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「子どもの前での夫婦げんかは、4mの怪獣たちがバトルしているよう」。子どもの視点で感じることで見えてくるものとは?

更新

VRを使って仮想家庭に入り、こどもになって怒られる体験「4mの大人たち」。

子どもには世界はどんなふうに見えているのでしょうか?電通の「こどもの視点ラボ」は、「大人が子どもになってみる」ことで、子どもへの理解を深めようと、まじめかつ楽しく研究を進めています。代表のクリエイティブディレクター・石田文子さんと沓掛光宏さんにラボの目的などについて聞きました。全2回のインタビューの後編です。

▼<関連記事>前編を読む

子どもの感じていることを疑似体験するのは、新しい発見の連続

長男とピクニックしている石田さん。まだまだ1人での育児に自信がもてなかったころ。

――「こどもの視点ラボ」のサイトには、現在12の研究が発表されています。とくに印象に残っているものはありますか?

石田さん(以下敬称略) ラボでは有識者の協力を得て、さまざまな実験と研究を行っています。こうした活動のそれぞれが驚きの連続ですが、最近のものでは2歳の子どもになって大人の歩幅に合わせる大変さを体感する『2歳でWALK』が印象に残っています。

現在10歳の息子が幼かったころ、一緒に歩いていると「もっと早く歩いてー!」と思うことがよくありました。でも大人と子どもの歩幅って全然違いますよね?実際にラボメンバーの母娘に被験者になってもらい、測定したところ、ママの歩幅は2歳児の2.2倍もあるとわかりました(※1)。しかも、大人がゆっくり歩いていると思っている速度(時速3.5km)を2.2倍にすると、なんと時速7.7kmに。大人についていくのはかなりのスピードなんです。

実際にランニングマシンを使用し、その速さを経験してみると、ほぼマラソン。大人が普通に歩く速度(時速4km×2.2=時速8.8km)にしてみると、足がもつれるほどの速さでした。子どもたちはものすごく頑張っていているんだと感じました。「もっと早く歩いて」なんて思って本当にゴメン、と思いました。

また、息子が小学校に入学したことをきっかけに、ランドセルの重さが気になるようになりました。小学生の荷物の平均値5.7kgを大人に置き換えてみると、18.9kgにもなるんです(※2)。実際に製作して背負ってみると重さに驚き、子どもたちって本当に大変なんだなと感じました。

沓掛 子どもの目から、怒っている大人はどんなふうに見えているのかを経験してみる『4m の大人たち』が印象的です。身長75cmの子どもにとって、身長180cm の大人は、自分よりも2.4倍も大きい存在です。180cmの僕に置き換えてみると、2.4倍大きい人は432cm もあるんです。たとえるなら、きりんや信号機くらいの高さからしかられるようなものです。

実際に仮想空間上で432cmの巨大な大人を作ってみると、見上げるような大きさでした。さらにVR体験で実際に怒られてみたのですが、パニックになりそうなくらい怖かったです。頭上からどなり声が降りそそぐかのようで、何も考えられないほどでした。もし子どもが普段からどなられ続けていたとしたら、萎縮して大人の顔色をうかがってばかりになるだろうと感じました。

石田 『4mの大人たち』でいちばん怖かったのは、目の前で夫婦げんかされることでした。怪獣みたいな存在がどなり合いをしていて、このままでは世界が壊れてしまうのではないかとさえ感じる怖さでした。

この体験をしてくれた、保育の現場で働いている方や保育を学んでいる学生さんに「“子どもと目を合わせて話しましょう”と習ってきたけれど、それがなぜ必要かふに落ちた」と、よく言っていただきます。大人が立ったまま子どもに向かって話をすると、子どもは大人のおなかのあたりしか見えないんです。だからちゃんと子どもと目線を合わせて話をするのが大切だと実感したと言われます。

※1 歩幅の測定結果:2歳児の平均33cm、ママの平均72.6cm 両者とも5歩分の平均値で算出。

※2 白土健・大正大学教授の調査結果より/2017年、都内の小学1~6年生計91人のランドセルの重さ、全学年平均(サブバック含む)。小学1年生(6歳)の女子の身長&体重の全国平均値(出典:令和2年度 学校保健統計)を、身長180cm 体重70kgの男性に置き換えて大きさ・重さを算出。

専門家の監修はかならず受け、適切なエビデンスやデータをもとにして活動を行う

――ラボでの活動で気をつけていることはありますか?

石田 興味のあるテーマからアイデアをふくらませていくのですが、かならず有識者の先生方の意見をうかがっています。「これで合っていますか?」と赤ちゃんや乳幼児に聞くことはできないからこそ、エビデンスや客観的なデータ、専門家の見解が不可欠だと考えています。毎回、研究テーマに沿った有識者の方を探し、コンテンツへの意見やアドバイスをもらいながら作っています。

「こどもの視点ラボ」を立ち上げるきっかけとなった『ベイビーヘッド』は、大人が新生児の頭の重さを体感できるよう、赤ちゃんの頭のかぶりものを作りました。そのときは赤ちゃん学の第一人者の先生に監修していただきました。完成したベイビーヘッドを実際にかぶっていただくと「びっくりするほど重いね。僕も研究しているけれど、初めて実感しました」と言っていただけて。専門家の先生にも驚いてもらえたので、大人に子どもの感覚を体感してもらうのはとても意義があると感じました。

沓掛 ただ、どの先生たちも「実際に赤ちゃんがどう感じているか、本当のところはわからない」とおっしゃいます。実際に乳幼児本人に聞くことはできない。だからこそおもしろいし、研究する意味があるのだ、と話していただいたこともありました。

大きな反響があった展示会。男性の育休取得者が増えているように感じる

「こどもの視点ラボ」に取り組むようになり、子どもへの接し方が変わったという沓掛さん。

――2025年2月1日から2月25日まで東京・二子玉川で「もっと!こどもの視展 〜こどもになる12の体験〜」が開催されました。どのような反響がありましたか?

