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「思わず涙が…」と話題。NICU(新生児集中治療室)で、小さな命と向き合う人々を描いた加藤千恵さんに聞く。

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老化新生児の少女
※写真はイメージです
Ondrooo/gettyimages

小説家・加藤千恵さんが、2021年4月に出版した最新作『この場所であなたの 名前を呼んだ』は、NICU(新生児集中治療室)が舞台。小さな命と向き合う人々のさまざまな人間模様が、「騒がしい場所」「名付ける場所」など7つのストーリーで描かれています。「この小説を通してNICUのことをもっと知ってほしい」という作者・加藤千恵さんに、NICUを舞台にした理由や作品に込めた思いなどを聞きました。

妊娠8カ月の妊婦健診で、おなかの赤ちゃんの腎臓が片方ないことが判明

小説『この場所であなたの名前を呼んだ』は、2018年7月に長男を産んだ加藤千恵さんの出産体験がベースになっています。

――小説の帯に「自身の経験を元にした、著者の新たな代表作」とありますが、息子さんがNICUに入院していたということでしょうか。

加藤さん(以下敬称略) はい。私は実家がある北海道旭川市の個人クリニックで出産予定でしたが、妊娠8カ月のときに出産を予定していたクリニックで妊婦健診を受けたところ、エコーを診ていた医師から「赤ちゃんの右の腎臓が確認できないから、すぐにNICUがある大学病院に転院するように」と言われました。

旭川に帰るまでは、東京のクリニックで妊婦健診を受けていたのですが、東京では「異常なし」と言われていたので、本当に驚きました。

――生まれつき右の腎臓がないというのは、どんな病気なのでしょうか。

加藤 大学病院では1000人に1人と言われる「多嚢胞性異形成腎(たのうほうせいいけいせいじん・MCDK)」と説明されました。遺伝性でなく、原因は不明だそうです。

――東京では妊婦健診で「異常なし」と言われていたとのことですが、妊娠中、「おかしいな」と思うことはなかったのでしょうか。

加藤 とくに異変は感じませんでした。つわりがなくて比較的ラクで、よくおなかの中で動いている子でした。「ヒクッ、ヒクッ」としゃっくりのような動きをするので、健診のときに病院で聞いたら「それはしゃっくりだよ」と言われました。

胎動を感じなくなり、緊急帝王切開。新生児仮死で出産

おなかの赤ちゃんの腎臓の異変を指摘された1カ月半後。事態は急変します

――出産の予定日はいつでしたか?

加藤 2018年の8月中旬です。でも予定日の2週間ほど前の明け方に、胎動を感じなくなってしまって。「動かないな…。しゃっくりもしない。でも2日後には、妊婦健診だから様子を見たほうがいいかな」と悩みつつ、大学病院に電話をしてみました。すると「念のため、すぐに来てください」と言われて、健診が少し早まったくらいの軽い気持ちで病院に行くことにしました。

エコーで赤ちゃんを診た医師から「赤ちゃんの動きが弱い」などと説明されて、「今から緊急帝王切開をしましょう」と言われたときは、あまりに急な展開で「えっ?私ですか?」と思わず聞いてしまったほどです。

――出産のときの様子を教えてください。

加藤 考えもしなかったことですが、息子は新生児仮死で生まれました。帝王切開の手術中は、全身麻酔ではなかったので、まわりの様子がわかるんです。手術中、医師に緊迫した様子がはしり、緊急度が上がった、ということがわかりました。そして「急いで取り上げよう」と話しているのも聞こえて、不安でしかたなかったです。

手術は40分ほどで終わりましたが、息子の状態はしばらくわかりませんでした。ようやく遠くのほうからこ猫が鳴くような「ニャ~」という弱々しい泣き声が聞こえました。「あの泣き声、私が産んだ子なのかな…」と思っていると、看護師さんが息子を連れてきてくれて「なんとか泣いてくれました。今からNICUに入りますね」と言われました。

数日後、医師から仮死状態で生まれた理由を説明されたのですが「原因はわからないけれど、へその緒の間隔に少しおかしなところがあったので、もしかするとそれが理由かもしれません。胎動の変化を感じて、すぐに病院に来てくれてよかった」と言われました。

NICUで、脳などへのダメージを抑えるために72時間眠らせる低体温療法を

写真は、NICUに入院中の息子さんと加藤さん。入院期間は半月ほどでした。

息子さんのNICUの入院経験が、新作『この場所であなたの名前を呼んだ』につながります。

――小説の中で、加藤さんの経験が元になっている部分はどこでしょうか。

加藤 どれもフィクションではあるのですが、第1章の「騒がしい場所」は、自分の経験をベースにしています。息子は新生児仮死で生まれたため、NICUですぐに脳などへのダメージを抑えるために子どもの体温を34度程度に保ち、72時間眠らせる低体温療法を受けたのですが、第1章には低体温療法で眠らされている赤ちゃんと、それを見守る家族や医師、看護師の姿を描いています。

「騒がしい場所」という言葉は、さまざまな機器の音やアラーム音、赤ちゃんの泣き声、大人たちの話し声など、私がNICUに行ったときの第一印象です。

――「騒がしい場所」の中では、低体温療法で眠らされているわが子に触れながら「ごめんね。ちゃんと守ってあげられなくて、ごめんね」と自分を責める母親の姿が描かれています。加藤さんも同じような気持ちだったのでしょうか。

加藤 入院中は、自分を責めて泣くこともありました。ネットで新生児仮死のことを検索すると、より不安になるような情報ばかりで…。そのためネット検索をやめた時期もあります。
周囲からの「大丈夫」という言葉も、そのときはあまり素直に受けられませんでしたね。

ただ出産後に家族もですが、友人がお見舞いに来てくれたりしたのは、うれしかったです。差し入れでもらった「ひよこクラブ」も読んでいたのですが、帝王切開したママを略して「帝切ママ」って言うんですね(笑)。「ひよこクラブ」の情報にも救われました。

小説にも書いているのですが、息子が退院するとき担当医に「ありがとうございます」とお礼を言ったら「いいえ。頑張っているのは赤ちゃんですからね」との言葉をもらって、胸がとっても熱くなったのを覚えています。NICUで私の心を支えてくれたのは、人の優しさでした。

――妊娠・出産を通して学んだことはありますか。

加藤 妊娠中、つわりもなく旭川に里帰りするまではトラブルもなかったので、「妊娠も出産も普通にできること」って思いこんでいた部分はあったと思います。無痛分娩を希望していたので、無痛分娩のことは調べていましたが、帝王切開やNICUについては知識不足でした。息子を産んでみて「妊娠・出産に100%安全はないんだ」と強く感じました。

お話・写真提供/加藤千恵さん、プロフィール写真撮影/川瀬一絵、取材・文/麻生珠恵、ひよこクラブ編集部

息子さんは今、3歳。新生児仮死で生まれ、片方の腎臓が生まれつきない多嚢胞性異形成腎と診断されましたが、すこやかに成長しています。年1~2回、病院で検査は行いますが、特別な治療や在宅ケアなどは必要なく、8カ月から保育園にも通っているそうです。

加藤千恵(かとう ちえ)さん

Profile
小説家・歌人。1983年生まれ。2001年、短歌集『ハッピーアイスクリーム』で、高校生歌人としてデビュー。2009年『ハニー ビター ハニー』で小説家デビュー。

『この場所であなたの名前を呼んだ』

NICUで働く医師や看護師、面会に来るママ・パパなど、小さな命と向き合う人々の複雑な人間模様が描かれた、加藤千恵さんの最新作。講談社刊・1350円(税別)。

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