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5人に1人は命を救えない重症な病気、先天性横隔膜ヘルニア。産声を上げる前に手術を受けた赤ちゃん~新生児医療の現場から~【新生児科医・豊島勝昭】

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生後1カ月のりまちゃん。面会に来ていたママとパパと一緒に。

生後すぐから治療が必要なために、長期間を新生児集中治療室(NICU)で過ごす赤ちゃんたちがいます。テレビドラマ『コウノドリ』(2015年、2017年)でも監修を務めた神奈川県立こども医療センター(以下、神奈川こども)周産期医療センター長の豊島勝昭先生に、NICUの赤ちゃんたちの成長について聞く不定期連載。
第13回は、先天性横隔膜ヘルニアで呼吸が十分に出来なかった赤ちゃんについて聞きます。

生まれてすぐに横隔膜の穴を閉じる手術をした赤ちゃん

生後1カ月半のころ、人工呼吸器を終え口からミルクを飲めるようになったりまちゃん。

――今回は、新生児の重症な病気の1つと言われる先天性横隔膜ヘルニアを治療した赤ちゃんのエピソードを教えてください。

豊島先生(以下敬称略) 2023年に生まれたりまちゃんは、お母さんのおなかにいるときに胎児診断で先天性横隔膜ヘルニアがあることがわかり、神奈川こどもに転院してきました。おなかの赤ちゃんの病気がわかり、ご両親はショックを受けたようでしたが、治療のことや、その後の成長のことなどを産科と小児科のスタッフと一緒に時間をかけてお話をしました。

りまちゃんは胸部と腹部を分けている横隔膜に穴があいていて、おなかの中にある腸や胃や肝臓などが胸に移動し肺を圧迫していました。体格に比して小さな肺でした。この状態では生まれて、赤ちゃんが泣こうとしても、胸部に移動した腹部臓器に圧迫されている肺がうまくふくらみません。
生まれてすぐに人工呼吸器管理が必要でした。生後数日して、呼吸状態が安定したら胸部にある腸管や肝臓を腹部に戻して横隔膜の穴を閉じる手術を終えました。 

りまちゃんの肺は少しずつ成長して生後1カ月を越えたころには、人工呼吸器をはずせて、お口からミルクを飲み始めました。
NICUと新生児病棟に2カ月間入院したりまちゃん。退院するときにはお姉ちゃんが病棟の入り口でりまちゃんを待っていました。お姉ちゃんはりまちゃんに対面すると、何度も何度も飛び跳ねて大喜びしていて、その様子を見て私もうれしく感じました。

りまちゃんは今2歳になり、小児外科と新生児科のフォローアップ外来に通っています。定期的に心身の成長や発達を応援していくことは必要ですが、今は元気に過ごしています。外来で会うと、いつも明るく優しげな笑顔が印象的なご家族です。

妊婦健診で見つかることが多い、先天性横隔膜ヘルニア

――先天性横隔膜ヘルニアとはどんな病気ですか?

豊島 お母さんのおなかの中で、胎児の成長過程で横隔膜がうまく作られず穴(欠損孔)ができてしまい、腸や胃や肝臓など、本来おなかにあるべき臓器の一部が胸(胸腔)の中に出てしまう病気です。その結果、肺や心臓が圧迫されて、発育が不十分(低形成)になってしまいます。

横隔膜にあいている穴の位置によって変わりますが、左側に穴があいていると、左側の肺を圧迫し、さらに心臓などの臓器も右に寄って位置が変わってしまいます。
肺が小さいと生まれたときに呼吸困難になったり、心臓が小さいと血液の循環がうまくいかなくてチアノーゼになったりします。

神奈川こどもではこの10年間でこの病気で101名の患者さんが入院していて、救命率は80%でした。5人に1人は命を救えない重症の病気です。

――肺の発育が不十分な場合、どのような症状が起きるのでしょうか。

豊島 主な症状は重症の呼吸障害です。生まれてすぐに呼吸がままならないこともありますし、酸素を取り込む量が少なく二酸化炭素がたまってしまうこともあります。そのためにすぐに人工呼吸器による治療が必要です。
人工呼吸器でも無理な圧をかけてしまうと肺が破けてしまうこともあるので、注意しなくてはいけません。また、先天性横隔膜ヘルニアは新生児遷延性肺高血圧症という重症な肺高血圧になります。肺高血圧では肺への血流が流れづらく低酸素状態になりやすいです。

――先天性横隔膜ヘルニアのある赤ちゃんは、生まれてからどんな治療をしますか?

