夫や当時者の父親からの相談がくることも。不妊カウンセラーに聞く、不妊治療に取り組む人たちの現状
「不妊カウンセラー」として、妊活や不妊治療に悩む人たちをサポートしている笛吹和代さん。自身も、30代のときに不妊治療を経験し、仕事との両立に苦しんだ経験から、「不妊治療と仕事の両立が可能な社会を作りたい」という思いで活動をしているそう。そんな笛吹さんに、2回に渡ってインタビュー。後編では、不妊カウンセラーの仕事をしていて感じることや、多くの相談を受けているから見えてきた今後の社会の課題などを中心に話を聞きました。
最近は、夫や父親など、男性からの相談も目立つように
――不妊カウンセラーとしての仕事は、オンラインでの相談が主流ですか?
笛吹さん(以下敬称略) はい、対面より、圧倒的にオンラインで相談を受けることが多いです。コロナ禍をきっかけに、一気にオンラインが主流になったこともあり、今はとても働きやすいです。コロナ禍以前は、有料の場所を借りて相談を受けていたこともありますが、そのときは場所代の費用の半分を相談者さんにも負担してもらっていたので。
臨床心理士さんなどは、対面で表情を見ながらのほうがアドバイスをしやすいという話を聞くことがありますが、私が受けている不妊治療の相談はオンラインのほうが向いている気がします。「治療の方向性を決めたい」「転院したほうがいいのか」「不妊治療のクリニックをどう選んだらいいのかわからない」「不妊治療のやめどきを考えているけれど、どこを目安に考えればいいかがわからない」というような相談が圧倒的に多く、その困っていることに合わせて情報を提供し提案するのが私の役目。中には、「できれば顔も出したくない」という人もいるので、カメラをオフにして相談を受けることもあります。
オンラインが主流になってからは、気軽に相談できるようになったというメリットもあってか、男性からの相談も増えているんです。不妊治療をしている夫婦の夫側からの相談も多いですし、不妊治療を受けている当事者の父親から相談があったことも。
夫側からの相談は、「夫婦で不妊治療を始めることになったけれど、不妊治療についての知識がまったくないから、1から教えてほしい」というケースが多数。
父親からの相談は、「娘が流産をくり返してしまい、メンタルがつらくなって実家に帰ってきたけれど、部屋にこもっていて、どう接していいのかわからない」というものでした。困り果てて、ネットで調べて、私にたどり着いたそう。
話を聞いて、アドバイスをして、住んでいる地域の大学病院に不妊治療や不育症に悩んでいる人向けのカウンセリング窓口があったので、まずは1度、できれば娘さんと一緒に行ってみては…という提案をしました。
――全国の不妊治療のクリニックの情報はだいたい把握しているんですか?
笛吹 基本的には、だいたいリストアップしていて、全国600カ所のクリニックの情報はまめにチェックするようにしています。
不妊治療が保険診療になってから、若い人からの相談も急増
――カウンセラーとして相談を受けていて感じる、最近の不妊治療の悩みの傾向はありますか?
笛吹 不妊治療が保険適応になってからは、相談者の年齢層が下がっているように感じます。若いうちから、不妊治療に関心を持っていて、さらに、若いのにあせっている人が多い印象も。世の中に情報が出回っているぶん、振り回されてしまっているのかもしれません。20代後半で、妊活を始めて2、3カ月というような人からも「全然妊娠できません」という相談があることも。そういう場合は、「まだ年齢的にもそこまであせらなくても大丈夫」という話をして、妊娠するまでにかかる期間はだいたい半年~1年くらいが一般的であることなども説明しています。どうしても心配なら、将来の妊娠を考える人に向けたプレコンセプションケアの外来などもあるので、そういうところで検査だけ受けてみても…と提案しています。
AMH検査(卵巣予備能検査)などは、5000~7000円くらいで受けられるので。
AMH検査の数値が低くて心配…という相談も増えています。AMH検査は卵巣に成長途中の卵子がどれだけあるかを調べる血液検査。例えば、30歳のAMHの平均値は4.02 ng/mlというデータがあります。そのため、4.02ng/mlを下回っていると、自分の数値が大丈夫か心配になる人もいます。ただAMHの値は個人差も大きく、同じ年齢でもかなり振れ幅があります。もちろん1ng/mlを下回ってくると、今後の妊活の進め方を医師に相談したほうがいいですが、平均値を下回っているというだけであせる必要はありません。
AMH値が低い=妊娠率が低くなるということではないんです。数値が低くても、受精卵さえできれば妊娠・出産できる場合は多くて、低い=即体外受精ではありません。ただあまりに数値が低い場合は、卵子の残りが少ない可能性もあるので、検査を受けたクリニックでしっかりと相談されることをおすすめします。ネットの情報だけを鵜呑みにして不安になっている人が多いように感じます。
「不妊治療の保険診療の回数がまだ残っているけれど、自費診療に切り替えたほうがいい?」という相談も多いです。妊娠する可能性を逃したら…とあせる気持ちもよくわかりますが、基本的には保険診療で不妊治療の成績が下がるというデータはありません。2022年からは、体外受精も回数の上限がありますが、保険適用になっています。個人的には、保険診療の回数の上限(40歳未満は1子ごとに通算6回まで、40歳以上43歳未満は1子ごとに通算3回まで)は保険診療でいいと思っています。
何回も治療しても全然採卵ができない、何度体外受精をしても受精卵が育たないというような場合は、自費診療に切り替えてもいいのかなぁと。
不妊治療はまだまだ仕事との両立は難しいし、地方格差が大きいことも課題
――情報が多いぶん、不安になっている人も増えているんですね。
笛吹 そうなんです。不妊治療が保険適用になって、不妊治療自体の認知度が上がって、そういう意味では以前より治療がしやすくなってよかったと思っています。費用面で救われている人もとても多いと思います。でも、不妊治療はもともと自費診療から始まったものだから、各クリニックの独自性もとても強いんです。それが保険診療になったので、情報が錯そうしがち…。保険診療になってから2年たつのに、まだまだ保険でできること・できないことが認知されていないな…と感じることが多いです。
正直なところ、私も保険診療になることで、治療がある程度標準化されて、よりわかりやすくなるのかな…と期待していたんです。でも、結局、各クリニックが「この治療はうちは保険診療ではやらない」といような独自のやり方を出しているのが現状。たとえば、「うちは保険診療では(卵巣刺激は)低刺激のみで、(胚移植法は)新鮮胚移植しかやりません」というクリニックもあるんです。患者さんにとっては、わかりにくいし、クリニックを選ぶのも難しいですよね。
――ほかにも、課題に感じていることなどはありますか?
