「貧富の差はどうして生まれたの?」と子どもに聞かれたらどうする?親子で読みたい『こどもサピエンス史』SDGs教育にも
小学校の授業でも取り上げられることが多くなった「SDGs」。親子で一緒に考える機会も増えてきたのではないでしょうか。
もし子どもから「平和ってなに?」「どうして貧富の差が生まれたの?」と、SDGsで問われているような大きなテーマについて聞かれたら、少しとまどってしまう人もいると思います。そんなときに親子で読みたいのが、スウェーデンで誕生し話題になった「こどもサピエンス史」。
今回は、スウェーデンへ家族で移住し、子育てしながら現地で翻訳家・教師として働く久山葉子さんに、この書籍の魅力について教えてもらいます。
★SDGs WEEK|SDGs週間★
SDGs(持続可能な開発目標)が採択された9月25日(GLOBAL GOALS DAY)を含む約1週間は、SDGsへの意識を高め、行動を起こすきっかけづくりのため世界中でイベントなどが開催されます。「たまひよ」では、だれもが産み育てやすい社会と、サステナブルな子どものミライの実現をめざして、ソーシャルグッド活動を随時発信しています。
【Profile:久山葉子(クヤマヨウコ)】
1975年兵庫県生まれ。神戸女学院大学文学部英文科卒業。スウェーデン在住。翻訳・現地の高校教師を務める。著書に『スウェーデンの保育園に待機児童はいない(移住して分かった子育てに優しい社会の暮らし)』を執筆、おもな翻訳書にアンデシュ・ハンセン『スマホ脳』(新潮新書)、
トーベ・ヤンソン『メッセージ トーベ・ヤンソン自選短篇集』(フィルムアート社)、レイフ・GW・ペーション『許されざる者』(創元推理文庫)などがある。
「こどもサピエンス史」がスウェーデンで誕生
持続可能な開発目標、SDGs――2015年に国連が定めて以来、わたしたちは少しでも人に、地球に優しくなれたでしょうか。最近では残念ながら気候変動による自然災害は本格化し、コロナ禍が降りかかったことで国内外の格差はさらに広がっているようにも感じます。各国が一丸となって問題解決に取り組まなければいけない今なのに、人間同士が殺し合う戦争や紛争は勢いを増すばかりのようです。
日本でもSDGsの重要性は浸透してきましたが、日々自分がどう行動すべきなのかを考えると、戸惑う人も多いのではないでしょうか。具体的な目標を定めて社会や学校、そして個人が努力をするとはいっても、そもそもなぜこういった問題が起きているのかという根本を理解しなければ、なかなか行動を起こせないものだと思います。
わたしが住むスウェーデンでは、SDGsが導入される前から国内外の格差や環境問題に積極的に取り組んできました。学校でもたとえば“社会の授業で環境問題について習う”というのではなく、あらゆる教科、そして学校生活全体の中に常にテーマとして存在しているという感じです。
そんなスウェーデンで、小学生にも地球と人間の共存をよりよく知ってもらうための本『こどもサピエンス史』が誕生しました。世界的大ベストセラーになったユヴァル・ノア・ハラリ『サピエンス全史』にインスピレーションを得た内容ですが、小学校高学年の子どもたちにもわかりやすく書かれています。ぜひ日本の親子にも読んでほしいと強く思っていたところ、NHK出版から日本語版を刊行していただけることになりました。
人類の歴史をわかりやすく、楽しく学べる
大人であるわたしも、実はこの本を読むまで知らなかったことがたくさんありました。そもそもなぜSDGsのような目標が必要なのか――人類の歴史をたどることで、SDGsに掲げられている問題がなぜ生まれたかを知ることができました。
子どもには難しすぎる内容では?という心配は無用です。著者のベングト=エリック・エングホルムさんは普段から頻繁に小学校を訪問して読書の楽しさを教えるプロジェクトをやっている作家さんで、わかりやすい説明と子どもの興味を引くような例やエピソードがふんだんに盛りこまれています。
さらにスウェーデンで大人気のイラストレーター、ヨンナ・ビョルンシェーナさんのユーモアたっぷりのカラーイラストが各ページに入り、日本語版では小学校高学年以上で習う漢字にはルビをつけました。
「なんで?」と子どもに聞かれたら…これらの問題に答えられますか?
最近はアフガニスタンでの出来事が大きなニュースになりましたが、21世紀になった今でも世界各地で紛争が起こっています。
SDGsにも「平和」という目標が掲げられていますが、そもそもなぜ人間は争うようになったのでしょうか。本書を読むとわかるのが、わたしたちは他のヒト属を滅ぼすことでホモ・サピエンスとして栄えてきたこと。目の前にいる人間が自分の仲間なのか敵なのかをはっきりさせたいという感覚は当時から強かったようです。
一方で、18世紀スウェーデンの学者リンネが人間につけたホモ・サピエンスという名前は「かしこい人」という意味でした。同じ祖先をもちながら、いまだに争いを続けるわたしたちは本当に「かしこい」のだろうか? そんな疑問を子どもたちにぶつけます。
また、中世にはヨーロッパでキリスト教が栄え、キリスト教の名のもとに世界各地で侵略が行われ、植民地や奴隷といったシステムができあがりました。現在の不平等の多くも、それが発端になっていることは想像に難くないでしょう。わたしたち日本人がつい欧米の文化や言語に憧れてしまうのも、そこに理由があると言われています。キリスト教がなければ、世界はまったくちがった展開になっていたのかも――たとえば世界じゅうの人がこぞって日本のアニメや映画を観て、学校では第一外国語として日本語を学んでいたのかも? そんなふうに子どもと一緒に色々な可能性を想像してみるのも楽しいですね。
SDGsの中でも大きなテーマとなっているのが、貧富の差や性差による「不平等」の撲滅。昔はみんなサバンナで動物を狩って暮らしていたのに、いつどのようにして現在のような格差が生まれたのでしょうか。子どもにそう訊かれたら、あなたは答えられますか?
最初の大きなきっかけは、農業革命でした。定住が始まり、富を蓄える人が出てきました。そしてお金が誕生し、貿易で世界がつながり、産業革命を経て今に至ります。その中で、今の経済を理解するためにも必須の“お金”“資本”“投資”といった概念が子どもにもわかりやすく説明されていきます。SDGsには「成長・雇用」「生産・消費」「エネルギー」「イノベーション」といった目標も含まれていますが、人類と技術の発展を大きな流れでつかむことによって、その意味と重要性が子どもにも無理なくすっと頭に入ってきます。
SDGsの中でもわたしたちの日々の生活に直接かかわってくるのが「環境問題」。産業革命以降の歴史を追うことによって、現在の大量生産と大量消費のシステムの成り立ちがよくわかります。さらには政治や、自分たちが選んだ政治家がそこでどのような役割を果たすのかについても説明されていきます。そもそも、みんなが物を買い続けなければ立ちいかない現在の経済システム、それはこのままでいいのでしょうか。ロボットやAIをつくることさえできるわたしたちのかしこさを、これからはどのように地球や人間、他の生物のために使っていけばいいのでしょうか。この本は子どもたちへのそんな問いかけでしめくくられます。
人類の長い歴史の流れを追うことで、自分たちが今どういう地点に立っているのかを理解する。そうすればおのずと、自分が明日からどんなふうに行動していきたいのかが見えてくるはずです。わたしもこういった知識を得たことで、耳に入ってくるニュースにも今までとはちがったアンテナが立つようになりました。子どもだけでなく、ぜひ大人も一緒に読んでほしい一冊です。