石田 私たちが想像していた以上に大きな反響があり、たくさんの人たちに来ていただきました。お客さまの反応は「子どもたちはこんなふうに感じているんだ」と驚いている人がとても多かったし、楽しんでもらっているのが伝わり、とてもうれしかったです。

「こどもの視点ラボ」のコンセプトは「楽しみながら子どもへの理解を深める」です。お客様にはきちんとその意図が伝わったような気がしています。

沓掛 お客さまはママ同士はもちろんですが、夫婦や結婚前のパートナー同士で来ている方も少なくありませんでした。男性が多かったのも印象的でした。きちんとデータを取ったわけではないのですが、平日に家族で展示会に来られるというのは、育休を取得している男性なのかなと考えています。
2022年にも体験展示を企画したことがあるのですが、そのときよりも平日の男性来場者が多いように感じました。育休を取得するパパが増えているのかもしれません。今後、地方でも展示会を行う予定です。

子どもは“不思議生物”。思いどおりにいかなくて当たり前

コピーライター、アートディレクター、テクノロジストなどのクリエイターで構成された「こどもの視点ラボ」のメンバーたち。

――ラボの活動に取り組み、自身の子育てに影響はありましたか?

沓掛 僕はラボを始めてから第2子が生まれました。だから第1子のときに比べ、かなり子どもの気持ちを意識するようになりました。しかるときも有識者の先生から「60秒以上しかっても、子どもは聞いていない」と言われたのを思い出し、目線を合わせながら簡潔に伝えるようになりました。

石田 子どもの視点を研究しているからといって、すぐに子育てがうまくなるわけではないんだと実感しています。
私はたくさん仕事をして、いろんな経験もしてきたつもりでした。だから子どもが生まれる前は、「努力さえすれば、自分の力でなんでもできる」と思っていたんです。子育てもうまくできるだろうと考えていました。
でも実際に出産し、子育てをしてみると、全然上手にできなくて。子どもを育てるってなんて難しいんだろうと驚きました。同時に、子どものおかげでこれまで知らなかった世界が広がったんです。公園で遊ぶ楽しさや、小さな自然のすばらしさは、大人だけで生活していたら見落としていたと思います。小児科の先生や保育士さんが子どもにそそいでくれる深い愛情や、行政や民間のさまざまな支援の存在など、とても大事なことも知らないままでした。

子どもは本当に“不思議生物”で、全部を理解するのは難しい。だから「大人とは違う」「思いどおりにならなくて当たり前」と考えると、少し気が楽になりました。上手な子育てなんて無理だけど、気をつける部分があれば少しずつでも軌道修正しよう、くらいの気持ちでいられたらと思います。

頑張るママ・パパ、そして社会と子どもの関係が少しでもよくなるように、こどもの視点ラボの活動を続けていけたらいいなと思います。

お話・写真提供/石田文子さん、沓掛光宏さん 取材・文/齋田多恵、たまひよONLINE編集部

こどもの視点ラボのユニークな研究は、すべて石田さんや沓掛さんたちラボメンバーの子育て経験から着想を得ているそうです。さまざまな視点から子どもの感覚を疑似体験することで、子どもへの理解が深まり、少しでも子育てしやすい社会になってほしいとのことです。

こどもの視点ラボ

子ども当事者の視点とはどんなものなのかということを、まじめかつ楽しく研究しているラボ。「大人が子どもになってみる」ことで、子どもへの理解を深め、親と子、社会と子どもの関係がよりよくなることを目的として活動している。

こどもの視点ラボのHP

石田文子さん(いしだふみこ)

PROFILE
クリエイティブ・ディレクター&コピーライター。宣伝会議賞グランプリ、TCC新人賞、ACCジャーナリスト賞、NYフェスティバル、アドフェスト、スパイクスアジア金賞など受賞多数。「こどもの視点ラボ」代表。ラボとしての著書に「こどもになって世界を見たら?」(トゥーヴァージンズ)、「こどもになっちゃえ!」(金の星社)、「すいちゃんはいそがしい」(Gakken)。

沓掛光宏さん(くつかけみつひろ)

PROFILE
クリエイティブ・ディレクター&アートディレクター。子どもから大人までポジティブな気持ちになれるデザインをめざしている。 カンヌ・デザイン部門銀、ワンショウ・デザイン部門 銅、London international Awards 金、アドフェスト 金・銅賞、朝日広告賞など受賞。「こどもの視点ラボ」代表。

●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2025年5月の情報であり、現在と異なる場合があります。

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