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小さく生まれた赤ちゃんを救うドナーミルク、提供する「母乳バンク」の現状【小児科医】

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「母乳バンク」という言葉を知っていますか? 母乳は赤ちゃんの完全食品などといわれますが、体重1500g未満で生まれた小さな赤ちゃん、早産で生まれた赤ちゃんにとってももちろん大切なものです。
でも、低出生体重で生まれた赤ちゃんが、ママの体調が悪い、十分な母乳が出ないなどの理由で、ママの母乳を得られない場合があります。そのような時に寄付された母乳を低温殺菌処理し、「ドナーミルク」として提供するのが「母乳バンク」です。

2021年10月下旬、「日本橋 母乳バンク」の開設1周年記念のイベント(主催/ピジョン)が開催されました。一般社団法人 日本母乳バンク協会の代表理事である小児科医の水野克己先生の話の内容をリポートします。

ドナーミルクを提供する「母乳バンク」とは?

ピジョン本社内にある「日本橋 母乳バンク」

日本で2019年に生まれた出生体重1500g未満の赤ちゃんは年間約6500人だといわれています。そのうち、早産により乳腺が未発達で十分な量の母乳が出ない、産後のママの体調が悪いなどの理由で、ママから母乳が得られない赤ちゃんは約3000人と想定されるそうです。

そのような赤ちゃんに対し、お母さんの母乳が出るまでの間、寄付された母乳を衛生的に処理した「ドナーミルク」を提供するのが「母乳バンク」です。

「2017年には世界50カ国以上で約600の母乳バンクが存在していますが、日本国内では、現在『日本橋 母乳バンク』1施設のみです。必要とする赤ちゃんに『ドナーミルク』を提供するため、全国での『母乳バンク』の整備ができればいいと考えています」(水野先生)

小さく生まれた赤ちゃんにはなぜ母乳がいいの?

早く・小さく生まれた赤ちゃんは消化器官や内臓が未発達な状態で生まれてくるため、さまざまなリスクを背負っています。

「腸内部の表面にある細胞が損傷を受ける壊死性腸炎という病気があります。妊娠25週未満で生まれた赤ちゃんが壊死性腸炎にかかると、死亡率は30〜40%にもなってしまいます。 牛由来の人工乳は小さく生まれた赤ちゃんの腸に負担となり、腸管の炎症を引き起こすことや、腸内の細胞を破壊することにつながりかねません。

『ドナーミルク』は、壊死性腸炎のリスクを3分の1に低下させる効果があるとわかっています。また母乳は消化もしやすく、そのほかの感染症や病気の予防に役立つ物質が含まれているため、極低出生体重児(ごくていしゅっせいたいじゅうじ)にとって薬であるともいえるのです」(水野先生)

また、NICU(新生児集中治療室)にいる赤ちゃんは、静脈栄養のみを投与され、ママの母乳が出るまでの間を待たなければいけないこともあるそうです。しかし生後に腸から栄養がとれない時間が長くなると、赤ちゃんの健康にさまざまな影響が出てしまいます。

「出産後の経腸栄養開始が遅れると、腸の細胞が萎縮(いしゅく)し始め、栄養を摂取しにくくなったり、感染症にかかりやすくなったりすることがあります。赤ちゃんの健康のためには、ママの母乳が出るのを待つのではなく、生後12時間以内にドナーミルクを与えてあげることが理想です。また、長期的に見て、経腸栄養を早く始めたほうが、3才時点での脳性まひ・視覚障害・聴覚障害などの割合が低くなることもわかっています。このように成長してからの合併症を残さず育つことにもつながるのです」(水野先生)

ドナーミルク寄付のしくみと安全性は?

解凍後のドナーミルクを低温殺菌処理を行う装置

ドナーミルクとはどのようなものなのでしょうか。

「ドナーミルクは、比較的母乳がたくさん出るお母さんから、搾乳した母乳を寄付してもらったものです。
寄付を希望してくれるお母さんには、ドナー検診病院で検査を受けてもらいます。母乳や血液からうつるウイルスや病原体を持っていないことが確認されたら、搾乳して冷凍した母乳を母乳バンクに送って寄付してもらいます。
母乳バンクに届いた冷凍母乳は、冷蔵庫内で1日かけて解凍され、細菌検査をしたのち、62.5度、30分の低温殺菌処理をして、さらにもう一度細菌検査を行って保管されます」(水野先生)

安全性が確かめられたドナーミルクだけが、母乳バンクから全国の提携病院に無償で提供されているのです。

全国的に母乳バンクを

低温殺菌されたドナーミルクが補完されている冷凍庫

日本小児科学会は2019年7月に「早産・極低出生体重児の経腸栄養に関する提言」を発表。母乳バンクの早急な整備を訴えています。

「2021年はドナーミルクを提供する赤ちゃんは500人を超える見込みです。 ドナー登録を希望してくれるお母さんは2019年度は24名だったのが、2021年は7倍の161名になりました。しかしドナー検診施設が全国にないため、希望していただいても全部受けることもできず、受付を一時停止している状況です。

母乳を寄付してくれるお母さんは、自分の赤ちゃんもNICUに入院している人や、赤ちゃんが病気で自分の母乳を飲めないという人などもいます。ドナーミルクを搾乳する際には、手洗いをし、胸も消毒してから搾乳して冷凍するという手間をお願いしていますが、それにもかかわらず、協力者のママたちはドナー登録をしてくれています。小さな命を守ってあげたいというお母さんたちの思いを、ドナーミルクを必要としている全国の赤ちゃんに届けたいです。全国の各地域に検診施設や母乳バンクを設置するため、活動を拡大したいと考えています」(水野先生)

また社会の中で、「ドナーミルク」についての情報が少なく、知っている人が少ないことも課題だと言います。

「妊娠中の急な体調の変化などで予期しない緊急での出産となり、赤ちゃんが小さく生まれてドナーミルクの提供を受けたお母さんたちの中には『ドナーミルク』という言葉自体を初めて聞いた、という人もいます。
『ドナーミルク』の存在を知らなかったために、ほかのお母さんの母乳でも安全なのかな、と抵抗を感じることもあるそうです。赤ちゃんがより元気に育っていくために、『ドナーミルク』の利用価値を多くの人に知ってもらいたいと思います」(水野先生)

お話・監修/水野克己(みずのかつみ)先生

画像提供/ピジョン 取材協力/ピジョン、一般社団法人 日本母乳バンク協会 取材・文/早川奈緒子、ひよこクラブ編集部

小さく生まれた赤ちゃんは、体の機能が未熟でさまざまなリスクを持っています。生後すぐから母乳栄養をとることで、そのリスクを少なからず軽くしてあげることができます。必要とする赤ちゃんにドナーミルクが届くよう、全国的に母乳バンクが広まることが望まれます。

日本橋母乳バンク

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