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先天梅毒で生まれる赤ちゃんが過去最多に。性行為で感染する「梅毒」が今、急増しているのはなぜ⁉【医師監修】

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父親は子供の手を握っている。母と子の手。家族のコンセプト
●写真はイメージです
magical_light/gettyimages

性行為で感染する性感染症の一つ、梅毒。ここ数年で梅毒に感染する人が急激に増えています。妊婦さんはもちろん、おなかの赤ちゃん、そしてこれから妊娠を考えている女性やそのパートナーも他人事ではありません。実情はどうなのか、予防するためにはどうすればいいのか、産婦人科領域でのオンライン相談サービスの運営・提供にも携わっている産婦人科医の重見大介先生にお話を聞きました。

男性では年代を問わず、女性は10〜 30代に増えている

梅毒に感染した妊婦さんからおなかの赤ちゃんに感染する「先天梅毒」の赤ちゃんの数が、2023年に統計を取り始めてから過去最多になったことが国立感染症研究所の報告でわかりました。増加の理由にはどんなことが考えられるのでしょうか。

――妊婦さんに限りませんが、梅毒の感染者が数年前から急増していると言われています。最近はさらに加速しているのでしょうか。

重見先生(以下敬称略) 国立感染症研究所によると、ここ10年ほどで増加傾向にありましたが、さらにここ3年でそのペースが上がりました。2023年の速報値では、全国の梅毒感染者が約1万5000人と、過去最多になりました。

――なぜ増えているのでしょうか。また、どんな年代に多いのですか。

重見 梅毒は性感染症なので、基本的に感染している人との性行為で感染が広がります。はっきりとした原因はわかりませんが、感染者とつながりやすくなった要素があった、感染している可能性があるけれど検査を受けない、あるいは検査を受けたくないなど、さまざまな要素がからまり合っていると考えられます。

年代としては、直近のもので男性は10〜60代と幅広く、女性は10~30代と若い世代に集中しているのが特徴です。また、最近は大都市だけでなく、地方都市でも広まってきています。

梅毒の検査をしているにもかかわらず、妊婦さんに感染する理由

妊婦さんは、妊娠初期に梅毒の検査(梅毒血清反応検査)を受けるので、そこで陰性なら、ひとまず安心のはずですが……。

――妊婦さんは妊娠初期に梅毒の検査(梅毒血清反応検査)が義務付けられているはずなのに、なぜ先天梅毒が増えているのでしょうか。

重見 たしかに妊娠初期の血液検査のなかに梅毒の検査は含まれていて、検査の結果、陰性であれば、梅毒に感染していないと診断され、先天梅毒の赤ちゃんは生まれないはずです。

ただ、妊娠初期の検査以降に感染してしまう可能性はあります。たとえば、妊娠初期以降、なんらかの性行為によって妊婦さんが梅毒に感染してしまうケースです。基本的に、妊娠中期や妊娠後期では、妊婦さんから申し出があったり、内診をして梅毒の可能性があると医師が診断しない限り、梅毒の検査は行われないので、そのまま出産まで進んでしまいます。

また、妊娠中に梅毒に感染したことがわかって治療をしても、おなかの赤ちゃんへの感染を100%防げるわけではありません。そのため、先天梅毒の赤ちゃんが生まれるケースもあります。

――妊娠中に感染したことに気づかないまま出産することもありますか?

重見 あり得ると思います。梅毒の症状はわかりにくく、気づきにくいものです。また、仮に妊娠直後に感染してしまった場合は、妊娠初期の梅毒の検査でも陰性となってしまうこともあります。

――妊娠中に感染してしまう理由の1つに、パートナーが性行為でコンドームを装着しないこともありますか。

重見 よく「妊娠したら(避妊する必要がないから)コンドームを装着しなくていい」という誤解があるといわれます。梅毒に限らず、ほかの性感染症を防ぐためにも、妊娠中のセックスでもコンドームを装着する必要があります。ただ、梅毒が厄介なのは、口や肛門(こうもん)など、性器以外の接触でも感染してしまうことです。たとえば、オーラルセックスやキスでも感染する可能性があるため、コンドームだけでは予防できません。パートナーも梅毒に感染しないように注意してもらうことは当然ですが、性器以外の性行為でも注意が必要です。

梅毒の症状は?赤ちゃんはどうなるの?

