素敵な団体をご存知のママ・パパはぜひ「推薦フォーム」より、おすすめの団体をご紹介ください。

第2回 子育てのミライ応援プロジェクト プレエントリ―受付中!推薦も大歓迎♪

「たまひよ ファミリーパーク」にはママとパパで参加している人が多く、思っていたより男性が目立っていたことが印象的だったと平野さんは語ります。内閣府の「令和5年版 男女共同参画白書」によれば、男性は仕事時間を減らし、家事・育児時間を増やしたいと考えている人が増えているというデータもあります。
男性の仕事と育児の両立には今よりもっと多くの支援が必要、と平野さんは話します。

●記事の内容は2023年12月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

PROFILE

Daddy Support協会代表理事。産婦人科医、産業医、医療ジャーナリスト。産業医として大企業統括産業医からベンチャー企業の産業保健体制の立ち上げ、ヘルスケア関連のアドバイザーとしても活躍。ジャーナリストとしては「男性育児」「医師の働き方改革」などの執筆、編集活動をおこなう。男性育児支援において経済産業省「始動 Next Innovator 2021」に採択され、2022年4月にDaddy Support協会を立ち上げて現在に至る。

Daddy Support協会HP:https://daddy-support.org/
X(旧Twitter):@waterfall27fly

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