笛吹 あとは、相変わらず、不妊治療と仕事の両立は難しい…と感じることが多いですね。
たまたまコロナ禍をきっかけに在宅勤務がしやすくなったから、在宅勤務ができる人は、不妊治療のクリニックに通う時間も調整しやすくなってはいるけれど、在宅勤務ができない人は大変なまま。会社の制度がまだ整っていないから、退職を選択するしかない。
不妊治療を行う場合の支援制度を取り入れている会社もありますが、東京の大手企業などが率先して取り入れていることもあって、制度が東京向きで地方では当てはまならい部分もあります。そもそもデスクワークの人たちが基準だから、デスクワーク以外の人は難しかったり…。
東京だったら近くにクリニックがあることが多いけれど、地方の人はそうはいかない。私もそうでしたが、クリニックに行くために、遠征する必要があることも。そうなると、東京と同じ制度では全然たりないな…と。
不妊治療の地域格差もとても感じます。たとえば、関西の日本海側、京都北部や兵庫北部には、不妊治療クリニックがほとんどないんです。そうなると、京都や大阪の中心地まで出ないといけない。
京都や兵庫は不妊治療のクリニックが多いイメージがあるから、「困っていないよね」と思われるけれど、同じ都道府県でもクリニックがない地域の人は本当に大変な思いをして通院しています。東北地方や北海道なんかも、困っている人が多いと思います。
例えば愛知と東京にあるクリニックで、体外受精までの基本的な検査や説明などは地方の連携施設に通院し、採卵と移植だけ東京のクリニックへ…というようなシステムを始めているところも。地方格差や通院する人の負担を減らすためにも、このような取り組みがもっと増えてくれたらいいのですが…。
会社の制度としても、たとえば、その地域のクリニックの数や距離なんかも考えた年間休暇数を考えてもらえると助かりますよね。あと、会社側にも、「どこのクリニックでも同じ治療が受けられるわけではないし、治療の方針によってはクリニックを転院することも多い」ということを理解してもらえるといいですよね。「近くのクリニックでも同じでしょ?」と思われると、遠方通院のための休暇などはなかなか理解してもらえないと思うので。
仕事を続けながら不妊治療ができて、妊娠・出産・育児ができる社会であってほしい!
――まだまだ課題が山積みではありますが、そういう発信もとても大事ですね。笛吹さんが、不妊カウンセラーとしてやりがいを感じていることや、この仕事に対する思いなどがあれば教えてください。
笛吹 私に相談をしてくれた人から妊娠や出産の報告があったときは、うれしいですね。私ができることは、一緒に方向性を考えることで、特別な何かをサポートしたわけではないのですが、「ああ、よかったな」とうれしくなります。
もちろん、妊娠・出産にたどりつける人ばかりではありません。そういう人たちも、自分が納得する不妊治療の終わり方を見つけてほしいな…と常に願ってサポートをしています。
とにかく情報がまだ少ないので、適切な情報を提供していくというのが、1つの使命なのかな…と。
あと、私自身、退職して、子どもを授かって、新しい道を自分で見つけて進むというパターンになりましたが、これって、たぶん、だれにでもできることではないと思うんですね。私の場合は、たまたま夫に理解があって、保育園に入れない状況でも実家の両親がサポートしてくれて。まわりの支えがあったから、もう1度キャリアを考えることができましたが、みんながみんな支えがあるわけではないし、支えがあってもなかなかチャンスがないことだってありますよね。
だから、できれば、仕事を続けたいと希望する人が、仕事を続けながら不妊治療ができて、妊娠・出産・育児ができる社会であってほしいです。不妊治療や妊娠・出産・育児のために会社を辞めるという選択を取らなくていい社会になるよう、活動を続けていきたいと思います。
お話・写真提供/笛吹和代さん 取材・文/渡辺有紀子、たまひよONLINE編集部
「希望するすべての人が、仕事と不妊治療・妊娠・出産・育児の両立ができる社会になってほしい」「今後も適切な情報を提供していきたい」という笛吹さん。自身が苦労した経験から、少しでも困っている人の役に立ちたいという思いが伝わってきました。笛吹さんの活動が気になる人は、笛吹さんのホームページもcheckしてみてくださいね。
笛吹和代さん(うすいかずよ)
PROFILE
2008年に結婚し、働きながら妊活・不妊治療を続けるも、2011年に仕事と治療の両立に悩み退職。不妊で悩む女性をサポートしたいという願いから、2015年から個人事業主として妊活や不妊治療に関する発信を開始。2018年に認定不妊カウンセラーの資格を取得。 現在は妊活・不妊治療に関する個別相談、コラム等の執筆、セミナーや研修講師、妊活・不妊治療を支援するベンチャー企業の顧問アドバイザーとして活動している。
●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●掲載している情報は2024年11月現在のものです。