もしも梅毒に感染してしまったらどんな症状があるのでしょうか。また、赤ちゃんはどうなるのでしょうか。

――梅毒は気づきにくいとのことですが、どんな症状があるのでしょうか。

重見 梅毒は進行に時間がかかり、第1期から4期まであります。感染後数週間で性器や肛門、口などに小さな発疹(ほっしん)ができます。ただこれは治療をしなくても数週間で消えてしまいます。これが1期です。

2期では手のひらや足の裏など性器以外の場所にも発疹が出ますが、また消えます。この頃にようやく自覚する人が多いようです。治療をせずに放っておくと数年かけて症状は静かに進んでいき、心臓や血管、神経の異常が現れることがあります。梅毒は気づかない期間が長いため、その間に誰かに感染させてしまうことがあるのです。

――妊娠中に性器まわりや口まわりに発疹が出たら、かかりつけ医に相談したほうがいいですか。

重見 発疹が見られたら、痛みなどの症状があってもなくても、かかりつけ医に相談してください。外陰部に発疹が出た場合は、梅毒以外にも性器ヘルペスなどほかの性感染症の可能性もあります。話しにくいこともあるかもしれませんが、健診のときでもいいので、心配なことがあればぜひ気軽に相談してください。

――気づいた時点で治療すれば治りますか?

重見 感染症ですので、抗生物質で治療すれば治ります。ペニシリンという抗菌薬を使用するのがスタンダードな治療です。基本的にはペニシリンを一定期間使えば、梅毒は治療できるとされています。妊婦さんでも同様の治療を行い、おなかの赤ちゃんへの影響もありません。ただし、梅毒は繰り返し感染する可能性があるため、パートナーと一緒に完全に治すことが大切です。

梅毒の感染者を減らすためにできること

梅毒の感染を減らすには、一人ひとりの意識が大切だと重見先生はいいます。

――梅毒について、とくに妊婦さんとパートナーが気をつけるべきことを教えてください。

重見 まず、妊娠初期の梅毒の検査は必ず受けてください。そこで陰性だったとしても、パートナー以外の人との性行為は、梅毒だけでなくそれ以外の性感染症のリスクが上がります。これは妊婦さんのパートナーも同じです。感染に気づかなければ、赤ちゃんに重大な影響を与えてしまう可能性があることを知っておいてください。

赤ちゃんが先天梅毒になると、ケース・バイ・ケースではありますが、流産や死産になってしまうことがあります。無事出産しても、難聴、角膜炎、心臓の異常、歯の異常など、全身に異常が出る可能性があるほか、精神発達の面でも影響があります。生まれつきの病気を子どもに背負わせてしまうリスクがあることを考えて、ぜひ予防に努めてください。これは妊活中の人にも言えることです。

――梅毒について、妊婦さんとそのパートナーだけでなく、感染の可能性があるすべての方へメッセージをお願いします。

重見 お伝えしたいことは3つあります。一つは、性感染症は性行為のあるすべての人に可能性のあることなので、感染症を減らしていくためには、社会全体で、一人ひとりが予防への意識を高めることが大切です。

二つめは、性行為の際、コンドームを装着することは重要ですが、梅毒の場合、オーラルセックスなどでも感染してしまうため、注意が必要だということです。

最後に、梅毒の感染者が急増しているため、各自治体で臨時の検査会場を設けているところが増えています。匿名や無料で検査が受けられるので、病院に行くのが恥ずかしい人、梅毒の心配がある人や気になる人は、住んでいる場所の自治体の情報を調べたうえで、積極的に検査を受けましょう。また、梅毒をはじめとした性感染症については、検査や受診をためらう人が多いです。まずはオンラインで相談するだけでもいいので、専門家のアドバイスを得て、不安を解消しましょう。

監修/重見大介先生 取材・文/樋口由夏、たまひよONLINE編集部

産婦人科オンライン

産婦人科医・重見大介の本音ニュースレター

「妊婦さんとそのパートナーはもちろん、妊娠を考えている方や、性感染症が心配な方は、ぜひ早めに検査をしましょう」と重見先生。梅毒は、自覚症状のないままに誰かに感染させてしまう可能性が高い性感染症。早期発見、早期治療をすれば軽症で済むことを覚えておきましょう。


●記事の内容は2024年2月の情報であり、現在と異なる場合があります。

重見大介(しげみだいすけ)先生

PROFILE
産婦人科専門医。公衆衛生学修士、医学博士。株式会社Kids Public産婦人科オンライン代表。大学病院の産婦人科で臨床を経験したのち、「女性の健康×社会課題」へのアプローチを活動の軸として、オンラインで女性が専門家へ気軽に相談できるしくみづくりや啓発活動、臨床研究、性教育などに従事。SNSなどでも医療情報を発信している。

『病院では聞けない最新情報まで全カバー! 妊娠・出産がぜんぶわかる本』

「妊娠・出産」をはじめ婦人科領域の正しいデータとエビデンスに基づく情報を厳選。女性の妊娠中の心身のケアや産後の回復など、女性の一生の健康によりそう本。男性にも読んでほしい一冊。
重見大介著/1650円(KADOKAWA)

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