豊島 胎児期から先天性横隔膜ヘルニアがあるとわかっている赤ちゃんは、生まれてすぐ産声を上げる前に肺に管を入れて、人工呼吸器による治療を開始します。赤ちゃんが泣いて空気を吸い込むと、胸腔内にある腸管に空気が入ってふくらみ、心臓や肺が圧迫されて呼吸障害を起こす危険性があるためです。

生まれたあとに人工呼吸器と肺高血圧を解消する一酸化窒素吸入療法を開始、その後2〜4日して、肺高血圧症がよくなって手術に耐えられる状態になったら手術をします。
穴が小さければ、胸腔内に出ている臓器を腹部に戻し、横隔膜の穴の部分をよせて穴がふさがるように直接縫います。穴があまりに大きくて寄せられない場合は、人工パッチというシートで穴を覆うように縫います。

――手術をして臓器がもとの位置に戻ったら、肺や心臓は少しずつ大きく成長するのでしょうか?

豊島 手術によって圧迫がなくなれば肺や心臓はふくらみやすくなるので、手術後もしばらく人工呼吸器管理などを続けて肺や心臓の成長を待ちます。先天性横隔膜ヘルニア以外の病気がなく、手術が成功した赤ちゃんは、2週間から1カ月で人工呼吸器がはずれますし、生後1〜2カ月で退院できることが多いです。神奈川こどもの場合は、医療的ケアが必要なく退院する子が9割以上です。

神奈川こどもでは自然分娩後、直ちに治療を行う

りまちゃんとの対面をとっても喜んでいたお姉ちゃん。

――先天性横隔膜ヘルニアがあることは、妊娠中の検査でわかるのでしょうか?

豊島 神奈川県は胎児診断が盛んなので、神奈川こどもで診ている9割以上の患者さんはお母さんのおなかの中で見つかっています。4人に1人は横隔膜ヘルニア以外にも病気があるので、胎児期からしっかり全身を観察する必要があります。

――赤ちゃんに先天性横隔膜ヘルニアがある場合、帝王切開での出産になるのでしょうか。

豊島 先天性横隔膜ヘルニアがある赤ちゃんは、生まれてすぐに人工呼吸器で治療しないといけないため、計画帝王切開による出産にする医療機関も多いです。神奈川こどもも昔は帝王切開をしていました。ですが、10年ほど前からは自然分娩にしています。

その理由は、帝王切開出産によるデメリットが2つあると考えるからです。1つはおなかを切開したお母さんは、赤ちゃんが具合が悪くてもすぐに動けません。最重症例では人工呼吸器の治療を始めても、重度の低酸素状態が続き、生後1〜2日で命を終える赤ちゃんもいますから、帝王切開で出産すると、赤ちゃんが命を落としかねない状態のときにお母さんがそばにいられないことになってしまいます。

もう1つは、計画帝王切開にすると、予定日よりも少し早めに生まれることになるからです。先天性横隔膜ヘルニアのある赤ちゃんは、分娩週数が予定日に近いほうが治療成績がいいというデータがあります。予定日より早く、体が小さめで帝王切開で生まれると呼吸障害が起きやすいのです。逆に、帝王切開出産にしたほうが救命率が高いというエビデンスはありません。

これらの理由から、神奈川こどもでは帝王切開の必要性を慎重に判断し、自然な分娩を心がけています。入院した上で、分娩誘発をすることはありますが、なるべく自然分娩をしてもらうほうが赤ちゃんの肺の状態もいいし、赤ちゃんが重症のときにお母さんがそばにいて一緒に頑張れると思っています。

――胎児治療を行う選択肢もあるのでしょうか。その場合、どのような治療を行いますか?

