1000人に1〜2人は先天性難聴。ただ検査方法によっては見落としも…ママ達に知っておいて欲しいこと【専門家】
子どもの難聴を早期に発見して親子の支援につなげるため、厚生労働省は2021年12月、すべての新生児への聴覚検査を目標とする基本方針案を公表しました。新生児聴覚スクリーニング検査の有効性や問題点などについて、国立成育医療研究センター耳鼻咽喉科診療部長の守本倫子先生に聞きました。
検査方法によって難聴の見落としが多い問題がある
――赤ちゃんへの聴覚検査は実際、どのように行われるのですか?
守本 現在、新生児聴覚スクリーニング検査は自動耳音響放射(以下、自動OAE)と自動聴性脳幹反応(以下、自動ABR)の方法があり、出生後 3 日以内に初回検査を行います。
自動OAEは赤ちゃんの耳にイヤホンのような器具をつけ、そこから出る音に対して、耳の中にある蝸牛(かぎゅう)が反応して放射される音を検出する方法です。
自動ABRは赤ちゃんの額などに電極をつけ、両耳に使い捨てのイヤホンを装着して小さい音を聞かせ、脳からの電気的反応を電極から検出する方法です。全国的に自動OAEで検査をしている施設は少なくないですが、自動OAEは検査に見落としが多いという問題があります。
――見落としが多いとはどういうことでしょうか。
守本 自動OAEは蝸牛の反応のテストなので、内耳機能は問題がないけれど、聴神経機能が異常な場合の難聴を見落としてしまうのです。聴覚検査で問題がないことを「パス」、再検査が必要なことを「リファー」といいますが、自動OAEで検査してパスとなり、難聴のない言語発達障害と診断されて思春期までずっと苦労していたところ、実は蝸牛は正常だけど聴覚の神経がないため聞こえないという特殊な難聴であったとわかったケースもあります。
また、自動OAEは自動ABRよりリファーとなる率が高く、偽陽性が出やすいといわれています。偽陽性が出るということは、本当は正常なのに精密検査を受けて、と言われ、ママたちに無駄な心配をかけることになりかねません。
産婦人科医会の調査では、2020年に新生児聴覚スクリーニング検査が可能な分娩施設は98.1%ありました。しかしすべての施設が自動ABRを導入しているわけではなく、自動OAEを使っている施設もたくさんあります。理由は、OAEのほうが検査が簡単で付属品が使い捨てではないので費用が軽くすむこともあるでしょう。
しかし、リファー率や特殊な難聴の見落としの可能性を見ると新生児聴覚スクリーニング検査は自動ABRで行うほうがいいと考えています。このことを妊婦さんやママ・パパたちに広く知ってほしいと思います。
必要な親子を支援につなげるために
――早期に難聴が発見されることでどのようなメリットがあるのでしょうか。
守本 早期に先天性難聴がわかり、生後6カ月までに療育施設での支援を受けることで、赤ちゃんの言語能力やコミュニケーション能力が改善します。ある研究(※1)では「新生児聴覚スクリーニングを受けることにより早期療育開始に至る可能性が約20倍高くなる」ということ、「早期に療育開始された子は良好なコミュニケーション能力を育てることができる確率が 3.23倍高くなる」こともわかっています。
また、難聴と診断された場合、その原因を調べる精密検査(CTスキャンや遺伝子検査、尿サイトメガロウイルス検査など)をします。それにより、先天性サイトメガロウイルス感染症などの難聴を合併症とする病気が発見されれば、早期治療につながることも。ほかの病気の可能性が早期にわかることで、悪化してから病気がわかり困難を抱える前に、検査などの予防や対処ができるのもメリットだと思います。
――これから赤ちゃんを持つ人に知っておいてほしいことは?
守本 先天性難聴は1000人に1〜2人と決して少なくない割合です。上述したような検査の必要性やメリットを多くのママやパパに知ってほしいですし、産院を決める際にも自動ABRで検査を行うところを選ぶのも一つの手だと思います。他方で、新生児期の検査結果がパスであっても、生後にかかる病気による難聴や進行性難聴はあとから見つかる場合もあるので注意が必要です。
今後、すべての赤ちゃんが検査を受け、先天性難聴とわかった赤ちゃんや家族が適切に支援を受けることで、その子の言語能力が改善し、家族やお友だちとよりよいコミュニケーションが取れるようになることを期待します。
取材・文/早川奈緒子、ひよこクラブ編集部
※1「聴覚障害児の療育等により言語能力等の発達を確保する手法の研究(リーダー福島邦博)」
早期発見・早期治療をするために、より正確な検査ができる施設を選ぶ必要があるのかもしれません。子どもの健康や成長のために、検査の意味や必要性を知っておくことも大事です。
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