泣き寝入りでなく声を上げて、集まれば大きな声に。投稿サイトで「妊婦が受けているマタハラの実情」【専門家】
ベネッセコーポレーションが管理する投稿サイトの「ウィメンズパーク」には、妊娠中・子育て中のママからのコメントが多数寄せられます。ママたちのリアルな声を分析し、子育て支援につなげることを目的に、摂南大学看護学部看護学科教授の井田歩美先生は、10年にわたり投稿内容の分析を行ってきました。第61回日本母性衛生学会総会・学術集会で発表された「ソーシャルメディアにおけるマタニティハラスメントに関する発言内容の分析」をもとに、投稿内容から見えたマタニティハラスメントの現状と、解決のために必要なことなどについて聞きました。
マタニティハラスメントをなくすには、国を挙げての対策が必須
井田先生がまとめた「ソーシャルメディアにおけるマタニティハラスメントに関する発言内容の分析」には、「不妊治療中に退職をすすめられた」「つらそうな顔で働かれるこっちの身にもなってごらんなさいと言われた」など、マタニティハラスメント(以下、「マタハラ」と表記)に関する投稿が紹介されていました。厚生労働省の「平成30年版働く女性の実情」によると、女性の労働人口のうち20~30代が占める割合が高いことがわかりますが、この年代は妊娠適齢期でもあります。
――20~30代は会社としては精力的に働いてほしい年代なだけに、マタハラが起こってしまうのでしょうか?
井田先生(以下、敬称略) 大学を卒業して就職した場合、20代後半から30代前半は仕事を任せられるようになり、会社としては重要な戦力として期待する時期。30代半ば以降になると、職場のリーダー的存在としての期待も大きくなります。職場の上司としては、20~30代の女性社員に多くの期待を抱いているだけに、マタハラ的な発言をしてしまうのではないでしょうか。
女性上司の場合は「私の時代は育休なんてなかったけど子どもを育てた。甘えている」「私は子どもをあきらめて仕事を選んだ。責任感がない」など、自分のことと比べてしまうので、余計にきつい言動が増えるのかもしれません。
――発言の事例を見ると、かなり理不尽で前時代的な扱いを受けている妊婦が多いように感じました。国は女性の活躍を推進していますが、妊婦への配慮がたりない職場がまだ多いということですか。
井田 残念ながらそのように感じています。ただ、企業側の気持ちも理解はできます。妊娠・出産を一緒に喜び応援したいとは思うけれど、戦力が1人欠けたらその分を残ったスタッフで補わなければならないという現実があるからです。
でも、これは企業だけで解決するのは難しく、国を挙げて対策すべき問題です。女性社員の妊娠・出産を支援する企業への助成制度は今もありますが、もっと積極的に国が取り組まないと、マタハラのない社会は作れないと思います。
泣き寝入りするのではなく、声を上げてほしい
投稿の中には、労働基準監督署や役所のマタハラ相談窓口に相談したところ、「会社ともめても残れませんよ、退職願を書けば」と言われたり、「女性に優しい優良会社として表彰している手前、訴えられると困る」と言われたりしたという事例もあったそうです。
――マタハラの相談を受ける機関が、マタハラを行った側を擁護するような発言をしていることに驚きました。
井田 私もこの投稿を読んだときは本当に驚きました。キャリアを形成しつつ、結婚・妊娠・出産・育児を行う女性を応援すべき機関が、このような対応をするのはあってはならないことです。こうした事例を論文の形にしてまとめ世に問うことは、私の重要な使命だと感じています。
また、企業を監督する立場の機関から理不尽な対応を受けた妊婦さんは、投稿サイトや自身のSNSなどで発信してほしいと思います。きっと同じような経験をした女性からのコメントが集まるでしょう。1人1人の声は小さくても、集まれば大きな声になり、声が大きいほど世の中を動かす力になります。
「働きながら生む」を実現するために、マタハラを乗り越えた先輩の情報は有効
――働き続けたかったけれど、マタハラを受けたことで退職せざるを得なかった妊婦さんは少なくなさそうです。仕事を続けながら妊娠・出産するために、妊婦さん側ができることはあるでしょうか。
井田 難しい問題ではありますが、同じような体験をした人の解決策を投稿サイトで募ってみるのは1つの方法だと思います。投稿サイトのいいところは、いろいろな立場の人がコメントを寄せてくれること。その中から自分の境遇でできそうなことを実践してみるのはいかがでしょうか。
――新型コロナで人と会う機会が減っている今はとくに、投稿サイトは情報源として貴重かもしれませんね。
井田 そうですね。1つのサイトに限定せず、いろいろなサイトで意見を聞いてみると、多角的な意見を拾えるかもしれません。「仕事を続けながら妊娠・出産する」、これを実現するには何が必要なのか情報を集め、目の前の問題をクリアしていただけることを願っています。
一方、妊婦さんに接する機会の多い看護職者の側からは、「マタハラを意識した支援を行う必要があることも痛感した」という声も届いています。その方面でも支援の充実を提言していきたいと考えています。
取材・文/東裕美、ひよこクラブ編集部
投稿から見えたマタニティハラスメントの現状と、解決のために必要なことについて聞きました。理不尽な扱いをされたときにあきらめるのではなく、改善を求める声を上げることも必要なようです。