豊島 妊娠中の早い時期に、肺がとても小さく救命困難が予測される最重症のお子さんでは、胎児治療という選択肢を提示しています。お母さんの胎内にいる赤ちゃんは、羊水を肺に取り込んで吐き出し呼吸の練習をしています。先天性横隔膜ヘルニアの胎児治療では、赤ちゃんが羊水を吐き出すときに通る気道にクリップをすることで、肺に羊水が残って肺をふくらませた状態にして肺の成長を促す治療があります。日本では主に国立成育医療研究センターがこの治療を行っています。

神奈川こどもで妊娠中の早い時期に、胎児治療が必要そうな最重症の先天性横隔膜ヘルニアの胎児診断をした赤ちゃんは、成育医療研究センターに紹介して胎児治療をしてもらったことがあります。

学齢期にはサッカーを楽しんだりリレーの選手になる子も

2歳になったりまちゃん。いつもママとパパと一緒にフォローアップ外来に来てくれます。

――先天性横隔膜ヘルニアは手術を受ければ治る病気なのでしょうか。その後の赤ちゃんの成長はどのような過程になりますか?

豊島 先天性横隔膜ヘルニアは難病指定されていますが、先天性横隔膜ヘルニア以外の病気がなく、手術を無事に終えられたお子さんでは、退院後の心身の成長発達は比較的良好です。生まれたときには肺低形成の状態でも、3歳のころには肺もしっかり成長している子が多いです。

現在、15の医療機関で協力している「新生児先天性横隔膜ヘルニア研究グループ」があり、神奈川こどもも参加しています。その研究グループで3歳の発達状況を調査をしたところ、先天性横隔膜ヘルニア以外の病気がなく治療を終えた子どもたちは、先天性横隔膜ヘルニアでない子と比較して、3歳の時点では発達状態に大きな差がないことがわかりました。

ただ、先天性横隔膜ヘルニアの治療をした子の4人に1人はなんらかのほかの病気があります。その場合には発達支援が必要な可能性が高いです。僕たちは横隔膜ヘルニアを治療しつつ、その子のほかの病気の治療を続けたり、染色体異常などの全身疾患や体質などを見ながら子どもたちの成長や発達、ご家族の生活応援をめざしています。

――治療後は医療的ケアなどが必要になるのでしょうか。

豊島 先天性横隔膜ヘルニアの治療をしたうち医療的ケアが必要な子は、神奈川こどもでも1割です。赤ちゃんのうちはしばらく哺乳不良で経管栄養が必要だったり、退院後もしばらく在宅酸素療法が必要な人もいますが、成長によって改善します。

神奈川こどもは、先天性横隔膜ヘルニアの治療をした子が20歳くらいになるまで、外科などほかの診療科と連携してフォローアップをしています。フォローアップする中で、運動制限が必要になった子もいません。小学校の年齢になれば、サッカーなどをしている子も多いですし、足が早くリレーの選手になる子もいます。

――運動制限なく日常生活を送れるようになるのですね。

豊島 大半はそうです。ただ最近世界的に懸念されているのは、先天性横隔膜ヘルニアで新生児遷延性肺高血圧症から回復した子が成人したあとに、肺への血流が流れづらくなる肺高血圧症を発症する可能性があるということです。そういった遠隔期に発症するかもしれない肺高血圧症を、今後どのように診断や予防するかも注目されています。

新生児先天性横隔膜ヘルニア研究グループでは、産科・小児外科・新生児科・小児循環器科のさまざまな診療科の医師が集まって協力し、横隔膜ヘルニアのある子と家族を成人期まで応援する活動をしています。

2020年には患者家族会が設立されましたので、今後、日本の先天性横隔膜ヘルニアの診療や家族支援はどんどんよくなっていくと期待しています。

妊娠中に胎児診断で先天性横隔膜ヘルニアが見つかると、ご家族の不安は大きいでしょう。僕たち医療者は、胎児診断を受けたご家族が希望を感じられるように、先天性横隔膜ヘルニアを治療した子がどんなふうに成長しているか、乳幼児期を過ぎた長期の家族の生活状況や長期的な支援の実際などをしっかり伝える役目があると思っています。

お話・監修/豊島勝昭先生 写真提供/ブログ「がんばれ!小さき生命たちよ Ver.2」 取材・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部

産声を上げる前に治療が必要だとは、先天性横隔膜ヘルニアが非常に重症の病気であることがよくわかります。医療の進歩と、研究者たちの努力が、先天性横隔膜ヘルニアのような重症の病気を治療し、よりよく生きる希望になると感じます。

神奈川こどもNICU 早産児の育児応援サイト

がんばれ!小さき生命たちよ Ver.2

先天性横隔膜ヘルニア患者・家族会のサイト

●記事の内容は2025年8月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

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